特集:デジタル化がつなぐ国際経済FTAをとおして進むECルール作り
先進的に自由化を目指す日本

2018年10月12日

ECに関する議論が数多く見受けられるようになった。ビジネス界では、新たな販売チャネルとして定着しつつあるECの効率的な活用など、EC戦略の議論が多い。各国・地域でEC市場規模に関するさまざまな指標が発表されるが、ほぼ全ての指標が右肩上がりである。そして、EC市場の拡大に伴い、貿易ルール形成の場でも議論が活発化している。

2018年版ジェトロ世界貿易投資報告」は「デジタル化」をキーワードとし、2018年に開始された有志国間におけるECのルール形成に関する議論や、米国、EU、中国などのデジタル貿易政策を検証した。本稿では、増加するECを規定する世界のFTAのトレンド、FTAなどからみる日本のデジタル貿易政策について検討を深める。

FTAのEC関連ルールが増加

FTAの数は2000年代から2010年代前半にかけて急増した。直近数年では新たに発効したFTAは減少しているものの、2018年現在、約300の発効済みFTAが世界に存在し、物品・サービス貿易や投資にとどまらずさまざまなルールを規定する。ECもその1つだ。ECに関する章・条文を含むFTAも年々増加している。米州開発銀行(IDB)と「貿易と持続可能な開発のための国際センター(ICTSD)」の研究(注1)によると、2001年から2016年の間にWTOに通報されたFTA(発効済みのほか、署名済みなどを含む)のうち、ECやデジタル貿易を明示する章や条文を含むFTAは90に上る。また、WTO経済調査・統計局の研究(注2)によると、2017年5月までにWTOに通報された275の発効済みFTAのうち、ECに関するルールを規定するFTAは75だった。ECのルールの範囲をいかに定義するかで数は変わるが、全世界の約4分の1から3分の1程度のFTAで関連ルールが規定されていることが分かる。

ECの規定を含むFTAは、年々その件数が増加している(図1参照)。関連ルールを規定するFTAの数だけでなく、その内容もより密なものになっている。前出のWTO経済調査・統計局の研究によると、各FTAのECに関する条文の数は増加傾向にある。これまでで最も多くの条文を規定する発効済みFTAはメキシコ、チリ、ペルー、コロンビアが締結する太平洋同盟だ。

図1:EC章や条文を設けるFTAの数の推移
2000年以降、WTOに通報されたFTAの数と、そのうちECの条文のあるFTA。FTAの数が増加するにつれて、ECの条文を含むECも増加していることがわかる。2016年時点でECに関する条文を含むFTAは75件だった。
資料:
"Provisions on Electronic Commere in Regional Trade Agreements". (World Trade Organization Economic Research and Statistics Division、2017年)から作成

増加傾向をたどるFTAのECルールだが、その広がりには地域差がある。FTAを通して積極的に関連ルールを規定するのは、2001年に発効したヨルダンとのFTA以降、ECのルールをFTAに設けてきた米国のほか、オーストラリア、シンガポールや、これらに続いたEU、日本、韓国、コロンビアなどが挙げられる。地域的にみると、アジア大洋州の国々はFTAを通したECルールの制定に積極的な一方で、サブサハラアフリカの国々にはEC章を設けたFTAを持つ国は1つもない。

WTO経済調査・統計局の研究で確認された75のECを規定する発効済みFTAの条文内容をみると、ECの促進(66)、協力(63)、定義、電子的送信に対する課税(ともに56)が50を超えた(図2参照)。2000年代初めからFTAに盛り込まれた電子認証(48)や貿易文書の電子化(47)のほか、ECの利用促進を促す環境整備に重要な消費者保護(49)、個人情報保護(44)なども半数以上で見られる。

図2:世界のFTAにおける主なECに関するルール
資料:
"Provisions on Electronic Commere in Regional Trade Agreements". (World Trade Organization Economic Research and Statistics Division、2017年)から作成 "

FTAにおけるECのルール制定の意義

各国・地域がFTAを通してECに関するルールを規定する動機はさまざまだが、本稿では1)ECの促進、2)EC関連ルールの国際的な浸透、3)外国からの投資促進について検証する。

FTAでECに関するルールを規定する大きな理由の1つがECの促進だ。各国・地域は締約国間で適切と思われるルール整備を行うことで、消費者や企業によるさらなる利用を促し、経済発展を目指す。例えば、2010年1月に発効したASEAN・オーストラリア・ニュージーランドFTA(AANZFTA)では、第10章1条で同FTAのEC章の目的を、1)締約国間におけるECの促進、2)ECの進展に関する締約国間の協力の強化、3)世界におけるEC活用の促進、の3点と明示している。

もう1つの理由は、FTAをとおして自国に有利なルールの国際的な浸透を図ることにある。特に米国は、2005年1月に発効した米国・チリFTA、ならびに米国・シンガポールFTA以降、全てのFTAにEC章を設け、電子的送信に対する関税不賦課、デジタルプロダクトの無差別待遇などのルール形成を進めてきた(ECにおける米国のFTA戦略は「2018年版ジェトロ世界貿易投資報告」を参照)。1つのFTAが他のFTAの内容に影響を及ぼすことは少なくない。日本においても、モンゴルとのFTAでは自由化水準の高い規定が設けられたが、この内容は「TPPの電子商取引章に関する議論を踏まえ」たものだった(2017年版不公正貿易報告書第II部補論3「電子商取引」p.544)。

ECの活用が欧米や中国ほど進んでいない途上国は、FTAで国内市場の自由化水準の高さをアピールすることで、外資の参入を期待する。FTAの中でも特に自由化の水準が高い「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(TPP11)」の加盟国には、途上国も含まれ、国内規制の改正が必要とされる国々もある。これらの国々がTPP11のEC章に同意した理由について、アジア開発銀行のレポート(注3)は外資の取り込みを挙げる。途上国は先進国に比べると比較的、ECを含むデジタル貿易に関してルール整備が遅れている。世界15カ国、475人のインターネット関連の投資家を対象に行われたアンケート調査(注4)によると、75%の投資家が規制の不透明な国への投資に後ろ向きという。TPP11のECに関するルールには、自由化の水準を高めるために、政府や当局が課すことのできる規制が必要以上に企業の負荷とならないよう、また差別的にならないように定める項目が多い。これらの項目により、各国が課すことのできる規制の厳しさに上限が設けられた。関連ルールの予見可能性が高まることで、将来的な自由化の水準が担保されることは、ECなどデジタル貿易関連の投資を行う上では重要な要素となる。

日本のFTAにおけるEC

日本はこれまでに14の2国間FTA、1つの広域FTAを発効させているほか、2018年にはTPP11と日本EU経済連携協定(EPA)に署名した。また、ECについてWTOでも議論の必要性が論じられている中、日本はこれまでに3つの提案を提出している。ECに関するルールを規定する日本のFTA、ならびにWTOへの提案を検証し、日本のデジタル貿易政策を考える。

2002年11月に発効した日本・シンガポールFTAは、日本にとって初めてのFTAだった。同FTAにはEC章は存在しないものの、第5章にて貿易取引文書の電子化を取り扱っている。全5条からなる比較的短い同章は、ルールを規定することよりも、貿易文書の電子化について情報を交換し合うこと、促進に向けて協力していくことなど電子化の促進に焦点が置かれている。シンガポールは、2001年に発効したニュージーランドとのFTAにて既に貿易取引文書の電子化をその条文で取り扱っており、本協定の文書の電子化に関する章も、シンガポールの関心が高かったと推測される。シンガポールは1年後の2003年に、世界で初めてEC章を設けたFTAをオーストラリアとの間で発効させた。一方、日本は2005年にメキシコと、2006年にマレーシアと、そして2007年にチリとFTAを結んでいるが、同様の章は見られない。2008年までに日本が結んだ9つのFTAのうち、貿易取引文書の電子化を扱った章はシンガポール、タイ(2007年11月発効)、フィリピン(2008年12月)に限られていた。

日本のFTAで初めてEC章を設けたのが、2009年9月に発効したスイスとのFTAだ。その後に発効したベトナム(2009年10月)、インド(2011年8月)、ペルー(2012年3月)とのFTAでは見られなかったものの、2015年1月に発効したオーストラリアとのFTA以降、日モンゴルFTA(2016年6月)、TPP11(2018年3月署名、元となるTPPは2016年2月署名)にてEC章を設けているほか、日EU・EPAでも関連ルールが規定されている(注5)。TPP11が最も広範に関連ルールをカバーするものの、スイスやオーストラリアとのFTAでも比較的幅広い分野についてのルールが規定されていることが分かる(表参照)。

表:日本のFTAならびにWTOへの提案におけるECに関するルール
項目 スイス
2009年
8月
オーストラリア
2015年
1月
モンゴル
2016年8月
TPP11
2018年
3月署名
EU
2018年
7月署名
WTO(1回目)
2016年
7月
WTO(3回目)
2018年
4月
定義
(注(3))
適用範囲及び一般規定(重要性の確認)
電子的な送信に対する関税不賦課
デジタル・プロダクトの無差別待遇
国内の電子的な取引の法的枠組み制定
電子認証/電子署名
オンラインの消費者の保護
個人情報の保護
貿易に係る文書の電子化
インターネットへの接続および
インターネット利用に関する原則
情報の電子的手段による国境を超える移転の自由
インターネットの相互接続料の分担交渉の認可(注(4))
コンピュータ関連設備の設置要求の禁止
要求されていない商業上のメッセージに対する措置
協力
サイバーセキュリティに係る事項に関する協力
ソースコード開示要求の禁止
紛争解決
マーケットアクセス
民間部門主導によるECの発展
例外
サービスの無差別待遇
Eコマースに関する小委員会
(注(3))
電子的な手段による販売の事前の許可を不要とする原則
電子的手段による契約の締結
注1:
年月は発行時期あるいは提案の提出時期を指す。項目名はTPPを基本としているが、内容を反映させるため項目によっては修正を加えている。
注2:
表内の「〇」は、該当項目が各FTAにて規定されていることを意味する。「△」は再交渉が予定されている項目。
注3:
日EU・EPAは同協定第8章サービスの貿易、投資の自由化および電子商取引章の、第F節電子商取引を参照。また、同協定における「定義」の一部ならびに「小委員会」は同章第A節一般規定に規定されており、他のEコマースに関する規定と記載されている箇所が異なる。
注4:
「インターネットの相互接続料の分担交渉の認可」は、あるインターネットサービス提供者が、ほかの締約国でインターネットの相互接続を検討する際、該当国の同業他社と政治的な障害なしに商業ベースで交渉できるようにすべきであることを認識する項目。
注5:
WTOへの提案は、既存FTAに該当する項目のみ記載。
資料:
日本の各FTA協定ならびにWTOへの提案(JOB/GC/180、JOB/GC/100)から作成

5つのFTAで共通する項目は定義、適用範囲および一般規定(基本原則)、電子的な送信に対する関税不賦課、国内の電子的な取引の枠組み、電子認証および電子署名、オンラインの消費者の保護、個人情報の保護、協力の8項目だ。

日本のFTAのEC章では一般規定や基本原則にて、締約国同士でECの重要性を認識する旨が記載されている。例えば、日オーストラリアFTA第13章1条では、

  1. 両締約国は、電子商取引によって経済的な成長及び機会がもたらされることを認識し、また、電子商取引の利用及び発展に対する不必要な障害を回避することの重要性を認識する。
  2. この章は、電子商取引の利用に対する信用及び信頼の環境を醸成することに寄与すること、両締約国間における電子商取引を促進すること並びに世界的に電子商取引の一層広範な利用を促進することを目的とする。

とある。各協定で使用される言語などに違いはあるものの、1)ECが経済成長をもたらすことを認識する、2)ECの利用のための環境整備、3)ECの利用促進を目指す、の3点が規定される。また、TPP11を除いた4つのFTAで、ECの利用に際して使用される機器などは問わない「技術的中立性の原則」が確認されている。

日本のFTAに共通するもう1つのルールが、電子的な送信に対する関税不賦課の原則で、同原則は、WTOの閣僚会議ごとに2年間の適用が延長されているが、これは一時的な措置である。いずれのFTAでも現行の関税不賦課を確認するほか、日スイスFTAでは両国が、同原則がWTOにて拘束力を持つものとなるよう協力する、とも規定される。

ECの利用を促す環境を作る上で重要となるのがオンライン消費者の保護、個人情報の保護である。表のとおり、5つのFTAではいずれも消費者保護と個人情報保護に関する条文がある。日オーストラリアFTA、TPP11では両者が別々の条項とされる一方で、日スイスFTA、日モンゴルFTA、日EU・EPAはどちらも「消費者保護」にまとめられている。特に近年、国際的な議論で注目される個人情報保護に関する条文をみると、日オーストラリア(第13章8条1)、日モンゴル(第9章6条3)、そしてTPP(第14章8条2)では、「個人情報を保護するための措置を採用し、又は維持する(日モンゴルFTA第9章6条3)」と規定される。そのほかもFTAによって多少の表現の違いが見られる一方で、いずれのFTAにも個人情報保護の国内におけるルール整備に関する規定が設けられている。

高い自由化を目指す近年の日本のFTA

日本のFTAに共通する前述のルールは世界のFTAでも多く見られる(図2参照)一方で、2016年以降の日本のFTAは、世界でも比較的数の少ないルールを設ける。まず日モンゴルFTA、TPP11、日EU・EPAの全てに共通してみられるのは「要求されていない商業上のメッセージ(いわゆるスパムメール)に対する措置」と「ソースコード開示要求の禁止」の2つだ。消費者やビジネスによるEC活用促進の観点から、スパムメールに対する措置に関しては世界各国・地域の関心が高い。TPP11や日EU・EPAでは、基本的な措置を設けることに加え、それらのルールを順守しない者に対する措置(TPP第14章14条2)、あるいは順守を求める手段(日EU・EPA第8章第F節79条3)を定める、とも規定する。また、電子ソフトウエアの基となるソースコードの開示要求の禁止は、ある締約国の企業が他の締約国でソフトウエアの販売や利用をする際に、機密情報に当たるソースコードの移転、あるいはコードへのアクセスを条件とすることを原則的に禁止する項目である。締約国政府の権限を制限する同項目は、世界のFTAではほとんど前例のないルールだ。ソースコードに関する規定は、日モンゴルFTAやTPP11のほか、日EU・EPAでも設けられた。

ソースコードに関する規律とともに「TPP3原則」と称されたコンピュータ関連設備の設置要求の禁止と越境データ移動の自由についても、世界のFTAでは数少ない一方で、日本のFTAでは規定がある。ソースコードに関するルールと同様、どちらの規定も締約国政府の権限を制限する規定だが、ビジネスコストの削減やデジタル貿易の円滑化など、ビジネスの観点からみると重要性の高いルールといえる。コンピュータ関連設備の設置要求の禁止は日モンゴルFTAとTPP11にて規定されており、個人情報を含む越境データ移動についてはTPP11でその自由化が規定されている。日EU・EPAは、第8章第F節81条「データの自由な流通」にて、同EPAの発効から3年以内に、「データの自由な流通に関する規定をこの協定に含めることの必要性について再評価する」と定める。同EPA署名の際に、日本とEUは個人データ移転の枠組み構築の最終合意に至った(詳しくは2018年7月18日ビジネス短信参照)。今後の両国・地域間におけるデータ流通の実績などによっては、将来的に日EU・EPAでも越境データ移動の自由化が協定に盛り込まれる可能性はある。

今後の日本のFTAと日本企業・市場への影響

日本がWTOに対し、国際的な議論が必要とした提案をみると、TPP3原則も候補として挙げられており、日本政府は引き続きこれらの項目の国際的なルール形成に高い関心を寄せている。今後のFTAにおいても、日スイスFTAから継続してみられる項目に加え、自由化水準の高い項目が規定されるFTAが増加する可能性は大いにある。

ビジネスの観点からみて高い自由化を定めるこれらの規定は、各国・地域市場における公正な競争環境(レベル・プレーングフィールド)の確保を目的としたものである。当該国で公正に競争が行われれば、企業の国籍を問わず平等にチャンスがもたらされる。ECを活用した海外での販売やサービスの提供を行っている、あるいは今後の検討を図る企業にとっては、参入障壁が下がりルールの予見可能性が高まるため、より競争しやすい環境がもたらされるだろう。

他方、外国企業の日本市場への参入が増加する可能性もある。既に米国を本拠とするアマゾンが日本のEC市場において年々シェアを伸ばすほか、フェイスブックやその傘下のインスタグラム、ツイッターなどは日本市場で多くの利用者を確保する。日本市場におけるレベル・プレーングフィールドが確保されることで、外資系企業による日本進出が活発化することも十分考えられる。今後は、新たな販売チャネルであるECを使ってどのように海外販売・進出を拡大するかとともに、国内においてどのように外資系企業と渡り合っていくのかを検討することも必要となるだろう。


注1:
Wu, Mark. 2017. Digital Trade-Related Provisions in Regional Trade Agreements: Existing Models and Lessons for the Multilateral Trade System. RTA Exchange. Geneva. International Centre for Trade and Sustainable Development [ICTSD] and the Inter-American Development Bank [IDB].
注2
Monteiro, Jose-Antonio, and Teh, Robert. 2017. Provisions on Electronic Commerce in Regional Trade Agreements. WTO Working Paper ERSD-2017-11. Geneva. World Trade Organization Economic Research and Statistics Division.
注3
Elms, D. and M. H. Nguyen. 2017. Trans-Pacific Partnership Rules for Digital Trade in Asia. ADBI Working Paper Series 746. Tokyo: Asian Development Bank Institute.
注4:
Merle, Matthew C. Le Merle, et el. 2016. The Impact of Internet Regulation on Investment 2016. San Francisco. Fifth Era.
注5:
EUのFTAでは、ECを単独の章として扱うことは少なく、日EU・EPAのようにサービス貿易の章にECに関する条文が設けられる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
長﨑 勇太(ながさき ゆうた)
2016年、ジェトロ入構。同年4月より現職。

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