特集:デジタル化がつなぐ国際経済総論:デジタル化がつなぐ国際経済
世界の貿易投資、通商ルール形成にみる進展

2018年10月12日

デジタル技術の急速な発展が世界経済やビジネスに大きな影響を及ぼすようになってきている。特に2010年代以降、スマートフォンやクラウド・コンピューティングなどの進化で、大量のデータがインターネットを通じて取得、蓄積されるようになった。膨大なデータは人工知能(AI)の進化を伴い、その経済的価値を高め、米GAFAに代表されるプラットフォーマーの巨大化やスタートアップの台頭を促し、既存のビジネスやルールを揺さぶっている。本稿では、世界の貿易、直接投資、通商ルール形成、それぞれの側面からみたデジタル化の進展状況について、2018年7月30日に発表された「2018年版ジェトロ世界貿易投資報告」(以下、報告)の内容を基に概説し、本特集への導入とする。

「デジタル貿易」を4指標を基に計測

まず貿易の側面においては、世界的に「デジタル貿易」の概念が広く使われるようになりつつある。ただ、現時点で「デジタル貿易」に関する確立された定義は存在しないことから、報告では、OECDの定義や国連貿易開発会議(UNCTAD)の先行研究を参考にしつつ、ジェトロで定義した以下の4つの指標を基に「デジタル貿易」を計測した(注1)。

  1. 半導体や通信機器などモノの国境を越えた取引を示す「デジタル関連財貿易」
  2. ソフトウエア開発やオンライン配信などサービスの国境を越えた取引を示す「デジタル関連サービス貿易」
  3. 国外向けに販売する電子商取引(EC)である「越境EC(企業対消費者)」
  4. 国を越えたデータのやり取りを意味する「越境データ・フロー」

その結果、1つ目の「デジタル関連財貿易(注2)」は、各国・地域の貿易統計を基にしたジェトロの推計によると、2017年に2兆9,000億ドル(輸出ベース)と、2002年に比べ2.5倍の規模に拡大したことが明らかになった。同金額は2017年の世界貿易額全体の17.0%に相当する。品目別にみると、特に近年のデジタル技術の進化に関連した通信機器、半導体など電子部品類、計測器・計器類、半導体製造機器、産業用ロボットなどの過去10年間の輸出額の伸びが高い。一方、コンピュータ・周辺機器類、事務用機器類、映像機器類のような、従来のデジタル関連商品は低い伸びにとどまり、デジタル貿易財の新旧交代が進んでいることが明らかになった。

次いで輸出国・地域別にみると、日本の存在感の低下が顕著となっている。世界の輸出上位(2017年)では、中国や米国、ドイツ、オランダが2007年と同じ順位を維持した一方、日本は2007年の3位から6位に後退した。また、過去10年間の輸出額の年平均成長率も、輸出上位国・地域のうち日本だけがマイナスだった。日本のデジタル関連財輸出が減少したのは、主要品目であるコンピュータ、映像機器、電気・電子部品、半導体、通信機器などの輸出が軒並み減少したためであり、日本企業の国際競争力の低下が背景にある(本特集「日本のデジタル関連財輸出が低迷」参照)。他方、日本のデジタル関連財輸出全般が振るわない中、健闘している輸出品目もある。半導体製造機器と産業用ロボットの輸出額は過去10年間、一貫して世界首位を維持し、日本のデジタル関連財輸出を下支えしてきた。このほか、フラットパネルディスプレー製造機器やセラミックコンデンサーなどの輸出も増えており、今後も輸出増加が期待できる(本特集「半導体製造機器に続く、期待のデジタル関連財を探せ」参照)。

2つ目の「デジタル関連サービス貿易(注3)」は、WTO統計によると、2017年に5,273億ドル(輸出ベース)と、データ遡及(そきゅう)可能な2005年の2.6倍の規模に拡大した。同金額は2017年の世界のサービス貿易全体の9.9%に相当する。国別の内訳(2017年)では、アイルランド、インド、米国、ドイツ、中国が輸出上位に並んだ。このうち首位のアイルランドには、優遇税制を背景にグーグルなど米デジタル大手が拠点を構える。2位のインドには、タタ・コンサルタンシー・サービシズなど海外からのデータ処理やソフト開発を請け負う地場大手が存在する。一方、日本の順位は23位にとどまっており、デジタル関連財と同様に、世界のデジタル関連サービス輸出においても日本の存在感は限られる。

続いて3つ目の「越境EC(注4)」は、統計整備が進んでおらずデータの制約が大きいが、中国EC大手アリババの研究所AliResearchとアクセンチュアによると、2017年の世界の越境EC市場規模は5,300億ドルと、比較可能な2014年の2.2倍の規模に拡大したとみられる。国別では中国の存在感が大きく、UNCTADとWTOデータを基に計算したところ、2015年の世界の越境EC購入額に占める中国のシェアは20.6%と、首位の米国(21.2%)に匹敵する。

最後に残る「越境データ・フロー(注5)」は、上述したデジタル貿易の4つの指標のうち、近年の伸びが最も顕著だ。例えば、プラットフォーマーのビジネスモデルは、国境を越えたデータ流通によって成立しており、「越境データ・フロー」はデジタル貿易の根幹を担う指標として世界的に関心が高まる。国際電気通信連合(ITU)の統計によると、世界の越境データのフローは2001年から2016年にかけて165倍に急増した。特にアジアなど新興・途上国における伸びが著しい。2016年時点で海外とのデータ通信量の多い国・地域をみると、上位には香港、米国、英国、台湾、中国が並び、続いて日本が6位に入っている。

デジタル分野における直接投資

貿易と同様に、外国直接投資の側面からみたデジタル化も世界的に進展がみられる。ジェトロが定義した「デジタル関連業種(注6)」に分類される企業による対外グリーンフィールド投資およびクロスボーダーM&Aを、リーマン・ショック前後の期間で比較したところ、いずれも金額ベースで増加したことが分かった(注7)。

対外グリーンフィールド投資は、2003~2008年の年平均764億ドルから2010~2017年の894億ドルへ、クロスボーダーM&Aは同じく1,136億ドルから1,289億ドルへそれぞれ拡大した。なお、件数ベースでみると、対外グリーンフィールド投資は拡大(2,348件→3,128件)した一方、クロスボーダーM&Aは減少(1,452件→1,387件)した(注8)。クロスボーダーM&Aの件数が減少したにもかかわらず、金額が増加したのは1件当たり10億ドルを超すメガディールの増加が背景にある。

次いで国・地域別にみると、対外グリーンフィールド投資、クロスボーダーM&Aともに、米国が2010~2017年に世界シェア(件数ベース)の約3割を占めて最大の投資元となった。米国はGAFAに代表されるデジタル企業を多く有し海外展開で先行する。ジェトロで年次決算書などのデータを基に主要デジタル各社の地域別売上高比率(2017年)を算出したところ、アマゾンの米国外における売り上げ比率は32.3%、グーグルを傘下に持つアルファベットは52.7%に達し、世界各地域で売り上げを計上していることが確認できた。

米国以外の主要国をみると、中国の世界シェア(件数ベース)が対外グリーンフィールド投資、クロスボーダーM&Aともにリーマン・ショック前後で拡大した。巨大な自国市場を有する中国のデジタル企業はこれまで海外展開が遅れていたが(注9)、近年、東南アジアを中心にECやデジタル決済、物流、配車サービスなど幅広い分野での進出を加速しており、国内依存からの脱却を図っている。

その他の新興・途上国のデジタル企業も海外進出を加速している。例えば、配車アプリからスタートし、宅配、電子決済を手掛けるインドネシアのゴジェックは2018年5月、ベトナム、タイ、シンガポール、フィリピンへ事業展開する計画を明らかにした。また、ベトナムのIT大手FPTは2017年にドイツのAI開発企業と覚書を交わしたことを発表するなど、外国企業との協業を進める。インドや中南米、アフリカにおいても地場デジタル企業による国境を越えた事業展開が活発化している。

新興・途上国のデジタル企業が海外進出を加速する中、日本企業はこれら企業と連携することにより、新たなビジネス展開の可能性が広がる。現時点ではトヨタやソフトバンクなど大手が中心だが、中小企業による連携事例もみられるようになってきた。長野県岡谷市の精密測定機器メーカーのテクロックは、上述したベトナムのFPTとともに、測定した数値をクラウドで管理できる業界初のクラウドサービスを開発した。同社は国内市場にとどまらず、海外への販路開拓も見据えている。

デジタル分野におけるルール形成

急速なデジタル化の進展を背景に、通商ルール形成の分野では、ECに関する国際ルール整備への機運が高まりをみせている。世界貿易機関(WTO)に加盟する日本、米国、EUなど71カ国・地域は2017年末の閣僚会合において、将来のWTO交渉立ち上げに向けた検討作業を開始する共同声明を発表した。2018年3月の第1回会合以降、中国なども加わり、立場を異にする米国、EU、中国、そして日本など主要国がそろってECルールの検討作業に参加している(注10)。

主要国のデジタル貿易政策を概観すると、世界で最もデジタル貿易の自由化を推進している国の1つが米国である。GAFAなど競争力の高いデジタル企業を多く抱える米国は、2000年代初めから自由貿易協定(FTA)を通じてデジタル貿易の自由化を進めてきた。他国へのマーケットアクセスを確保することが、自国企業の国外展開で重要となる。2004年1月に発効した米シンガポールFTA、米チリFTAで初めてECを独立した章として取り扱って以降、現在まで全てのFTAにEC章を設ける。WTOへの提案でも、越境データ移動に対して差別的な障害を設けないことなど、従来のFTAにはあまりなかった項目について国際的な議論が必要と主張する。

一方、EUの対外的なデジタル貿易自由化に対する姿勢は米国ほど積極的ではなく、域内の市場統合を優先する。域内デジタル企業の競争力低下に危機感を抱くEUは、貿易ルールにとどまらず、競争政策や税制改正など非貿易分野でもデジタル関連ルール形成を積極的に進める。2018年3月には欧州委員会が「デジタル課税」に関する新提案を公表した。域内で「顕著なデジタル・プレゼンス」を示す企業に対し、将来的な法人税課税の道を開きつつ、当面の暫定案として、特定のオンライン上の活動から得られた売り上げに3%を課税する売上税を導入する。このほか、EUは既存の競争法の厳格な適用を通じ、米国などのデジタル大手に一定の制約を課す試みを進めている(本特集「デジタル国際ルールめぐり米欧の考え方に大差」参照)。

中国は、外資に対しデジタル貿易関連の国内規制を幅広い分野で課している。欧州国際政治経済研究所(ECIPE)が行った各国のデジタル貿易関連規制の検証によると、中国は対象64カ国中、最も規制の厳しい国とされた。中国の規制は多岐にわたるが、例えば、データの取り扱いに関し2017年6月に施行されたサイバーセキュリティー法は、「重要情報インフラの運営者」が収集した個人情報や「重要な」データの国内保存を定めるほか、国外移管の際のセキュリティー評価を義務付ける。こうしたデジタル保護主義とも言われる政策の下、アリババやテンセントなどが世界の主要デジタル企業へと成長を遂げた。

日本は、TPP交渉への参加を機に、自由化水準の高いルール形成を積極化させた。モンゴル(2016年6月発効)やEU(2018年7月署名)とのFTAにおいても、TPPに見られた規定が一部盛り込まれている。WTOに対しても、越境データ移動の自由やデータ・ローカリゼーションの禁止、ソースコードの開示要求禁止など高いレベルの自由化提案を行う(本特集「FTAをとおして進むECルール作り」参照)。

以上みてきたように、デジタル貿易政策をめぐる主要各国の立場には隔たりが大きい。中でも米国は2018年に入り、1962年通商拡大法第232条および1974年通商法第301条に基づく貿易制限措置を相次ぎ発動し、中国をはじめ各国による対抗措置を招いている。ただ、その米国も、上述したWTOにおけるECルールの検討作業には参加する。貿易摩擦が激しさを増す状況にあってなお、立場を異にする主要国が同じ枠組みで検討を行う事実は、多国間によるECルール作りの意義を示すものといえよう。


注1:
「2018年版ジェトロ世界貿易投資報告」34~43ページ参照。
注2:
次の4項目に含まれる品目をデジタル関連財と定義。(1)OECD定義の情報通信技術財、(2)ジェトロ定義の「IT関連製品」、(3)電子情報技術産業協会(JEITA)の電子工業輸出品目、(4)その他、主要なデジタル技術のうち、貿易統計から計測可能な品目(産業用ロボット、3Dプリンターなど、光ファイバーおよび同ケーブル)。
注3:
UNCTADの「ICTサービス貿易」の定義を参考に、WTOのサービス貿易統計からデータの取れる「通信・コンピュータ・情報サービス貿易」で定義。
注4:
国境を越えたEC金額。企業対消費者(B2C)が対象。なお、OECDでは、「取引されるモノ・サービスや支払い、配送形態にかかわらず、コンピュータ・ネットワーク上で受発注が行われる取引」をECと定義。
注5:
実際に使用された越境インターネット帯域幅で定義。ただ、データの制約により、金銭の授受を伴う「取引」に該当しない私的な通信も含むこと、2国間の通信を単に中継するインターネット・ハブの通信量が多くなること、などに留意。
注6:
1.OECDが定義する情報通信技術業種に加え、2.前出のデジタル関連財に対応する業種で定義。なお、グリーンフィールド投資については、前述の定義を勘案しつつ、英ファイナンシャル・タイムズのデータベース「fDi Markets」の分類に基づく23業種を対象とした。
注7:
「2018年版ジェトロ世界貿易投資報告」67~79ページ参照。
注8:
他方、非デジタル企業によるデジタル関連企業を対象としたクロスボーダーM&Aは世界的に拡大した。詳細は本特集「デジタル関連企業を対象としたクロスボーダーM&Aが活発化」参照。
注9:
アリババの小売事業(2018年3月末までの1年間の売上高)の85.8%、テンセントの全売り上げ(2017年)の96.6%は国内となっている(ジェトロ調べ)。
注10:
「2018年版ジェトロ世界貿易投資報告」111~119ページ参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課長
米山 洋(よねやま ひろし)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ北海道、ジェトロ・マニラ事務所(調査担当)、海外調査部国際経済課 課長代理などを経て、2017年4月より現職。共著『南進する中国とASEANへの影響』、『ASEAN経済共同体』、『FTAガイドブック2014』、『分業するアジア』(ジェトロ)など。

ご質問・お問い合わせ