中南米に商機を!拡大するグローバルサウス消費市場スマホとデジタル金融で変わる街の風景(ペルー)

2026年9月30日

2026年7月28日、ケイコ・フジモリ氏が大統領に就任した。約20万人の日系人社会を有し、新大統領も日系人であるペルーは、南米有数の親日国として知られる。こうした同国の消費市場は近年、中間層の増加に加え、スマホの普及と政府による金融包摂政策を背景に大きな変化が生じている。スマホを活用したデジタル決済の浸透は、企業の販売手法や消費者行動を変えるだけでなく、金融サービスへのアクセスが限られていた層を新たな消費者として市場に取り込む動きにもつながっている。

便利な生活を求める消費者

国家統計情報庁(INEI)が実施した2025年国勢調査によると、ペルーの人口は3,415万7,732人だった。このうち44歳以下が全体の68%を占めており、若い人が多い国といえる。一方、0~14歳の層が全体に占める割合は22.7%で、2017年の26.5%から減少しており、少子化の傾向もみられる。

IMFによると、2025年の1人当たりのGDP(名目)は9,911ドルだった。所得水準の上昇に伴い、食費などの生活必需品中心の消費から、家電製品などによる利便性の高い生活を求めるようになり、医療・美容、教育、娯楽などに関心が高まる世帯が増える段階に入った。

一方、INEIの2025年経済的貧困調査によると、全人口に占める貧困層 (2025年)の割合は25.7%だった。政府による安定的な財政運営や資源ブームを背景に、2005年に48.7%だった貧困率は2019年に20.2%まで減少した。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年には30.1%まで増加した。2025年調査では、貧困層の1人当たりの生活費は月に462ソル(約2万1,714円、1ソル=約47円、2026年8月時点)以下と定義している。ケイコ・フジモリ大統領は、貧困層の割合がコロナ禍前のレベルに達していないことから、貿易と投資の促進による経済成長により貧困層を削減することを目標に掲げている。貧困層の削減は、新たな消費者の誕生につながる。

庶民の街で景色が変化

ペルーの実質GDP成長率は1996年から2025年までの30年間で、マイナス成長は3回あり、残りの年はプラス成長している。3回のうち2回はエルニーニョ現象(1998年、2023年)に、1回は新型コロナウイルス感染症(2020年)に起因するものだった。故アルベルト・フジモリ元大統領の時代に、政府の堅実な財政運営と中央銀行の独立性確保の基盤が整えられた。その後、リーマン・ショックなども乗り越えて経済成長を続けた結果、徐々に中間層が増加し、庶民の街にも変化がみられる。

リマ市内にあるサン・フアン・デ・ルリガンチョ区(SJL)は、人口が112万4,925人(2025年国勢調査)で、全国1,892区の中で最多となっている。かつてのSJLは貧困層が多く、消費市場として注目されてこなかったが、中間層の増大により小売業の動きが活発になっている。2023年11月には区内初のショッピング・センターがオープンし、同区で初となるスターバックスも出店した。

日系人が営む国内大手の家電量販店インポルタシオネス・ヒラオカは2025年11月、SJLに初めて店舗を開店した。同社は手堅い経営で知られているが、取締役のテル・ヒラオカ氏は2026年7月21日、ジェトロのインタビューに対し、SJLの人口が多いだけでなく、家電製品を購入できる消費者が増えていることが出店の理由と話した。


ヒラオカ新店舗の外観(ジェトロ撮影)

同社は中間層のニーズに合わせた関連サービスにも取り組んでいる。2024年に消費者向け金融サービス「オカ(Oka)」を開始した。「オカ」はヒラオカの「オカ」とスペイン語の「オッケー」を掛け合わせた名前だ。ヒラオカの実店舗と同社のインターネット販売での買い物を対象とし、分割払いで家電製品を購入できるようにした。ヒラオカ氏は、同社で購入する消費者の利便性向上が狙いであり、現在のところ金融サービスの対象を拡張する予定はないという。

プライベート・ブランド(PB)「ミライ(Miray)」の電気製品販売も行っている。ミライは日本語の「未来」とプレインカ時代(=インカ帝国より前の時代)から使われているケチュア語で「増やす」を意味する言葉を掛け合わせて名付けられたブランド名だ。電子レンジ、テレビのほか、家族の送迎などの短距離移動に使える電動バイクや、商店・飲食店向けの業務用冷蔵ショーケースも展開している。


プライベート・ブランドの電動バイク(ジェトロ撮影)

スマホとデジタル金融で変わる企業と消費者の行動

スマホとインターネット回線の普及、それに着目した政府の金融政策が企業と消費者の行動に変化をもたらしている。2025年国勢調査によると、スマホを所有する世帯の割合は95.4%で、インターネットにアクセスできる世帯の割合は67.8%だった。政府は現金の代わりに、スマホの電話番号や二次元コードを用いることで、国内で送金や決済ができる仕組みを導入した。

ペルー中央銀行によると、2025年の1人当たりの年間デジタル決済利用回数は665回だった。1日に1.8回利用されていることになる。2024年は456回で、前年比45.8%増加していた。

政府の狙いは企業と個人にデジタル決済の普及を図り、国民に金融サービスの利用を促す金融包摂にある。また、現金利用からデジタル決済に移行することで、金銭の動きが把握しやすくなり、所得や取引実態の透明性が高まるため、将来的にはインフォーマルな労働者や個人事業主の合法化を促し、税収の安定確保につなげることも期待できる。国際労働機関(ILO)は、2025年のペルー国内の労働者のうち69.8%がインフォーマルな形態だったと指摘している。

デジタル決済の普及のネックは、電話会社や決済システムの発行元が異なる場合に互換性がないことだった。その打開策として、中央銀行は政府と協調して2022年10月、デジタル決済互換性向上規則(注)を発表した。中央銀行は、一般利用者向け手数料の価格設定について、過度な徴収とならない範囲で事業者の裁量に委ねているが、実際には利用者獲得を目的として、多くの事業者が送金手数料を無料としている。システム改修・構築には費用がかかる一方、手数料収入は見込みにくく、金融機関の負担増につながる。このため、制度導入当初は金融団体が難色を示していた。しかし、中長期的には新規顧客の開拓やインフォーマル経済の是正に資すると判断し、協力することとなった。一部の金融機関は、口座を持たない個人や中小零細企業の経営者でも、スマホを持っていれば決済アプリを通じて融資を申し込めるサービスを開始し、新しい顧客獲得につなげている。

デジタル決済は中小零細企業にもメリットがある。銀行の支店がない地域では、貯蓄信用組合(COOPAC)を利用するなど金融サービスの選択肢が限られていたが、デジタル決済により選択肢が広がった。

小売りの現場では、デジタル決済の導入によって現金決済に比べて会計時間を短縮できる。ペルーでは一部損傷した紙幣や偽造貨幣が多く流通している。商店やスーパーマーケットのレジで現金払いを行う場合、金額の確認に加え、偽造貨幣の有無の確認も行う必要があるため、日本と比べて会計に時間がかかる。さらに、決済用二次元コードを表示できる安価なPOS端末と連携させることで、決済作業の負担軽減に加え、商品の売り上げ・在庫管理も同時に行えるようになった。

デジタル決済は新たな販売形態の実現にも寄与している。首都リマ市内の駐車場では、空きスペースを利用して香水を販売するショーケースが設置されている。利用者は二次元コードをスマホで読み取って決済するため、レジの設置は不要で、限られたスペースでも販売が可能になった。


香水販売のショーケースに二次元コードが掲示されている(ジェトロ撮影)

リマ市内にあるガマラ地区は国内最大の繊維街として知られている。繊維業関連企業で構成するペルー・ガマラ企業協会のスサナ・サルダニャ会長は2026年7月22日、ジェトロのインタビューに応じ、「デジタル決済が導入され、会員企業の企業間取引と一般消費者向け販売に大きな変化が生まれた」と話した。同氏は「ガマラには繊維製品の製造、卸、小売りを行う企業が集積していて、多くの企業がデジタル決済を導入している。一方、クレジットカードを利用できる企業は少ない。クレジットカードはカード会社に対する手数料がかかるため、敬遠する企業が多い。政府が普及を進めるデジタル決済制度は海外企業・居住者との間で利用することはできないが、多くの会員企業は国内取引が中心で、地方都市の顧客も多いため重宝している」と地元中小企業にとってのメリットを強調した。


家族連れでにぎわうガマラの繊維街(ジェトロ撮影)

注:
デジタルウォレットや即時送金サービス、QRコード決済サービスなどについて相互運用を義務付け、異なる決済サービス間での送金・決済を可能とするとともに、競争の促進、公平なアクセス、安全性および利用者の利便性を確保するためのルールを定めている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・リマ事務所長
石田 達也(いしだ たつや)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ沖縄など国内事務所のほか、1999年から2003年、2007年から2013年までペルーのジェトロ・リマ事務所に通算10年間勤務。企画部、農林水産・食品部などを経て、2024年6月から現職。