韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦日本での新設法人数が過去最多を記録
韓国企業の日本進出(4)

2025年11月18日

第4回「日本での新設法人数が過去最多を記録」では、2024年1月から2025年10月までの韓国企業の日本進出事例を概観する。

韓国輸出入銀行データベースによると、2024年の韓国の対日直接投資(実行ベース)は新規法人数314社と、過去最多を記録した(ただし、金額では減)。さらに、2025年1~6月は218社と、通年で2024年を上回る勢いだ。かつてなく多くの韓国企業が日本に進出していることがわかるだろう。その理由として、(1)日本で韓流ブームがさらに拡大していることや、(2)韓国のIT関連企業が日本進出に拍車をかけていること、などが挙げられる。

このうち(1)は、2020年ごろからの「第4次韓流ブーム」を受けた結果だ。コロナ禍による行動制限でネット配信の韓国ドラマが人気を集め、韓国ブランドに対する関心やニーズが高まった。それが、食品、化粧品、ファッション、コンテンツ、飲食など、幅広い分野での韓国企業進出につながった。

では、韓国企業は日本市場にどのような魅力を感じているのだろうか。これについて、「毎日経済新聞」(2025年6月26日、電子版)は次の点に言及している。 (1)日本に進出すべき理由として、「日本市場は世界的に見て大きい」「世界情勢が急変する中で日本市場は比較的安定的」「韓国文化に対する好感度が高い」「地理的に韓国から近く、事業が容易」の4点が魅力。(2)日本の若年層は消費に積極的で、韓流に対する好感度が非常に高い。

サムスン電子が横浜にR&D拠点を開設

次に、分野別に韓国企業の日本市場進出の動きをみてみよう。

エレクトロニクス・機械・製造装置分野の韓国企業の日本進出事業は表1のとおり。特に注目されるのがサムスン電子の横浜のビル取得だろう。これは同社が2023年12月に発表した日本における半導体技術のR&D(研究開発)拠点構築計画の一環だ。2024年11月の横浜市発表資料によると、本件の事業目的は「ポスト5G情報通信システムを支える半導体の先端パッケージ技術の研究開発を行う」「材料・装置メーカーと緊密に連携を図り、共に競争力強化を推進する」で、「投資額は250億円」「横浜市は25億円を助成」と記載されている。半導体後工程や素材で強みを持つ日本企業との連携を模索する狙いだ。ちなみに、同案件については2023年12月に経産省も補助金支給を発表している。

表1:韓国企業の日本進出事例(2024年1月~2025年10月、エレクトロニクス、機械、製造装置など)
発表
年月
企業名 概要
2024年
6月
SKマテリアルズ 名城ナノカーボン(高結晶・高純度単層カーボンナノチューブの製造・開発)に出資。
名城ナノカーボンは2005年設立の名城大学発のベンチャー企業。今後、リチウムイオン電池分野で協業する予定。
7月 ベアロボティクス 自動走行ロボット・ベースのモビリティー・プラットフォーム企業の同社は、東京に日本法人を設立。人手不足が深刻化している日本市場でシェア獲得を目指す。
8月 ポイントモバイル 携帯情報端末(PDA)専業の同社は、5つ目の海外拠点として、東京に現地法人を設立。カシオ計算機のPDA事業を引き継ぐかたちで、カシオが販売してきたオリジナルモデルの販売を続ける。
9月 LK三養 光学専門企業の同社は、東京に日本支社を設立。コア技術人材の確保と、日本企業との協力関係強化を狙う。
2025年
6月
READi ロバストマシン 重機油圧エネルギー回収技術専門企業の同社は、名古屋市に日本法人を設立。建設、資源リサイクル、廃棄物処理現場など、重機が必要な産業全般でソリューションを提供し、日本市場を開拓していく考え。
コミコ 半導体製造装置の部品洗浄・再利用などを営む同社は、熊本県玉名市に新工場を建設すると発表。投資金額は約30億円で、2026年12月までの工場稼働を目指す。同社の台湾現地法人がTSMCと取引関係にあり、TSMCの熊本第2工場が稼働するのを見据え、日本での工場建設を決定。
7月 ザ・ロボティクス 環境エンジニアリングサービスやロボット製造を手掛ける同社は、兵庫県養父市で農業用追従型運搬ロボット「botbox」の現場実証を開始。
8月 サムスン電子 最先端の半導体パッケージング研究所を設立するために、横浜みなとみらい地区で建物を取得。本件は、同社が2023年12月に発表した「日本パッケージング投資計画」を具体化したもの。2027年3月の事業開始を目指す。日本の半導体素材・製造装置分野で、有力企業との協業を進めていく。
10月 サムスン電子 極寒の環境下でも安定した性能を維持する暖房技術の開発のため、北海道旭川市に試験場を設置。

注:社名・内容は、発表・報道時のものに基づく。なお、本表では、日本事業案件を幅広く掲載しており、全てが韓国からの直接投資を伴うわけではない。
出所:各社プレスリリース、各種韓国メディア報道などを基に作成

CJ第一製糖が2025年9月に新工場を完工

食品・飲食分野については、次のとおり(表2参照)。

食品分野では、日本企業を買収した韓国企業が日本で工場を新増設する動きが注目される。韓国企業は従来、日本を生産拠点として位置付けていなかった。しかし、 (1)韓国食品の販売が好調なことを受けて生産能力増強が必要になったことや、(2)円安などを背景に日本の生産コストが相対的に低下したことが、日本での工場新増設という新しい動きを生んでいる。その代表的な事例がプルムウォンとCJ第一製糖だ。

プルムウォン(2019年に持ち株会社に転換)は2024年9月、傘下のプルムウォン食品などが100%子会社のアサヒコに対し、「豆腐バー」の生産施設建設などの目的で追加出資をすることを公示した。「韓国経済新聞」(2024年9月22日、電子版)は「2020年11月に発売を開始した『豆腐バー』が6月末までに7,000万本以上の累計販売を記録するなど、ヒット商品になった」と報じた。

他方、CJ第一製糖は2025年9月、千葉県で建設していた新工場が完成し、本格稼働に入ったと発表した。同社はプレスリリース(2025年9月2日)で、「日本の消費者のビビゴブランドのマンドゥ(韓国式ギョウザ)に対する関心や需要が急速に拡大している」「当社は新工場を通じ、より効率的な原資材調達・製品供給などといった現地化戦略を加速し、日本事業を拡大する方針だ」と述べている。同社は、さらに同じプレスリリースで、伊藤忠商事との食品関連分野での業務提携に言及している。CJ第一製糖側は、伊藤忠商事が保有する日本国内や世界での流通網やファミリーマートなどの子会社の役割に期待を寄せている。

飲食フランチャイズの日本進出も急速に活発化している。進出分野もコーヒーチェーン、ハンバーガーチェーンなど、さまざまだ。日本進出が活発化している理由として、(1)韓国市場が飽和状態で、企業が海外進出に活路を見いだしていることや、(2)日本では、若年層を中心に韓国の食文化に対する好感度が高まっていること、などが挙げられる。これに関連して、「毎日経済新聞」(2024年4月24日、電子版)は、「日本の若年層を中心に韓国文化に対する好感度が高まったおかげだ。日本は自国ブランドを好む傾向が強いため、海外ブランドには参入障壁が高いと考えがちだ。しかし、根強い韓流ブームで雰囲気が変わっているというのが業界の見方だ。韓国フランチャイズ市場が飽和状態であることも、企業の日本進出を促進している」と報じた。「中央日報」(同年5月9日、電子版)は、「韓国企業各社は、日本国内の新たな韓流ブームに注目している。2000年代初め、中高年層の女性がコンテンツ消費に力を入れていた初期の韓流とは異なり、最近の日本の20代、30代は、韓国ドラマなどに登場するライフスタイルやチキン・トッポッキなど、韓国的な味に関心を高めている」と報じた。

日本に進出後、十分な集客を実現している例もある。前述の「中央日報」は、KG F&Bが運営するコーヒーチェーン「ハーリス」に言及し、「1号店は1日に平均700人余り、開店後の累計で30万人が利用するなど、人気を得ている。ワイヤレス充電器やフォトゾーンを備え、メニューとサービス方式も韓国式を維持した」(同社代表の話)と紹介した。さらに、同紙は、マムズタッチアンドカンパニーが運営する「マムズタッチ」についても「日本1号店に開店後1年間で70万人が訪れた」と、その人気ぶりを報じた。

ただし、いずれも日本進出の初期段階にすぎず、本格的な多店舗展開に至った企業は、見当たらない。どこまで店舗網を拡大できるのか、これからが正念場だ。

表2:韓国企業の日本進出資事例(2024年1月~2025年10月、食品・飲食)
発表
年月
企業名 概要
2024年
3月
マムズタッチアンドカンパニー ハンバーガー・フライドチキンチェーン店「マムズタッチ」を運営する同社は、4月に東京・渋谷で海外初の直営店を開設すると発表。
4月 KG F&B 日本に現地法人を設立し、上半期中に大阪・難波にコーヒーチェーン「ハーリス」1号店を開設すると発表。今後、日本の主要都市で店舗展開する予定。
カンブ フライドチキンチェーン「カンブチキン」の日本1号店を東京・原宿に開設。海外店舗展開はフィリピンに次いで2カ国目。
7月 エフジーコリア 米国ハンバーガーチェーン「ファイブガイズ」を韓国で展開する同社は、日本出店に関する了解覚書(MOU)を米国ファイブガイズ・インターナショナルと締結したと発表。
今後、日本法人を設立し、日本国内で店舗展開する。2025年下半期以降、7年間で20店舗以上を開設する計画。
8月 グレイス コスメキッチンと協力し、東京・新宿でブランド茶「ティーコレクティブ」の期間限定店を開設。
9月 スウィートバイオ ギリシャヨーグルト専門店舗「グリークデイ」の日本1号店を東京・原宿に開設。
プルムウォン 2014年6月に買収したアサヒコに対し、プルムウォン傘下のプルムウォン食品とグローバルESGファンドが257億ウォンを追加出資。資金の用途は、生産施設増設、借入金返済など。
農心 10月5日~10日に東京・原宿で「辛ラーメン」の期間限定店を開設。合わせて、2026年までに日本での「辛ラーメン」売上高200億円達成を目指す方針を発表。
11月 ヘルキプキ 「キト(炭水化物を避ける食事法)のり巻き」専門店を運営する同社は、日本フードストーリーアンドテック(東京)とフランチャイズ契約を締結し、千葉県船橋市に日本1号店を開設。
ヘルキプキは「日本は健康食に対する関心が非常に高い市場で、『キトのり巻き』という新しいカテゴリーを紹介できる最適の環境」と評した。
LBM ベーカリーチェーン「ロンドンベーグルミュージアム」を運営する同社は、日本での店舗展開のため、日本法人を設立。
2025年
1月
マムズタッチアンドカンパニー 「マムズタッチ」の日本での初のフランチャイズ加盟契約をドアーズ(岩手県盛岡市)と締結。そのほか、複数の日本企業がフランチャイズに加盟する予定。2026年に30店舗体制とする計画。
マンモスコーヒー 日本1号店を東京・虎ノ門に開設。
同社は「高品質なコーヒーは高価」という常識を覆すことをコンセプトとし、「マンモス級」の量の多いコーヒーを手頃な価格で提供する戦略を取っている。2026年までに日本全国100店舗を目指す。
6月 農心 即席麺の体験店舗「辛ラーメン粉食」を1年間の期間限定の予定で東京・原宿に開設。
7月 農心 阪急百貨店うめだ本店(大阪)で即席麺「辛ラーメン」の期間限定店を開設。大阪での期間限定店開設は初めて。
9月 CJ第一製糖 約1,000億ウォンを投じて千葉県木更津市に建設していた冷凍マンドゥ(ギョーザ)工場が完成し、稼働を開始したと発表。
同社は餃子計画を買収し、2020年から大阪府、群馬県、秋田県、福岡県で工場を運営しているが、日本での工場新設は初めて。韓国の食品企業が日本で新工場を建設したのも初めて。工場稼働を受け、日本市場開拓に拍車を掛ける計画。

注1:社名・内容は、発表・報道時のものに基づく。なお、本表では、日本事業案件を幅広く掲載しており、全てが韓国からの直接投資を伴うわけではない。
注2:1ウォン=約0.1円。
出所:各社プレスリリース、各種韓国メディア報道などを基に作成

足元で多くの化粧品・ファッション企業が進出

化粧品・ファッション分野でも、日本進出が活発だ。本格的な日本進出の前段階に当たる期間限定店開設を含めると、さまざまな韓国企業が日本事業に注力している(表3、表4参照)。

韓国の化粧品・ファッション企業が日本進出に前向きな理由は、食品・飲食フランチャイズ企業と同様だ。具体的には、(1)日本市場の大きさ、(2)韓国の文化や流行に対する高い好感度、(3)地理的な近さなどだ。さらに、(4)韓国市場の成熟化により海外進出の必要性が高まっていることや、(5)店舗販売比率が高い日本の事情に合わせた流通戦略が比較的容易に取れること、などが、韓国企業の日本進出を後押ししている。ちなみに、「毎日経済新聞」(2025年6月26日、電子版)は、「日本の若年層は韓国に対する好感度が非常に高い」「日本市場における韓国ブランドのシェアは上昇している。日本市場は大きく、韓国から近く、安定的なため、進出しない理由がない」というメディキタス(2025年2月にCROOZ SHOPLISTを買収)代表の声を紹介している。

化粧品業界では、例えばCJオリーブヤングが2024年5月に日本法人を設立済みだ。「韓国経済新聞」(2024年5月11日、電子版)は同社関係者の話として、「日本は地理的に近く、消費の傾向が韓国と似ている上、Kビューティーへの関心が高まっている。そのため、米国とともに海外進出の戦略国に選定した」「日本での自社ブランドの売上高は2020年から2023年の4年間で年率125%増を記録した」と伝えた。

表3:韓国企業の日本進出事例(2024年1月~2025年10月、化粧品)
発表
年月
企業名 概要
2024年
2月
アモーレパシフィック 「イニスフリー」ブランドの海外初の旗艦店を東京・表参道に開設。
3月 アイアイコンバインド 香水・コスメブランド「タンバリンズ」の旗艦店を東京・青山に開設。
4月 クリオ 化粧品メーカーの同社は、Doowon(化粧品販売)とKiwami(化粧品輸入代行)の株式100%を約83億ウォンで買収したと発表。買収を契機に、日本法人を設立し、日本事業の効率化を通じて売上高拡大、収益性改善を目指す。
アンコモンホーム ヘアケアブランド「ナルカ」の日本販売を開始。2月から「アットコスメ」を通じオンライン販売。4月からオフラインでも開始。
5月 CJオリーブヤング 日本市場での販売・マーケティング拠点を確保するとともに、日本の消費者の嗜好を研究。PB化粧品などの製品開発に反映すべく、東京に日本法人を設立。
2025年
6月
LG生活健康 プレミアムメイクアップブランド「VDL」期間限定店を、アットコスメトーキョー(東京・原宿)に開設。MZ世代と観光客をターゲットにする。

注1:社名・内容は、発表・報道時のものに基づく。なお、本表では、日本事業案件を幅広く掲載しており、全てが韓国からの直接投資を伴うわけではない。
注2:1ウォン=約0.1円。
出所:各社プレスリリース、各種韓国メディア報道などを基に作成

ファッション業界では、韓国の大手百貨店が、韓国ファッションブランドの日本市場での販売拡大に積極的だ。

現代百貨店は2024年6月、パルコと戦略的協業に関する基本合意を締結し、第1弾として、渋谷PARCOで期間限定店を開設した。経済分野のインターネット紙「ブローター」(2025年9月5日)は、「現代百貨店が日本攻略に速度を上げている理由は成長潜在力があるとみているからだ。日本はアジア最高水準の購買力を持つファッション消費国だ」「韓国のファッション業界の立場では、日本は逃すには惜しい市場だ。身体条件や気候が韓国に似ていて効率的な事業運営が可能なためだ。客単価も高い。同百貨店は日本を足場に世界市場への跳躍を目指している」と紹介した。

一方、新世界は2025年9月、東急リテールマネジメント(東急グループの商業施設運営事業の統括機能を具備した事業統括会社)と商業施設を活用した業務提携に向けた基本合意書を締結した。早速、SHIBUYA109渋谷店で7つの韓国ブランドの期間限定店を開設した。インターネット紙「CEOスコアデイリー」(2025年10月16日)は、「日本のファッション市場は韓国の1.6倍に達する」「(同社は)韓国の内需不振が続く中、海外での競争力強化のため、日本市場を活用している」「今回の期間限定店開設を契機に日本市場での販路を拡大する予定」と報じた。

日本市場開拓に積極的な大手ファッションプラットフォームもある。ムシンサは2021年に日本法人を設立し、韓国のアパレルブランドの日本進出を支援する体制を構築している。「電子新聞」(2025年1月28日、電子版)は、同社の最近の日本事業の動向に言及した後、同社関係者の話として「K-POPやドラマなどの文化コンテンツとKファッションとのシナジー効果が顕著」「SNSを通じ、韓国のファッションブランドの認知度と好感度が急上昇している」と紹介している。

表4:韓国企業の日本進出事例(2024年1月~2025年10月、ファッション)
発表
年月
企業名 概要
2024年
2月
アンダール アスレジャー(補遺)ブランド「andar(アンダール)」を展開する同社は、2月21日~27日、阪急百貨店うめだ本店(大阪市)内に期間限定店を開設。同社関係者は「阪急百貨店など複数の企業から出店のオファーが殺到している」「期間限定店の運営や公式店開設などを検討している」とした。
なお、同社は2022年3月に公式オンラインストアを開設し、日本に進出している。
補遺:アスレジャーとは、運動競技(athletic)と余暇(leisure)のこと。
4月 ブランドエックスコーポレーション スポーツ・ヨガウェアブランド「ゼクシィミックス」の日本初店舗を大阪・梅田に開設。今後、名古屋、東京でも店舗を開設する予定。また2024年通年で、日本店舗合計150億ウォンの売上高を目指す。
6月 現代百貨店 パルコと戦略的協業に関する基本合意を締結。5月10日から7月28日まで渋谷PARCOで期間限定店を開設。韓国の11ブランドを紹介し、韓国ファッションブランドの日本市場での認知度向上を狙う。
現代百貨店は韓国のファッション、エンターテインメントなどの輸出を促進していて、その一環。今後、両社間の基本合意に基づき、PARCO店舗で韓国コンテンツやカルチャーを展開する。あわせて、渋谷PARCOを起点としたトーキョーカルチャーや日本発のコンテンツを韓国で展開することも検討する。
8月 ハイライトブランド ストリートブランド「キルシー」の期間限定店を大阪で開設。
10月 新世界 韓国ファッションの輸出支援企業間取引(B2B)プラットフォーム「新世界ハイパーグラウンド」を通じ、阪急うめだ本店(大阪)で期間限定店を開設。14種類のファッションブランドを紹介。
12月 ムシンサ ZOZOと戦略的パートナーシップに向け、基本合意書(MOU)を締結。両社は韓国のファッションブランドの日本進出・売上高拡大を目指す。
2025年
2月
LF ビーガンコスメブランド「athe(アッテ)」を展開する同社は、セキドと総輸入代理店契約を締結。日本市場に進出へ。
メディキタス ファッションEC「nugu」を運営する同社は、日本事業強化のため、ファッションECモール「SHOPLIST」を運営するCROOZ SHOPLISTの全株式を取得。
4月 ムシンサ ファッションブランド「マーティンキム」の日本初店舗を東京・渋谷に開設。
コーロンインダストリー ゴルフウェア「G/FORE」の日本・中国でのマスターライセンス権を保有する同社は、東京・銀座に、日本1号店舗を開設。
ミストホールディングス 同社がマスターライセンスを有するファションブランド「マリテ+フランソワ・ジルボー」の日本旗艦店を東京・原宿に開設。
ナイスウェザー ユナイテッドアローズと独占販売権・ライセンス権契約を締結し、ライフスタイルセレクトショップ「ナイスウェザー」の日本初店舗を大阪の阪急うめだ本店に開設。
8月 現代百貨店 韓国ブランドを取り扱うプラットフォーム「ザ・現代グローバル」の常設店を、渋谷PARCO(東京・渋谷)に開設すると発表。2026年に東京・表参道に旗艦店を開設するなど、今後5年間で5店舗を設け、韓国ブランドの発信を行う計画。
ムシンサ 10月に東京・渋谷に期間限定店を開設すると発表。店舗規模は、同社が日本で出店した期間限定店として過去最大級。さらに、2026年初めに東京などで実店舗を開設する予定。
9月 新世界 東急リテールマネジメントと、コンテンツ交流・マーケティング・プロモーション協業での業務提携に向けた基本合意書を締結。
10月から東京(SHIBUYA109渋谷店)で韓国ブランド7つの期間限定店を開設。韓国ブランドの日本市場進出を支援する。

注1:社名・内容は、発表・報道時のものに基づく。なお、本表では、日本事業案件を幅広く掲載しており、全てが韓国からの直接投資を伴うわけではない。
注2:1ウォン=約0.1円。
出所:各社プレスリリース、各種韓国メディア報道などを基に作成

日本に拠点を構築する韓国のIT・ゲーム企業が増加

IT・ゲーム関連企業の日本進出が活発化している。韓国輸出入銀行のデータベースによると、韓国の情報通信分野の対日直接投資(実行ベース)は、2000年代前半までは低水準だった。しかし、2000年代後半以降に活発化し、特に、2020年代に入ってからは大幅に増えている。同分野の新規法人数は、2020年23社から、2021年31社、2022年35社、2023年45社、2024年60社と、増加傾向だ。

2024年1月以降の主な進出事例は表5とおり。日本進出企業数の増加とともに、比較的近年に創業したスタートアップの進出が多い点も特徴だ。ちなみに、表5に掲載した2024年の日本進出企業11社の創業年をみると、2015年以前2社、2017年2社、2018年2社、2019年2社、2020年2社、2021年1社と、多くの企業の社歴は比較的浅い。また、初の海外拠点を日本に設ける例も多い。

情報分野のスタートアップの日本進出が活発化している理由として、韓国企業の次のような認識を挙げられる。

  • 韓国企業は日本企業に比べDX(デジタルトランスフォーメーション)で先行しており、韓国での経験が日本で生かせる。
  • 日本のDX市場が今後、急拡大する見通し。
  • 日本政府が海外スタートアップの誘致に積極的。
  • 日本は地理的・文化的に韓国に近い。

ちなみに「毎日経済新聞」(2025年3月9日、電子版)も、「今まで日本のDXは遅れているとみられていたが、人工知能(AI)の発展などで、日本でもDXに対する需要が急増している」「韓国のスタートアップは地理的な利点とともに、日本市場の成長性に期待し、日本事業に積極的に注力している」「日本は韓国から近く、韓国のスタートアップ・エコシステムもそのまま使えるため、海外進出地として日本を選択することが多い」と報じている。

表5:韓国企業の日本進出事例(2024年1月~2025年10月、情報・コンテンツ)
発表
年月
企業名 概要
2024年
1月
ビーマイフレンズ ファンダムプラットフォーム(補遺)企業の同社は、日本法人を設立。コミュニティープラットフォーム「b.ステージ」管理者ページに日本語サービスを加え、ショップ決裁通貨に日本円を追加した。
補遺:ファンダム(fandom)は、愛好家・支援者(fan)と、勢力範囲や領域を示す接尾辞の「dom」を組み合わせた造語。特に熱意を持って活動しているファン集団を意味する。
2月 ドクターナウ 遠隔診察や医療相談、病院予約などを支援するプラットフォームを開発・運営する同社は、日本市場での本格的な事業化のため、東京に日本法人を設立。
4月 チームスパルタ 企業・個人向けにIT教育サービスを提供する同社は、初の海外法人を東京に設立。日本のIT人材不足やリスキリング、DX需要の高まりを背景に、実践的な教育サービスを提供し、誰もが活躍できる組織や社会になるよう、顧客を支援する。
6月 トラベルウォレット 外貨決済フィンテック企業の同社は、初の海外現地法人を東京に設立。2025年内の日本でのサービス開始を目指す。
日本進出の理由として、同社では「日本は従来、現金利用の比率が高かったものの、近年、モバイル決済が急速に広がり、参入のタイミングとして適切と判断した」ことを挙げている。
ブイキャットAI AIマーケティング自動化企業の同社は、東京に日本法人を設立することを決定。日本市場でマーケティングソリューションを提供することで、スタートアップと企業のネットワーク強化、イノベーションの促進、成長を支援することを目指す。
オープンエッジテクノロジー 半導体設計資産プラットフォームを営む同社は、横浜に現地法人、京都にR&Dセンターを設立したと発表。日本国内のファブレス企業などの顧客に対して緊密に対応する目的。
エアズメディカル 同社は、MRIの画質を向上するAIディープラーニングソフトウェアを開発しており、MRI撮影時間を最大50%まで短縮する技術を保有している。同社は、日本の医療機関へのサービス拡大のため、東京に日本法人を設立したと発表。
7月 イーランサー IT人材マッチングプラットフォームを運営する同社は、東京に現地法人を設立したと発表。今後、日本企業と提携し、日本市場を積極的に開拓する計画。
8月 ウォンテドラボ HR(ヒューマンリソース)プラットフォームを営む同社は、採用プラットフォーム企業のLAPRASに戦略的出資。日本国内でネットワークを有するLAPRASと協力し、自社のサービスを日本市場の特性に合わせて投入する。
11月 ストアリンク eコマースマーケティングプラットフォーム企業の同社は、海外初の現地法人を東京に設立。日本市場は、韓流の定着で韓国ブランドに対する好感度が高く、eコマース市場の規模が大きいと評価。レビューデータ管理やインフルエンサーのファンダムマーケティングに基づいて、サービスを提供する計画。
補遺:ファンダムは、特に熱意を持って活動しているファン集団のこと(既述)。
ファストビュー AIグローバルコンテンツ流通プラットフォームを運営する同社は、海外初の現地法人を東京に設立。韓国コンテンツの需要が増加している日本市場で、自社のコンテンツの影響力を拡大させる。ニュース記事や映像コンテンツを中心の現在の日本でのコンテンツ流通サービスを音楽、ウェブトゥーンなどに拡大する。さらに、コンテンツ流通のクロスボーダーコンテンツプラットフォーム企業としての成長も目指す。
2025年
1月
プレティア デジタルプラットフォーム企業の同社は、東京に日本法人を設立。AI基盤のソフトウェア技術やECプラットフォーム技術を活用し、日本市場でのデジタルフォーメーション・ユーザデータに基づいて、マーケティングオートメーションの加速を支援する計画。
インスウェーブ 企業用アプリケーション・ソフトウェア企業の同社は、日本法人を東京に設立。日本は金融機関・公共機関・大企業を中心に大型DXプロジェクトが増加傾向にある。こうした日本市場の取り込みを目指す。
3月 ザ・ピンクフォンカンパニー 幼児・子ども向け教育ブランド「ピンキッツ」などを展開する同社は、海外5拠点目の現地法人を東京に設立。IP(知的財産権)競争力と高品質なコンテンツを基盤に、コンテンツ配給、ミュージカルなどの公演や、各種提携事業を展開する計画。
アップステージ 生成AI企業の同社は、日本市場での事業拡大と生成AI活用加速のため、東京に現地法人を設立。同社では「日本のAIソリューション市場は2030年に17兆ウォンに成長する見通し。当社の主力事業のAIを活用した企業文書電子化市場も、韓国より10倍程度大きい」と、日本市場の魅力度を高く評価した。
リベリオンズ AI向け半導体のユニコーン企業の同社は、初の海外法人を日本(東京)に設立。日本の顧客企業との連携を強化し、高度な技術サポートを迅速に提供する狙い。同社では、日本のAIデータセンター市場は急速に成長し、AI半導体の需要も爆発的に増加するとみており、日本市場で先行者優位を確立することを目指す。
5月 カカオヘルスケア 東京に現地法人を設立。AIベースのモバイル健康管理ソリューションで日本市場開拓を目指す。
6月 クラフトン ADKホールディングスを750億円で買収することを決定。クラフトンはゲーム中心のIP拡大に向けた新たなシナジー機会を模索している。
この買収により、アニメーションとゲームの協業を進め、日本国内のコンテンツ・メディア事業基盤を強化する計画。特に、ADKグループのアニメーション企画・制作能力とクラフトンのグローバルゲーム開発・サービス経験を融合させる。
8月 ソブク セルフ写真館「フォトイズム」運営する同社は、東京・新大久保に期間限定店を開設。
ザ・ピンクフォンカンパニー 東京で初の単独期間限定店を開設し、日本市場でファンダム拡大戦略を展開すると発表。
ムハユ AIによる盗用チェックサービス「コピーキラー」を運営する同社は、東京に現地法人を設立。文書盗用や不正行為検出への需要が増加していることに対応。
9月 SKテレコム TimeTree(カレンダーアプリ運営のスタートアップ)に22億円を出資すると発表。AIを活用して、機能開発・海外展開を加速。

注1:社名・内容は、発表・報道時のものに基づく。なお、本表では、日本事業案件を幅広く掲載しており、全てが韓国からの直接投資を伴うわけではない。
注2:1ウォン=約0.1円。
出所:各社プレスリリース、各種韓国メディア報道などを基に作成

医療関連企業の日本進出も活発に

その他の分野では、バイオ医薬品、物流・航空、金融、ホテル・不動産などで、進出例が目立つ(表6参照)。

バイオ医薬品など医療関連分野では、前掲の表5に記載したドクターナウ、エアズメディカル、カカオヘルスケアなども含め、日本進出が続いている。「聯合ニュース」(2025年6月10日)は、韓国の製薬・バイオ医薬品関連企業が対日輸出、日本企業との提携、日本での法人設立を積極化していると紹介した上で、「(韓国企業は)高齢化などにより需要が増加する日本市場をブルーオーシャンとみている」と言及している。

投資会社による日本投資も活発だ。「韓国経済新聞」(2024年4月24日、電子版)は、「韓国のベンチャーキャピタルが日本投資を本格化している。少し前まではインド、東南アジアへの投資に集中していたのとは雰囲気が一変した」と、最近の状況を報じている。

表6:韓国企業の日本進出事例(2024年1月~2025年10月、その他分野)
分野 発表
年月
企業名 概要
バイオ医薬品 2024年
9月
セポバイオなど8社 セポバイオなど、先端バイオ分野(細胞治療、遺伝子治療、再生医療)のスタートアップ8社が、湘南アイパークに入居を開始。日本の製薬企業やバイオベンチャーなどとの協業を通じて事業化を目指している。
なお、8社は、韓国政府(中小ベンチャー企業部)とアイパークインスティチュートが共同で選定した。
10月 サムスンバイオロジクス 東京に営業拠点を新設すると発表。海外営業拠点は米国に次ぎ2カ国目。日本企業からのバイオ医薬品の受注拡大を目指す。
投資会社など 2024年
8月
セア技術投資 セアグループのベンチャーキャピタルの同社は、月架世交易の持ち分8%を取得。月架世交易は、韓国の有望コスメブランドを発掘し、日本市場で販売している。
12月 SK、SKイノベーション SK(持ち株会社)とSKイノベーション(石油化学大手)が、SKテレコムの日本法人の株式を24.9%ずつ取得。今後、日本法人はSKグループ全体で進めているAI、エネルギー・ソリューション分野に注力する。
2025年
4月
SKスクエア SKグループにおける半導体と情報通信技術(ICT)産業分野の投資会社である同社は、日本企業3社(アイオーコア、リンクアース、Kyulux)に出資。
8月 シンドリコー 資産投資業を営む日本法人のシンドプロパティジャパンに1,218億ウォンを追加出資。目的は運用資金、新規資産投資資金の確保。
9月 韓国金融持株 資本金4億7,100万ウォン、出資比率100%で、日本に投資顧問業の現地法人を設立すると発表。
物流・貿易 2024年
11月
クーパン 100%子会社のCP One Japan(食品配達サービス)を設立。配達員の募集を開始し、2025年1月、食品配達アプリケーション「ロケットナウ」のサービスを開始。
12月 大韓航空 同社と、同社子会社の韓国空港、日本の国際興業の3社合弁で、新会社を東京に設立。グランドハンドリング(航空機地上支援業務)を担う。
グランドハンドリングの人材不足が増便の障害になっていることから、自前で人材を育成する。2025年3月に新千歳空港で航空機の誘導や手荷物・貨物搭降載などの業務を開始した。
2025年
5月
クーパン フードデリバリーアプリ「ロケットナウ」の提供を東京都内の一部地域で開始。
なお、同社は2021年、「注文後10分以内に到着」を掲げるクイックコマースサービスで日本市場に参入したものの、十分な結果を上げられず、2023年3月に日本市場から撤退していた。
今回は、以前の「即配」から「料理の配達」にコンセプトを変更。日本市場に再参入した。
8月 イーマート 日本商品を発掘する目的で同社100%出資による現地法人を東京に設立することを決定。
円安や韓国人の日本旅行拡大を契機に、日本商品に対する人気が韓国で高まっていることに対応した。
8月 テックタカ 統合物流プラットフォーム「ARGO」を運営する同社は、東京に日本法人を設立することを決定。日本では、韓国製化粧品・ファッション・調理済み食品などに対する越境EC需要が大きい。そのため、日本進出を希望する企業の問い合わせが増加している。円滑な進出支援を期し、日本法人の設立を決定した。
日本法人は日本の物流パートナー企業と協業して配送処理を担当する。通関、現地倉庫代行、規制や問題発生時の対応などの物流サービスも運営予定。
9月 大明ソノグループ ティーウェイ(グループ傘下の航空会社)が日本に販売法人を設立すると発表。旅客需要の多い日本で、販売店を直接運用する。現地での営業力を強化するのが狙い。
不動産・観光 2025年
3月
スマートスコア ゴルフプラットフォームの同社は、北海道カントリークラブ(ゴルフ場)と函館大沼プリンスホテルを買収。
9月 ホテルロッテ 日本でのホテル事業拡大のため、日本のロッテホールディングスとの合弁で「ロッテホテルズジャパン」を設立。
日本国内では現在、新潟県妙高市と東京・錦糸町の2カ所のホテルを運営している。2034年までに20カ所、4,500室(既存の2カ所を含む)に拡大し、旺盛なインバウンド需要を取り込むことを目指す。

注1:社名・内容は、発表・報道時のものに基づく。なお、本表では、日本事業案件を幅広く掲載しており、全てが韓国からの直接投資を伴うわけではない。
注2:1ウォン=約0.1円。
出所:各社プレスリリース、各種韓国メディア報道などを基に作成

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。