韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦活発化する韓国の対日直接投資
韓国企業の日本進出(1)

2025年11月18日

近年、韓国企業の日本進出が活発化している。過去を振り返ると、1990年代までは韓国の大企業の日本進出事例が散見される程度だった。しかし、2000年代に入ると、IT・ゲーム企業などの日本進出が増加し始めた。さらに、2010年代以降は、日本での韓流ブームの定着を受けて、ファッションや飲食など、韓流関連のさまざまな分野の韓国企業が日本に進出するようになった。

こうした動きは、日韓間の直接投資の流れに変化をもたらしている。韓国銀行の「地域別国際投資対照表」に基づいて、「日本から韓国への直接投資額」(国際収支ベース、ネット・フロー)に対する「韓国から日本への直接投資額」(同)の比率を算出すると、統計上最も古い年の2002年は0.021だった。つまり、当時の日韓間の直接投資は、日本から韓国へのほぼ「一方通行」だったわけだ。しかし、その比率は2010年0.098、2020年0.183、2024年0.255と着実に上昇している。2024年は韓国から日本への直接投資額が日本から韓国への直接投資額の4分の1を超えている。このように、日韓間の直接投資の流れは、従来の日本から韓国への「一方通行」から日韓「双方向」に変わりつつある。

本稿では、韓国企業の日本進出をテーマに、まず、韓国の対日直接投資統計を概観する。次いで、韓国の対日直接投資が本格化した2000年代以降について、「対日直接投資が立ち上がった2000年から2010年」「対日直接投資が本格的に拡大した2011年から2023年」「直近の2024年1月以降」の3つの局面に分け、具体的な日本進出事例を点検する。

以上の内容について、4回にわたって整理する。各回の概要は次のとおり。

第1回「活発化する韓国の対日直接投資」は、韓国の対外直接投資統計に基づき、韓国の対日直接投資の推移と現状について分析する。

第2回 「新興のIT・ゲーム企業が日本に進出」は、韓国企業の日本進出事例について、「対日直接投資が立ち上がった2000年から2010年」と、「対日直接投資が本格的に拡大した2011年から2023年」のうち、エレクトロニクス企業や不動産企業の動きをまとめる。

第3回 「韓流ブームが韓国企業の日本進出を促進」は、「対日直接投資が本格的に拡大した2011年から2023年」のうち、第2回で言及しなかった韓流関連やIT関連企業などの動きをまとめる。

第4回 「日本での新設法人数が過去最多を記録」は、「直近の2024年1月以降」の韓国企業の日本進出事例を概観する。

なお、第2回 「新興のIT・ゲーム企業が日本に進出」以降で紹介する日本進出事例に関する留意点は次のとおり。

  • 企業名は、原則として日本進出時の企業名を使用する。
  • 情報源は主に韓国企業のプレスリリースや韓国メディア報道とする。
  • 日本進出事例には、既存の日本法人の出資、第三国経由の出資、フランチャイズ展開、期間限定店の開設など、対日直接投資以外の事例も幅広く含める。また、文中では、日本法人・第三国法人経由の出資であっても、「日本法人経由」「第三国法人経由」であることを明示しない場合もある。
  • 韓国企業の日本からの撤退については、原則として言及しない。

日本での新規法人設立数は2023年以降、2年連続で過去最多を更新

韓国輸出入銀行データベースによると、韓国の対日直接投資(実行ベース。前述の国際収支ベースとは異なる。以下同様)は、1990年代までは比較的低い水準で推移していたが、2000年代に入り立ち上がった(図参照)。対日直接投資額は増加基調が続き、2020年に16億7,638万ドルを記録した。その後は減少に転じ、2023年以降は10億ドル未満の水準にとどまっている。しかし、これをもって、対日直接投資が低調になったとみるのは早計だ。というのは、2010年代後半の増加は主に、従来あまりなかった不動産に対する投資の一時的な増加に起因するものだったからだ。不動産投資は、2020年の対日直接投資額全体の56.6%を占めたが、その後、激減し、対日直接投資額を押し下げた。不動産以外の対日直接投資額をみると、2024年は2020年の7割程度の水準、2025年1~6月はすでに2024年(通年)に近い水準になっていることから、対日直接投資が減少傾向にあるとはいえない。また、新規法人数に注目すると、新型コロナウイルス流行などで一時的に減少した後、急速に回復し、2023年、2024年は2年連続で過去最多を更新している。ちなみに、直近の2025年1~6月の新規法人数は2024年1~6月(161社)に比べ35.4%増の218社で、2025年も過去最多を更新しそうな勢いだ。

図:韓国の対日直接投資の推移(実行ベース)
投資額は、2003年までは概ね100万ドル以下の低水準で推移した。その後、2004年に5億1,581万ドルに急増した。その後も5億ドル前後で推移した後、2017年以降に急増し、2020年に16億7638万ドルを記録した。、2007年に5,525万ドルに急増した。その後は減少傾向で、2021年11億8,467万ドル、2022年11億5,101万ドル、2023年7億385万ドル、2024年6億3,713万ドルとなった。新規法人件数は1990年代までは低水準で推移した後、2000年代に入り増加し、2000年147社、2005年150社、2010年195社、2015年195社を記録した。2020年には117社と、いったん減少したものの、その後再び増加し、2023年269社、2024年314社となっている。

注1:1980年は同年までの累計。
注2:本統計は、新しい統計値の発表時に、過去に発表した統計値も遡(さかのぼ)って更新される傾向にある点に留意が必要。
出所:韓国輸出入銀行データベースから作成

対日直接投資は非製造業が中心

2025年6月末時点の韓国の累計対日直接投資額は162億9,874万ドル、累計新規法人数は5,117社だった(表1参照)。業種別(大分類)でみると、製造業の割合が低めなのが大きな特徴だ。累計対日直接投資全体に占める製造業の割合は投資額ベースで14.7%、法人数ベースで21.0%にとどまっている(ちなみに、対外直接投資全体でみると、製造業の割合は投資額ベースで29.7%、法人数ベースで41.2%)。製造業の割合が低いのは、韓国企業の日本進出事例の多くが、日本市場での販売を目的としているためだ。韓国の製造業企業が日本に進出する事例でも、多くの場合、日本で販売拠点や研究開発拠点を構築するかたちにとどまっており、日本で生産拠点を構築するケースは少ない。また、生産拠点の投資をする場合でも、主体は日本企業のM&A(合併・買収)であり、日本で新規に工場を建設するケースはまれだ。

製造業以外に目を向けると、対日直接投資が比較的集中しているのが、卸売り・小売り、情報通信業、金融・保険業、不動産業だ。卸売り・小売りは、前述のとおり、韓国企業の対日直接投資が日本市場における販売拠点構築を目的とした事例が多かったことを反映している。情報通信業は、IT・ゲーム関連の韓国企業の日本進出が活発なことを反映したもので、特に、新規法人数は2023年45社、2024年60社と2年連続で過去最多を更新するなど、足元で日本進出が活発だ。金融・保険業は、日本での投資会社設立の動きを反映したもので、法人数は少ないものの、まとまった金額になっている。不動産は、前述のとおり、2010年代後半に投資が活発だったことを反映したものだ。

表1:韓国の業種別累計対日直接投資累計(実行ベース、2025年6月末)(単位:100万ドル、社、%)
業種名 累計対日直接投資額 日本における累計新規法人数
金額 構成比 法人数 構成比
農業・林業・漁業 0.6 0.0 7 0.1
鉱業 0.8 0.0 2 0.0
製造業 2,388.3 14.7 1,076 21.0
電気・ガス・蒸気・空気調節供給業 355.1 2.2 38 0.7
水道・下水・廃棄物処理・原料再生業 0.8 0.0 8 0.2
建設業 26.2 0.2 36 0.7
卸売り・小売り 2,567.2 15.8 1,482 29.0
運輸・倉庫業 140.4 0.9 144 2.8
宿泊・飲食店業 346.1 2.1 295 5.8
情報通信業 2,308.5 14.2 680 13.3
金融・保険業 3,411.6 20.9 128 2.5
不動産業 3,123.2 19.2 225 4.4
専門・科学・技術サービス業 407.9 2.5 256 5.0
事業施設管理・事業支援・賃貸サービス業 395.6 2.4 453 8.9
公共行政・国防・社会保障行政 4.0 0.0 4 0.1
教育サービス業 40.0 0.2 33 0.6
保健業・社会福祉サービス業 110.4 0.7 12 0.2
芸術・スポーツ・余暇関連サービス業 655.9 4.0 163 3.2
協会・団体・修理・その他個人サービス業 15.0 0.1 59 1.2
世帯内雇用活動・他に分類できない自家消費生産活動 0.1 0.0 3 0.1
不明 1.2 0.0 13 0.3
合計 16,298.7 100.0 5,117 100.0

注1:本表は、過去から2025年6月末までに投資した金額の累計、新規設立した法人数の累計を示したもので、撤退などを考慮していない。よって、2025年6月末の投資残高・法人数を示すものではない。
注2:本統計は、新しい統計値の発表時に、過去に発表した統計値も遡って更新される傾向にある点に留意が必要。
出所:韓国輸出入銀行データベースから作成

なお、前述に関連して、対日直接投資の目的(単一回答)について2025年6月末までの累計対日直接投資額ベースでみると、「現地市場進出」が全体の70.6%と圧倒的に多い。この傾向は時系列でみても変化はない。つまり、韓国企業の対日直接投資は一貫して日本市場の獲得を最大の目的としている。ちなみに、その他の目的は「先進技術導入」7.8%、「輸出促進」7.2%などだった。

日本での累計新規法人数は中国、米国、ベトナムに次ぎ4位

2025年6月末までの韓国の累計対外直接投資を国・地域別でみると、投資額ベースは米国、中国、ケイマン諸島、ベトナムなどの順で、日本は13位に過ぎない。しかし、法人数ベースでは、日本は中国、米国、ベトナムに次ぐ4位となっている(表2参照)。ここから、韓国企業にとって日本は、投資額こそ決して多くないものの、主要な進出先の1つになっているといえる。

表2:韓国の国・地域別累計対外直接投資(実行ベース、2025年6月末)

(単位:100万ドル、社、%)
累計直接投資額
順位 国・地域名 金額 構成比
1 米国 256,355 28.3
2 中国 97,352 10.7
3 ケイマン諸島 80,939 8.9
4 ベトナム 40,465 4.5
5 ルクセンブルク 37,691 4.2
6 香港 34,397 3.8
7 カナダ 30,479 3.4
8 シンガポール 29,830 3.3
9 英国 24,211 2.7
10 インドネシア 20,981 2.3
11 オーストラリア 20,802 2.3
12 オランダ 16,907 1.9
13 日本 16,299 1.8
14 ブラジル 10,827 1.2
15 インド 10,011 1.1
16 メキシコ 9,932 1.1
17 ガーンジー島 9,653 1.1
18 アイルランド 9,500 1.0
19 ドイツ 9,024 1.0
20 ジャージー島 8,915 1.0
合計 905,792 100.0
累計新規法人数
順位 国・地域名 法人数 構成比
1 中国 29,230 30.3
2 米国 19,062 19.7
3 ベトナム 9,149 9.5
4 日本 5,117 5.3
5 香港 2,813 2.9
6 インドネシア 2,810 2.9
7 シンガポール 2,098 2.2
8 フィリピン 1,970 2.0
9 インド 1,687 1.7
10 タイ 1,484 1.5
11 マレーシア 1,111 1.2
12 カンボジア 1,037 1.1
13 カナダ 978 1.0
14 ドイツ 978 1.0
15 ケイマン諸島 947 1.0
16 オーストラリア 930 1.0
17 台湾 818 0.8
18 モンゴル 800 0.8
19 英国 705 0.7
20 ロシア 678 0.7
合計 96,520 100.0

注1:合計は、その他を含む。
注2:本表は、過去から2025年6月末までに投資した金額の累計、新規設立した法人数の累計を示したもので、撤退などを考慮していない。よって、2025年6月末の投資残高・現地法人数を示すものではない。
注3:本統計は、新しい統計値の発表時に、過去に発表した統計値も遡って更新される傾向にある点に留意が必要。
出所:韓国輸出入銀行データベースから作成

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。