大阪・関西万博の海外ビジネス展開に向けた利活用状況を振り返る

2026年5月11日

大阪・関西万博は2025年4月から10月の半年間にわたり開催され、さまざまな分野で成果が生まれ、大盛況のうちに幕を閉じた。筆者は開幕の半年前にジェトロ大阪本部に着任し、万博会期の前後を通じて、万博を利活用したビジネス成果の創出に携わってきた。本稿では、ジェトロの現場担当者として一連の取り組みを振り返り、特に日本企業の海外展開支援という切り口で報告する。

国際ビジネス促進への利活用に沸いた大阪・関西万博

大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、2025年4月13日~10月13日の184日間にわたって開催された。158カ国・地域と7国際機関が出展し、総計2,558万人が来場して成功裏に幕を閉じた。経済産業省によると、大阪・関西における経済波及効果は3兆6,000億円に上り、万博期間中に国内外から訪れた観光客によって消費・生産ともに潤った(2025年12月25日開催の経済産業省「第1回 2025年日本国際博覧会成果検証委員会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」資料)。

そのような中、今次万博では「国際ビジネス振興における活用」という観点での取り組みも盛んに行われた。もともと万博は、人類の進歩や未来社会を実際に体験し学ぶ教育の場、あるいは国際交流の場として位置付けられ、ビジネスが前面に出ることはなかった。しかし、2021年に開催されたドバイ万博では、主催者が万博を「ビジネス創出の機会」と位置付け、ドバイ商工会議所や参加国と連携して会期中に積極的にビジネスイベントを展開したことが参加国から高く評価された。これを機に、万博を国際ビジネスに利活用しようという流れが生まれた。

この流れは大阪・関西万博にも継承され、参加国・地域が万博を国際ビジネスに積極的に利活用する動きがみられた。筆者が会場や関連イベントで見聞きした限り、主な取り組みとして、a.パビリオン内にセミナーなどのイベントや商談用のスペースを設置する、b.母国からビジネスデレゲーションを招致し、万博期間中にビジネスイベントを開催する、c.会期前後に母国でのイベント開催を併せて実施する、といった動きが確認できた。具体的な取り組みは次表(表1参照)にまとめた。

表1:海外パビリオンによる主な取り組み事例
国・地域名 主な取り組み内容
マレーシア 当初からビジネス組成の場として位置付け、毎週のようにセミナーや商談会を開催。大阪・関西万博は前回のドバイ万博を上回る成約を生み出せたと発表。
ポーランド 2024年11月にポーランドに日本企業のミッション団を招致。それに続き、2025年5月にポーランド貿易フォーラム、9月に同投資フォーラムを開催。往来の数と頻度を増やすことで、成果創出につなげようとした。
ブルガリア テーマウィークに合わせて該当する産業(ヘルスケア、教育など)のミッション団を複数回招致。パビリオン内でビジネスセミナーやネットワーキング交流会を開催。
イタリア 州別投資セミナー開催のほか、万博前から仕込んでいた案件をプレイアップする場として、自国パビリオンを活用。

出所:大阪・関西万博における各国・地域のパビリオン関係者よりジェトロがヒアリング

このうち、最も華々しい取り組みと成果を生み出していたのはマレーシアだ。マレーシア館は会期中、同国の関係省庁や政府機関、地方政府が所掌分野をテーマにしたさまざまなイベントを週替わりで企画・運営した。マレーシア投資貿易産業省(MITI)は2025年10月13日、万博を通じて当初目標の130億リンギ(約4,680億円、1リンギ=約36円)を大幅に上回る244億5,000万リンギ(約8,802億円)の潜在的な貿易・投資機会を獲得したと発表した。半導体や再生可能エネルギー、グリーン技術など同国の重点分野に関する70件超の覚書が締結され、セミナーや商談会といった多数のビジネスイベントの開催が功を奏したと強調した(2025年10月30日付ビジネス短信参照)。パビリオン関係者に筆者がヒアリングしたところ、マレーシア館は商談会場用として設計されており、開幕前から万博をビジネスの場と想定していたという。毎週のように本国からビジネスミッション団が来阪し、火曜日は商談会、木曜日はセミナーというルーティンでイベントを運営していた。「これだけ頻繁にビジネスイベントを行っている国は他にないと自負している」と述べ、自信を示した。


万博会期中のマレーシアビジネスイベントの様子(ジェトロ撮影)

日本企業の利活用の動きはマチマチ

これに対し、日本企業の動きはどうだったか。大阪商工会議所が2025年10月に会員企業を対象に実施した「大阪・関西万博に関する会員企業アンケート」結果PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.72MB)(2025年12月19日大阪商工会議所発表)によると、回答234社のうち約半数が「万博が開催されたことで企業活動に大いに効果があった、効果があった」と回答した。それらの企業にその理由を聞いたところ、「海外の最新のビジネス動向を情報収集できた」企業が11.7%、「海外における新規取引先・販路・協業先の開拓につながった」企業は5.4%と少数にとどまった。一方、「自社や製品・サービスのPRにつながった」(46.8%)、「人材育成、従業員のモチベーション向上につながった」(45.9%)が上位を占め、海外ビジネスへの利活用の意識や成果は相対的に大きくなかった。筆者が海外ビジネスに取り組む関西企業にヒアリングしたところ、海外ビジネスに生かそうという動きは、企業規模を問わず濃淡があった。多くの企業は、大阪・関西万博における海外ビジネスイベント情報について知らなかった、あるいは大阪・関西万博に自社製品・サービスを展示したが、海外ビジネスに利活用しようという発想がなかった、と回答した。他方で、少数ながら万博をうまく活用している事例もみられた(表2参照)。

表2:大阪・関西企業による海外ビジネス展開に向けた万博の利活用事例
企業概要 取り組み内容
大手農機メーカーA 同社が博覧会協会に派遣している出向者を通じて海外要人の来阪情報を事前に入手し、万博訪問のついでに日本本社(大阪)に立ち寄ってもらえるようアレンジした。
大手計測機器メーカーB 大阪・関西万博をフックに既存顧客先にインセンティブツアーを提案。万博の前後に自社工場を案内し、製品などへの理解を深めてもらう取り組みを実施(顧客による万博パビリオン訪問もアレンジ)。
中小工具メーカーC 海外ビジネスイベントに多数参加し、現地ビジネス関係者と商談して自社製品を売り込む。いくつかの案件はサンプル発送に至っている。同社担当者によると、海外出張予算がない中、市内交通費で行ける範囲で海外企業との商談ができるまたとない機会として、大変有効に活用できているという。
中小環境機器メーカーD 万博を契機に、これまでやり取りを行っていた海外企業とMOUを締結し、プレイアップを実施。
中小機械部品商社E 万博の海外イベントに、やり取りが途絶えていた既存の商談先企業が参加していたため、商談機会を復活させることができた。

出所:在関西企業へのジェトロのヒアリング結果に基づく


外国政府主催ビジネスイベントにおける企業交流会の様子(ジェトロ撮影)

ジェトロは万博会期中の海外ビジネス振興に注力

ジェトロは、大阪・関西万博を日本企業の海外ビジネス展開に最大限つなげられるよう、会期前から準備を進め、複数の事業を通じて海外企業とのマッチング機会を提供した(表3参照)。

表3:大阪・関西万博会期中にジェトロが取り組んだ主なマッチング事業・イベント
案件名 期間 内容
大阪海外ビジネスワンストップ窓口 2024年4月1日~2026年3月31日 ワンストップ窓口の対応件数:210件
要人セミナー等主催・共催件数:26 件
メルマガ等での広報協力件数:114 件
Global Healthcare Challenge 2025年6月25日~26日 国内外のスタートアップによるコンテストやカンファレンス、交流会などを、万博のヘルスケアウィークに連動するかたちで実施。来場者数(オンライン含む):383 名、ピッチコンテスト:9 カ国20 社規模。
Global Startup EXPO 2025 2025年9月17日~18日 世界中からスタートアップ関係者が参加し、さまざまなビジネスマッチングの機会を設けた。

出所:ジェトロ

日本企業の海外展開に向けたビジネス機会の創出という点で最も効果的であったのは、ジェトロが事務局を務めた「大阪海外ビジネスワンストップ窓口」だ。同窓口は、大阪府、大阪市、大阪商工会議所、関西経済連合会、関西経済同友会、大阪産業局、近畿経済産業局、中小機構近畿本部、ジェトロ大阪本部によって構成された。窓口では、各国大使館・領事館、各国州政府・市政府、各国商工会議所などに対し、ビジネスイベント開催支援、企業訪問のアレンジ、視察先の情報提供などを行った。また、単なる相談対応を行うだけでなく、外国政府などに働きかけイベントも開催。ジェトロ大阪本部は、モルドバ・ルーマニア、スロベニア、スロバキア企業団の来阪に合わせて、セミナーと日本企業との商談会を独自に開催した。


ジェトロ大阪本部主催のビジネスセミナー・マッチングイベント(ジェトロ撮影)

また、個別マッチングのアレンジ・支援も行った。ブラジル・ミナスジェライス州政府からの依頼を受け、同州ミッション団の和歌山県訪問と企業交流会の開催につなげた。イベントに参加した和歌山県のニットメーカーは、その後、ブラジル企業から生地の見積もり依頼を受けた。ベトナム・ハイフォン市からは企業視察の要望を受け、ベトナム企業ミッション団による大阪市内企業の訪問をアレンジした。訪問団を受け入れた企業には、参加したベトナム企業から後日引き合いがあった。

このほか、万博会期中のビジネスイベントには、ジェトロ大阪本部の担当者が伴走型支援対象企業とともに参加し、外国企業との接触や売り込みを現場でサポートするなど、商談組成を支援した。

一連の取り組み結果をまとめたのが次の表(表4参照)だ。

表4:ジェトロによる万博会期中のビジネスイベントを通じた主な個別マッチング事例
時期 外国側 日本側 内容 結果
2025年
5月
マレーシア 大阪府企業 パビリオンでジェトロ支援先企業D社(化粧品・健康食品)をマレーシア企業2社に引き合わせ。 輸出や製造委託の可能性について商談。
2025年
6月
ブラジル・ミナスジェライス州代表団 和歌山県企業 同州ミッション団による和歌山県のテキスタイル関連企業への視察をアレンジ。 現地ニットメーカーとの交流をきっかけに、生地見積もり依頼が寄せられた。
2025年
6月
ブルガリア・アパレル・ファッション団 大阪府企業 ブルガリアパビリオン主催イベントにて、ジェトロ担当者が支援先企業A社(大阪市)とブルガリア企業B社との引き合わせを支援。その結果、B社がA社の大阪本社を訪問し、サンプル提供につながった。 B社製品へのA社生地採用について商談が行われた。
2025年
6月
ベトナム・ハイフォン市科学技術局・企業視察団 大阪府企業 同市のミッション団がジェトロ支援先企業C社(拠点設立案件。鋳造メーカー)を訪問。 C社はハイズオン省(ハイフォン市と統合予定)に進出予定であるため、C社の進出後のケア(進出日系企業支援)につなげることができた。

出所:ジェトロによる支援・サポート事例

次回万博に向けては会期前からの入念な準備が肝要

筆者は万博会期中、会場内外で開催された50以上の海外ビジネスイベントに参加した。既述のとおり、海外側、特に欧州や東南アジアのパビリオンは、会期中に成果を上げるべく、会期前からさまざまな仕込みを進めていた。戦略的な事前準備が実を結び、着実に成果を積み上げていた印象だ。一方、日本国内では、開催への批判や「開会式までに完工できるのか」といったネガティブな話題が中心だった。このため、日本企業におけるビジネスでの利活用の機運醸成は出遅れた感が否めない。また、万博のビジネスイベントでは、来日している外国企業側が対日輸出を模索し、日本側も海外輸出を志向するため、双方のニーズが合わないケースが多かった。他方で、一般的な展示会で出展企業に対して売り込みを行うのと同様に、妥協点や双方にとってのメリットを見いだし、見積もり依頼やサンプル輸出につなげているケースもあった。そこは企業側の工夫やノウハウ次第であると感じた。こうした企業は、万博が日本側・海外側双方の売り込みの場であることを理由にあきらめることはなかった。高額な海外出張旅費をかけずに外国企業と接触し、ニーズをヒアリングできるまたとない機会と捉えて、積極的にアプローチし商機を見いだそうとしていた。

大阪・関西万博で得られた貴重な体験・経験・ノウハウは、2027年のセルビアのベオグラード万博、また2030年のサウジアラビアのリヤド万博でも生かすことができる。日本企業の海外展開における万博のさらなる利活用に向け、ジェトロは機運醸成も含めて、今後もしっかりと準備を進めていく。ジェトロ大阪本部では既に動き始めている。2026年2月12日には、在日セルビア大使館との共催で、2027年に開催される「ベオグラード国際博覧会」に関するセミナーを大阪で実施した。同万博の開催計画やセルビアのビジネス環境、日本館の設置計画について情報提供・発信を行った(2026年2月20日付ビジネス短信参照)。続いて3月6日には、海外ビジネスイベントで外国企業との接触を物おじせずに接触できるよう、「ビジネス英会話講座」を開催した。

ジェトロは今後も万博関連事業を継続して実施していく予定だ。海外ビジネス展開に向け万博を利活用したい場合は、まずはジェトロにご相談いただきたい。

執筆者紹介
ジェトロ大阪本部 総括課長代理
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所、総務部秘書室、ジェトロ福井を経て、2024年10月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。