ジェトロ世界貿易投資報告 2026年版

第Ⅲ章 世界の通商秩序を巡る動向
第1節 世界の通商政策の最新動向
第2項 新興国ブロック(BRICS・上海協力機構)の動向

ポスト拡大期に入る新興国枠組みと金融協力の深化

新興国による地域横断的な国際的連携の枠組み拡充が進んでいる。代表的な新興国ブロックとして、BRICSおよび上海協力機構(SCO)が存在する。2009年に設立したBRICS注1は台頭する「グローバルサウス」を代表する枠組みとして、多極化する国際秩序の中で発言力強化と新たなルール形成を志向する動きを強めている。BRICSの協力枠組みは、当初は経済分野を中心として構築されたが、その後拡大し、現在では(1)政治・安全保障、(2)経済・金融、(3)文化・人的交流の3本柱を軸に体系化されている。一方、SCOは2001年に中国とロシアが主導して設立されたユーラシア地域の安全保障機構であるが、近年は経済協力も進展している注2。この結果、BRICSとSCOのアジェンダには重複が見られるようになっている。

構成国・地域を見ると、中国、ロシア、インド、イランはいずれもBRICSおよびSCOの加盟国である。エジプト、UAE、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシも、両枠組みにおいて加盟国またはパートナー国として関与している(図表Ⅲ- 17)。両枠組みはいずれも構成国の拡大を通じて、国際的な存在感を高めてきたが、2025年以降は正式加盟の拡大の動きは一段落し、パートナー制度を通した外縁拡大と制度整理に軸足を移している。

図表Ⅲ-17 BRICSと上海協力機構(SCO)の構成国・地域図
BRICSおよび上海協力機構(SCO)を色分けして、加盟国を示した図。BRICS加盟国は、ブラジル、南アフリカ、エチオピア、インドネシア、エジプト、UAE、サウジアラビア(注参照)、インド、中国、ロシア、イランBRICSパートナー国は、ボリビア、マレーシア、ウズベキスタン、キューバ、ナイジェリア、カザフスタン、タイ、ベトナム、ベラルーシ、ウガンダSCO加盟国は、インド、中国、ロシア、イラン、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシ、キルギス、タジキスタン、パキスタンSCO対話パートナー国は、エジプト、UAE、サウジアラビア、アゼルバイジャン、アルメニア、カタール、カンボジア、クウェート、バーレーン、モルディブ、ミャンマー、ネパール、トルコ、スリランカ、ラオスSCOオブサーバーは、アフガニスタン、モンゴル両組織に加盟している国は、インド、中国、ロシア、イラン
注:
サウジアラビアは、BRICS公式サイト上では加盟国扱いだが、正式加盟は未確定。
出所:
BRICS・SCO公式サイトおよび各種報道から作成

BRICSには、2025年1月のインドネシアの正式加盟に続き、同年1~6月にパートナー国として10カ国が参加した。SCOにおいても、2024年7月にベラルーシが正式加盟した。2025年8月31日~9月1日開催の天津サミットでは、ラオスの対話パートナー国参加を承認するとともに、オブザーバーと対話パートナーを統合し「SCOパートナー」とする方針が示された。このように、両枠組みは多様な立場の参加国が増加していることから、合意形成や地位整理が課題となっているとみられ、拡大後のガバナンス整理が進められている。

両枠組みに共通する点としては、いずれも米ドルに頼らない自国通貨の相互利用を推進する動きや、開発銀行の設立などが挙げられる。金融面での協力としては、BRICSは2015年に新開発銀行(NDB)を設立し、加盟国におけるインフラ整備や開発プロジェクトへの資金提供を行っている注3。これに対し、SCOでは2005年にSCO銀行連合が設立され、加盟国の銀行間での協力や共同投資案件の資金調達を支援してきた。さらに、2025年9月の首脳会議において、中国の習近平国家主席がSCO開発銀行の早期設立を提唱しており、域内の金融協力の制度化に向けた動きが加速している。

BRICSが推進するデジタル分野での規範形成

BRICSは近年、デジタル、データ、AI分野の国際的な規範形成の議論において、グローバルサウスの立場を反映するアクターとして存在感を高めている。ただし、その取り組みは、EUの一般データ保護規則(GDPR)やAI法のような拘束力のある共通規制を形成するものではなく、各国の主権や発展段階の差異を前提とした、緩やかな原則共有や立場調整にとどまる。

BRICSのデジタル協力は、ICT安全保障、電子商取引(EC)、産業デジタル化、データ経済、AIガバナンスへと段階的に拡大してきた(図表Ⅲ- 18)。2015年ロシアでのウファ宣言注4では、ICT利用の安全保障に関する情報共有や能力構築、サイバー犯罪対策、コンピューターセキュリティ緊急対応チーム(CSIRT/CERT)を活用した加盟国間協力が明記された。その後、2024年カザン宣言ではICTインシデント対応機関間の連絡窓口ディレクトリの設置・運用、2025年リオ宣言ではCERT間協力、当局間の捜査・司法などの法執行協力、共同研究開発、関連覚書交渉が歓迎され、実務協力の制度化が進みつつある。BRICSは同時に、全ての国連加盟国がサイバーセキュリティに関して議論する国連オープン・エンド作業部会(OEWG)や2024年に採択された国連サイバー犯罪防止条約を支持。ICT安全保障における国連中心の規範形成も重視している。

EC分野では、2015年ウファ宣言で「BRICS電子商取引(EC)協力枠組み」が歓迎され、2017年にはEC作業部会の設置へと進展した。2018年には「包摂的なEC発展に関するBRICS協力枠組み」が示され、ECは市場拡大のみならず、中小企業の参加、オンライン紛争解決、包摂的成長を支える手段として位置付けられた。2022年にはEC作業部会がデジタル経済作業部会へ格上げされ、協力対象はECからデータ、デジタル技術、消費者保護、デジタル貿易へと拡大している。

産業デジタル化では、2018年のヨハネスブルク宣言で「新産業革命に向けたBRICSパートナーシップ(PartNIR)」が立ち上げられた。これはデジタル化、産業化、イノベーション、包摂性、投資を結びつける上位枠組みとして位置付けられ、サイエンスパーク、技術系インキュベーター、中小企業支援などを通じて第4次産業革命に対応する協力を進めるものとした。2024年カザン宣言では、PartNIRの下で中小企業や産業のデジタル転換などを含む7つの作業部会の設置が歓迎された。

2025年リオ首脳会議では、データおよびAI分野で新たな進展が見られた。リオ宣言では「BRICSデータ経済ガバナンス理解文書」を、BRICS内でデータ経済を活用するロードマップとして位置付け、安全な技術アクセス、個人・国家利益の保護、産業・サービスのデジタル化、BRICS域内貿易の拡大を目的に掲げた。また、「AIのグローバル・ガバナンスに関するBRICS首脳声明」では、AIを開発、イノベーション、生産性向上、持続可能な発展の機会として位置付ける一方、AIガバナンスは潜在的リスクの軽減だけでなく、包摂性、能力構築、デジタル格差是正を重視すべきだとした。特に、AIガバナンスにおける国連の中心性を明記しており、AIルール形成は国連を中核とする包摂的・代表性ある国際協力の下で進められるべきだという立場を示した。これは、G7、OECDなど先進国・地域主導の枠組みがAIルール形成で先行する中、グローバルサウスの意味のある参加、能力構築、技術への公平なアクセス、開発上のニーズが十分に反映されないことへの警戒感を背景にしたものと見られる。

以上のように、BRICSのデジタル分野での取り組みは、国連を中心とする多国間協議でグローバルサウスの発言力を高め、各国の政策余地、データ主権、技術的自律性を確保するための立場調整といえる。加盟国間の制度差は大きく、現時点では統一ルールの形成よりも、原則共有と国際議論における影響力確保が主眼とみられる。

図表Ⅲ-18 BRICSのデジタル・データ・AI関連の主要枠組み
年 名称 分野
2015 ICT安全保障・サイバー協力 ICT利用の安全保障
2015 BRICS電子商取引協力枠組み 電子商取引
2018 包摂的な電子商取引の発展に関するBRICS協力枠組み 電子商取引
2018 新産業革命に関するBRICSパートナーシップ(PartNIR) 産業デジタル化
2020 デジタル経済をBRICS経済協力戦略2025の柱に位置づけ デジタル経済の協力促進
2024 ICTインシデント対応機関間の連絡窓口ディレクトリの設置・運用 ICT利用の安全保障
2024 PartNIR下で7つの作業部会設置 産業デジタル化
2025 BRICSデータ経済ガバナンス理解文書 データ経済ガバナンス
2025 AIのグローバル・ガバナンスに関するBRICS首脳声明 AIガバナンス
出所:
BRICS公式サイトおよび各種報道から作成

2026年BRICS首脳会議、利害調整が課題に

2026年の第18回BRICS首脳会議は、9月にインド・ニューデリーでの開催が予定されている。2025年のリオデジャネイロ首脳会議では、首脳宣言および「AIのグローバル・ガバナンスに関する声明」に加え、「気候資金に関する枠組み宣言」や「社会的に決定される疾病の撲滅に向けたBRICSパートナーシップ」などが採択された。焦点の1つとなった決済については、越境決済イニシアチブは技術報告書まで進み、財務相・中銀総裁レベルで検討継続となり、実装準備への橋渡し段階となった。開発金融については、NDBの現地通貨建て融資を支持し、BRICS多国間保証(BMG)構想をNDB内のパイロットとして進める方針が示された。サプライチェーン強靱化は中小企業・民間連携やデジタル基盤を軸に強靱化を掲げたが、具体化はこれからの段階にある。2026年の議長国であるインドは「レジリエンス、イノベーション、協力、持続可能性」をテーマに掲げている。2025年に示されたこれらの広範な政治的コミットメントを、具体的な実務協力に落とし込めるかが焦点となる見込みだ。特に、BRICS越境決済イニシアチブの進展、NDBにおける現地通貨建て融資の拡大や加盟国拡大、AIガバナンスの具体化、気候資金の実装、さらには構成国拡大後の制度運営などが主要な課題として残されている。2026年5月に開催されたBRICS外相会合においても、同様の分野における協力の継続が確認された。他方で、中東情勢を巡る加盟国間の立場の相違により、同会合では共同声明の採択には至らず、議長声明と成果文書の発出にとどまった注5。こうした動きは、拡大したBRICSが国際的な発言力を高める一方で、加盟国間の利害調整が一層困難になっていることを示した。

注記

注1
2006年にニューヨークで開催された国連総会の機会に、ブラジル・ロシア・インド・中国の第1回BRIC外相級会合を開催。2009年にロシアで第1回BRIC首脳会議を開催。2010年にニューヨークで開催されたBRIC外相会合において、南アフリカ共和国(南ア)を加えることでBRICSに拡大することが合意。2011年に南アが首脳会議に初参加し、BRICSとなった。元の本文に戻る
注2
村上美智子「上海協力機構(SCO)の動向外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」『海外投融資』27 (2) (2018年3月)元の本文に戻る
注3
New Development Bank“Investor Presentation外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2026年6月)元の本文に戻る
注4
各宣言文書はBRICSウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。元の本文に戻る
注5
AP通信“BRICS ministers fail to issue a joint statement over differences on conflict in the Middle East外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます”(2026年5月15日付)元の本文に戻る