ルーマニア北西部、西欧へのアクセスを生かした成長地域
2026年7月2日
ユネスコ世界遺産に登録された木造教会群で知られるルーマニア北西部のマラムレシュ県と、同じく北西部に位置しハンガリーと国境を接するサトゥ・マーレ県。両県は北側でウクライナとも国境を接しており、EU単一市場へのアクセスに加え、ウクライナ復興ビジネスへの展開可能性、さらに黒海に面するルーマニア最大のコンスタンツァ港へも1,000キロメートル圏内に位置する点が強みだ。ジェトロは、マラムレシュ・ビジネスパーク最高経営責任者(CEO)のラドゥ・ゾイカス氏、マラムレシュ県議会議長のガブリエル・ヴァレル・ゼテア氏、同県アドミニストレーター・パブリックのヴァシレ=サンドゥ・ホティマ氏、ならびにサトゥ・マーレ県に所在する住友理工の製造拠点であるスミリコウ・エーブイエス・ルーマニア(SumiRiko AVS)ゼネラル・マネージャーのアリン・グルイア氏に対し、インタビューを行った(取材日:2026年5月20日)。
マラムレシュ県、木工業が支える欧州向け輸出拠点
マラムレシュ県は県庁所在地をバヤ・マーレとする人口約45万人規模の行政地区だ。隣国のウクライナおよびハンガリーに加えて、ドイツの影響が歴史的に強く、各言語での公教育を行う教育機関が存在している。マラムレシュ・ビジネスパークのゾイカス氏によると、同県はかつて鉱山地域として発展したが、現在は豊かな森林資源を背景に木工業が中心産業となっている。
2024年の産業集中度(LQ、特定の地域における産業の集中度を全国の当該産業の集中度と比較したもの)を見ると、家具製造は7.4倍、コルクをはじめとする木材製品の製造は5.2倍といずれも高い水準にあり、関連分野への産業集積が進んでいることがうかがえる。この背景には、地場企業が海外向け製造を支えている構造がある。その一例として、バヤ・マーレに本社を置くアラミスグループが、スウェーデンの大手家具メーカーであるイケア向け製品の製造を担っており、約6,000人規模の従業員を擁するなど、地域経済に大きな役割を果たしている。その結果、ルーマニア全体の貿易収支が伸び悩む傾向にある中、マラムレシュ県では10年以上にわたり黒字を維持しており、2024年には50万3,000ユーロの貿易黒字を達成したという。
マラムレシュ・ビジネスパークは、同地域への投資を検討する企業に向けたワンストップ窓口となることを目的に、2021年にマラムレシュ県議会によって設立された。2023年には、県内4カ所に産業拠点を分散配置する整備計画が承認され、EUの地域開発基金を活用したプログラムとして申請された。総事業費は7,400万ユーロ超にのぼり、インフラ整備に加え、進出企業に対する支援も含まれている。
EU基金を活用したインフラ整備に伴う発展の兆し
ルーマニア北西部では、物流機能の強化に向けたインフラ整備が進んでいる。
まず、マラムレシュ県のシゲトゥ・マルマツィエイとウクライナのソロトヴィノを結ぶティサ川の新橋のルーマニア側区間が完成した(図参照)。全長261.2メートル、総工費は約4,900万ユーロで、EUの基金により支援されている。既存の橋に加えて利用が可能となり、これまで制約のあった大型貨物トラックの往来にも対応できる見込みだ。マラムレシュ県議会のホティマ氏は、橋の開通に伴い、同県がウクライナの復興に寄与する物流拠点となる契機になると述べている。

出所:ジェトロ作成
バヤ・マーレ中心部から約8キロメートルに位置するマラムレシュ国際空港は、欧州の主要交通網(TEN-T)(2026年5月20日付地域・分析レポート参照)の一部に組み込まれており、現在、利用者数拡大に向けて延べ床面積1万2,209平方メートルの新ターミナルの整備が進められている。同プロジェクトもEU基金の支援対象であり、現在は開業の最終手続きの段階にあるという。
さらに道路インフラについても整備が進む。バヤ・マーレ市内の道路改修に加え、同市とサトゥ・マーレを結び、ルーマニアを東西に結ぶ高速道路A3へ接続する新規高速道路の計画が進行中だ。現在は実現可能性調査が完了した段階にあり、実現すれば西欧やクルージュ=ナポカをはじめとする国内主要都市との接続性が一層向上する見通しだ。こうしたインフラ整備は、単なる地域開発にとどまらず、EU域内のサプライチェーン再編や、ウクライナ復興需要の取り込みに向けた戦略的基盤として位置付けられる。
鉄道についても、マラムレシュ県内にはブラショフからバヤ・マーレ、サトゥ・マーレへと至る主要路線(400号線)が通っており、北西ルーマニアにおける基幹鉄道路線の1つとなっている。2030年を目標とする政府計画では、2033年から2035年の実施に向けて、バヤ・マーレ~サトゥ・マーレ(約59キロメートル、約1億1,700万ユーロ)およびバヤ・マーレ~デジュ(約134キロメートル、約3億2,300万ユーロ)の2路線の改修が計画されているという。
マラムレシュ・ビジネスパークによると、インフラ整備を含むこれらの投資は、マラムレシュを国外からの投資および長期的な事業成長に向けた競争力のある投資先として位置付けることを目的としている。併せて、接続性の向上や、充実した教育制度に支えられた熟練かつ多言語対応可能な人材、生活のしやすさなどを魅力として挙げた。
サトゥ・マーレ県、西欧へのアクセスなどに強み
サトゥ・マーレ県は、県庁所在地をサトゥ・マーレとし、ハンガリーおよびウクライナと国境を接する、人口約33万人規模の県だ。同県には、欧州域内に9拠点(防振:6工場+2 R&Dセンター、ホース:4工場+1R&Dセンター)を有する住友理工ヨーロッパのルーマニア拠点として、SumiRiko AVSが立地している。今回、同社のゼネラル・マネージャーであるグルイア氏に話を聞いた。

(ジェトロ撮影)
SumiRiko AVSは2003年に設立され、2013年に東海ゴム工業(現・住友理工)の傘下に入った。2017年の社名変更を経て、現在の体制に移行している。工場は2棟で、合計約1万5,000平方メートルの規模を有し、自動車の振動制御や走行安定性に関わるシャシー部品や排気系ハンガー、サスペンション関連マウント部品などを主力としている。また、表面処理やコーティングに加え、2019年以降は樹脂射出成形にも対応し、開発から製造までの一貫体制を整えている。
製品の約9割は海外向けであり、販売先はルノー(フランス)、メルセデス・ベンツ(ドイツ)、ダイムラー・トラック(ドイツ)、ZFグループ(ドイツ)など欧州メーカーが中心だ。輸送面では、コンスタンツァ港から原材料を取り込み、工場および顧客先へは主に陸送で対応しているという。
一方で、人材確保は課題の1つだ。現在、同社はバングラデシュからの従業員を受け入れている。ルーマニアでは西欧への人材流出が続き、慢性的な人手不足に直面している。2025年の国内失業率は6.1%で、最低賃金上昇や需給のミスマッチもあり、特に技能系人材の確保は容易ではない状況だ。
こうした状況下でも、同社は西欧市場への近接性や黒海へのアクセスといった立地の強みを生かし、安定した生産体制を維持している。グルイア氏は、生産体制のさらなる強化と拡大に意欲を示しており、インハウスで一貫生産が可能な点を強みとして、今後の成長を目指す考えだ。
長らくルーマニアは、西欧向けの生産拠点として、比較的安価な労働力や低い法人税率を背景に多くの企業を誘致してきた。近年は、賃金の高騰や物価上昇の影響を受け、コスト環境に変化がみられる。その中で北西部地域は、ハンガリーを経由した西欧市場へのアクセスの良さに加え、ウクライナ復興を見据えた地政学的な重要性の高まりを背景に、立地の優位性を前面に押し出している。労働力確保といった課題はあるものの、インフラ整備の進展もあり、欧州域内でのサプライチェーン構築において有力な製造拠点の1つと期待される。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ブカレスト事務所
太田 響子(おおた きょうこ) - 2023年、ジェトロ入構。デジタルマーケティング部を経て、2025年8月から現職。





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