健診文化を世界へ。NURAのAI健診サービス(インド・ベトナム)
2026年3月26日
富士フイルムが海外で展開する健診センターNURA(ニューラ)は、2021年2月にインドのベンガルールで開設した第1号拠点を皮切りに、現在ではベトナムやモンゴルなど、インド以外の国々でもサービスを展開している。
ASEAN地域におけるNURAの事業内容については以前、富士フイルム本社関係者へのインタビューを通じて紹介してきた(2026年2月16日付地域・分析レポート参照)。今回は、インド(ベンガルール・カリカット)、ベトナム(ハノイ)の3カ所のNURAを訪問し、現地での運営、マーケティング活動や今後の展望などについて話を聞いた(注1)。また、カリカットでは筆者が健診も体験した(ヒアリング日:ベンガルール2月10日、カリカット2月11日、ハノイ2月13日)。
差別化はホスピタリティーとテクノロジー(ベンガルール)
インドでは、新労働法が2025年12月に発表されたこと(2025年12月4日付ビジネス短信参照)に伴い、労働者への健康診断の受診が義務化されるなど、国民の健康への取り組みが強化されている。一方で、制度導入から日が浅く、健診受診率は依然として高いとはいえない状況にある。
富士フイルムはインド・ケララ州を本拠地とする医療グループ「ドクター・クティーズ・ヘルスケア(Dr. Kutty’s Healthcare)」と合弁で現地法人「FUJIFILM DKH LLP(FDKH)」を2019年に設立した。2021年には、ベンガルールに直営のNURAを開設した。現在、インド国内ではベンガルールをはじめ計5拠点(ベンガルール、グルガオン、ムンバイ、ハイデラバード、カリカット)を展開しており(注2)、最大の特長は「デジタル技術の活用」にある。NURAでは各施設内に設置された同社のCT・マンモグラフィーなどの医療機器と医師の診断を支援する人工知能(AI)技術を活用することで、来所から原則120分以内で受診結果のフィードバックと医師によるコンサルテーションを提供している。

- 質問:
- 運営状況・マーケティング活動について
- 答え:
- ベンガルールNURAの顧客は男性が65%、女性が35%程度。年齢は20歳から60歳まで幅広く、中でも40代が多い。利用者の中心は中・高所得の会社員が多数を占めている。ベンガルールはNURA第1号店で、健診サービスとNURAの認知度の向上が課題であった。そのため、インスタグラム(Instagram)などのSNSを活用した情報発信を積極的に実施したほか、家族紹介といった販促活動も行って顧客を拡大してきた。現在では認知度も高まり、受診者の3割がリピーターとなっている。
- インドの一部の病院では健康診断を受けられるが、費用は1,000ドル程度とNURAでの受診費用(約250ドル)より高く、診断結果が出るまでに2週間から1カ月ほどかかる。一方、NURAではがん検診をはじめ、生活習慣病の検査サービスを受けることができ、AI技術の活用によって、受診当日に医師から結果説明を受けられる。AIは最終判断を補助するが、診断と説明は必ず医師が行っている。
- NURAでは、健診結果に関する顧客へのフィードバックを重視している点が特徴だ。インドでは「ホームドクター文化」が根付いており、健診レポートをホームドクターと共有できるようにすることは、医療提供者との連携において重要な役割を果たす。このため、NURAはホームドクターとの関係構築にも積極的に取り組んでいる。
健診サービス・プラスα(カリカット)
富士フイルムは、2024年12月にインド・ケララ州カリカットにニューラ グローバル イノベーション センター(NURA Global Innovation Center)を開設した。同センターは健診サービスのほか、世界各国のNURAの医師・技師・看護師などの専門人材を育成するトレーニングセンターとしての機能なども担っている。

(ジェトロ撮影)
- 質問:
- 運営状況・マーケティング活動について
- 答え:
- SNSやインフルエンサーを活用したマーケティングを展開している。集客の観点ではSNSが重要でインスタグラム(Instagram)、フェイスブック(Facebook)なども活用し、NURAの健診サービスについて紹介している。特に、インフルエンサーの活用が効果的だ。インドでは22の指定言語があり、言語に合わせてSNSのアカウントを分けて運用している。年齢層としては40代が多いが、インドでは30代以降は循環器疾患が多い。
- 都市部から離れた地域に拠点をもつ現地企業と提携し、そのオフィスや工場で働く従業員の企業健診として、CT検査によるがん検診と生活習慣病検査を移動式で提供する「ニューラ エクスプレス(NURA Express)」もある。将来は地方自治体などと提携して、都市部まで来られない地域に住む人にNURA Expressで自治体健診を提供できる体制を構築し、より多くの人のがん・生活習慣病の早期発見に貢献することを目指している。
-

NURA Express(ジェトロ撮影) - 質問:
- データの活用について
- 答え:
- インド国内でこれまで実施された健診データについては、インドの法令や規制のもと、個人への有益な情報のフィードバックのみならず、将来的な医療サービス高度化や研究分野での活用可能性が検討されている。個人の健康状態のトレンドを健診データから把握できる点は、NURAならではの強みといえる。
地域特性に応じた健診サービスを(ハノイ)
ベトナムでは、労働者に対する定期健診が義務化されているが、年に1回の定期健診を行っている企業は40~50%程度となっている(注3)。富士フイルムは、東南アジア初のNURAを2024年7月にハノイに開設した。直営ではなくベトナムで医療機関を展開する「T-Matsuoka Medical Center」と提携(パートナー運営)し、2025年11月にはホーチミンにベトナム2号店を開設した(注4)。このパートナー運営モデルでは、富士フイルムが医療機器や医師の診断を支援するAI技術を活用した健診サービスのノウハウを提供し、現地パートナーが施設運営とマーケティングを担当している。
ベトナムでは超音波検査や耳鼻咽喉(いんこう)検査など、インドのNURAでは提供していない検査も地域のニーズに応じて検査項目として組み込んでいる。

- 質問:
- 運営状況・マーケティング活動について
- 答え:
- NURAハノイの顧客は40-50代が多く、所得中間層が主体。価格は1,000万ドン前後(約6万円、1ドン=約0.006円)で設定している。顧客の40%がBtoBサービス、すなわち企業健診だ。主なマーケティングツールはフェイスブック(Facebook)で、ティックトック(Tiktok)、インスタグラム(Instagram)も活用している。マーケティング専任チームがいて、動画撮影・編集を含めて内製化している。
- ベトナムでは心臓病の患者が多く、次いで肺がん、糖尿病と続く。健診では特にがん検診に対する需要が高い。NURAでは、がんと生活習慣病の両方にフォーカスしているが、X線では発見しづらい小さながんでもCT検査では発見できる可能性がある。今後ベトナムでは、ハノイのNURAに脳ドックや内視鏡の検査を入れたプレミアムコースの導入も検討している。健診にはAIを導入しているが、あくまで医師のアシスタントという位置付けだ。
おもてなしのAI健診
筆者は、NURA Global Innovation Center(カリカット)で健診体験をした。NURAはがんと生活習慣病を対象とした人間ドックのような健診を行う。健診料は1万8,000ルピー(約30,600円、1ルピー=1.7円)。健診は、担当スタッフがマンツーマンで対応する。前日に採便容器を渡され当日に持参、健診センターでは最初に着替え、採尿、血液採取、血圧・体重・身長測定をした後、CTスキャンで撮影する。CTスキャンは被ばくを伴うが、NURAではAI技術の活用で、低線量で高画質な画像を撮影できる。その後、心電図、口腔(こうくう)、視力・眼底検査となる。女性は、これにマンモグラフィーによる乳がん、子宮頸(けい)がんの検査がプラスとなる。採取した血液・尿・便潜血を測定するラボは、各施設内に整備されている。そのため、生化学検査の結果も含めた結果フィードバックが基本的に120分以内で可能だ。全ての健診を終えると、モニターに映るAIのアバターによる受診結果のフィードバックが実施され、その後、医師から詳細な結果説明とレコメンデーションが行われて、完了となる。筆者の体験でも実際に120分以内で終えることができた。健診結果は、「A・B・C・D」の4つの評価に分かれ、その場で約50ページの冊子となる「Your Annual Health Report」と画像付分析資料が提供され、医師のコメントも付された。同時にメールでもデータの送付を受けられるほか、スマートフォンのNURAアプリ上でも画像を含めた検査結果を確認できた。


(ジェトロ撮影)
日本の当たり前が世界をかけ巡る
NURAは富士フイルムの若手社員がドバイ駐在員時代に、新興国で健診文化を作りたいという思いを持ち、その後Dr.Kutty's Healthcareの協力を得て、インドで誕生した。今では外部パートナーとともにベトナム、モンゴルなどにも展開している。今後も直営に限らず、パートナー運営も活用しながらNURAを展開していく方針だ。パートナーの選定について、現地に精通しているパートナーとの出会いが重要となるが、何よりもNURAの理念に共感し、その地域の人々の健康を改善したいという思いを持っているかが重要とのことであった。
富士フイルムは今後、フィリピン、マレーシアなど、グローバルサウスの国々にNURAを新たに設立することを計画している。
NURAでは、CTスキャンの際にAI技術によって低線量でも高画質な画像を得られるようにすることで、読影医の診断も支援している。このほかにも、例えば肺や心臓などに関するスコアリング、その他のリスクをわかりやすく説明するためのAI技術の開発を行っている。また、数万件にのぼる健診結果データを活用して、受診者への健康サービスを提供するだけでなく、研究機関や学会と連携するなど当該国・地域のヘルスケアの発展に向けた取り組みも図っている。加えて、今回、見学に訪れたインドとベトナムを皮切りにNURAでは、現地への展開を希望する企業などとの共創を視野に入れた取り組みも検討されている。日本発の健診文化が多用途性を持ちながら、着実に世界に拡がっていくことに期待したい。
- 注1:
- 以下の方々にヒアリングを実施。
- 注2:
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インドのNURAについては、「NURA Sustained Health with Achieve-AI Screening(India)
」を参照。また、インドにNURAを設立する経緯については、富士フイルム「動画でみるプロジェクトストーリー」
を参照。 - 注3:
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ヘルスケアに関する海外の現地情報は、ヘルスケア国際展開ウェブサイト(経済産業省)
を参照。 - 注4:
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べトナムのNURAについては、NURA Sustained Health with Achieve-AI Screening(Vietnam)(ベトナム語)
を参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外ビジネスサポートセンターグローバルサウス課
竹内 康晴(たけうち やすはる) - 2022年から現職。






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