韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦新興のIT・ゲーム企業が日本市場に進出
韓国企業の日本進出(2)
2025年11月18日
第2回「新興のIT・ゲーム企業が日本市場に進出」では、まず、韓国企業の日本進出が立ち上がった2000年代の動向を概観する。次いで、韓国企業の日本進出が本格化した局面の2011年から2023年までについて、エレクトロニクス、IT・ゲームに加え、特に対日直接投資が増加した不動産、太陽光発電の動向をみることとする(その他の主要業種は第3回「韓流ブームが韓国企業の日本進出を促進」で言及する)。
2000年代に入って立ち上がった韓国企業の日本進出
韓国企業の日本進出を時系列でみると、1980年代まではサムスン、LG、ポスコなど主要企業グループが相次いで日本に販売拠点を構築した。1990年代には、サムスンや現代自動車が日本にR&D(研究開発)拠点を設ける動きがみられた。また、ポスコが鉄鋼の加工センターを買収するなど、日本企業を買収する事例もあった。ただし、1990年代までは韓国企業の日本進出は限定的だった。
韓国企業の日本進出が本格的に立ち上がったのは2000年代に入ってからだ。2000年代の韓国企業の日本進出は、製造業では技術獲得や事業拡大などを狙ったM&Aがみられた。非製造業では、自社で開発したシステムなどを日本市場に投入することを狙ったIT・ゲーム企業や、増加する訪日韓国人旅行者需要の獲得を狙った観光関連企業の日本進出が特徴的だった。2000年から2010年までの動きを整理すると、次のとおり。
製造業では、日本企業に出資した事例や、日本企業を買収した事例が散見された。例えば、M&FC(1999年に映画会社として設立)は2007年8月、日本精密(時計バンド、メガネフレームなどを生産)の株式49.81%を取得した。この案件は、韓国企業が敵対的M&Aで日本企業を買収した初の事例とされる。M&FCは、買収を契機に「日本精密のベトナム工場を活用した新規事業を行う」としている。ついで、2008年1月、サムスン物産がステンレス圧延・加工の明道メタルを買収した。日本企業買収の動きについて「毎日経済新聞」(2010年4月11日、電子版)は、「『源泉技術の宝庫』日本企業買収の熱風」と題する記事の中で本件に言及した上で、「最近の日本経済の停滞により、企業価値が下落したもののコア技術を保有している日本企業を買収する絶好の機会を迎えている」と報じた。さらに、イルジン素材産業は同年6月、医療機器ベンチャー企業の日本ステントテクノロジーに10.2%出資した。韓国メディアは、日本ステントテクノロジーのR&D能力や製造技術を評価しての出資、と報じた。さらに、2010年12月、ポスコは再生可能エネルギー事業の強化を狙い、ゼネシス(海洋温度差発電、熱交換器など)の株式51%を取得する契約を締結した。
日本企業と合弁会社を設立した事例もあった。例えば、LG電子は2000年11月、日立製作所との合弁で、パソコン用光学ドライブ製造の日立エルジーデータストレージを設立した(出資比率は日立製作所51%、LG電子49%)。LG電子の狙いについて韓国メディアは、「生産コスト削減」「販売網の確保」「日立製作所の技術力の活用」を挙げた。この分野では、サムスン電子も東芝との合弁会社(出資比率は東芝51%、サムスン電子49%)を神奈川県川崎市に設立し、2004年4月に事業を開始している。
2000年代の非製造業分野の日本進出はIT・ゲーム、観光などが中心
非製造業では特に、IT・ゲーム、ゴルフ場・観光、金融の分野で日本進出事例が多かった。まず、IT・ゲームについては次のとおり。韓国では1997~1998年のアジア通貨・経済危機以降、高速インターネット環境の普及や政府のベンチャー企業育成政策を受け、多数のIT系ベンチャー企業が生まれた。こうした企業を中心に、韓国市場で一定の成功を収めた企業が、韓国で開発したシステムなどを市場規模の大きい日本市場に投入するために、日本法人を設立する事例がみられるようになった。例えば、サムスンSDSの社内ベンチャーとしてスタートし、1999年に法人化したネイバーコム(現ネイバー)は、2000年にオンラインゲーム、企業向けインターネット関連サービスを行う法人を日本に相次いで設立した。さらに、2010年4月には日本法人を通じ、ライブドアを買収した。また、1994年設立のオンラインゲーム企業のネクソンは、2002年12月に日本法人を設立、2005年に本社を韓国から日本に移転した。日本への本社移転理由として、日本がゲーム産業の中心地であることや、海外投資家からの資金調達が容易なことなどが挙げられていた。他方、日本で合弁企業を設立した事例としては、サムスン電子とソフトバンクがそれぞれ系列企業を通じて出資し、2001年4月に設立したゲームオン(オンラインゲーム事業)などがあった。
また、九州を中心に日本のゴルフ場を買収する事例や、観光関連分野で日本に進出する事例がみられるようになった。これは、主に訪日韓国人観光客需要の獲得を狙った動きだった。1990年代に伸び悩んだ訪日韓国人数は、2000年代に入り急増した。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、訪日韓国人数は2000年の106万人から2007年には260万人に増加した。この中には、ゴルフを楽しむ目的で訪日した韓国人観光客も多かった。ゴルフ場買収の事例としては、韓国産業洋行(系列企業を含む。2004年・2006年、福岡県・長崎県・福井県・千葉県)、雲河リゾート(2004年、福島県)、マッケンリーインターナショナル(2005年、熊本県)、大京TLS(2007年、大分県)、英物流(2008年、北海道)、亀尾開発(2008年、宮崎県・鹿児島県)などがあった(年は買収した年、道県名は買収したゴルフ場の所在地をそれぞれ示す)。これに関連して「中央日報」 (日本語版、2006年11月23日、電子版)は、「(韓国資本が日本のゴルフ場を買収しているのは、)韓国国内にゴルフ場を建設する適切な場所がない上、不況で倒産した日本のゴルフ場が低価格で売り出されているからだ。日本人だけでなく韓国人観光客も誘致でき、日本の景気回復に伴う不動産価値の上昇も期待できる」と伝えている。
さらに、観光分野では、2000年創業の旅行博士が、2004年5月に訪日韓国人観光客向けの観光バス会社を福岡県に設立した。また、投資会社のKICCグループは2010年6月、青森県のナクア白神ホテル&リゾートを買収した。東北新幹線の新青森延伸を契機に、日本国内や韓国からの集客が見込めると判断したようだ。
金融では、新韓銀行が2009年9月、従来の支店を法人化し、SJB銀行を発足させた。外資系銀行としては、シティバンクに次ぐ2例目の国内銀行認可だった。
2010年代はエレクトロニクス分野で日本企業に対する大型出資案件も
ついで、2011年から23年における具体的な日本進出事例をみていこう。
初めに、エレクトロニクス・鉄鋼分野、不動産分野については次のとおり。
エレクトロニクスでは、SKハイニックスが東芝メモリ(現 キオクシア)に3,950億円を出資するという大型案件があった。SKハイニックスは2017年9月に取締役会で出資を決議し、一連の売却手続きは2018年6月に完了した。SKハイニックスの狙いは、世界市場シェアがサムスン電子に比べ劣位にあるNAND型フラッシュメモリー事業の競争力強化にあった。ちなみに、この案件はケイマン諸島所在の特別目的会社(SPC)を経由する間接投資だったため、「第1回 活発化する韓国の対日直接投資」の「図 韓国の対日直接投資の推移」には含まれていない。
半導体以外のエレクトロニクスでは、総合商社のSKネットワークスは2018年3月にカドー(空気清浄機・加湿器などの製造・販売)と美容家電を製造・販売する合弁会社を設立した。日本での合弁会社設立の意義について、SKネットワークスはプレスリリース(2018年3月15日)で「最新の世界のトレンドを反映したプレミアム美容家電製品を迅速に開発できる。先進市場の日本で市場性を検証できる。市場性を確認した美容家電製品を韓国・世界市場に迅速に供給できる」と述べた。
さらに、エレクトロニクス部品では、サムスン電機が2012年3月にアルファナテクノロジー(ハードディスク駆動装置用モーター製造)の買収を発表している。サムスン電機の高付加価値部品への投資集中戦略の一環との位置付けだ。
鉄鋼では、ポスコが2013年2月、鋼板を自動車用鋼管に加工する合弁会社を三重県に設立している。「毎日経済新聞」(2013年2月21日、電子版)は、本案件と同社の日本での顧客確保の動きを踏まえ、「ポスコが日本市場に注力している。収益性の高い日本の自動車用鉄鋼製品市場は日本企業間の取引が活発で、海外企業にとって日本市場攻略は容易ではなかった。ポスコは『難攻不落の城』を慎重に開拓している」と報じた。
また、自動車部品では、ネクセンタイヤが日本市場参入を目的に、2016年11月に豊田通商と自動車用タイヤ合弁会社を設立している。
2010年代後半に急増した不動産の買収
韓国輸出入銀行データベースによると、不動産分野の韓国の対日直接投資(実行ベース)は2010年代後半から2020年にかけて大幅に増加し、対日直接投資全体を牽引した。不動産関連の投資として、次のような事例が挙げられる。
ホテル・リゾートの買収では2015年6月、ホテルロッテが新潟県妙高市所在スキー場の旧「新井リゾート」を日本法人経由で取得し、運営に入った。また、教育・コーチング、物流、ホテル事業などを営むバイングループは、2017年4月に大阪所在のビルを買収、2018年10月にWBFホテル大阪なんば稲荷店の運営権を買収した。ハンファグループのデベロッパーのハンファホテルズアンドリゾートは、北海道ニセコ地区でホテルコンドミニアム「マティエ ニセコ」を建設、2023年に完工した。ニセコ地区では同じハンファグループのハンファソリューションが、2023年12月にホテル「ムアニセコ」をオープンした。ハンファグループでは、その他に、ハンファ生命が2023年6月に日本に不動産投資法人を設立している。
ついで、2000年代前半に一時活発化したゴルフ場買収関連では、コロナ後に訪日韓国人数が急増すると、投資案件が再びみられるようになった。例えば、ショーゴルフ(ゴルフ練習場運営)は、2023年12月に鹿児島県のさつまゴルフリゾートを買収した。中央日報(2023年12月4日、電子版)は、「(同案件は)韓国企業が買収した日本のゴルフリゾートとして最大規模」「同社は2025年までに日本で5カ所以上の買収を計画している」と報じた。
さらに、ファンド会社の不動産取得事例は次のとおり。
- KTB資産運用:ショッピングセンター「イオンタウン防府」(山口県、2017年9月)を買収。
- ハナ代替投資資産運用:ヤマダ電機八王子店(東京都、2018年11月)、ASIL SAPPOROビル(北海道札幌市、2019年8月)などを買収。
- 韓国投資信託運用:PREX Northビル(東京都、2019年6月)、紀尾井町PREXビル(東京都、2020年6月)などを買収。
- パイントストリート資産運用:青山ビル(東京都、2019年3月)を買収。
2010年代半ばに集中した太陽光発電所投資
韓国輸出入銀行データベースによると、韓国の電気・ガス・蒸気・空気調節供給業分野の対日直接投資額(実行ベース)は2011年までほぼ皆無だったが、2012年以降増加し、2015年に9,725万ドル(対日直接投資全体の12.0%)を記録し、ピークとなった。その後は2019年(1億1,062万ドル)を除き、比較的低水準にとどまっている。同業種の中心は太陽光発電だった。例えば、ピークの2015年についてより細かい業種区分でみると、電気・ガス・蒸気・空気調節供給業9,725万ドルのうち、8,734万ドルが太陽光発電業だった。日本で2012年にFIT(固定価格買い取り制度)が導入され、太陽光発電が拡大したことが契機になった。実際、進出事例をみても、この時期に対日投資案件が相次いだ。例えば、ハンファQセルズは徳島県阿波市(2013年)、北海道釧路市(2014年)、大分県杵築市、(2015年)で自社太陽光発電所の運転を開始している。教保生命は2015年10月、鹿児島県霧島市で建設する太陽光発電所に700億ウォン(約70億円、1ウォン=約0.1円)を投資した。韓国電力公社・LS産電などは2016年4月、北海道千歳市で太陽光発電所を着工した。ちなみに、LS産電は茨城県水戸市、石川県鹿島郡でも太陽光発電所事業を行っている。さらに、韓電KDN(電力ICT専門の公企業)は2018年3月、茨城県日立市で太陽光発電所を竣工(しゅんこう)し、運営に入った。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ) - ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。




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