コペンハーゲンで広がる「おにぎり」ブーム(デンマーク)

2026年7月2日

近年、デンマーク・コペンハーゲンでは、おにぎりを提供するさまざまな形態の店舗が急速に増えた。かつてはアジアンスーパーの一角で限られた種類が販売されるのみだったおにぎりが、現在では専門店、すし店、ラーメン店、さらには大手スーパーやコンビニにまで広がり、コペンハーゲンの食の選択肢の1つとして定着しつつある。統計上、「おにぎり専門店の数」を示す公式データは存在しないものの、在デンマーク日本国大使館で食産業を担当する田中正和一等書記官によれば、着任当初と比較して体感的に明らかな増加がみられるという。また、米国の調査会社グローバル・マーケット・インサイツによると、2026~2033年にかけて北欧の米の市場は年平均2.8%規模で拡大すると予想されている。

そこで本稿では、先述の田中氏へのインタビューを通して、コペンハーゲンにおけるおにぎり市場の状況と課題についてまとめた(取材日:2025年11月18日および2026年5月12日)。

おにぎりブームのパイオニア:アジアンスーパー「UME」から「Comé」へ

田中氏がコペンハーゲンに着任した約2年前、市内で確認できたおにぎりは、アジアンスーパー「UME」の鮮魚コーナーで販売されていたものがおそらく唯一だった。梅干しとスパイシーツナの2種類とシンプルながら、同店の町田寛夫氏による手作りで、本場日本の品質を感じさせる商品だったという。この流れを本格的なブームへと押し上げたのが、同氏がスーパーの隣に構えたおにぎり専門店「コメ(Comé)」だ。おにぎりの種類やサイドメニューを増やし、昼食時には行列ができるほどの人気店となり、現在の価格相場である1個35デンマーク・クローネ(約870円、1デンマーク・クローネ=約24.8円)の基準を作った存在ともいえる。2026年2月にはComéの2店舗目が開店し、おにぎりは今波に乗っている。


在デンマーク日本国大使館 田中正和一等書記官(本人提供)

進化するおにぎりの姿-なぜ選ばれるのか

質問:
デンマークでおにぎりがこれほど受け入れられた理由は。
答え:
おにぎりが受け入れられた理由として、「ヘルシーであること」と「片手で食べられる手軽さ」が挙げられる。デンマークの一般的なファストフードのテイクアウトであるピザやケバブと比べ、価格帯は同等でありながら、肉が主役でない点や野菜や米を中心とした構成が、健康志向の消費者やグルテンを避けたい消費者に響いている。また、忙しい日常の中で短時間で食事を済ませたい層にとって、包装を開いてすぐに食べられる点も支持を集めている。特に日本人が関与している店舗では、「日本の食」というブランドイメージや品質への信頼が、付加価値として機能している様子も見受けられる。
質問:
現在のおにぎりの具材や味付けの特徴は。
答え:
スパイシーツナや照り焼きチキンなど、日本でも一般的な具材から大きく離れないものもあるが、醤油ソースに浸した油揚げを具材にしたおにぎりや、枝豆、シイタケを使ったもの、チリ風味のみそ、チャーハン風のおにぎりなど、非常に多様だ。味付けはデンマーク人向けに濃く、塩もしっかり効いている。
質問:
懸念点は。
答え:
1つは酢飯を使ったおにぎりである点だ。米=すし=酢飯という認識が強く、すし店で余った酢飯を使う例もあるようで、日本人としては違和感がある。また、スーパーやコンビニで売られているおにぎりは、包装技術が未成熟で、包装を開けるとおにぎりが崩れてしまうことも多い。品質・製造・包装技術には改善の余地があると思う。

現在、おにぎりの販売はすし店やアジア系飲食店に加え、デンマーク発のビール醸造メーカーであるミッケラー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Mikkeller)監修のラーメン店「らーめんとビール外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Ramen To Biiru)」、セブンイレブン、そしてスーパーのリデル(Lidl)、365ディスカウント、スーパーブルグセン(Super Brugsen)(注1)などの日常的なローカル流通網にも広がっている。また、日本にルーツを持つデンマーク人が営む「抹茶カフェ森外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」では、抹茶と並んでおにぎりが提供され、日本食を気軽に楽しめる場として人気を集めている。桜の時期にコペンハーゲンで開催される日本文化のイベント桜祭り外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」では、複数の店舗がおにぎりを販売し、1個70デンマーク・クローネ(約1,740円)という高価格にもかかわらず、行列ができていた。

旅行がもたらす日本本来の味への需要

質問:
違和感のない日本の味を浸透させるためには。
答え:
旅行が1つのカギとなると思う。デンマークでは日本への旅行が非常に人気で、EU域外の旅行先として日本がトップクラスに位置付けられるという認識が広がっている。日本で体験した高品質な日本食を帰国後に求める消費者も多く、これが日本食全体への関心を後押ししている。
質問:
その流れをどう活用して、日本の味を定着させるべきか。
答え:
関心の高まりを生かし、日本本来の味を知る機会を提供していくことが重要と考えている。例えば、コミュニティセンターでの日本食講座(注2)、調理学校での日本食プログラムといった「学ぶ日本食」も人気で、定着しつつある。われわれ在デンマーク日本国大使館は、2025年9月に主催した和食普及イベントで、現地の調理学校の教員を招き、おにぎりの握り方を紹介する取り組みを行った(2025年10月3日付ビジネス短信参照)。

和食普及イベントで、おにぎりの握り方を教わる
参加者たち(在デンマーク日本国大使館提供)

自分で作ったおにぎりを頬張る参加者たち
(同大使館提供)

日本の「本来の味」を求める層も、それを提供する店舗も確かに育っているようだ。2026年5月12日に再び田中氏に、その後のコペンハーゲンでの日本食の浸透状況などを聞いた。

「本来の味」を求める日本ファンからオーガニック層へ、さらなる浸透に向けて

質問:
その後のおにぎりの浸透具合の変化は。
答え:
おにぎりの人気は継続している。そうした中、日本本来の味を提供する店の開店が相次いでいる。これまで、ポップアップショップやケータリング分野で人気を博していた「サイトウ(Saito)」が、2026年1月に常設店舗を設けた。日本産の米を使う同店のおにぎりは1個70デンマーク・クローネ(約1,740円)という価格設定にもかかわらず、本場の味を求めるデンマーク人に人気となっている。このほか、前出の「コメ(Comé)」が2026年2月に2店舗目をオープンさせている。また、福岡の企業であるOnigiri&Co.は北欧での事業展開を目指しており、コペンハーゲンでも「enmusubi」の名前でポップアップショップを展開。2026年1月には3日間にわたり、一般客向けに本場の味を伝えるおにぎりワークショップを行うなど積極的に活動している。当大使館としてもこうした流れを促進すべく、2026年に入り森美樹夫駐デンマーク日本国大使が、10日間にわたっておにぎりを試食し紹介するチャレンジをSNSで発信した。大使館で開催されたレセプションでもおにぎりを紹介するブースを設け、デンマークの要人に対して本来のおにぎりの味を伝える活動を行っている。こうした「本来の味」に対する需要の高まりはおにぎりに限らずみられている。例えば、デンマークでも人気のラーメンは、デンマーク人好みに寄せた味を提供する店が多い中、最近オープンした「クーカイラーメン(Kūkai Ramen)」は、本来の九州豚骨ラーメンの味を提供することで人気を集めている。
質問:
裾野をより広げるためには。
答え:
デンマークの消費者はオーガニック志向が強く、ここにも日本企業にとっての可能性があると考える。デンマークでは農産物だけでなくレストランにもオーガニックラベルが使用される(注3)。オーガニックラベルの認定は消費者を引き付ける重要なマーケティング要素であり、日本の米がどこまでデンマークの基準に対応できるかは素材を提供する上で重要な要素だと考えられる。こうした観点で、日本産米の輸出戦略の検討をしていく価値はあると考えている。また、健康を意識して食されるおにぎりが、学校給食のように日常的な食事の場で提供される可能性を探っていくことも重要と考える。この点ではこれまでの食品卸・輸入商社といったバイヤーだけでなく、給食プロバイダーとの連携も打ち手としては有効と考えられる。最後に、当地の包装技術は日本の水準には及んでいないため、現地製造業者への技術的な支援においても日本が貢献できる余地があり、日本企業にとってのビジネスチャンスになるのではないかと思う。

コペンハーゲンで進むおにぎりの広がりは、単なる目新しい日本食ブームではなく、現地の健康意識や生活スタイルにおける価値観と結びついたローカライズの結果だ。一方で、本来の日本食としての品質や技術が十分に伝わっていないことで、日本のおにぎり本来の良さが伝わっていない側面もある。今後、日本側のアクターがどのように関与し、「日本らしさ」と「現地適応」のバランスを取っていくことができるかがカギとなるだろう。田中氏は、日本とはすっかり様相を変えて提供されているSushiと比較し「Sushiの市民権は取られたが、おにぎりの市民権は守りたい」と語る。


注1:
リデル、365ディスカウントはディスカウントストアに位置付けられるスーパー。一方、スーパーブルグセンは中級から高級の間に位置付けられる。おにぎりの取り扱いは幅広いクラスのスーパーに広がっている。 本文に戻る
注2:
デンマークではfof(デンマーク語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますと呼ばれるイブニングスクールでの生涯学習活動が盛んで、働く大人もさまざまな文化活動や講義に参加している。日本食の料理講座も数多く開かれている。 本文に戻る
注3:
レストランに適用されるオーガニック料理ラベル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、レストランが購入する食材のオーガニック比率によって3段階にレベル分けされる(ゴールド90~100%、シルバー60~90%、ブロンズ30~60%)。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
安岡 美佳(やすおか みか)(在デンマーク)
京都大学大学院情報学研究科修士、東京大学工学系先端学際工学専攻を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学でコンピュータサイエンス博士取得。2006年からジェトロ・コペンハーゲン事務所で調査業務に従事、現在、レジデントエージェント。