新型コロナワクチンの接種進む、一部で非接種者への行動制限も(ラオス)

2021年6月11日

ラオスでは4月中旬以降、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の市中感染の急増に伴い、住民へのワクチン接種が急ピッチで進んでいる。政府は2021年中に、総人口の50%への接種完了を目標に掲げる中で、一部ではワクチン非接種者への行動制限を課す動きも見られる。本稿では、ラオスにおけるワクチンをめぐる動きの経緯と、今後の展望を概観する。

遅れてやってきた第2波

ラオスでは、2020年3月24日に国内初の新型コロナ感染者が確認され、3月30日から5月3日にかけて、原則外出禁止、都・県境を越える国内移動の禁止、国境での出入国禁止などを含む厳格なロックダウン(都市封鎖)措置が実施された。国内の累計感染者数が8人の段階でこれらの措置を講じたことで、4月14日以降に新規感染者は発生せず、それまでの累計感染者19人全員が退院した翌日の6月10日、トンルン・シースリット首相(当時)が新型コロナ第1波への勝利宣言を発した(2020年7月28日付2021年3月26日付地域・分析レポート参照)。国境における一般人の厳格な出入国管理は現在に至るまで続いているが、2020年半ば以降はコロナ前の日常を取り戻していた。

感染拡大の第2波は、周辺国と比べて遅く、2021年4月に本格化した。ラオスは厳格な出入国規制を課すことにより、2021年3月末まで、累計感染者数を49人に抑え込むことに成功していた(保健省)。また、感染者のほとんどがラオス入国後の隔離期間中に陽性が発覚したものだった。しかし、2021年4月11日に1年ぶりの市中感染が発覚(注1)、同月中旬の「ラオス正月」の祝日を挟み、隣国タイからの密入国者によって新型コロナがラオス国内に持ち込まれるケースが相次いだ。4月21日には首都ビエンチャンで、1日としては過去最大となる28人の市中感染が発生。政府は4月22日より、直ちに首都ビエンチャンの都市封鎖措置を実施したほか、国内の各県でも独自のロックダウン措置が実施されるに至った(2021年4月23日付4月30日付5月10日付6月9日付ビジネス短信参照)。 6月11日現在、ラオス国内での都市封鎖措置は一部の規制を緩和しながら継続されており、首都ビエンチャンでは5月21日から、新規感染者などの発生状況に応じて市内をレッド、イエロー、グリーンの各ゾーンに区分し、それぞれのゾーンごとに異なる行動制限を課す措置が導入されている(2021年5月28日付6月9日付ビジネス短信参照)。ロックダウン以降、新規感染者の発生は抑制傾向にあるが、ビエンチャンや北部ボケオ県などでは、絶対数こそ少ないものの市中感染者は日々発生しており、政府は濃厚接触者の追跡を急いでいる(保健省発表)。

各国から供与されるワクチン

ラオスは2020年後半から、各国政府や国際機関によるワクチンの無償供与を受けてきた。中国は2020年8月、瀾滄江・メコン川協力第3回首脳会議において、ラオスを含むメコン地域への新型コロナワクチンの優先供与に言及(8月25日付新華社)。同年11月には中国シノファーム製ワクチン2,000回分がラオスに到着し、医療関係者を中心とした接種が開始された。シノファーム製ワクチンは2021年4月下旬までに計4回にわたってラオスに供与され、その総数は約140万回分に及ぶ(4月1日付ラオシャン・タイムズ、4月27日付ビエンチャンマイ)。中国に続いて、ロシアから2021年1月末、同国製の「スプートニクV」1,000回分がラオスに供与された(1月23日付ラオ・ユース・ラジオ)。国際機関の援助の動きとしては、世界保健機関(WHO)などが主導する「COVAXファシリティー」により、英国オックスフォード・アストラゼネカ製ワクチン約48万回分の供与が発表され、そのうち13万2,000回分が3月20日にラオスに到着した(3月20日付ガビ・アライアンスによる発表)。COVAXファシリティーの枠組みにおいては、オックスフォード・アストラゼネカ製のほか、米国ファイザー製のワクチン約10万回分が2021年6月までに供与される予定になっている(4月12日付COVAXファシリティー発表資料)。さらにオーストラリア政府は、COVAXファシリティーを介して100万回分の支援を行うと発表している(5月12日付ターゲット)。

感染拡大で加速するワクチン接種

ラオス政府は2021年1月、同年内に総人口(約712万人)の20%へのワクチン接種を完了させる方針を発表し(1月27日付ラオス国営通信KPL)、以降、国内各地で一般市民を対象に、ワクチン接種を促進する取り組みが進められてきた。4月2~3日には、首都ビエンチャンにおいて、COVAXファシリティーによるアストラゼネカ製ワクチンの集団接種が初めて実施され、在留外国人を含む計4,000人が接種を受けた(2021年4月7日付ビジネス短信参照)。当該の集団接種は、ラオス保健省が設置した予約ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを通じて、市内に設置された複数の接種会場の中から希望地と日付を選択することで事前登録を行う形式がとられた。4月3日以降も、首都ビエンチャンの各郡で随時のワクチン接種が行われ、上記の予約ウェブサイトを通した予約以外にも、希望者は所定の用紙(注2)に個人情報を記入し、指定病院、郡病院などに赴くことで接種が可能となっていた。

その後、ワクチン接種の動きは、市中感染の急増を受け、首都ビエンチャンがロックダウンされた4月22日を境に加速する。4月23日には、前述の保健省の予約ウェブサイトがリニューアルされ、会場や日時に加え希望するワクチンの種類(シノファーム製、オックスフォード・アストラゼネカ製のいずれか)を選択し、随時の接種予約を行うことが可能になった(4月24日付ラオシャン・タイムズ)。4月22日に約11万人だった初回接種者数は、5月27日時点で、総人口の約9%にあたる約64万人に達した(図参照)。

政府は5月21日、2021年内の初回ワクチン接種者数の目標を、当初の人口比20%から50%へ引き上げることを発表した(5月21日付パサソン社会経済)。新規目標の達成のために、政府は1日当たり約3万3,000人へのワクチン初回接種を行っていくことを発表しているが、これはワクチン接種が本格化した4月22日から5月21日までの1日あたりの平均である約1万5,800人の2倍以上のペースである(ラオス保健省発表に基づき算出)。

図:ワクチン初回接種者数・新型コロナ累計感染者数の推移
ラオスの新型コロナ感染者の累計数は4月15日 が53人、4月22日が94人、4月29日が672人、5月6日が1,177人、5月13日が1,482人、5月20日が1,751人、5月27日が1,895人。ワクチンの初回接種者累計数は4月15日 が105,568人、4月22日109,706人、4月29日が171,443人、5月6日が309,924人、5月13日が448,152人、5月20日が568,233人、5月27日が639,878人。

出所:ラオス保険省発表を基にジェトロ作成

ワクチン初回接種数のペースアップのためには、接種会場や医療スタッフ数の十分な確保に加え、ワクチン在庫数の確保という根本的な課題がある。現在、ラオスで接種可能なワクチンはすべて、初回接種から数週間~数カ月後に2回目の接種を必要とするため、初回接種者数の増加に比例し、確保が必要なワクチン在庫数も増える。事実、ラオス政府は5月20日、在庫不足を理由に、ワクチンの初回接種を一時的に停止する旨を発表した(2回目の接種は継続)。初回接種の停止が長引けば、政府目標の達成に影を落としかねない。

ワクチン非接種者への行動制限も

ワクチン接種が進む中で、接種を完了していない者への行動制限を課す動きもみられる。ビエンチャン都庁は5月18日から、ワクチン接種を受けていない一般市民や職員のビエンチャン自動車登録・免許証センターへの出入りを禁止した。続く21日、南部サワンナケート県では、ロックダウン下においてワクチン接種証明書を携帯する公務員・企業従業員のみに通常出勤を許可するとの県知事告示が出された。地方政府によるワクチン非接種者の行動制限措置は、ジェトロが確認する限り、ラオス初であり、今後、他県も追従して同様の措置を取る可能性がある。その場合、注目されるのは各県ごとの行動制限内容の差異だ。

ラオスの地方政府はこれまで、自県域内のみを対象とした新型コロナ関連の規制措置を、地域での感染拡大状況などに応じて独自に実施してきた。前述した4月下旬からの各県のロックダウン措置では、他地域にない厳格な規制を導入する県も散見され、特に国内・国際物流に大きな混乱を引き起こした(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。これらを念頭におけば、今後のワクチン非接種者への行動制限の内容も県によって異なり、一部の県で過剰な行動制限が導入され、新たな混乱が生じる可能性は否定できない。今後の各地方政府の動きを注視する必要がある。


ワクチン接種者に配布される接種証明書(ジェトロ撮影)

注1:
在ラオス日本大使館のラオス国内の新型コロナの確定症例報告では、2020年内の最後の市中感染報告が2020年4月13日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますである。それ以降の新たな市中感染の報告は2021年4月11日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとなっており、その間の発症事例はすべて入国者の隔離期間中の発覚となる。その他のラオス国内の新型コロナの確定症例の詳細情報については、在ラオス日本大使館ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。
注2:
所定の用紙は、政府のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
岡田 脩太郎(おかだ しゅうたろう)
2018年、ジェトロ入構。お客様サポート課、海外展開支援課、EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月から現職。