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特集:号砲!中南米のスタートアップ効率的な学習と社内研修を可能にするエドテック(ブラジル)

2019年2月19日

中南米の投資家にとって、エドテック(Edtech:EducationとTechnologyを合わせた造語)は今後3年間で最も注目すべき分野と捉えられている。学校や学生向けには「アダプティブラーニング」という手法で学習を効率化するサービスが既に登場しており、企業向けには社員と企業をウィンウィンにするサービスが登場した。

中南米地域における教育の質は経済成長を左右する要因の一つとされてきた。近年、中南米諸国の政府は教育分野の支出を徐々に増やし、望ましいとされるGDPの4~6%程度の水準(2016年のEducation2030)を満たすようになっている。しかしながら、2015年のOECD「生徒の学習到達度調査(PISA)」によれば、ラテンアメリカは平均してOECD平均に比べて2.5年分の遅れがあるという結果が出ている。また、中南米地域では、現代の労働市場で求められるような数学、科学リテラシーの得点が低くなっており、進出日系企業数が多いブラジル、メキシコではこれらのスキル不足は約半数に上る。世界銀行によれば、政府が教育分野への公共支出を増やすだけでは教育水準が改善されない理由として、情報通信機器(ハード面)が導入されても黒板を使い続ける教師がいるなど、効率的な授業が行われていないことが挙げられている。国際的な目安として授業時間の85%を実質的な授業に充てるべきところ、中南米では65%にとどまるデータからも、その非効率性がうかがえる。

「アダプティブラーニング」で効率的な学習を実現する学校・学生向けソリューション

中南米には、こうした社会課題を新たな手法で解決するスタートアップが存在する。例えば、ブラジルで学校教育でのカリキュラム管理ソリューションを提供するスタートアップであるギーキー(Geekie)は2011年に創業し、生徒の学習状況に基づいてITが適切な教材をカスタマイズする「アダプティブラーニング」という手法をブラジルの生徒500万人、5,000以上の学校に提供してきた。生徒が自発的に弱点分野を克服することで成績を向上させるだけでなく、学校(教師)側が導入する場合には生徒の学習進捗や強み・弱みを可視化できる利点があり、同サービスを通じてブラジルの学校教育の効率性を改善した。

ジェトロがブラジルのABスタートアップ協会にインタビューしたところ、学校向けのエドテックは社会貢献度の高さ故に、エドテック全体の約5割と需要の高さがうかがえる。しかしながら、ギーキーのような成功事例は一部に限られており、その理由はエドテック分野が導入から成果を創出するまでに時間を要することがネックになっていると、同協会のマルコ・ビッシ・カスタマーサクセス部長は指摘する。また、公立学校向けサービスの売り先が自治体や州政府になるので、私立学校と比較すると資金面におけるハードルや導入プロセスが煩雑になりがちだという。

企業と社員をウィンウィンにする社内研修向けソリューション

エドテックの対象は学校向けが全てではない。エドテック全体の8%にすぎないが、企業向けのエドテックも存在する。同部長によれば、比較的短期の効果測定が可能で、公立学校より資金繰りが期待できる企業向けのエドテックもビジネスチャンスがあるという。

企業向けのエドテックは、社員のロイヤリティー向上を通じた転職率の低下や、自社が必要とする人材の効率的な確保が期待できる。例えば、時代のニーズに合わせてプログラミング技術のある人材を確保したい雇用側と、プログラミング技術を習得したい被雇用側のニーズを満たすため、ブラジルのMastertechは企業ごとにカスタマイズした社内研修で、プログラミング学習コースを提供している。ジェトロのインタビューで、同社のマリア・ガブリエラ・シェイン・アロンソ企業セールス担当は、ブラジルの場合は大企業でも新興企業のサービスに関心を持つチャンスがあり、スタートアップ企業でも社会に影響力のある取引ができる可能性があるという。IT専門調査会社のIDCは、ブラジルのIT分野の人材不足は依然として2019年に16万人になると推計しており、同社のサービスは当該分野の人材ニーズを満たすだけでなく、企業と社員がウィンウィンになるサービスを提供していることになる。

中南米地域が抱える低い生産性を解決する手段として、設備投資や規制の緩和による外国からの新技術の導入などの他に、従業員の能力開発を通じて生産性を向上するというアプローチもある。

執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所
古木 勇生(ふるき ゆうき)
2012年、ジェトロ入構。お客様サポート部オンライン情報課(2012~2015年)、 企画部海外地域戦略班(中南米)(2016~2017年)、海外調査部米州課中南米班(2018年)を経て、2019年2月からジェトロ・サンパウロ事務所勤務。

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