新型コロナ危機が2020年メキシコ経済に与えた影響

2021年4月23日

新型コロナウイルスの感染拡大はメキシコ経済にも甚大なダメージを与え、2020年のGDP成長率はマイナス8.2%と歴史的な落ち込みとなった。2021年はその反動からプラス成長が見込まれ、ワクチン接種の効果も手伝って経済の活性化が期待されるが、新型コロナ危機が残した爪痕は深く、現在も続く外出自粛や操業制限の影響により完全な回復は見られない。企業活動や雇用、社会に与えたインパクトを振り返る。

自動車産業は2020年第2四半期に記録的な後退

メキシコで新型コロナウイルスの最初の感染が確認されたのは2020年2月27日だった。その後、感染ルートが特定できない段階(フェーズ2)に入ったことで、連邦政府は同年3月30日に「不可抗力の衛生上の緊急事態」を宣言し、翌日に公布した保健省令により、衛生対策や国民の生活に不可欠な活動を除く全ての活動を停止することを命じた(2020年4月1日付ビジネス短信参照)。これにより、自動車産業などの重要な輸出産業が約2カ月間にわたる生産停止を余儀なくされ、スーパーマーケットやコンビニ、薬局、金融などを除くサービス業も営業を停止したことから、2020年第2四半期(4~6月)のGDP成長率は前年同期比マイナス18.7%まで落ち込んだ(表参照)。製造業は29.5%減、そのうち、自動車を含む輸送機器製造が64.3%減と記録的な後退となり、2019年まで成長を牽引してきたサービス産業も16.3%減の大幅減だった。輸出産業が「必要不可欠な活動」に加えられたことで、5月下旬以降は段階的に生産活動が再開し、新型コロナウイルス感染抑止のための操業規制も各地で緩和された。製造業の操業再開が本格化した第3四半期(7~9月)は、GDP成長率は前期比12.4%の回復をみせた。鉱工業が前期比22.3%と回復を牽引したものの、サービス産業は操業制限が一部残っていたことや景気悪化による需要減が影響して9.0%にとどまった。第3四半期のGDP成長率は前年同期比マイナス8.6%となり、新型コロナ以前の水準までは戻らなかった。第4四半期(10~12月)は、12月中旬までは前期の回復ペースが保たれたものの、12月下旬から新型コロナ感染が再び拡大し、メキシコ市とメキシコ州で新型コロナ警戒信号が「赤」へと転じたことで、再び「不可欠な活動」以外の操業が制限された。他の州でも、クリスマス休暇による感染拡大を警戒した州政府が独自に感染予防策などを講じるなど、各地で経済活動への規制が強まった。第4四半期のGDP成長率は前期比では3.3%成長したが、前年同期比ではマイナス4.3%だった。

表:産業別実質GDP成長率(前年同期比・季節調整前)(単位:%)(△はマイナス値)
産業 2019年 2020年
1Q 2Q 3Q 4Q 通年 寄与度 1Q 2Q 3Q 4Q 通年 構成比 寄与度
GDP 1.4 △ 0.9 △ 0.0 △ 0.6 △ 0.1 △ 0.05 △ 1.4 △ 18.7 △ 8.6 △ 4.3 △ 8.2 100.0 △ 8.2
農牧林・水産業 2.1 △ 0.7 2.0 △ 1.5 0.3 0.01 △ 2.5 △ 1.5 7.3 4.8 1.9 3.6 0.1
鉱工業 0.0 △ 3.1 △ 1.4 △ 2.2 △ 1.7 △ 0.49 △ 2.6 △ 25.5 △ 8.7 △ 3.1 △ 10.0 28.2 △ 2.9
階層レベル2の項目鉱業 △ 6.9 △ 7.4 △ 3.1 0.1 △ 4.4 △ 0.21 5.3 △ 4.4 △ 3.2 △ 2.1 △ 1.1 5.0 △ 0.1
階層レベル2の項目電気・ガス・水道 △ 2.2 △ 1.5 △ 0.6 1.6 △ 0.6 △ 0.01 0.3 △ 9.4 △ 6.0 △ 5.4 △ 5.3 1.6 △ 0.1
階層レベル2の項目建設 0.2 △ 7.4 △ 7.2 △ 6.2 △ 5.2 △ 0.36 △ 8.1 △ 34.0 △ 17.5 △ 9.8 △ 17.2 6.0 △ 1.1
階層レベル2の項目製造業 2.4 △ 0.0 1.5 △ 1.4 0.6 0.09 △ 2.7 △ 29.5 △ 7.1 △ 0.4 △ 10.0 15.6 △ 1.6
階層レベル2の項目輸送機器製造 6.8 4.5 2.0 △ 7.8 1.3 0.04 △ 7.3 △ 64.3 △ 10.3 1.2 △ 20.9 2.9 △ 0.7
サービス産業 2.0 0.1 0.6 0.1 0.7 0.42 △ 0.6 △ 16.3 △ 8.9 △ 5.0 △ 7.7 64.0 △ 4.9
階層レベル2の項目卸売業 1.9 △ 1.9 △ 0.5 △ 2.9 △ 0.9 △ 0.08 △ 3.2 △ 21.5 △ 9.5 △ 0.8 △ 8.8 8.4 △ 0.7
階層レベル2の項目小売業 0.4 △ 1.0 △ 0.4 0.2 △ 0.2 △ 0.02 0.0 △ 29.2 △ 8.6 △ 1.9 △ 9.7 8.9 △ 0.9
階層レベル2の項目運輸・郵便・倉庫 0.7 0.2 0.6 △ 1.2 0.0 0.00 △ 3.1 △ 39.7 △ 24.3 △ 14.1 △ 20.4 5.6 △ 1.3
階層レベル2の項目通信・マスメディア 3.0 △ 2.7 7.4 6.6 3.6 0.11 5.3 △ 0.1 △ 8.7 △ 5.6 △ 2.6 3.3 △ 0.1
階層レベル2の項目金融・保険 7.8 5.0 △ 0.8 △ 2.9 2.1 0.10 △ 1.0 △ 3.5 △ 4.0 △ 4.9 △ 3.4 5.1 △ 0.2
階層レベル2の項目不動産・賃貸 1.4 1.0 1.3 1.4 1.3 0.14 1.2 △ 1.5 △ 0.6 △ 0.2 △ 0.3 12.1 △ 0.0
階層レベル2の項目専門サービス 7.8 △ 4.7 △ 0.4 △ 2.0 △ 0.1 △ 0.00 △ 3.5 △ 7.1 △ 8.5 △ 6.9 △ 6.5 1.9 △ 0.1
階層レベル2の項目教育 2.7 △ 0.3 △ 0.2 △ 0.2 0.5 0.02 △ 1.6 △ 5.1 △ 5.3 △ 4.5 △ 4.1 3.9 △ 0.2
階層レベル2の項目文化・娯楽施設 △ 0.7 0.9 △ 1.6 △ 1.8 △ 0.8 △ 0.00 △ 16.3 △ 78.7 △ 65.7 △ 52.7 △ 54.0 0.0 △ 0.2
階層レベル2の項目ホテル・レストラン △ 1.8 1.5 1.6 3.4 1.1 0.02 △ 8.6 △ 70.6 △ 53.6 △ 40.9 △ 43.6 1.4 △ 1.0
階層レベル2の項目政府・行政 △ 2.8 △ 4.5 △ 1.6 1.0 △ 2.0 △ 0.08 6.3 0.9 3.0 △ 1.0 2.2 4.3 0.1

注1:2013年価格基準の成長率。サービス業は主要な産業のみ記載した。寄与度は各分野のGDPに対するもの。
注2:寄与度の合計は諸税データを記載していないため成長率に一致しない。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「国民経済計算」2021年2月25日発表値より作成

企業支援より弱者救済を重視、外国からの送金が消費下支え

新型コロナ危機で落ち込んだ経済を立て直すために、各国が景気刺激策を発表する中、メキシコ連邦政府は財政均衡を重視する政権発足時からの姿勢を崩さず、大規模な財政出動を行わなかった。病床の整備や医療機器の購入、零細企業への貸し付け支援などの新型コロナ感染対応に係る歳出額はGDP比の1%にも満たない。ブラジルはGDP比8.3%、アルゼンチンは3.8%、インドは3.1%の財政出動を行っており、他の新興国と比べても低い水準だ。主要経済団体は、企業の資金流動性と雇用の確保のために法人税や社会保険負担の支払い繰り延べなど緊急税制措置などを要望したが、連邦政府は政策金利の引き下げや金融当局による流動性対策を実施したものの、その他は企業支援を目的とした経済政策を実施しなかった。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、政府が助けるべきは「貧困層などの弱者」であり、免税措置は「一部の特権階級のみを利する悪しき慣習」だとして、高齢者への年金前倒し支給や零細企業への貸し付け支援など、政権の支持基盤である社会的弱者を救済する政策を積極的に実施した。また、2021年1月には経済省が行政手続きの簡素化や各産業団体との連携を含む経済活性化策(2021年1月22日付ビジネス短信参照)を発表し、経済界から期待が寄せられたが、零細企業に対する貸し付け支援拡充のほかは、いまだ詳細が明らかになっていない。

一方で、米国政府が実施した現金給付や失業保険の拡充を含む史上最大規模の救済措置(2020年3月30日付ビジネス短信参照)は、米国で就労するメキシコ系移民による郷里への送金を通じてメキシコ経済を下支えした。2020年の外国からメキシコへの送金額は過去最高で、前年比11.4%増の406億660万ドルとなり、GDP比3.7%を占めた。送金額は2014年以降、増加を続けてきたが(図1参照)、新型コロナ危機による失業などにより送金額が減少してもおかしくない状況下で、2020年の送金額が過去最高を記録した背景には、米国政府による手厚い救済措置があるとみられる。ロペス・オブラドール大統領は「同郷の移民たちは英雄的な行いをしてくれた。医師や看護師と同様、経済面でたくさんの命を救っている」とたたえた。

図1:外国からメキシコへの送金額推移
2010年の送金額は213憶388万ドル、GDP比は2.0%。2011年は228億297万ドル、1.9%。2012年は224億3,832万ドル、1.9%。2013年は223億275万ドル、1.8%。2014年は236億4,728万ドル、1.8%。2015年は247億8,477万ドル、2.1%。2016年は269憶9,328万ドル、2.5%。2017年は302億9,054万ドル、2.6%。2018年は336億7,722万ドル、2.8%。2019年は364億3,875万ドル、2.9%。2020年は406億660万ドル、3.7%。

出所:メキシコ中央銀行

新型コロナ危機を含む期間に101万社が廃業、正規雇用の喪失も深刻

国立統計地理情報院(INEGI)が2021年3月22日に発表した企業統計のプレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.08MB)によると、2019年5月の調査時には485万7,007社の中小・零細企業が操業していたが、そのうち101万857社が2020年9月までに廃業した(図2参照)。一方で、61万9,443社の開業があったため、2020年9月時の企業数は446万5,593社となり、2019年5月時に比べて8.1%減となった。また、2019年5月に存在していた約490万社のうち、79.2%が存続し、20.8%が廃業したが、このうち12.8%が未登記で法人化されていないインフォーマルな企業、5.6%が合法的に法人化された正規の企業、2.4%が判別不可能だった。廃業した企業の6割強をインフォーマル企業が占めており、キャッシュフローが悪化しても貸し付けサービスを受けることが難しいことなどから、新型コロナ危機の影響をより強く受けたと考えられる。また、正規企業のうち廃業を余儀なくされた企業は17.9%で、8.7%が金融を除くサービス業、7.8%が商業、1.4%が製造業だった。インフォーマル部門で廃業した企業は全体の21.8%で、このうち金融を除くサービス業が10.0%、商業が9.5%、製造業が2.3%だった。廃業した正規企業の割合が最も高かった州はキンタナロー州で、正規企業のうち28.9%が廃業した。同州はカンクンなどの世界的なリゾート地を擁しており、外出自粛による観光客の減少が影響したとみられる。次いで、カンペチェ州(24.9%)やシナロア州(24.3%)が続いた。インフォーマル部門では、南バハカリフォルニア州(34.0%)、キンタナロー州(33.6%)、シナロア州(31.6%)の順で廃業した企業の割合が高かった。

図2:中小・零細企業数の推移(2019年~2020年)
2019年5月時点企業数は485万7,007社、新たに開業した企業は61万9,443社、廃業した企業は101万 857社、2020年9月時点企業数は446万5,593社。

出所:国立統計地理情報院(INEGI)

正規雇用数も著しく減少した。2018年12月にロペス・オブラドール政権が発足してから、正規雇用創出数(ネット)は減少を続けていたが(図3参照)、新型コロナ危機によって2020年4月からマイナスに転じ、メキシコ社会保険庁(IMSS)の発表によると、2020年3~7月に民間部門の正規労働者数が111万7,584人減少した。その後の4カ月で減少数の約半分(555,600人)が回復したものの、季節要因で正規雇用が毎年減少する12月には、その約半分が失われた。正規労働者数は2021年1、2月ともに前月比で増加したが、2月末時点では1,993万6,938人で、前年同月と比べると67万6,598人少ない。若い人口が多いメキシコは、経済活動人口の年間増加数(2015年~2019年の平均)が86万7,352人に達する。正規雇用数の創出数がマイナスになっている現状では、労働市場への新規参入者を吸収できないため、インフォーマル就労率の上昇が見込まれる。また、人材派遣を原則禁止する連邦労働法改正案が4月20日に成立し(2021年4月22日付ビジネス短信参照)今後は事業会社の定款に記載されている事業目的やその会社の優先的経済活動と見なされる活動のための労働者を、人材派遣会社を通じて調達することができなくなった。人材派遣会社の労働者を派遣先企業が正社員として受け入れる場合は、改正法施行後90日以内に雇用主変更の手続きを行う必要があり、メキシコ工業会議所連合会(CONCAMIN)の社会保障・人材開発委員会のフェルナンド・イジャーネス委員長は「限られた期間内に改正法に対応することは、零細・中小企業にとってはもちろん、大企業にとっても大きな挑戦であり、とりわけ多国籍企業にとっては困難だ」とし、「すでに行政手続に遅延が生じているため、労働・社会保障省(STPS)による分かりやすく簡潔な情報発信と迅速な手続きの履行が望まれる」と述べた(「エル フィナンシエロ」紙 4月21日)。新体制へ移行するための雇用契約変更に伴う混乱や人件費コストの上昇により、失業と非合法な就労の増加が懸念され、新型コロナウイルス禍により深刻なダメージを受けた労働市場の更なる悪化が危惧されている。

図3:正規労働者数の過去12ヶ月の増減数
2016年1月は65万3,832人増、 2月は66万2,432人増、3月は 61万6,708人増、4月は 63万4,153人増、5月は 66万1,942人増、 6月は60万7,085人増、7月は 55万6,786人増、 8月は67万4,882人増、9月は 71万7,413人増、 10月は74万2,486人増、11月は 74万8,094人増、 12月は73万2,591人増、 2017年1月は74万6,713人増、 2月は75万8,477人増、3月は 83万9,412人増、4月は 78万3,615人増、5月は 79万23人増、6月は 80万7,987人増、 7月は82万4,091人増、 8月は82万6,638人増、9月は 80万2,514人増、 10月は82万5,720人増、11月は 82万150人増、12月は 80万1,831人増、 2018年1月は83万2,261人増、2月は84万2,517人増、3月は 79万2,679人増、4月は 85万3,023人増、5月は 86万247人増、6月は 76万517人増、7月は 77万7,022人増、 8月は77万568人増、9月は 76万4,044人増、10月は 73万2,505人増、11月は 70万1,935人増、12月は 66万910人増、2019年1月は 64万1,834人増、2月は 60万3,505人増、3月は 56万1,511人増、4月は 50万4,821人増、5月は 47万4,838人増、6月は 47万4,091人増、7月は 43万6,135人増、8月は 35万8,577人増、9月は 37万4,466人増、10月は 37万1,245人増、11月は 345,726増、12月は 34万2,077人増、2020年1月は 31万6,386人増、2月は 31万3,543人増、3月は 13万4,435人増、 4月はマイナス45万1,231人、5月は マイナス79万9,740人、6月はマイナス86万8,807人、7月はマイナス88万9,427人、8月はマイナス83万3,668人、 9月はマイナス86万5,234人、10月はマイナス82万4,591人、 11月はマイナス75万2,100人、12月はマイナス 64万7,710人、2021年1月はマイナス66万8,746人、2月はマイナス67万6,598人。

出所:労働・社会保障省

新型コロナや経済的困窮を理由に、520万人が学業断念

メキシコでは、2020年3月末に衛生上の緊急事態が宣言されてから、公立・私立を問わずに幼稚園、小学校から大学まで全ての教育機関で対面式授業が禁止されたため、テレビやインターネットを利用した遠隔授業が実施されている。INEGIが3月23日に発表した新型コロナ感染拡大が教育に与えた影響に関するアンケート調査結果PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.44MB)によると、3歳から29歳のうち、9.6%に相当する520万人が新型コロナ感染拡大、または経済的困窮を理由に、2020年~2021年期の授業に登録せず学業を断念している。520万人のうち、「新型コロナ感染拡大の影響」を学業が続けられない理由に挙げたのは230万人だった。具体的な理由(複数選択式)については、「遠隔授業が学習に役立たないと考えるため」が26.6%、「両親または保護者が失業したため」が25.3%、「コンピュータなどの機器やインターネット環境がないため」が21.9%、「通っていた学校が閉鎖したため」が19.3%を占めた。その他、「両親または保護者が授業に付き添えない」は4.4%、「家族が新型コロナに感染し体調を崩した、または感染により死亡した」が2.6%、「自身が新型コロナに感染した」も2.3%となり、感染拡大が学習環境に深刻な影響を与えていることがわかる。また、中央銀行の2020年第4四半期レポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(13.17MB)は、新型コロナ感染拡大によって、就業または求職活動を中止した人口は性別や年齢に関係なく増加したが、特に女性でその傾向が顕著と指摘し、学校や保育所の閉鎖により、子供と自宅にとどまる必要が生じたことが背景にあると分析している。

中銀は2021年に4.8%の成長を見込む

中銀は2021年3月3日、2020年第4四半期レポートで2021年GDP成長率見通しを3.3%から4.8%に引き上げた。2021年1月には新型コロナ感染の再拡大に伴い、各州で操業規制が強化され、2月には半導体の供給不足によって自動車生産が縮小したほか、米国テキサス州を襲った大寒波により、メキシコ北部で天然ガスの供給が不足し、企業の生産活動や操業が一時的に停止せざるを得なかったことなどが一定の影響を与えるものの、2020年第4四半期の回復幅が予測していたよりも大きかったことと、新型コロナ用のワクチン開発や生産が進んだことで、2021年後半の経済活性化が期待できるとして、見通しを引き上げた。続いて大蔵公債省も3月31日、新型コロナ用ワクチン接種が進んだことなどから内需が回復し、世界経済が再活性化したことで外需および原油価格に回復がみられるとして、見通しを4.6%から5.3%へと引き上げた。また、3月11日に米国で1兆9,000億ドル規模の新型コロナ対策法案が成立すると、米国経済の回復が加速することでメキシコ経済にもたらされる恩恵への期待が高まった。メキシコの対米輸出は全輸出額の約8割を占めるため、米国市場の活性化はメキシコの輸出増に直結する。2020年のメキシコの輸出額は前年比9.3%減となったが、好調な米国自動車市場に牽引されるかたちで、9月、10月、12月の輸出額は前年同月を上回った(2021年2月1日付ビジネス短信参照)。また、米国での新型コロナ用ワクチン接種が進んで経済が回復することで、メキシコの観光地への米国人旅行客の増加や、在米メキシコ系移民からの郷里送金が増えるなどの好影響も考えられる。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
松本 杏奈(まつもと あんな)
2008年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課などを経て、2018年9月から現職。