学生需要捉え成長する、パイロット深センの現地戦略(中国)

2026年7月10日

日本の老舗筆記具メーカー「PILOT(パイロット)」は、万年筆やボールペン、蛍光ペンなどの筆記具の製造販売を行っている。消せるボールペン「フリクション」などの新製品を開発してきた同社は、海外展開にも力を入れ、現在世界190以上の国・地域で同社の筆記具が販売・使用されている。百楽貿易(深セン)(以下、パイロット深セン)は、中国における販売会社として広東省深セン市に2004年に設立され、2026年で22周年を迎えた。ジェトロは5月27日にパイロット深センの波戸智久総経理に話を聞いた。


パイロット深センの波戸総経理(ジェトロ撮影)
質問:
現在の中国および華南地域での事業展開状況の概要を教えてください。
答え:
パイロット深センは、中国における販売会社として2004年に設立。本年で22年目を迎えました。現在中国全土に26カ所の販売拠点を展開し、約280人のスタッフ(2026年4月時点)を擁する体制で中国国内全域をカバーしています。営業スタッフはリアル店舗(オフライン)・EC(オンライン)の販売チャネルをきめ細かくフォローしており、最近はマーケティングにも力を入れています。
質問:
深セン市に本部を置かれている理由を教えてください。
答え:
設立当時、深セン市は改革開放の最前線に位置していたため、市場情報が収集しやすく、意思決定を迅速に行える利便性から、この地を本部としています。その後、深セン市は急速な発展を遂げ、中国経済の最新動向をリアルタイムに映し出しています。弊社にとって中国は米国および欧州と並ぶ重要な市場であり、弊社が掲げる「2030年にグローバル筆記具市場でナンバー1を目指す」というビジョンの実現においても、重要な役割を担っています。
質問:
華南地域の消費傾向や地域の特性について教えてください。
答え:
近年は「北上消費」(注1)と呼ばれるように、香港から深セン市など華南地域への消費流入も活発化しており、華南地域は消費活力と市場成長性の高いエリアだと考えています。また、華南地域は古くから貿易・商業が盛んな地域であり、特に潮汕地域(注2)はビジネス感度の高い人が多いことで知られています。筆記具業界においても、潮汕出身者が中国全土で販売・卸を担い、流通ネットワークにおいて大きな影響力を持っています。
質問:
中国での主なターゲット顧客と、その需要発掘のためのカギは何でしょうか。
答え:
弊社の中国市場における主なターゲットは学生、特に中高生です。新学期(春節後と8月~9月)と試験シーズン(4~6月)が需要のピークとなります。新学期は中高生が筆記具を買いそろえる重要なタイミングと捉えています。また試験シーズンには、全国の高校生にとっての登竜門となる「高考(大学入試)」があります。弊社はスラスラときれいな細字が書けるゲルインキボールペン「P-500」を、このシーズン必携の試験用ペンと位置付け、2026年には機能を強化した新モデル「P-500CP」も発売。リアル店舗での商品陳列を充実させ、広告活動を行って販売拡大を図りました。
このように、中国市場やターゲットを理解した現地適応型の販売戦略、商品戦略やマーケティング戦略を立てることが重要だと考えています。

新モデル「P-500CP」の店頭販促プロモーションの様子(パイロット深セン提供)
質問:
特に注力している商品や伸びている商品は何でしょうか。それらが支持されている理由をどう分析していますか。
答え:
中国市場で弊社が展開する商品の中で、ゲルインキボールペン「Juice」が売上・販売本数ナンバー1商品です。豊富なカラーバリエーションと書き心地の良さが評価され、学習やノート整理などに幅広く使用されています。その背景には、品質・機能性を重視する傾向に加え、色分けしながらノートを視覚的に整理するニーズの高まりがあると考えています。

「Juice」の店頭広告(パイロット深セン提供)
質問:
中国地場企業や他の日系企業との競争の中で、貴社が特に意識している差別化や工夫は何でしょうか。
答え:
100年以上にわたり培ってきた商品技術力は、弊社の最大の強みと考えています。主力商品の小売価格は中国メーカーと比較して高めですが、品質とブランド力で差別化を図っています。 具体的には、強みをより分かりやすく伝えるために、市場調査やSNS上の消費者の声を徹底的に分析し、ターゲットに響く広告表現の開発を心掛けています。また店頭什器は多くの機種をそろえることで、販売チャネルごとに柔軟に展開できるようにしています。パイロットならではの技術を、広告や店頭什器を通じて、直感的にも、理性的にも伝えられる工夫が大切だと考えています。
質問:
ECへの取り組みやオフラインとの差別化はどのようにされていますか。
答え:
中国では、消費者が目的に応じて購買チャネルを使い分けているため、リアル店舗(オフライン)とEC(オンライン)を連動させた販売を行っています。リアル店舗では、実際に商品を手に取り、品質や書き味を試すことができる体験型チャネルとして、ECは、まとめ買いやタイパ(タイムパフォーマンス)の良いチャネルとして位置付けています。両チャネルの役割を明確に分け、組み合わせていくことで、総合的な販売力の強化を図っています。
質問:
問屋や販売店の選定には、どういったところを重視していますか。
答え:
問屋や販売店の選定にあたっては、パイロット商品に対する理解のほか、販売力(販売チームの有無、資金力、オンライン販売チャネルの有無など)、倉庫・配送といった物流機能など、総合的に確認しています。
質問:
中国での事業展開において、特に苦労された点やそこから得た学びについて教えてください。
答え:
2004年の設立当初は、販路・取扱店ともにほぼゼロからのスタートでした。当時の中国市場では国産の安価なペンが主流で、一般的に1元程度(当時のレートで約14円)で販売されていたのに対し、弊社商品はその10倍以上の価格帯であり、品質や価値の違いも十分には理解されにくい状況でした。当時は「筆記具は安く購入し、頻繁に買い替える」という価値観が一般的で、薄利多売型のビジネスモデルが主流。そのような環境の中で、まずは商品特長や品質の良さを地道に伝えることから取り組みました。売り場で目に留まりやすい場所に置いていただくこと、一度使っていただくことを重ねる中で、徐々に弊社商品の品質が理解されるようになりました。さらに「百楽就是好笔(パイロットのペンは良いペンです)」というキャッチフレーズが、文具店や問屋を通じて中国全土に浸透し、業界内でのブランド認知とイメージの向上につながりました。
このような経験を通じて、「商品特長や品質の良さを正しく伝えること」の重要性を実感してきましたが、特に近年は中国国内ブランドの品質が向上し、市場は新たな競争ステージに入っている中で、自社の強みである商品特長を、より丁寧に伝えていくことの重要性を再認識しています。
質問:
今後の中国での事業展開の方向性と、景気減速や消費の変化に対してどのように対応していく予定ですか。
答え:
販売チャネルへのきめ細かなフォロー体制を堅持しながら、消費者の来店を促すPULL戦略を強化する取り組みを進めています。一般的な広告活動に加えて、KOL(インフルエンサー)を活用したプロモーション、商品の体験機会を提供できるイベントなども実施していく予定です。

注1:
香港・マカオの居住者が買い物目的で中国本土を訪れて消費すること。中国本土との往来再開後、香港・マカオから安価で買い物やレジャーなどの消費活動の選択肢が豊富な深セン市・珠海市に日帰りで訪れる人が増加している。 本文に戻る
注2:
広東省東部の潮州・汕頭・掲陽周辺の地域を指し、共通の方言・文化を持つ文化圏。港湾貿易や海外華僑の広がりを背景に商業活動が発達した地域として知られる。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 経済分析・企業支援部 部長
西村 京子(にしむら きょうこ)
メーカー、商社勤務を経て、2021年4月、ジェトロ入構。海外展開支援部で機械環境・日用品関連の日本企業の販路開拓支援に従事し、2023年11月からジェトロ・広州事務所に駐在。2025年1月から現職。