ジェトロ世界貿易投資報告 2026年版
第Ⅲ章 世界の通商秩序を巡る動向
第2節 多国間貿易体制の現状と課題 第1項 WTOと自由貿易体制
踏みとどまる自由貿易体制
米国による関税引き上げに、主要国は、米国とは二国間交渉という選択肢を取りつつ、それ以外の国々とは、最恵国待遇(MFN)または特恵に基づく通常運転の貿易を継続した。WTOは2025年の世界の財貿易量について、同年4月には米国の関税措置を加味して0.2%減と予測したが、同8月の予測では0.9%増、同10月の予測では2.4%増と上方修正した。さらに2026年3月に示した推計では4.6%増とし、関税措置の悪影響は当初の懸念よりも抑えられたと評した。2026年2月時点でMFNベースの関税率を適用した貿易が世界貿易の72%を占め、引き続き国際貿易の主流となっている。
2025年以降の単純平均実行関税率の推移をWTOのデータベースで入手可能な主要国について見ると、米国は2025年2月に中国産品への追加関税を課したのを皮切りに、4月から鉄鋼・アルミ、自動車をはじめ幅広い製品へ関税を賦課し、大幅に平均関税率が引き上げられた。しかし、それ以外の国では、中国やカナダで対米対抗措置が取られたほか、メキシコが砂糖および砂糖含有製品の関税を引き上げるなど部分的な変更はあったものの、全体的にはMFN関税率に大きな変更は生じておらず、概ね税率は安定している(図表Ⅲ-22)。
- 出所:
- WTO Tariff & Trade Data, Tariff actionsデータベースから作成
米国によるMFNからの一方的な逸脱に直面し、米国に対して各国は二国間での貿易合意を個別に締結するといった対処でショックを緩和させつつ、総体として自由貿易体制は強靱さを示した。一方、WTOが通商秩序の調整役として果たした役割は極めて限定的であった。2026年3月のWTO第14回閣僚会議(以下、MC14)およびそのフォローアップとなった同5月のWTO一般理事会は、それを象徴する場となった。
合意なく終焉したMC14と5月のWTO一般理事会
MC14は、2026年3月にカメルーンの首都ヤウンデで開催された。MC14の主な論点としては、前回会合から引き続き、WTO改革が最重要課題となり、会期中相当の時間が割かれた(図表Ⅲ- 23)。次の閣僚会議までの2年間の作業計画を含む閣僚宣言案が起草されたものの採択には至らなかった。わずかに、1)漁業補助金、2)小規模エコノミーへの支援に関する作業計画、3)衛生植物検疫措置(SPS)および貿易の技術的障害(TBT)の2協定の適用における特別かつ異なる待遇、の3点につき閣僚宣言が採択されたにとどまる。これらは閣僚会議の成果というにはあまりに微細であり、会議は合意なく終焉したとの評価が妥当であろう。
WTO改革作業計画を含む合意を阻んだ論点が、音楽・映画など国境を越える電子的送信に対し関税を賦課しない慣行の継続である。この関税不賦課の慣行は1998年以降、一時期を除き、2年に1度程度開かれる閣僚会議の度に延長されてきた。今回は同慣行を2030年末まで延長する案で合意を図ったものの、一部の途上国が反対し調整がつかなかった。
MC14では全加盟国(166カ国・地域)での合意には至らなかったものの、有志国による共同宣言イニシアチブ(JSI)の一つである電子商取引協定については、一定の前進がみられた。日本、オーストラリア、シンガポールを共同議長国とする同協定の参加国・地域は、暫定的な措置を採択したとMC14に際して発表した。暫定的な規定として参加国間での仲裁による紛争解決に関する取り決めを追加して、複数国間協定として出発しつつ将来的なWTOルールへの取り込みを目指すことで合意した。今後参加国は国内で批准手続きを進め、45カ国・地域の寄託が得られた時点で協定が発効する。
一方、既に2023年に妥結していた投資円滑化協定の参加129カ国・地域がMC14で全WTO加盟国の同意によるWTOルールへの同協定の取り込みを目指したが、インド1カ国の反対により達成できなかった。
WTO体制に米現政権は批判的であったとは言え、WTO大使をジュネーブに派遣し、WTO改革について独自の提言を行うなど、これまで一定のコミットメントは継続してきた。しかし米ジェミソン・グリア通商代表は会議後の声明で「WTOは将来のグローバルな貿易政策の取り組みの中で限られた役割しか果たさないだろう」と発言。今回の閣僚会議の事実上の失敗は、米国のWTO軽視、特に多国間合意への見切りを一層強固にしたといえる(本章第1節(2)米国の通商政策参照)。
今回の閣僚会議では、WTO改革に関して「分科会」形式での議論が行われた。しかし本来、閣僚級が最終決定を行うべき場である閣僚会議において、意思決定を伴わない「対話」に時間を費やしたことは、WTOの意思決定機能の衰退を示す結果となった。またグリア代表は、自身のカウンターパートたるべき閣僚級の会議参加が非常に少なかったと指摘しており、加盟国の同会議への政治的コミットメントの低さも課題と言える。
MC14では、「時間切れ」を受けて、閣僚会議に準ずるWTOの意思決定機関である一般理事会での合意を目指すとしたが、同年5月に開かれた一般理事会でも、電子的送信への関税不賦課およびWTO改革を含むパッケージへの合意には至らなかった。これを受け日本や米国を含む19カ国・地域は同年5月、当事国間では電子的送信への関税不賦課は行わないとする独自の共同声明を発表した。
| 対象 | 項目 | MC14での動き・論点 |
|---|---|---|
| 全WTO加盟国 | WTO改革 | 意思決定、貿易と開発、公平な競争条件、WTOの基本原則、加盟国の権利義務のバランス、紛争解決制度を議題に含む作業計画(一般理事会ごとの進捗報告など)が提示されるも、合意ならず。 |
|
電子的送信への 関税不賦課 |
1998年以降、原則として(注)閣僚会議の度に更新してきた慣行。MC14では2030年末までの、従来より長期の延長を目指したが、少数の途上国が反対。 | |
| 漁業補助金 | 違法・無報告・無規制漁業につながる補助金の禁止などを規定した漁業補助金協定は、2025年9月に発効。過剰漁獲能力・過剰漁獲につながる補助金と資源管理措置に関する交渉が積み残しとなっている。 | |
| 有志国(JSI) | 投資円滑化協定 | 129カ国が参加し、投資の透明性や予見可能性の向上、手続きの簡素化・迅速化などを内容とする協定条文(2023年7月に合意済み)のWTO協定への取り込みを目指すが1カ国の反対により達成ならず。 |
| 電子商取引協定 | 共同議長国が2024年7月に公表した、電子的送信に対する関税賦課の恒久的な禁止を含む協定条文に、紛争解決のための仲裁手続きに関する暫定取り決めを追加し、66カ国・地域で採択。 |
- 注:
- 閣僚会議が決裂した1999~2001年、2003~2004年を除く。
- 出所:
- WTO、経済産業省資料から作成
限定的に機能するWTO紛争解決
WTO紛争解決は2019年来の上級委員会の機能停止により、本来の二審制の審理機能が損なわれている。一方、小委員会(パネル)手続きは維持されており、WTO紛争解決自体が機能停止しているわけではない。
WTO発足前のガット時代も一審制のパネルを採用した紛争解決手続きが整備され、1948~1995年にかけて、317件の協議要請つまり手続きの利用があった注1。317件のうち158件でパネルが設置された。ガット時代のパネルは、報告書が採択されないケースもあるが、136件発出されたパネル報告書のうち約3分の2にあたる96件は採択されている。協議を経て当事者間での合意による解決が得られた事案も54件ある。つまりガット時代、一審制の紛争解決手続き下で、拘束力は限定的であってもパネルは一定の規範を示し、多くの紛争では当事国はこれを尊重して紛争の解決に活かしてきた。
そもそも、二審制の裁判的な手続きが紛争解決のベストなシステムであるかは賛否が分かれる。紛争処理のあるべき姿について「裁判志向主義」と「和解志向主義」があり、後者はガット/WTOのような国際経済組織における紛争処理の目的は違反を速やかに止めさせることであり、なるべく当事国間の交渉に基づき和解によって解決されるべきだとする注2。紛争の早期解決が目的であれば、同じ裁判的手続きでも一審制も有力な選択肢になり得るし、協議による和解が望ましい場合がある。
WTO紛争解決は強制力を伴うことに意義があるという見方もある。確かにガット時代のパネル報告書採択は加盟国のコンセンサスを必要としたのに対し、WTOではコンセンサスによってしか採択を拒否できないネガティブ・コンセンサスが取られる。しかし、報告書は採択されても履行されない場合もあり、詰まるところ強制力とは対抗措置の発動が可能ということを指すと言える。この点、対抗措置の発動に必要なWTO紛争解決了解22.6条に基づく仲裁判断まで進んだWTO紛争は21件、うちWTO紛争解決機関(DSB)が承認した対抗措置は16件にとどまる注3。つまりWTOにおいて強制力が実際に発揮された事例は極めて少なく、解決に至った事案はほとんどの場合、各段階における当事国の何らかの能動的な是正措置によって得られたものと言える。
上級委員会が機能停止したとは言え、現在のWTO紛争解決手続きでもガット時代のようにパネル手続きの活用や協議を通じた経済紛争の打開が一定程度可能であり、現在の制度は過去と非連続の状態ではない。
さらに、多国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA)も一応の役割を果たす。MPIAは上級委の代替ではなく、あくまで当事国間(61カ国・地域)の紛争解決の一助である。とは言え、中国-EU間の知財紛争(DS611)ではMPIA判断について賛否があったものの注4、中国は仲裁判断に基づき措置を是正した。MPIAが一定の機能を果たしたとともに、主要国・地域の中で中国がMPIAの枠組みに入っている意義が大きいことが確認された。MC14ではWTO事務局長からもMPIAへの評価と支持が表明された。
WTO紛争解決以外の国家対国家紛争解決では、FTA紛争解決手続きもあるが、利用は、以前より例が増えたとはいえNAFTA/USMCAなど一部に限られている。日本が関係するFTAではこれまで国家間紛争解決の利用例はない注5。WTOに代わる国際貿易紛争解決の場は今のところ実質的には無いと言える。
2025年は、13件のWTO紛争可決手続きへの協議要請があり、2020年以降で最多だった。米国関税措置に対抗するWTO紛争案件が半数に上ったとはいえ、カナダ-中国間の農水産品への追加課税の事案(DS636)が両者の合意でMPIAに付託されるなど、当事者間での紛争解決を目指す事案もある。またインド-中国間の再エネ製品関連の事案(DS642、644)や、ロシア・ウクライナ紛争により進展の見込みがないもののEUのCBAM制度についてロシアが協議要請した事案(DS639)など新しい分野の紛争も注目される。
WTO紛争解決が、2019年以前のような二審制を回復することは少なくとも短期的には見込めない。米国は伝統的に国際裁判の管轄に服することに極めて消極的な国であり、WTO発足以降の20年ほどの紛争解決がむしろ例外的な期間だったのであり、元に戻った、と考えるべきなのではないか。
| WTO紛争解決手続き上の段階 | 1995-2004 | 2005-2014 | 2015-2025 | 合計 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 件数 | 割合 | 件数 | 割合 | 件数 | 割合 | 件数 | 割合 | |
| 協議要請 | 324 | 100% | 164 | 100% | 153 | 100% | 641 | 100% |
| パネル設置 | 127 | 39% | 95 | 58% | 104 | 68% | 326 | 51% |
| 合意に基づく解決、権限の失効、撤回 | 72 | 22% | 47 | 29% | 37 | 24% | 156 | 24% |
| パネル報告書の採択 | 86 | 27% | 67 | 41% | 53 | 35% | 206 | 32% |
| パネル報告書に対応する紛争件数 | 106 | 33% | 88 | 54% | 58 | 38% | 252 | 39% |
| 上級委員会への付託 | 59 | 18% | 41 | 25% | 57 | 37% | 157 | 24% |
| 上級委員会報告の採択 | 56 | 17% | 40 | 24% | 28 | 18% | 124 | 19% |
| 上級委員会報告に対応する紛争件数 | 78 | 24% | 54 | 33% | 34 | 22% | 166 | 26% |
- 注:
- WTO事務局がまとめたDS番号641までの集計。複数の紛争案件の統合や手続きの中断など複合的な理由により、段階別件数の合計と紛争案件の実数(協議要請件数)は一致しない。
- 出所:
- WTO事務局資料から作成
さらに当事者間の協議による解決も積極的に検討されるべきであろう。この点、WTO紛争解決案件を10年ごとにみると、WTO発足からの10年間(1995~2004年)では、当該機関の協議要請のうちパネル設置まで進んだ事案は39%で、相当数が当事者間の協議段階で終結している(図表Ⅲ-24)。2015年以降では同割合は68%で大半がパネル手続きに入っており、協議段階での終結が減少。また1995年からの10年ではパネル報告書が採択された紛争(106件)のうち上級委員会への付託は59件と、約半数であったのに対し、2015年以降では58件中57件と、パネル段階での終結はほぼ皆無となっている。この点、WTO紛争解決制度の「司法化」が進んだ結果、当事者間での解決に向けた対話の努力が薄れてきた側面もある。WTO紛争解決手続きは時間を要する手段であり、本来は当事者間での合意による解決が時間的にもコスト上も最も合理的な手段である。ガット時代のように、パネル(またはMPIA仲裁)を通じて通商ルールについて一定の規範が示されながら、当事国同士での紛争解決に向けた努力も求められる。
なおWTO紛争解決に関連して、JSIの電子商取引合意では、全加盟国のコンセンサスによって同合意をWTO協定の附属書4に取り込んでWTO紛争解決手続きを利用可能にすることが現状では難しいことを踏まえ、当事国間で実質的にWTO紛争解決と同様のプロセスを取ることを可能にする暫定的な措置に関する附属書を採択した。WTO協定への取り込みが達成できなくても、JSIで紛争解決を含むルール策定の道筋を示したことに一定の意義がある。
ルールに基づく国際通商秩序の維持に向けて
米国が国際通商ルールに基づく秩序軽視の姿勢を示し、ルールに基づく国際通商秩序が揺らぐ中でも、国際貿易の大半は通常運転で実施されている。以下では、ルールに基づく秩序の代表的な論点であるMFN原則、および安全保障と貿易について若干の検討を試みたい。
既述のとおり、国際貿易の7割以上はMFN原則に基づく一般関税率(MFN税率)にて通関されている。MFN原則はWTOの文脈では無差別原則と同意であり多国間貿易体制のいわば要である。一方、米国は2025年12月の一般理事会において、「MFN原則は今の時代にそぐわない」上、「(経済)厚生の向上につながる自由化を阻害する」と述べ、同原則を否定する見解を示した。さらにEUも2026年1月に「無条件な」MFN原則の見直しの必要性に言及した(本章第1節(2)EUの通商政策参照)。いずれも、とりわけ中国を念頭に公正な貿易慣行が実現されていないとの現状認識に立っていると考えられる。確かに、1947年の第1回多国間貿易交渉への参加国が23カ国・地域であったように、ガット設立当初と、166カ国・地域からなる現WTO体制とではMFNの持つ意味は異なるという点は否めない。
一方、米国のWTO元事務局次長アラン・ウォルフ氏が「MFN原則を失うことはパンドラの箱を開けることに等しい」注6と警鐘を鳴らすように、加盟国が無差別の自由貿易体制を享受する土台となるMFN原則の見直しには極めて慎重であるべきだろう。MFN原則には既に様々な柔軟性のメカニズムが組み込まれている。1点目は、FTA/EPAに基づく特恵貿易の許容(GATT24条)。2点目は、GATT20条(一般的例外)などに基づく例外の許容。3点目は、MFNに基づく関税率は各国が「譲許表に定める条件又は制限に従うことを条件として」認められるものであり(GATT2条1項(b))、もともと「無条件」な権利ではないこと。4点目は、加盟国は「特別の事情があるときはいつでも」所定の手続きおよび条件に従う範囲で、当該国の譲許表(関税約束)に含まれる譲許の修正または撤回のための交渉を開始できること(GATT28条)。最後に5点目として、中国を含めWTOに新規加盟する国・地域の場合は加盟交渉を経て、全加盟国が承認した加盟条件を受け入れていることにも留意が必要だ注7。通常、新規加盟には原加盟国に比べて厳しい条件が課せられ、加盟交渉妥結をもって権利義務の均衡が図られることが想定されている。
上記4点目のGATT28条に基づく譲許表の修正については、EUが鉄鋼セーフガードの期限切れに伴う代替措置を設定する上での根拠としたことでにわかに注目された。EUの措置の同条整合性についての疑義はあるものの注8、少なくともEUとしてはWTOルールとの整合性を意識した措置として論理構成している点は、ルールの軽視とは一線を画する立場と言え、ルールに基づく秩序の尊重という観点では一定の評価の余地がある。
その他、実務の観点からは、FTA/EPAでの特恵関税の利用には原産地規則の充足という「ハードル」をクリアしなければならない点も指摘できる。MFNも、厳密にはWTO非加盟国(イラン、イラク、シリアなど)が対象外となるため無条件ではないものの、ヒアリングによれば、通関の現場ではMFNベースの通関申告は実質的に証明を求められないとのことである。つまり円滑な自由貿易の実現という観点では、FTAは終着点ではなく、MFNが貿易円滑化に果たしている役割は大きい。サプライチェーンがグローバルに張り巡らされた今日において、多様な資源や食料を輸入する日本を含め貿易に依存する国・地域にとって、MFNは一層不可欠な大前提と言える。
次に、WTOルールと安全保障の関係については、GATT21条が安全保障に基づく例外を規定する。同条に基づく例外は主に戦時を想定した極めて限定的な場合のみに許容される。この点、GATT協定の起草時には、同条は現在のように経済安全保障の要素を含んだ、広義の安全保障概念に対応できていないと指摘される。ガットの規定そのものを見直すことが現実的には容易でない中で、安全保障の概念について何らかの共通理解を醸成することは、通商政策と経済安全保障政策の両立を図る近年の政策トレンドに鑑みて喫緊の課題である。他方、米国は同国の通商拡大法232条を根拠にした追加関税などにおいて、国家の安全保障上の理由を挙げており、GATT21条の射程について新たな対立を生んでいる注9。米国の元WTO上級委員会委員長のジェームズ・バッカス氏はこの点、「国家の安全保障上の決定はあくまで例外であって規範になってはならない。さもなくば多国間貿易体制の根幹が揺らぎ、国際貿易は、例外が常態となるブラックホールへ突き落とされることになる」注10と述べ、GATT21条に一定の歯止めが必要とする。
WTOにおける貿易ルール形成が硬直化して進展しない状況下で、ルールに基づく国際通商秩序をいかに持続可能なものにできるか。MC14が改めて示したように、WTOはもはや国際通商体制の中心にあるとは言い難い。一方、通商秩序の混乱期にあっても自由貿易が踏みとどまっている土台には通商ルールがあり、WTOはインフラとして機能している。FTAのルールもWTOルールとの整合性を確保したものである。今後の通商秩序では、こうした法的権利義務を伴う成文法(ハードロー)だけでなく、本章第3節(2)で扱う緩やかな国家間合意(ソフトロー)も含めたルールの総体を柔軟にとらえ、その枠の中で対処するプラグマティズムが求められる。
注記
- 注1
-
WTO “GATT Disputes database
” - 注2
-
岩沢雄司「WTOの紛争処理」三省堂(1995年)206-215pp.
- 注3
-
WTOウェブサイト ”Dispute settlement activity — some figures
”より、complete list of the dates of key stages in all disputes, by disputeを参照した。 - 注4
-
経済産業省「2026年版不公正貿易報告書
」、512-513pp. - 注5
-
経済産業省「2026年版不公正貿易報告書
」、732-733pp. - 注6
-
Alan Wm. Wolff “Prying open Pandora's box by scrapping MFN
”, Peterson Institute for International Economics.(2026年2月17日) - 注7
-
加盟約束の完全な履行が達成されているかは別問題としてある。例えば中国の政府調達協定への加入。
- 注8
-
経済産業省「2026年版不公正貿易報告書
」、143-146pp. - 注9
-
福永有夏「世界貿易機関(WTO)の現状と展望-ルールに基づく多角的貿易体制は終焉したか-」東信堂(2025年)、48-54pp.
- 注10
-
James Bacchus “The Black Hole of National Security: Striking the Right Balance for the National Security Exception in International Trade
“, Policy Analysis no. 936, Cato Institute (2022年11月9日)
目次
-
第Ⅰ章
世界と日本の貿易 -
第Ⅱ章
世界と日本の直接投資と産業動向 -
第Ⅲ章
世界の通商秩序を巡る動向 -
- 第1節 世界の通商政策の最新動向
- 第2節 多国間貿易体制の現状と課題
- WTOと自由貿易体制
- 貿易救済措置の発動状況
- 第3節 ルールと価値に基づく国際経済秩序の広がり
(2026年7月28日)



