バングラデシュ総選挙とBNP新政権に期待される投資環境改善
2026年2月24日
バングラデシュでは、2026年2月12日に総選挙(定数350、直接選出300)が行われた。その結果、バングラデシュ民族主義党(BNP)が3分の2を超える209議席(連合で212議席)を獲得し、新政権を率いることになった(注1)。2024年8月の政変後に樹立された暫定政権は役目を終え、政党政治が復活する。本稿では、総選挙直後の時点で得られた情報を基に、同日実施された国民投票の結果を含めて総選挙の結果および経済政策の見通しについて概説する。
17年ぶりの公正かつ自由な総選挙
バングラデシュでは、2008年を最後に、毎回の選挙が民主的な正当性に欠けるとして批判されてきた。2008年12月に行われた総選挙では、軍の支援を受けた非党派の暫定(ケアーテーカー)政府が実施任務を負い、87%の高い投票率を得て、アワミ連盟(AL)政権の誕生をもたらした。しかし政権を率いたシェイク・ハシナ首相(当時)は2011年、憲法を改正してケアーテーカー政府制度を廃止し、政権与党が選挙を管理する仕組みに変更した。これにより透明性は失われ、2014年、2018年、2024年の選挙で、野党がボイコットをするなど、組織的な不正が疑われる事案で大敗したりする事態に陥った。
今回の総選挙は事実上、有権者が約17年ぶりに自らの政治的意思を表明できる機会だった。投票権は18歳以上に付与されるため(注2)、全体の約3分の1を占める18~35歳の有権者にとって初めて経験する重要なイベントだったといえる。登録有権者は1億2,769万5,183人、立候補した1,981人が各選挙区で計300議席(注3)を争う構図となった。


(ジェトロ撮影)
直前に行われた世論調査(注4)では、「既に投票先を決めている」(74.2%)と述べた回答者の中で、支持率は「BNPの連合」が52.8%、「ジャマティ・イスラミ党(JI)と国民市民党(NCP)の連合」が31.0%、「無所属の候補」が1.5%、「言えない」が13.2%だった。前政権を率い2025年5月に政治活動を禁止されたALの支持者は、「JIとNCPの連合」(13.2%)」よりも「BNPの連合」(32.9%)を支持する傾向にあり、BNP優勢の一因と捉えられていた。しかし投票先を決めていない人や明かさない人も一定の割合存在し、選挙情勢は最後まで見通しづらかった。ふたを開けると、BNPが大勝した。
| 政党名 | 獲得議席数 | 議席占有率 |
|---|---|---|
| BNP | 209 | 70.4% |
| JI | 68 | 22.9% |
| NCP | 6 | 2.0% |
| 無所属 | 7 | 2.4% |
| その他 | 7 | 2.4% |
| 計 | 297 | 100.0% |
出所:選挙管理委員会を基に作成
BNPの歴史とJIの福祉戦略
BNPの勝因について、デイリー・スター紙は「政府を率いた実績を有する政党は、BNP以外にいなかった」と述べ、過去の経験がたくさんの得票につながったと分析している(2026年2月13日付)。同様に、有権者が安定性を重視したという見方も出ており、インドのマトゥルブミ紙は「国民は単なるBNPの復活ではなく、統治の継続性や経済的な安心感を求めた」と論じている(2026年2月13日付)。他方、プロトム・アロ紙が2025年10月21~28日に実施した世論調査(注5)では、投票先を決定する要因について、「政党のシンボルマーク」と回答した人が51.0%と最も多く、「候補者の行為・振る舞い」が17.4%、「候補者の実績」が16.1%、「候補者の誠実さ」が10.8%と続き、「政党の公約」は1.3%に過ぎなかった。詳細な勝因分析はこれから行われるだろうが、1978年に結党し長年バングラデシュ政治の一翼を担ってきたBNPのシンボルマークが有権者に浸透しており、勝利を引き寄せた可能性がある。
JIは、2番目に多い68議席を獲得した。連合では77議席で、そのうち学生が主導して設立したNCPが6議席を占めた。過去最多だった1991年の18議席を大きく上回った。組織化されたクリーンなイメージは、既存政党に失望する若者層などから支持を集めた。シェイク・ハシナ政権下の2013~2024年に政治活動を禁じられている間、JIは政府支援が行き届かない地方部などで医療や教育分野の福祉サービスを提供してきた経緯があり、恩義を感じる支持者は少なくなかったと推測される。しかし総選挙前に「100議席以上獲得するかもしれない」と述べる有識者もいたことを考慮すれば、やや伸び悩んだ印象を受ける。イスラム法を基礎とする急進的な政治思想が、特に無党派層を遠ざけたかもしれない。党の公約で女性の権利を主張しながら、「イスラムの原則に従えば、『男性が女性の管理者』だ。これはコーランの指示であり義務だ」として、女性の候補者を1人も擁立しなかった。また、女性の労働時間を5時間に短縮し、残り3時間分の給与は政府の補助金で補填(ほてん)するという政策を訴え、一部から女性の社会進出や経済的自立の妨げになることを懸念する声が上がっていた。野党第1党となるJIが、今後どのような影響力を行使するのかに注目したい。
投票所で男女分かれて順番を待つ有権者(ジェトロ撮影)
国民投票は賛成多数を獲得
総選挙同日に行われた政府の改革案を問う国民投票(2025年11月14日付ビジネス短信参照)は、賛成多数を獲得した(賛成:68.1%、反対:31.9%)。政変を契機に暫定政権と政党間で合意した「7月憲章」で提示された4つの改革案について、国民の賛否が一括で問われた。中でも、上院の新設が認められたことは注目に値する。今後制憲議会および憲法改正の過程を経るが、上院は比例代表制に基づき構成される予定のため(注6)、少数政党からも議員が生まれ、多様な意見が国政に反映されるようになる。
経済政策の見通し
暫定政権下、規制やインセンティブに関する政策の予見可能性は低く、企業は新規投資を決断しにくい環境に置かれた。ジェトロの「2025年度海外進出日系企業実態調査」では、今後1~2年の事業展開の方向性について「拡大」と回答したバングラデシュ進出日系企業が56.9%に上る一方、投資環境上のリスクに「不安定な政治・社会情勢」を挙げる企業は94.4%に達した。政治の安定と見通しやすさは、企業に投資を促す上で不可欠だ。
新政権の経済政策を見通すにあたり、2026年2月6日に発表されたBNPの公約
が参考になる。第3章「脆弱(ぜいじゃく)な経済の再建と回復」には、2034年までにバングラデシュの経済規模を1兆ドルに拡大し中所得国上位を目指すことが明記されている。投資環境の整備に関しては、規制緩和を重視し、デジタルを活用したシングル・ウィンドーやワンストップサービスの推進により人的接触を減らすとしている。外国直接投資(FDI)は経済成長の源泉であり、対GDP比率を0.45%から2.5%に引き上げる考えだ。その達成手段には、急な政策変更の防止、承認プロセスの完全デジタル化、24時間ヘルプデスクの設置、査証・労働許可証の簡素化、本国送金の保証、投資家保護規則の制定、国際商事裁判所の設立、電気・ガスの安定供給などが含まれている。BNPは伝統的に自由主義経済を志向してきた。公約で掲げられている政策は外国企業にとって受け入れやすく、予見可能性は向上するとみられる。
課題は官僚機構の改革
他方、強固な官僚機構が新政権による経済政策の実現の妨げになり得るだろう。例えば、進出日系企業が抱える共通課題には、複雑な税制、蔓延する汚職、役所の不手際など、行政に関連するものが多く含まれている。また、2025年10月にダッカ日本商工会の会員企業を対象に行われたアンケート調査では、暫定政権による投資環境の改革の進展を評価しない企業が84.0%を占めた(注7)。官僚機構の改革は暫定政権下でもあまり進まなかった。政党政治が復活しても、働く公務員は変わらない実情を鑑みれば、公務員の質的向上やデジタルを活用した行政運営が望まれる。ホダ・バシ・チョードリー&カンパニーのシニアパートナーであるAFネサルウディン公認会計士は、筆者の取材(2026年2月13日)に応じ、「新政権は官僚に対し、明確な政治的メッセージを発信しなければならない。国民は多方面で改革を支持しており、官僚機構の改革もその1つだ。法令・規則の順守、適材適所の人材配置、正義と公平性の確保を通じた、良き統治の実現を期待したい」と述べた。
- 注1:
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選挙管理委員会が官報を発行した2026年2月13日時点で、297選挙区の当確が判明した。シェリプール3区については、注3のとおり、後日選挙が行われる。チッタゴン2区と同4区については、どちらもBNPの候補者が未返済融資を理由に係争中であり、当選者は判決後に確定される。
- 注2:
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選挙管理委員会は2025年8月7日、2025年10月31日時点で18歳以上の国民を今回の総選挙の有権者として扱うことを決定した。
- 注3:
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バングラデシュの国会は1院制。350議席のうち300議席が小選挙区制で選出される。シェルプール3区のJI候補者が2026年2月4日に死亡したため、2月12日は299の選挙区で投票が行われた。シェルプール3区の選挙は後日実施される。また、残り50議席は女性枠として確保されており、当該議員は政党の得票率に基づく比例配分により後日選出される。
- 注4:
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実施会社はイノベーション・コンサルティング、 実施期間は2026年1月16~27日、回答者は5,147人。
- 注5:
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回答者は18~55歳の男女1,342人。
- 注6:
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上院の定数100議席は、今回の得票率に基づき各党に配分される。
- 注7:
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「全く進展していない」が29.5%、「あまり進展していない」が54.5%。回答数は45。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ダッカ事務所 所長
片岡 一生(かたおか かずいき) - 経営コンサルティング会社、監査法人、在外公館に勤務後、2022年1月にジェトロ入構。調査部米州課、九州・沖縄地域本部を経て、2025年6月から現職。






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