宇宙産業エコシステムの将来像とは
米フロリダ州宇宙産業(5)

2026年9月25日

フロリダ州では、スタートアップエコシステム(関連企業や研究機関の集積)が州内各地に分散して形成されている一方、州の主要産業である宇宙分野を軸に、関係者同士の連携を強化する動きが広がっている。そうした取り組みを行う企業の1つが、宇宙産業関係者のネットワーク形成を目指すスペース・グローブだ。同社は、海外の宇宙関連企業の「米国市場に参入したいが、どこへ行けば必要な情報や支援を得られるのか分からない」という課題を背景に設立され、企業、投資家、大学、政府機関など、異なる分野の専門家が日常的に交流し、新たな事業機会を創出する場づくりを目指している。

本稿では、同社の創業者兼最高経営責任者(CEO)であり、州内の宇宙産業関係者との幅広いネットワークを有するメリッサ・パットン氏に、フロリダ州の宇宙産業の強みと課題、宇宙産業エコシステムの将来像について聞いた(取材日:2026年8月19日)。


スペース・グローブのメリッサ・パットン氏(同社提供)
質問:
スペース・グローブの設立経緯について。
答え:
各国・地域を訪問し、海外の宇宙関連企業と話をする中で、「米国市場に参入したくても、必要な情報や支援を得るためにどこへ行けばよいのか分からない」という声を繰り返し耳にした。私自身もフロリダ州に戻ってから調べてみたが、現地拠点の設立や事業展開、人脈形成、資金調達に関する情報を一元的に得る方法がないことに気付いた。この課題を解決するために設立したのが、スペース・グローブだ。
スペース・グローブの出発点は、海外企業のソフトランディング支援にある。海外企業がフロリダ州に活動拠点を構え、進出当初から地域のエコシステムに参加し、必要な関係者やリソース・支援にアクセスできる環境づくりを目指している。具体的には、宇宙産業や関連分野の企業を対象とした施設の整備、スタートアップとベンチャーキャピタル(VC)などの投資家との橋渡し、企業運営や事業開発の支援、さらに企業が宇宙分野へ新規参入したり、事業を転換したりする際の支援などを行っている。

海外企業のフロリダ州進出と宇宙産業参入を支援

質問:
具体的にはどのような機能を持っているか。
答え:
主な機能の1つが、不動産・施設の提供だ。宇宙関連企業や関連分野の企業が集積する大規模施設を整備し、幅広い企業に活動拠点を提供することを目指している。
投資や資金調達の支援も重要な機能だ。顧客にはプレシード(事業構想・検証段階)やシード(事業立ち上げ)段階のスタートアップが多く、資金調達ラウンドの完了を目指す企業に対して、投資家との面談や交流の機会を創出するとともに、企業運営に関する助言も行っている。
さらに、既存企業が宇宙分野へ事業を転換する際の支援にも取り組んでいる。例えば、これまで政府機関向けの事業を中心に展開してきた企業の中には、政府資金の流れの変化を受け、商業化に向け事業拡大を模索する企業が増えている(注1)。これらの企業に対してスペースコースト(フロリダ州東海岸の宇宙産業集積地)の主要な関係者を紹介し、ネットワーキングの機会を提供することによって、こうした企業が事業を転換できるよう支援している。

宇宙関連産業の「サードスペース」を目指す

質問:
一般的なインキュベーション施設とは異なる、スペース・グローブの特徴は何か。
答え:
スペース・グローブは、一般的な意味でのインキュベーター(起業家やスタートアップの育成・支援組織)ではなく、「人々が集まる場所」を目指している。宇宙産業の発展には、技術者だけでなく、経営、教育、研究、事業開発・運営、コミュニケーションなど、多様な能力を持つ人材の協力が必要だ。そのため、単に企業が仕事をするだけの施設ではなく、日常的な交流を通じて新たな関係やアイデアが生まれる「サードスペース(第三の居場所)」としての機能を重視している。仕事以外の時間にも人々が集まり交流できるよう、バーのような社交スペースとなることを目指している。このような場が、将来の宇宙産業エコシステムの姿を体現すると考えている。
もう1つの特徴は、国際連携を意識的に重視していることだ。海外企業が単独で米国市場へ進出することは、依然として容易ではない。そのため、海外企業がまずフロリダ州内に拠点を設け、そこを起点として、企業や大学、投資家など、米国内の主要な関係者との関係を構築できるエコシステムを提供することが重要だと考えている。
基本的な考え方として、「宇宙産業は、もはや宇宙産業だけでは発展できない」と捉えている。将来の宇宙エコシステムは、宇宙産業、海洋産業、研究機関、教育関係者、スタートアップ、大企業、さらには多様な部門の専門人材が集まり、共通の課題に取り組みながら新たな機会を創出する場になると予測している。スペース・グローブは、こうした多様な人々や組織が集まる拠点になることを目指している。

打ち上げ機能に限らないフロリダ州の強み

質問:
フロリダ州における宇宙産業の最大の強みは何か。
答え:
よくある誤解は、フロリダ州の宇宙産業の強みがロケットの「打ち上げ機能だけ」にあるというものだ。もちろん、打ち上げ機能はこの地域の最大の資産の1つだ。しかし、それと同時に重要なのが、フロリダ州、特にスペースコーストにおいて、産学官の連携を基盤とする包括的な宇宙産業エコシステムが形成されていることだ。
この地域には、米国航空宇宙局(NASA)、米国宇宙軍、スペース・フロリダ(注2)、スペースX、エアバスなど、宇宙関連の主要な企業・機関が集積している。さらに、州立のセントラル・フロリダ大学、フロリダ工科大学、エンブリー・リドル航空大学などの教育・研究機関も立地している。これほど多くの主要プレイヤーが1つの地域に集積することで生まれるアクセスのしやすさと相互のつながりは、米国内でも他に例を見ない大きな強みだ。
かつては、それぞれの組織が個別に活動する傾向もみられた。しかし現在では、組織間の壁を越え、アイデアや機会・リソースを共有しようとする動きが広がっている。従ってスペースコーストの強みは、組織やインフラ、専門知識が集積していることだけではない。人と人が直接顔を合わせ、関係を構築し、互いに連携しながら取り組みを調整できる環境が整っていることも、この地域の強みだと考えている。
質問:
フロリダ州の宇宙産業における課題は何か。
答え:
最も差し迫った課題の1つは、多様な資金調達の仕組みを整備することだ。現在、宇宙産業は民間投資への依存度が高いが、企業が持続的に成長するためには、政府資金、契約収入、助成金など、より幅広い資金源にアクセスできる環境が必要だ。他州では、企業が事業拠点を設立したり、雇用を創出したり、一定の事業目標を達成したりした場合に、資金面での支援や各種リソースが提供されることがある。しかし、フロリダ州には、同程度の支援制度がまだ十分に整備されていないように見受けられる。この不足を補うため、私自身も企業や人材を地域へ呼び込み、一定の条件を満たす企業に資金を提供するファンドの設立に取り組んでいる。
もう1つの課題は、宇宙関連企業の経営・事業運営基盤を強化することだ。宇宙スタートアップの創業者には、非常に優秀な技術者が多い。一方で、技術開発に加え、会社経営、事業開発、資金調達までを1人で担うことは容易ではない。どれほど革新的な技術であっても、その価値を投資家に分かりやすく説明できなければ、次の成長機会につながらない。そのため、企業は早い段階から、互いに補完し合う能力を持つ人材をそろえる必要がある。技術者だけでなく、経営、オペレーション、事業開発、コミュニケーションなどに強みを持つ専門人材が求められる。
質問:
VCなどの投資家は、どのような分野に注目しているか。
答え:
最も高い関心を集めている分野は、衛星通信だ。例えば、ある大学との間で、衛星通信技術を農業分野に活用するプロジェクトの可能性について協議を進めている。地球観測や安全保障分野への関心も高く、デュアルユース(軍民両用)技術に対する需要は大きい。さらに、推進技術、先端宇宙材料、宇宙インフラ、通信技術などのディープテック分野では、大規模な資金調達を目指す企業もみられる。
宇宙産業と防衛産業の相互依存関係も、急速に強まっている。宇宙産業は防衛産業と切り離しては成り立たず、防衛分野もまた宇宙インフラなしには機能しない時代になっている。通信、測位、観測、食料生産、農業など、地上で必要とされるさまざまな機能や技術は、将来的に宇宙でも必要になるとみている。
一方で、宇宙分野を真に専門とする投資家は、依然として多くない。「宇宙に関心がある」と表明する投資家が、必ずしも基盤となる技術を十分に理解しているとは限らない。そのため、企業の技術内容や開発段階、資金需要などの成長段階に応じて、適切なVCやファミリーオフィス(注3)を見極めることが重要だ。
スペースXの新規株式公開(IPO)は、宇宙産業が極めて大きな市場であることを投資家に認識させる契機になったと評価している。宇宙産業に対する見方は大きく変化しており、かつては主に「将来性があり、興味深い産業」と捉えられていたが、現在では、技術競争、安全保障、国家戦略、通信インフラを支える不可欠な産業として認識されるようになっている。
質問:
宇宙分野に挑戦する日本企業には、フロリダ州でどのような機会があるか。
答え:
フロリダ州には、協業やリソース共有、新たなアイデアの創出に向けた大きな可能性がある。特に、日本企業との連携には大きな余地があると考えている。
日本の技術力は高く評価されており、日本の大学や教育機関による先進的な取り組みへの評価も高い。フロリダ州と日本は、相互に提供できるものが多く、互いに学べることも多い。双方が個別に機会を追求するのではなく、協力することによって、より大きな価値を生み出し、より優れた成果を実現できると考えている。
私たちも、日本企業が支援を必要とする際には、フロリダ州における現地リソースとしての役割を果たしたい。日本企業がフロリダ州の宇宙産業エコシステムとのつながりを構築・維持し、適切なパートナーや専門家との事業機会にアクセスできるよう支援することを目指している。日本企業はフロリダ州に多くの価値をもたらすことができる。一方で、フロリダ州にも日本企業と共有できる豊富なリソースや能力がある。双方が連携することによって、互いに利益を得ながら成長できることを期待している。

インタビュー後のパットン氏(左)と執筆者(ジェトロ撮影)

注1:
これまではNASAをはじめとする「官」が宇宙産業を主導してきたが、スペースシャトルの退役後、企業などの「民」が担う宇宙事業が活性化し、宇宙産業の商業化が進展した。 本文に戻る
注2:
スペース・フロリダについては、2026年7月15日付地域・分析レポート参照。 本文に戻る
注3:
資産が一定額以上の富裕層の有形・無形の資産を管理し、運用・投資する組織。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
木村 勇翔(きむら ゆうと)
2026年、ジェトロ入構。同年から現職(カナダ全般、米国自動車・航空宇宙産業担当)。