韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦韓流ブームが韓国企業の日本進出を促進
韓国企業の日本進出(3)

2025年11月18日

第2回「新興のIT・ゲーム企業が日本に進出」に引き続き、韓国の対日直接投資が拡大した2011年から2023年における韓国企業の日本進出状況についてみてみよう。第3回「韓流ブームが韓国企業の日本進出を促進」は、韓流関連(食品・飲食、化粧品、アパレル、エンターテインメント、美容など)、IT・ゲームなどに焦点を当てる。

日本における4回の韓流ブーム

韓流関連については、日本の韓流ブームが韓国企業の日本進出を促進した。日本の韓流ブームは、見方によって詳細は異なるが、おおむね次の4回に分類されるようだ。第1次韓流ブームは2003年から2008年ごろで、中高年女性を中心に人気を博したドラマ「冬のソナタ」がブームのきっかけとなった。第2次韓流ブームは2010年から2012年ごろで、少女時代やKARAなどの韓国音楽(K-POP)がブームを牽引した。第3次韓流ブームは2017年から2019年ごろで、TWICE、BTSなどの新たなK-POPや多様なドラマ、「82年生まれ、キム・ジヨン」などの韓国文学がブームになった。さらに、第4次韓流ブームは2020年ごろから現在に至るもので、新型コロナウイルスの感染拡大期の「愛の不時着」「梨泰院クラス」などのドラマや、映画「パラサイト 半地下の家族」がヒットし、Kカルチャー(韓国のファッション・食品など)が人気を博している。今や、韓流は、一過性のブームにとどまらず、日常生活にすっかり定着している。

ちなみに、日本における韓流ブームを象徴する指標の1つが、韓国コンテンツの対日輸出の増加だ。韓国の日本向けコンテンツ輸出額は増加基調が続いている。2010年に8億400万ドルだった対日輸出額は2023年には22億9,500万ドル(年平均増加率は8.4%)に達し、安定的な成長が続いてきたことが裏付けられる(図参照)。

図:韓国の対日コンテンツ輸出の推移
2010年8億400万ドル、2011年12億4,800万ドル、2012年13億4,800万ドル、2013年14億5,600万ドル、2014年15億8,700万ドル、2015年13億9,800万ドル、2016年13億7,600万ドル、2017年16億5,600万ドル、2018年18億4,300万ドル、2019年16億5,900万ドル、2020年12億1,100万ドル、2021年18億1,800万ドル、2022年22億7,500万ドル、2023年22億9,500万ドル。

注:コンテンツは、出版、漫画、音楽、映画、ゲーム、アニメーション、放送、キャラクター、知識情報、コンテンツ・ソリューションの合計。このうち、知識情報は、eラーニング業、その他データベース・オンライン情報提供業、ポータル・その他インターネット情報媒体サービス業、仮想世界・仮想現実(バーチャルリアリティ)業をいう。
出所:韓国コンテンツ振興院

2010年代以降、食品・飲食分野の進出が相次ぐ

韓流ブームを受けて、韓国の食品、飲食企業の日本進出がみられるようになった。

食品では、日本市場での販売強化を目的に日本企業を買収する事例がみられた。例えば、プルムウォンは2014年6月、豆腐メーカーの朝日食品工業を買収した。ちなみに、同社は日本の豆腐販売企業にも出資している。また、CJ第一製糖は2019年5月、餃子計画を買収、秋田県・群馬県・大阪府・福岡県の4工場で業務用ギョーザを製造し、日本国内で販売する体制を構築した。なお、CJ第一製糖は2011年6月にエバラ食品工業と合弁で韓国食品の輸入・販売を行う合弁会社を設立している(合弁会社はその後、CJ第一製糖の日本法人に吸収されている)。

飲食では、コーヒーチェーンのマンゴーシックスが2016年10月、沖縄県に日本1号店を開設、チキンチェーンのクムネチキンが2017年2月に東京都に日本1号店を開設した。さらに、かき氷チェーンのソルビン(雪氷)は、2016年に日本市場に進出した後、いったん撤退したが、2021年11月に日本企業とフランチャイズ契約を締結し、日本に再進出している。

2010年代にLG生活健康が日本企業を相次ぎ買収

化粧品では、LG生活健康が日本企業の買収に積極的で、2010年代に日本企業を立て続けに買収した。同社は2012年1月に銀座ステファニー化粧品の買収契約を締結した。買収の狙いについて、LG生活健康はプレスリリース(2012年1月26日)で「今後、銀座ステファニー化粧品を日本事業の軸とし、同社でのノウハウなど基礎インフラをベースに、当社が韓国で蓄積した化粧品・生活用品インフラの事業力を積極的に展開し、日本国内でのLG生活健康の安定的な事業拡大のための橋頭堡(ほ)とする」と述べている。LG生活健康はさらに、同年12月、化粧品・健康食品メーカーのエバーライフの買収契約を締結した。同社ではプレスリリース(同年12月17日)で「日本の化粧品市場は韓国の6倍に達し、米国に次いで世界2位で、市場の透明性が高く、リスクが相対的に小さい」「日本は自国ブランドが強いため、韓国企業が成功するには困難だった」と述べ、日本企業買収による日本市場獲得を狙ったものであることを明らかにした。同社はその後、 R&Y(2014年2月)、エイボン・プロダクツ(2018年4月)、エバメールホールディングス(2019年1月)を買収したが、これらはすべて、銀座ステファニー化粧品経由で行われた。LG生活健康以外では、イッツスキンが2017年2月に東京に日本1号店を開設した。ついで、LG生活健康と並ぶ化粧品大手のアモーレパシフィックは2018年3月、東京・表参道にコスメブランド「イニスフリー」の1号店を開設した。さらに、日本国内に生産拠点を設ける動きとして、化粧品ODM(開発・生産受託)のコスマックスが2022年6月、茨城県に工場を建設することを発表した。

化粧品以外の美容関連分野では、美容機器のセルリターンは2021年8月、東京に日本法人を設立した。アイウェアなどのジェントルモンスターは2023年4月、大阪に日本1号店を開設した。

ファッション分野では、イーランドグループが2012年9月に日本法人を開設した。それに続き、2013年3月に20~40代の女性向けSPAブランド「ミッソ」の日本1号店を横浜で開店、同年7月に幅広い年代層をターゲットにしたカジュアルファッションブランド「スパオ」店を仙台と横浜で開店した。また、カジュアルウェア販売のハンセMKは2020年1月、子供服「モイモルン」ブランド販売の日本法人を東京に設立した。さらに、韓国の大手ファッションプラットフォームのムシンサは2021年1月、韓国のファッションブランドの日本進出を支援すべく、東京に日本法人を設立した。これらに関連し、「韓国経済新聞」(2022年7月5日、電子版)は、「韓国のファッション企業は最近、日本に続々と進出している」「韓国のファッションスタイルに対する好感度が高く、オンライン・オフラインを問わず、日本に進出するブランドが増えている」と紹介した。

エンターテインメント企業も日本進出

韓流関連では、エンターテインメント企業も日本に相次いで進出した。大手芸能事務所のSMエンターテインメントは、2020年12月に日本法人の子会社経由でKeyHolderに出資した。さらに、SMエンターテインメントのIT関連子会社のディアユーは2023年2月、エムアップホールディングスとの株式持ち合いと日本での合弁会社(音楽ファン向けのプラットフォームサービス)設立を発表した。また、ハイブは2021年5月、SHOWROOMに出資している。

バイオ・医薬品企業の日本進出も

製薬分野では、CG緑十字セルが2018年3月に細胞治療剤企業のリンフォテックを買収する契約を締結したと発表した。日本と韓国などで細胞治療剤事業を拡大する狙いだ。また、バイオ医薬品などを手掛けるヒュオンスグローバルは2022年6月、日本市場の販売拠点として大阪に日本法人を設立した。

ネイバー、カカオとも2010年代に日本事業を強化

韓流関連分野に続いて、IT・ゲーム分野をみてみよう。

IT・ゲーム分野は2000年代の流れがさらに強まり、多くの韓国企業が日本事業を強化した。その代表格がネイバーだ。同社は2000年に日本法人を設立したが、日本事業の飛躍の大きな契機になったのが2011年6月に発表したモバイルアプリLINEのヒットだ。その後、2013年4月に日本法人名をLINEに社名変更するとともに、ゲーム事業を分社化した。LINEは2016年7月、ニューヨークと東京の証券取引所に上場、2021年3月にはLINEとZホールディングスが経営統合した。この間、ネイバーは、日本事業拡大のために日本法人に追加出資するとともに、LINE傘下にLINE Financial(2018年1月)、LINE証券(同年6月)を設立した。さらに、日本法人を経由し、オンライン医療事業の合弁会社をエムスリーとともに設立(2019年1月)、宅配ポータルサイトの出前館へ出資(2020年3月決議)するなど、日本事業を拡大してきた。

ネイバーと並ぶ、韓国IT大手のカカオも日本事業に積極的だ。2011年7月に設立した日本法人のカカオジャパンは、2016年4月に電子マンガアプリ「ピッコマ」サービスを開始し、売上高を急速に伸ばした。また、2018年以降に限っても、カカオGを設立(ブロックチェーン関連の持ち株会社、2018年3月)、ジャパンタクシーに出資(2018年9月、カカオモビリティー経由)、KADOKAWAに出資(2020年6月)、サクラエクスチェンジビットコイン買収(2022年4月発表)など、相次いで日本法人の設立、日本企業への出資、日本企業の買収を行っている。

ゲームでは、パールアビスが韓国で人気のモバイルゲームを日本市場に投入すべく、2018年7月に日本に法人を設立した。また、メガゾンクラウド(クラウドサービス事業)は2020年6月、オンラインゲームのガーラに出資している。

ウェブトゥーンでは、韓国が強みを有する縦読みウェブトゥーン企業が日本市場の獲得を目的に資本に進出する事例がみられた。例えば、大元メディア(アニメーション制作)は2021年2月、同社の子会社でウェブトゥーン事業を手掛けるストーリージャックがカカオの日本法人との合弁で、日本にウェブトゥーン供給の新会社を設立すると発表した。また、ジェダムメディア(縦読みウェブトゥーン製作)とソミーメディア(出版事業)の韓国企業2社は2023年4月、カルチュア・エンタテインメント(エンターテインメント分野・ライフスタイル分野のIP企画・制作)との合弁で、縦読みウェブトゥーン製作・流通事業の新会社を東京で設立した。

その他のIT分野では、クラウドサービスのベスピングローバルが2021年8月、グーグルクラウド事業参入のため、サーバーワークスとの合弁会社を東京で設立した。オンライン決済サービスのKGイニシスは2021年9月、日本のEC(電子商取引)市場への進出を目指す韓国企業の支援のため、サムスン物産と合弁で日本法人を設立すると発表した。AI(人工知能)教育スタートアップのリドは2021年10月、日本市場開拓を本格化すべく、モバイルアプリ配信会社Langoo外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを買収した。電子商取引プラットフォームを運営するカフェ24は、2012年9月に東京に日本法人を設立した。ファッションマーケットプレイスのクリームは2023年10月、ファッション・コレクティブ マーケットプレイス「SNKRDUNK」運営のSODAを連結子会社化した。

SKグループが日本に投資会社を設立

韓国輸出入銀行データベースによると、韓国の金融・保険業分野の対日直接投資額(実行ベース)は2016年まで低調に推移した後、2017年に1億2,176万ドル(対日直接投資全体の13.8%)と1億ドルを突破した。その後、急増し、2019年に7億4,904万ドル(同57.8%)、2021年に6億3,615万ドル(同53.7%)を記録し、対日直接投資の主役となった。その後は減少に転じている。金融・保険業の中心は投資会社だ。こうした比較的近年の事例として、資産規模で韓国2位の企業グループであるSKグループが挙げられる。同グループでは、SK(持ち株会社)、SKマテリアルズ(半導体などの素材)、SKC(二次電池・半導体・環境関連分野の素材)、SKシルトロン(シリコン結晶・ウェハー)のSKグループ4社は25%ずつ出資し、2021年5月、投資会社のSKジャパンインベストメントを東京に設立した。新会社は当初、環境に優しい企業への投資を目指し、同年7月には早速、TBM(環境配慮型の素材開発、製品製造など)に出資したが、その後の投資実績が振るわなかったため、投資対象企業を半導体・二次電池の素材・部品・製造装置関連企業に拡大している。

宅配企業の日本進出もみられたが、苦戦も

物流では、汎韓パントスが2014年4月、西濃運輸との合弁で国際宅配業務を行う新会社を東京に設立した。

ついで、クーパンは2021年5月に東京に日本法人を設立し、食品や生活必需品のクイックコマースサービスを展開したものの、事業が順調にいかず、2年間で撤退した。ちなみに、同社はその後、2025年1月にフードデリバリーに限って、地域限定でサービスを開始している。

そのフードデリバリー分野では、デリバリー・アプリケーション「配達の民族」を運営するウーワ・ブラザーズがLINEとの合弁で2014年5月、東京に新会社を設立し、デリバリーサービスを開始した。しかし、デリバリー・アプリケーションに対するユーザーの受容度の低さ、飲食店の参加率の低さ、ライダーの求職難などで1年以内にサービスを中断した。その後、2020年にサービスを再開したが、再び1年以内でサービスを終了している。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。