研究・人材・起業支援の連携基盤
米フロリダ州宇宙産業(4)
2026年9月25日
宇宙産業が集積する米国フロリダ州では、打ち上げコストの低下や人工知能(AI)の発展を背景に、州内大学や研究機関で開発される幅広い技術分野に投資家の関心が広がっている。同州を中心にアーリーステージ(創業間もないスタートアップ)企業に投資してきたベンチャーキャピタル(VC)であるディープ・ワーク・キャピタルの共同創業者兼マネージングパートナーのベンジャミン・パッツ氏に、フロリダ州の宇宙産業エコシステムの特徴や投資動向、日本企業に期待される役割について聞いた(取材日:2026年8月20日)。

- 質問:
- ディープ・ワーク・キャピタルの投資活動と、宇宙産業との関わりについて。
- 答え:
- ディープ・ワーク・キャピタルは、設立から10年以上にわたり、技術志向のアーリーステージ企業に投資してきたベンチャーキャピタル(VC)だ。これまでに90件を超える投資を行っており、その大半がフロリダ州を拠点とする企業への投資だ。民間資本によるファンドに加え、フロリダ州が設立した投資プログラム「フロリダ・オポチュニティー・ファンド」も運営している。同ファンドの投資案件を評価する際には、投資収益の見通しだけでなく、フロリダ州の経済・産業振興という幅広い目標にどのように貢献できるかも考慮している。
- 当社は航空宇宙分野に特化したVCではないが、投資先の多くが同分野を支えている。私自身、航空宇宙工学をバックグラウンドとしており、この分野には個人的にも強い思い入れがある。しかし、当社が同分野へ投資する最大の理由は、フロリダ州に魅力的な投資機会が存在するからだ。
- フロリダ州の宇宙産業は、ロケットの打ち上げサービスだけにとどまらない。州内には、大学などの学術機関での研究を起源とする、独自性の高い技術を開発する企業が数多く存在している。スタートアップの資金調達環境全体を見ると、現在は人工知能(AI)分野へ投資資金が集中している。それでも、現実世界の具体的な課題を解決する技術にも、大きな投資機会があると考えている。
フロリダ州の宇宙産業を支える投資エコシステム
- 質問:
- フロリダ州の宇宙産業エコシステム(関連企業や研究機関の集積)をどのように評価しているか。
- 答え:
- フロリダ州のスタートアップ・エコシステムの規模はシリコンバレーほど大きくはないが、同州のベンチャー市場は全米でも有数の規模だ(注1)。フロリダ州には、その強みが必ずしも広く認知されていないものの、全米レベルの競争力を持つ産業が複数存在すると認識している。
- 宇宙産業はその代表例だ。フロリダ州は打ち上げ拠点として圧倒的な存在感を持つが、衛星通信・光通信・地球観測などの分野でも高い技術力を有している。例えば、セントラル・フロリダ大学は、光通信分野における有力な研究拠点だ。地域の特徴的な強みの1つは、州内の大学で開発された技術を事業化し、宇宙産業の専門分野に応用できる点にある。こうしたニッチで高付加価値な技術には多くの投資機会があり、カリフォルニア州などでも容易には再現できない独自のエコシステムを形成している。
- フロリダ州の投資環境にも独自の際立った特徴がある。カリフォルニア州には、数十億ドル規模の資金を運用し、売り上げがほとんどない、または全くない企業に対しても投資を行うVCが存在する。一方フロリダ州では、主に数千万ドル規模のVCが中心だ。そのため、大型宇宙機(人工衛星や宇宙探査機)の開発のように多額の資金を必要とするプロジェクトを、州内だけで支援することは難しい場合がある。
- しかし、フロリダ州では相対的に低いコスト構造を背景に、資金効率が高い特徴がある。このため、地上局通信システム、光通信システム、宇宙空間での電力伝送、宇宙向けサービスなどの基盤技術に適した資金調達環境が整っている。例えば、スター・キャッチャー・インダストリーズ(注2)が開発する宇宙空間での電力伝送技術は、比較的限られた資金規模で事業化の可能性がある分野の1つだ。
- また、フロリダ州のスタートアップ・エコシステムは協働性が非常に高い。州内の有望な投資案件に対し、それを支える資金が十分に供給されていないため、投資家は他の投資家や企業と積極的に連携している。資金調達ラウンド(スタートアップが投資家から資金を調達する段階)を成立させるため、州内外の資金を組み合わせることも多い。
- フロリダ州には多数のファミリーオフィス(注3)が存在することも特徴だ。ロッキード・マーティンやRTXをはじめとする航空宇宙・防衛大手によるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の投資活動も、引き続き活発だ。
- 質問:
- 今後の発展に向けて何が必要か。
- 答え:
- フロリダ州では、アーリーステージ投資を行うVCの層をさらに厚くする必要がある。ただし、州内の投資会社を増やすこと以上に重要なのは、他州や海外の投資家から追加的な資金を呼び込むことだ。フロリダ州では、同程度の技術力や成長可能性を持つテキサス州やカリフォルニア州の企業より、大幅に低い評価額で投資できる場合がある。これは、投資収益の観点からフロリダ州を非常に魅力的な市場にするとともに、投資家にとって格安で投資する好機となっている。
- また、州外の多くの関係者はいまだにフロリダ州を主に打ち上げ拠点としてのみ捉えており、同州は過小評価されていると感じている。2025年には100回以上の打ち上げが行われたが、そうした活動を支える幅広い技術開発エコシステムについては、依然として十分に認知されていない。
- 州内には、大学や研究機関で生まれた技術を基盤とする企業が多く存在する。通信技術、センサー技術、宇宙システムの運用といった分野では、次世代の企業が台頭している。こうした企業は、次のスペースXにはならないかもしれない。しかし、宇宙インフラに欠かせない基盤技術を開発しており、それぞれが企業価値10億ドル規模の企業へ成長する可能性を持っている。今後のエコシステムに必要なのは、こうした投資機会に対する認知を高め、州外や海外の投資家による、より積極的な参加を促すことだ。
投資家が注目する宇宙ビジネスの成長分野
- 質問:
- 現在、投資家の関心を集めている宇宙分野は何か。
- 答え:
- 投資家の関心は、打ち上げそのものから、いわゆる「データレイヤー」へと移りつつある。具体的には、地上と宇宙の間の通信、衛星間通信、宇宙資産の保守・運用、相互接続された衛星群の管理、衝突回避、ミッション計画などの分野だ。地球観測も大きな関心を集めており、特にLiDAR(注4)のような新たなセンシング技術が注目されている。
- 宇宙空間でのデータ処理や大容量通信への関心も高まっている。私自身は、宇宙空間に大規模なデータセンターを多数設置する構想については、実現性に疑問を感じている。一方で、軌道上でデータを処理し、それを高速かつ大容量で伝送する能力は、今後ますます重要になるだろう。宇宙空間での演算処理が拡大すれば、耐放射線コンピューティング、光通信、暗号技術などの重要性も高まると考えている。
- フロリダ州で特に関心が高い分野としては、打ち上げ関連サービス、レーザー通信や光学イメージングを含む電気光学、宇宙医学、宇宙バイオなどが挙げられる。バイオ技術について、フロリダ州はボストンやサンディエゴほど広く認知されていないが、州内には大規模なバイオ産業の基盤がある。宇宙環境で実施される研究を、商業的に成立する用途や収益を生み出す事業へ展開できる段階に近づいている。
- 質問:
- 宇宙産業へ資本が流入する背景をどうみているか。
- 答え:
- 宇宙産業へ資本が流入する最大の理由は、投資家が魅力的なリターンを得られる可能性を認識するようになったからだ。
- まず、打ち上げコストの低減によって、多数の小型衛星を比較的低コストで宇宙空間へ投入できるようになった。同時に、小型の宇宙システムの処理能力や自律性も大幅に向上しており、これらの変化が組み合わさることで、幅広い新たなビジネス機会が生まれている。加えて、AIの発展に伴って膨大なセンサーデータ(注5)への需要が生まれており、宇宙産業は、それらを収集・提供するためのインフラの重要な一部になりつつある。
- さらに米国では、民生と国家安全保障の双方の用途に利用できるデュアルユース技術を支援する制度が充実している。中小企業技術革新研究制度(SBIR)(注6)、中小企業技術移転制度(STTR)(注7)、戦略的資金増額制度(STRATFI)(注8)、戦術的資金増額制度(TACFI)(注9)などを通じて、企業は株式の希薄化を伴わない政府資金を活用し、研究開発を進めることができる。そのため特にアーリーステージでは、デュアルユースの可能性は事業化の障壁ではない。むしろ、技術開発を加速させる要素であり、投資家からも非常に前向きに評価されている。
日本企業への期待と宇宙産業の展望
- 質問:
- 日本企業がフロリダ州へ進出する際、どのような機会と課題があるか。
- 答え:
- フロリダ州は、外国企業にとって比較的ビジネスを行いやすい環境であり、州政府や経済開発機関も企業誘致に積極的だ。そのため、州内に事業拠点を設ける上で、大きな制度的障壁はない。一方、現地市場で成功するためには、フロリダ州内に拠点を設けるか、信頼できる現地パートナーと連携し、時間をかけて継続的に関係を構築する必要がある。フロリダ州には、人間関係や信頼を重視する米国南部のビジネス文化が色濃く残っている。「握手から始まるビジネス」が今も多く、成功のカギは技術そのものよりも、市場への参入方法を理解して効果的な戦略を構築するとともに、現地の関係者から信頼を獲得することにある場合が多い。
- 日本企業にとっては、ライフサイエンス、ロボティクス・インテリジェンス(注10)などの分野に、特に大きな参入機会があると考えている。日本の宇宙スタートアップは、高度で成熟した技術を有している。フロリダ州へ進出する際には、現地企業や投資家との関係を構築するだけでなく、州内の大学と提携することも有効だろう。もちろん、フロリダ州は日本の宇宙ミッションを支える打ち上げ拠点としても魅力的だ。
- 質問:
- 今後10年間の展望は。
- 答え:
- 今後10年を形作る上で、AIは避けて通れない要素となる。AIには膨大なセンサーデータが必要であり、それに伴って、宇宙空間でデータを収集できるシステムへの需要も高まる。また、宇宙空間での演算処理が増加するにつれ、耐放射線コンピューティング、光通信・レーザー通信、量子暗号、次世代のセキュア通信、宇宙インフラを支える基盤技術などが、ますます重要になる。こうした分野は今後も成長を続けると考えている。
- フロリダ州もまた、今後10年間に向けて有利な立場にある。州政府は企業に不必要な障害を設けない、ビジネスフレンドリーな姿勢を取っている。また気候の良さ、素晴らしいビーチをはじめとする観光資源、住民の親しみやすさは、高い生活の質につながっている。こうした要素は、優秀な人材を引き付けて州内への定着を促すとともに、企業が成長できる環境を生み出している。過去10年間におけるフロリダ州の成長と技術面での進歩を踏まえると、「宇宙産業の黄金時代」ともいえる時代を迎える中で、同州は今後も米国の宇宙産業を牽引する主要地域の1つであり続けるとみている。

- 注1:
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米国の調査会社スタートアップ・ゲノムが発表した「グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート2026」によれば、北米地域12位にマイアミ、21~25位にタンパベイ、オーランドがランクインしている。また「新興スタートアップ・エコシステム」分野において、オーランドは前年から10位以上、タンパベイは前年から30位以上上昇し、世界21~30位にランクインしている。
- 注2:
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世界初の宇宙電力網の構築に取り組む宇宙エネルギー企業。集光した太陽エネルギーを軌道上の衛星へオンデマンドで伝送し、機体を改修することなく既存の太陽電池アレイに電力を供給することで、商業、民生、安全保障分野における衛星の稼働時間や機能、ミッション能力の向上を目指している。
- 注3:
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資産が一定額以上の富裕層の有形・無形の資産を管理し、運用・投資する組織。
- 注4:
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レーザー光を照射し、反射光が戻るまでの時間を測定することで、対象物までの距離や形状を高精度に把握するリモートセンシング技術。
- 注5:
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衛星や宇宙システムが各種センサーで取得する観測データ全般。
- 注6:
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政府資金を活用し、中小企業やスタートアップによる研究開発を支援する制度。
- 注7:
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政府資金を活用し、中小企業と大学などの研究機関を結び付け、共同研究や技術の実用化を促進する制度。
- 注8:
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米空軍および宇宙軍が提供する、中小企業の革新的な技術について、実用化や量産化に向けた資金規模の拡大を支援する制度。
- 注9:
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米空軍および宇宙軍が提供する、中小企業による技術の実用化を支援する追加資金制度。
- 注10:
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AIやセンサー技術を活用し、ロボットが周囲の状況を認識・判断しながら、自律的に行動するための技術。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課
木村 勇翔(きむら ゆうと) - 2026年、ジェトロ入構。同年から現職(カナダ全般、米国自動車・航空宇宙産業担当)。










