フードテックの活用、わさびを世界へ
今後の植物工場の可能性を探る

2026年4月22日

従来のわさび栽培のみならず、フードテックや農業DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用により、場所や天候を選ばない環境制御型農業として、植物工場やコンテナ型の栽培モジュールでわさびを生産する取り組みが始まっている。

室内わさび栽培のスタートアップ、アグリテックベンチャーであるネクステージ(NEXTAGE、本社:東京都目黒区)の代表取締役中村拓也氏、営業推進部長山本剛史氏、海外担当である事業開発部部長の宮崎慶子氏に、同社の取り組みや海外での販路開拓、今後の展望などについて聞いた。また、同社の国内販売代理店であるマクニカ(本社:神奈川県横浜市)フード・アグリテックソリューション室長補佐の荒木真一氏にもインタビューした(取材日:2026年2月24日)。

わさびは需要の高まりから供給不足

日本食を代表する調味料であるわさびは海外市場で定着しつつあり、わさび加工品のみならず、生鮮わさびの海外需要が増加傾向にある。また、海外での需要とともに、インバウンド観光客の増加などの影響で日本国内での需要も高まっており、わさびの供給量が不足し、国内市場での卸値が高騰している。

今後、わさびの輸出拡大を目指す上での課題の1つは、供給面の問題だ。生産地が限定され、栽培が難しいわさびは、現状生産場所や供給量を増やすことが難しい。わさびの海外需要が高まる一方、日本国内の生産量が減少する中、生産地での取り組みが進んでいる(2026年1月8日付地域・分析レポート「日本独自のスパイス、東洋の高級ハーブ」生鮮わさびを世界へ」参照)(注1)

植物工場など環境制御型農業への注目

農林水産物・食品の輸出拡大の前提には、日本国内の食料安全保障を確保するために、農林水産業の振興が必要だ。そこで期待されるのが、日本政府が掲げる成長戦略分野の1つのフードテックだ。フードテックとは、生産から加工、流通、消費などへとつながる食分野の新しい技術およびその技術を活用したビジネスモデルのことだ(注2)。日本独自の技術やノウハウは、食や農業分野で世界に通用するビジネスを生み出すことが期待される。その中でも、持続可能な食料供給に貢献できるものとして、植物工場などの環境制御型農業がある。

環境制御型農業とは、作物が育つために理想的な生育環境(温湿度、二酸化炭素濃度、光量、気流、養液量など)の条件を、IoT(モノのインターネット)センサーや人工知能(AI)制御システムなどのテクノロジーを活用して管理・制御する農業のことだ。いわゆる植物工場や、システム設備で管理する屋内の温室栽培や水耕栽培を指す。代表的な栽培作物としては、レタスなどの葉物野菜やトマト類のほか、イチゴや花卉(かき)などがある。

特に、近年の温暖化などの気候変動、異常気象の頻発化や労働力不足などにより、食料安全保障のリスクが高まっている。環境制御型農業は気候の影響を受けることがなく、計画的な生産や限られた空間での効率的な生産が可能で、食料の安定供給に寄与することが期待される。

ただし、課題として、初期投資コスト(建設費やシステム設備費など)や維持コスト(照明や空調といった光熱費など)が大きく、事業化できる農作物の品目が限定される。市場での価格競争が厳しいため、収益化することが難しいといわれている。

わさびの環境制御型農業の可能性

NEXTAGE代表の中村氏は、2018年に創業し、2019年からわさびの環境制御型農業の実証実験を開始した。わさび田の荒廃や激減するわさび農家の現状を知り、わさびが植物工場の作物に適したものと感じたという。「植物工場として屋内栽培を実現させ、わさび全体の生産量を増やすことで日本のわさび業界を盛り上げたい」と思いを語った。豊富な水や穏やかな気候が必要で生産地が限定されるほど、栽培が難しいわさびの最適な栽培技術を確立するのは容易でなかった。完全閉鎖型植物工場であるコンテナ型の「わさび栽培モジュール」として事業化するまで、試行錯誤して6年かかった。

わさびは、現状も国内外で供給が不足しており単価が上昇している。供給不足により高い価格でも受け入れられる余地がある点で、環境制御型農業の作物としてふさわしい品目だ。栽培品種を最高級の希少品種である真妻種(注3)とすることで、付加価値を高めた。


同モジュールで収穫したわさび(同社提供)

わさびの葉茎部分(同社提供)

特許技術やノウハウでわさび栽培モジュールを実現

NEXTAGEのわさびの環境制御型農業では、安定した収穫や品質を実現するために、カメラやセンサーでわさびの生育状況を常にリモート監視する。そのデータを収集し、AIや画像解析システムで分析する。それらの結果を踏まえて、制御システムやロボットなどで最適な栽培方法を実行することで、理想的な生育環境に制御する。また、QRコードで個体ごとに生育状況などを管理する。これらの特許技術やノウハウなどによって「誰でもどこでもわさびを栽培可能にする」モジュールを実現している。

従来、わさびの根茎として出荷できるまで2、3年かかっていた生育期間を、最適な環境に制御することで約1年に短縮する。また、生鮮わさびとして根茎が出荷されるまで、葉茎部分を1、2週間ごとに収穫可能なため、生育中にも一定のコスト回収ができる仕組みになっている(注4)

コンテナ型わさび工場は環境閉鎖型で、40フィート規格のコンテナを使う。コンテナ内で、均一条件で最適な環境に制御するため、周辺環境、気候に左右されることがない。ただし、コンテナの場合、設置場所によって自治体などのルールや規制が異なるといった課題はあるのが現状だ。この課題を踏まえて、建物内にビルトイン型のモジュールも展開している。


わさび栽培の様子(同社提供)

栽培されるわさびの様子(同社提供)

コンテナ型わさびモジュール外観(同社提供)

コンテナ型わさび栽培モジュール
(同社提供 ※画像はAIにて作成)

ビルトイン型わさび栽培モジュール
(同社提供 ※画像はAIにて作成)

わさびの生産から販売まで、積極的に展示会出展

「わさびにかかわる川上(生産)から川下(販売)まで、日本のわさびのストーリーとともにビジネス拡大を目指していく」と、中村氏は語る。スタートアップ企業ならではの機動性、柔軟性を武器にして、わさび栽培モジュールの開発、運用、販売にとどまらず、収穫物の販売まで手掛ける。長野・安曇野や静岡などのわさびの産地と競合させるのではなく、お互いのストーリーや特徴を尊重しながら相乗効果で日本のわさびを世界へ広めることを目指す。

同社は海外展示会にも積極的に参加して、同社で栽培した本わさびとともに、栽培モジュールのプロモーション活動をしている。2024年10月、シンガポールで開催されたアジア最大級のイノベーション展示会である「SWITCH」への出展ミッションに参加した(注5)。また、2025年5月にはIT関連国際展示会「COMPUTEX/InnoVEX2025」(台湾、台北)の横浜企業経営支援財団のブース、2025年9月に日系商社が主催するRestaurant Expo(米国ニューヨーク)、11月に中国国際輸入博覧会(中国、上海)など、積極的に海外展示会などへ出展した。海外営業を担当する宮崎氏によると、「米国、中国、台湾でも当社のわさびは美味しいと高評価で、コンテナを使ったわさびの水耕栽培やビジネスモデルにも多くの関心が寄せられた」という。


SWITCH2024(シンガポール)でのプレゼンの様子
(同社提供)

SWITCH2024(シンガポール)での展示ブースの様子
(同社提供)

Restaurant Expo(米国ニューヨーク)での
展示ブースの様子(同社提供)

アイルランドで現地法人設立、現地生産を実現へ

同社は2025年8月、アイルランドのダブリンシティ大学オープンイノベーションキャンパス内に初の海外拠点を設立した。現地パートナーの日本人研究者との出会いから、アイルランド人の温厚でオープンな国民性や、世界からテック企業が集積している点に魅力を感じて進出した。現在、わさび栽培モジュールでの本格的な生産に向けて実証実験をしている。

今後、現地生産により欧州産わさびとして欧州市場へ展開するとともに、わさび栽培モジュールを展開していくことを目指す。まずは、日本食文化が浸透するロンドン、パリ、バルセロナなど主要都市を中心に、欧州地域でのわさびの販路を拡大する計画だ。実際に、2025年12月には、初の海外導入案件として、スイス企業へのわさび栽培モジュールの提供が決定した(詳細は2026年2月10日付ビジネス短信参照)。


アイルランドのNEXTAGE Lab Inc.(同社提供)

輸出拡大と現地生産で、わさびを世界へ

営業統括で事業推進部長の山本氏は、「既に国内の食品メーカーや高級日本食レストランやすし店をはじめ、海外から多くの引き合いや問い合わせが来ており、現状の生産量では追いつかない状況になっている。わさび栽培モジュールによる生産量を増やすため、生産体制の強化が必要だ」と話す。

こうした生産体制の強化に向けた取り組みの一環として、同社は三菱ガス化学と共同で、海外市場を見据えた大規模栽培プロジェクトを進めている。2025年4月より開始した本プロジェクトでは、従来のコンテナ型モジュールに加え、大型の植物工場におけるわさび栽培技術の実用化を目的とした検証を進めている。代表の中村氏は、「海外のわさび市場は大きい一方で、グローバルに安定供給できる生産体制はこれまで十分に整備されてこなかった。当社は創業当初から海外供給を見据えた栽培技術の確立に取り組んできたが、三菱ガス化学との連携により、その実現可能性が大きく前進している」と語る。

今後、マクニカや三菱ガス化学など大手企業とも連携を進めて、わさび栽培モジュールを増やし、大規模工場を設立および増設することで生産体制の強化を図る予定だ。マクニカの荒木氏は、「急激に進化している生成AIやデータ技術の環境制御型農業での活用を外部研究機関などと進めている。NEXTAGEも支援しており、全国の自治体や企業に対してわさび工場の導入を提案するなど、(同社の)事業拡大に貢献していきたい」と話す。

NEXTAGEは、日本のわさびを量産することで、国内需要に対応するのみならず、海外市場への輸出拡大を目指す。日本から輸出する水産物や牛肉などとのわさびの相性が良いため、相乗効果での輸出拡大も期待できる。

今後の同社の課題としては主に物流面が挙げられ、わさびの品質を保持しながら輸送する難しさや、空輸した場合の高いコストがある。これらの課題を解決するためにも、欧州などで現地生産を増やしていくことを視野に入れている。わさび栽培モジュールを用いてわさびの現地生産を拡大しつつ、日本からの輸出と組み合わせることで、「わさびの食文化とともに、わさびを世界各地の市場へ届ける」という同社のミッションが、よりスケールアップしていく。

植物工場や環境制御型農業の分野では、付加価値や国際競争力が高い(わさび以外の)日本産の農作物への応用もあり得るだろう。同社のわさび栽培モジュールのような、日本の独自技術やノウハウを活用したフードテックが今後増えることが期待される。これらのフードテック企業と日本の生産者や事業者、自治体などが連携を深めることで、日本からの農林水産物・食品のさらなる輸出拡大が望まれる。


注1:
長野県安曇野市の藤屋わさび農園は、これまでの輸出や品質管理への取り組みが評価され、2025年12月、農林水産省「フラッグシップ輸出産地」に認定された。わさびの産地として初めてであり、今後の生産および輸出量の増加が期待される。「フラッグシップ輸出産地」とは、海外の規制やニーズに対応して継続的に輸出に取り組み、手本となる産地のこと。 本文に戻る
注2:
日本においても、(1)大豆などの植物性たんぱく質を用いた植物性商品の開発、(2)フードロス削減など持続可能な食料供給、(3)省人化や農業・水産業のスマート化など食産業の生産性の向上、(4)栄養食やアレルギー対応など健康な食生活などの観点で、新たなビジネス創出への取り組みがされている。フードテックの詳細は、大臣官房新事業・食品産業部「フードテックをめぐる状況」(2026年2月)(4.2MB)を参照。 本文に戻る
注3:
真妻種は、通常の品種と比べて、辛みの中に甘みが感じられ、粘り気があるため、すりおろすとクリーミーなことが特徴。高級すし屋や料亭で使われることが多い。流通量が少なく希少なため、単価が高い。 本文に戻る
注4:
わさびの根茎のみならず、葉や茎にも独特のさわやかな辛みと香味があり、漬物などのわさび加工品をはじめ、調味料や料理に活用できる。
なお、同社オンラインショップ「山葵人商店」では、自社栽培施設で収穫した新鮮な葉わさび、葉茎を販売している。 本文に戻る
注5:
ジェトロ横浜が横浜市・川崎市と連携して実施した、スタートアップのグローバル展開を支援する目的の、「SWITCH 2024」に出展する海外研修プログラム。展示スペースで世界中から集まる参加者に製品やソリューションをアピールするとともに、現地パートナーのネットワークも最大限活用しながら企業訪問やミーティングを個別に実施した(詳細は、2024年11月15日付ビジネス短信参照)。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。