マンダムに聞く、インドネシア美容市場の現状と戦略

2026年4月15日

インドネシアの美容・パーソナルケア市場は、2023年の約102兆ルピア(約9,180億円、1ルピア=約0.009円)から2028年には約152兆ルピアへと、堅調な拡大が見込まれている。大衆向けが市場の約9割を占める中、スキンケアとヘアケアが成長を牽引する一方、中韓製品の台頭により競争環境が激化している(2025年5月1日付地域・分析レポート参照)。

実務面では、BPOM(食品医薬品監督庁)登録などの規制対応に加え、店頭スペース確保のコスト負担やデジタル送客導線の設計が成否を分ける。2026年10月に迫るハラル表示義務化も見据え、独自の「小分け文化」やチャネル別の特性をどう捉え、戦略に落とし込むべきか。PT Mandom Indonesia(以下マンダム・インドネシア)技術部門統括取締役兼常務執行役員の伊澤禎二氏、商品開発・マーケティング部門統括副取締役兼常務執行役員の各務弘一氏に現地市場での事業運営に求められる視点を聞いた(取材日:2026年2月18日)。


マンダム・インドネシアの伊澤氏(左)と各務氏(右)(ジェトロ撮影)

半世紀以上にわたる事業基盤と現地主導の実行体制

質問:
インドネシア事業の沿革と、現在の事業構成は。
答え:
当社は1969年に合弁会社であるPT TANCHO INDONESIAを設立し、1971年から本格的に事業を開始した。スタイリング剤「丹頂チック」が既にインドネシア国内で流通していたことが参入のきっかけだ。社名は2001年1月1日にPT MANDOM INDONESIA Tbkへと変更している。
現在の事業の柱は、ヘアスタイリング、メイクアップ、フレグランスの3分野だ。売り上げの男女構成比がおおむね半々であることも特徴の1つ。また、進出当初は現地で高品質な容器を調達することが難しかったため、自社で製造体制を整備し、安定供給とコスト競争力の強化につなげてきた。
当地では、現地生活者発の商品開発に70年代から取り組んでおり、また、2011年に現地研究所を立ち上げて以降は、研究開発や薬事対応を含む体制を大幅に拡充している。現在は数十人体制で、商品コンセプトの開発から、中味(処方)の開発、容器設計対応に至る各チームを、現地人材中心で運営し、導入から検証、改善までのサイクルを現地で早く回す実行基盤としている。

競争の焦点となる「店頭での可視性」と独自流通網

質問:
市場が拡大する中で、競争の焦点をどうみているか。特に店頭スペースの確保は、どの程度重要か。
答え:
現在の市場環境において、競争を勝ち抜くための不可欠な要素は、店頭での存在感と、デジタルにおける認知から購買までの導線確保の2点に集約されると考えている。BPOM登録やハラルといった規制対応も重要であるが、これらは手順を理解すれば、段取りとして管理できる領域だ。
足元の市場は、もはや大手であれば勝てるといった環境ではなく、従来強かったプレーヤーが新興ブランドに押される事例も出てきている。 新興ブランドでは、島嶼(とうしょ)国家のインドネシアにおいて、全国の販売店へ配下できる流通網を確立できていないが故に、オンライン販売に特化したマーケティング戦略を選択し、成功するケースも出現している。
また、インドネシアの生活者の経済格差の幅が広く、現地の需要は低価格帯とミドルアッパー帯に二極化しやすいため、購買層やチャネルに合わせた多様な商品設計が必要だ。
質問:
独自の「小分け文化」や全国配荷を、どのように商品設計と流通で取り込んできたか。あわせて、容器の内製化をどう位置付けているか。
答え:
インドネシアでは「ワルン」と呼ばれる家族経営の小規模店が、人々の生活圏に密着している。住宅地の路地や街角にあり、日用品や食品などを扱うワルンでは、店先に商品をつり下げて陳列し、一包単位で小分け販売する商習慣が根強い。そのため、少額で購入できる容量と価格の設計が欠かせない。
当社では、商品のサイズ展開は多い場合で6〜7種類程度で、売り場や所得層に合わせて細かく使い分けてきた。小分け販売の場合、1包あたり1,000〜2,000ルピア程度の価格帯となる。全国配荷については、進出初期に提携した代理店と長期にわたって協業を続け、全国ネットワークを拡大してきた。この流通網の拡大は、代理店との長年にわたる信頼関係の積み重ねの上に成り立っている。
容器の内製化は、当社の安定供給とコスト競争力を支える重要な源泉だ。一方、原材料については依然として輸入への依存度が大きい。為替、国際市況などの外部要因の影響を受けやすい領域は、適切な購買ができるようにしっかりと管理していく必要がある。

激化する中韓ブランドとの競争とデジタルシフト

質問:
オンライン市場とオフライン市場で、商品ごとの売れ方に違いはあるか。また、ライブコマースをどのように運用しているか。
答え:
オンラインで売れる商品と、オフラインのマス市場で売れる商品は、必ずしも一致するわけではない。オフラインの定番品がオンラインでも強いとは限らず、逆に配荷が限定的な新商品やトレンド性の高い商品がオンラインで上位に入りやすい傾向がある。ただし、オンラインでの上位ランクインが、そのままオフラインの全国マス市場でも再現できるとも限らない。
ライブコマースについては、社内体制を構築して運用している。新型コロナ禍の時期に開始し、現在は自社ビル内に複数の配信ブースを設け、通常は1日あたり3セッション程度(各2時間)を基本として回している。大型セール期間中には、24時間の長時間の配信を行うこともある。現時点では、全体におけるオンライン売り上げの比率はまだ小さいものの、継続的な運用によって公式店舗の売り上げが大きく伸びる局面もあり、チャネルごとの「売れ方」を前提とした設計が必要不可欠だ。
質問:
中国勢やローカル大手、韓国勢など、競合の勝ち方をどう分析しているか。
答え:
中国勢の戦い方の特徴は、店頭のスペース費用とTikTokなどのデジタル広告の両面に巨額の資金を同時に投下し、オフラインとデジタルを一体化させたマーケティングにフォーカスしている点にある。 例えば、中国資本の他業種の企業がインドネシアで化粧品ブランドを立ち上げ、数十億円規模の資金を短期間でデジタル広告に投下したと聞いている。
実務レベルでは、まずインフルエンサーを起用して話題化を図り、並行して影響力の大きな消費者による消費者目線の商品レビューによって信頼感を醸成する。さらに、数千人規模のアフィリエイター(個人販売者)によるSNS上での宣伝と販売を行い、売り上げの10〜20%程度をマージンとして還元することで、拡散と販売を一体化している。SNSからShopeeやTokopediaといったECへの送客導線が確立されているため、非常にスピードが出る。
一方で、ローカル大手企業はムスリム市場に特化し、オフラインとデジタルを一体化させて強固なシェアを築いている。韓国勢はトレンドを発信する力にたけているが、中国勢のように圧倒的な資金力で市場を奪取する戦い方とはやや異なる。
また、消費者側の変化として、特にZ世代は、SNSだけでなく生成人工知能(AI)を含む検索機能を利用し、商品の成分や安全性を自ら調べることが常態化しつつある。購買の判断軸が「価格」から、安全性や成分、効果といった「価値」へと移行する中、自社製品の価値をデジタル上でいかに分かりやすく可視化できるかが、比較検討の前提条件となっている。

規制対応は「段取り」、真贋証明で信頼を可視化

質問:
BPOM登録やハラルなど規制対応を含め、日本企業がインドネシアで勝つために何が重要か。
答え:
規制対応は一見ハードルが高いように感じられるが、手順が明確であるため「段取り」によって十分に解決できる領域だ。例えばハラル認証については、相互認証の枠組みを活用すれば、日本国内での新規取得には6〜8カ月を要するが、一度取得してしまえばその後の追加手続きは2カ月程度で済む。BPOMへの登録も必要書類が明確で、標準的には1〜2カ月程度が目安であり計画に組み込みやすい。
ムスリムが大多数を占めるインドネシア市場でのハラル対応は、消費者からの確かな信頼の基盤であり、「社会的ライセンス」としての機能を持つ。化粧品分野においてもこの傾向は強まっており、これを軽視することは、マス市場における競争力を放棄することに等しい。当社でも、2026年10月のハラル義務化を見据え、数百種類におよぶ使用原料の適合性確認を進めている。
また、現地では偽造品に対する警戒心が強いため、二次元コードを用いた真贋(しんがん)の確認が有効な手段となっている。それに加えて、正規製品の信頼の証拠をどのように提示して土俵に立つかが重要だ。
日本企業への提言としては、国際会議や標準形成の場、展示会など、業界のルールや潮流が形成される「現場」への継続的な関与が重要だ。日本企業は技術力が高いにもかかわらず、進出のハードルを高く感じて一歩手前で止まってしまいがちだ。「アジアで土俵にすら立っていない」現状に危機感を感じている。
実際にアジアの展示会の現場に立つと、国別の出展数そのものが存在感として受け止められる。例えば化粧品展示会で中国が大半を占め、韓国がそれに続く一方で、日本は少数にとどまる場面もある。技術力が劣っているわけではないにもかかわらず、「現場」に十分に出ていないことが機会損失につながっている可能性が否めない。
官民が連携して、世界基準の議論の場に継続して関与し、情報が循環する仕組みに入り込むこと、さらに標準やルール形成の初期段階から関わることが、結果として現地で戦うための土台をより強固にすると確信している。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ)
2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ北九州、企画部企画課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て、2025年11月から現職。