政府支援後退で選別厳格化
米国クリーンテック投資の新潮流(1)

2026年2月18日

2025年の米国のクリーンテック(注1)投資は、民間投資額が過去最高水準を更新する一方で、政府支援が後退する局面にある(2026年1月19日付地域・分析レポート参照)。集計上の総額だけをみれば、米国のクリーンテック投資は拡大を続けている。しかし、実務的な観点では、「どの案件が実際に建設・量産・商用運転まで到達するのか」という点で、投資環境は明確な転換点を迎えている。現下では、官民を問わず、補助金や個別の政策支援に依存しなくても事業として成立するか、すなわち金融機関が融資可能かどうかを判断する基準である「銀行融資適格性(Bankability)(注2)」が重要な判断要素の1つになっている。

とりわけ鉄鋼、セメント、化学など初期段階で商業化が難しい領域である産業用脱炭素化(注3)分野では、投資計画の発表額と実際の資金支出額の差が他分野と比べて大きい傾向があり、政策環境の変更が案件の進展に影響を与え始めている。本稿では、民間調査会社ロディウム・グループとマサチューセッツ工科大学エネルギー・環境政策センター(MIT CEEPR)が共同で公表した「クリーン・インベストメント・モニター(CIM)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の最新データ(2025年第3四半期)(以下、CIM:2025Q3)を基に、米国クリーンテック投資の現状を「高水準の民間投資額」と「政府支援の見直し」という2つの軸から整理する。

新政権による環境関連政策の見直し

2025年以降、米国の気候変動政策は、補助金の予算執行と税制優遇の双方について大幅な見直し局面に入っている。補助金面では、エネルギー省(DOE)、環境保護庁(EPA)、農務省(USDA)、運輸省(DOT)といった主要官庁が、バイデン前政権下で採択・承認された案件について、経済性、実行可能性、財政リスクを理由に執行停止や打ち切りを相次いで実施した(表1参照)。対象は水素、二酸化炭素回収・貯留(CCS)(注4)、低炭素セメントなど産業用脱炭素化分野の事業(2025年6月4日付6月10日付ビジネス短信参照)、電気自動車(EV)充電網、送電網、農業分野の脱炭素化事業など多岐にわたり、総額では数百億ドル規模に達する(2026年2月2日付地域・分析レポート参照)。

同時に、2025年7月4日に成立した「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」により、インフレ削減法(IRA)に基づくクリーンエネルギー関連税制も大幅に整理され、住宅、EV車両、充電設備、新築住宅向けの税額控除は2025年秋から2026年半ばにかけて段階的に終了する(表2参照、2025年7月15日付ビジネス短信参照)。

これらの動きは、政府支援が単に減速していることに加え、案件の実行可能性・リスク管理の観点から予算執行を精査する「選別」(注5)の段階へと移行していることを示す動きといえる。

表1:米国連邦政府によるクリーンテック関連予算の執行停止・打ち切り状況(2025年) 注:2026年1月28日付ビジネス短信参照。
日付 政府部門 金額 主な対象
2月6日 運輸省 (DOT) 約50億ドル 国家電気自動車インフラ(NEVI) プログラムによる、全米の高速道路沿いにEV急速充電網を整備するための補助金事業を一時停止。2026年1月23日、連邦地裁は「資金停止」を違法と判断(注)
3月12日 環境保護庁(EPA) 約200億ドル 温室効果ガス削減基金(GGRF)制度のうち全米クリーン投資基金(NCIF)の3団体向け140億ドル、地域クリーン投資アクセラレーター(CCIA)5団体向け60億ドルの補助金全てを打ち切り
4月13日 農務省(USDA) 約31億ドル 気候スマート農産物パートナーシップ (PCSC) の全140のパイロットプロジェクトを撤回
5月30日 エネルギー省(DOE) 約37億ドル 二酸化炭素回収・貯留(CCS,CCUS)や産業用脱炭素化プログラム(IDP)に基づくセメント・化学などの実証事業24件の撤回
6月30日 農務省(USDA) 約9億1,000万ドル 地方エネルギー支援プログラム (REAP) を一時停止。一部再開したが「計画の自発的修正」を要求。
8月7日 環境保護局(EPA) 約70億ドル GGRF制度のうち、「Solar for All」 プログラムの実施中止
10月2日 エネルギー省(DOE) 約75億6,000万ドル 水素ハブ、EV充電網、クリーンエネルギー実証事業(OCED管轄)など223件のプロジェクトを支援していた321件の補助金・助成金を打ち切り

注:2026年1月28日付ビジネス短信参照
出所:連邦政府ウェブサイトからジェトロ作成

表2:OBBBAにより終了・打ち切りが定められた主な税制優遇措置 注:IRCは内国歳入法。
IRC
番号
税額控除の名称 終了・適用不可となる条件
25C 住宅向け省エネ改修 2025年12月31日より後に供用開始(placed in service)される設備については適用不可
25D 住宅向けクリーンエネルギー(太陽光など) 2025年12月31日より後に支出された費用については適用不可
25E 中古クリーン車両(EVなど) 2025年9月30日より後に取得された車両は適用不可
30C 代替燃料車充電・給油設備 2026年6月30日より後に供用開始される設備は適用不可
30D 新車クリーン車両(EVなど) 2025年9月30日より後に取得された車両は適用不可
45L 新築省エネ住宅 2026年6月30日より後に取得された新築住宅は適用不可
45W 商用クリーン車両 2026年6月30日より後に取得された車両は適用不可
179D 省エネ事業用建物 2026年6月30日より後に取得された事業用建物は適用不可

注:IRCは内国歳入法。
出所:内国歳入庁 

過去最高を更新した民間投資と分野別の明暗

こうした政策環境の変化にもかかわらず、2025年第3四半期(7〜9月)の米国内クリーン投資総額は760億ドルと、前年同期比8%増となり、四半期ベースで過去最高を記録した(CIM:2025Q3)。

ただし、投資拡大の内訳を分野別に見ると、その実態には明確な濃淡がある(図参照)。

図1. 分野別クリーンエネルギー投資の推移 
出所にある通り、statistaより引用。当事務所ではStatistaのpro accountをサブスクリプションしている。
2023年第1四半期から2025年第3四半期までの、クリーンテック分野での製造部門、エネルギー・産業部門、小売部門の対米直接投資額について、積み上げグラフとしたもの。全体の投資額は、2023年の第一四半期の480億ドルから2024年第3四半期には700億ドルまで拡大した。2024年第4四半期には670億ドル、2025年第1四半期に660億ドルとなり、第2四半期に690億ドル、第3四半期に本統計では過去最高額の760億ドルに達した。第3四半期の内訳をみると、半分以上の410億ドルが小売りである。エネルギー・産業部門は250億ドルで、2023年第1四半期の160億ドルから拡大した。製造部門は100億ドルで、同50億ドルから拡大したとはいえ停滞気味である。

出所: Rhodium Group, MIT. (2025). Private investment in clean energy sector in the United States from 1st quarter 2023 to 3rd quarter 2025, by segment (in billion U.S. dollars). Statista.外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます Statista Inc. Accessed: January 10, 2026. を基にジェトロ作成

CIMは投資を「小売り」「製造」「エネルギー・産業」の3つに分けて分析しており、「小売り」は個々の世帯や企業による当該技術の購入および設置を通じた投資、「製造」は温室効果ガス(GHG)排出削減関連の製造分野への投資、「エネルギー・産業」はクリーンエネルギーの生産または産業部門(工業生産など)の脱炭素化を目的とした当該技術の導入への投資をさす。

投資増加を牽引したのは「小売り」で、特にEV販売が中心だ(注6)。第3四半期の「小売り」の投資額は410億ドルと全体の54%を占め、その76%はEV関連支出だった(CIM:2025Q3)。同年7月成立の「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」に基づき、9月末でEV購入時の最大7,500ドルの税額控除が廃止される前の、駆け込み需要が影響した可能性が高い(2025年12月4日付地域・分析レポート参照)。税制変更の影響を織り込んだ後も一定の需要が維持されるかは不透明であり、2026年以降の動向を見極める必要がある。

一方「製造」への投資は、2024年第4四半期以降、減少傾向が続いている。2025年第3四半期の投資額は100億ドルと前年同期比で約16%減少した(図参照)。「製造」への投資額の約8割はEVサプライチェーン(重要鉱物、バッテリー製造、車両組み立て、充電設備)に集中しているが、とりわけ初期投資が巨額で補助金依存度が高く、採算化に時間を要するバッテリー製造部門への投資額は前年同期比で37%減と大幅に落ち込んだ。EV・バッテリー関連ではプロジェクトの中止・撤回も相次ぎ、第3四半期の中止・撤回額は約20億ドルに達した。対照的に、太陽光発電関連製造設備などへの投資は増加し、前年同期比でも小幅ながら増加を維持した。

「エネルギー・産業」でも、2025年第3四半期の投資額が250億ドルと過去最高を記録した(図参照)が、その96%は太陽光や蓄電、風力といったクリーン電力分野に集中している。時系列で見ると、太陽光・蓄電投資がやや減少する中、風力発電は5四半期連続で増加し、2020年以来の高水準に達した。

これに対し、産業用脱炭素化部門への投資は10億ドルにとどまり、水素、持続可能な航空燃料(SAF)、カーボンマネジメントなどはいずれも前年同期比で減少している。

投資「発表額」と「実行額」の乖離が示す構造課題

CIMの報告は、このほか、「製造」、特に産業用脱炭素化部門において計画発表後に投資がなかなか進まず、「発表額」と「実行額」に大きな差が生じていることを指摘している。2018年から2025年第3四半期までの累計で見ると、「エネルギー・産業」すなわちクリーン電力や製造分野では投資発表額の約6割が実際の投資に結びついているのに対し、産業用脱炭素化部門では約1割にとどまる。

背景には初期段階の技術が直面するリスクがある。いわゆる「死の谷(Valley of Death)(注7)」と呼ばれる初号機(FOAK)(注8)段階から商業化までの移行プロセスは、連邦のみならず、州または地方自治体の支援、出資者、長期オフテイク契約の確保(注9)などを含む複雑な資金調達体制に依存しており、課題を乗り越えるのが難しいケースも少なくない。脱炭素セメントや紙パルプといった黎明(れいめい)期分野では、政府支援の見直し対象となった案件と「未執行投資」の重なりがみられ、連邦支援撤回の影響は深刻だ。

一方で、脱炭素鉄鋼のように実際に投資が行われている分野やSAFのように打ち切りを回避した分野もあり、産業用脱炭素化分野でも動向の違いが確認できる。

政策変更がもたらす投資の質的転換

新政権下での政策見直しを受け、米国のクリーンテック投資は「補助金主導」から「経済合理性と実際の需要を伴う案件」へと重心が移りつつある。FOAK段階の不確実性が高い脱炭素化分野は影響を最も受けやすい一方で、人工知能(AI)データセンターの拡大などに象徴される電力需要の増加を背景とする、24時間安定供給が可能なクリーン電力への投資は、エネルギー安全保障・経済インフラの観点からも重要性が高まっている。

こうした選別局面において、特にFOAK段階の技術や事業が、いかにして民間資本を呼び込み、商業化への道筋を描くかが最大の課題となる。

次稿では、この課題に正面から向き合うアクセラレーターの視点から、どの分野が「次の実行段階へ進み得るのか」を考察する。


注1:
再生可能エネルギー、省エネルギー、電動化、排出削減などを通じて、環境負荷の低減と経済活動の両立を図る技術・事業の総称。発電、輸送、製造など幅広い産業分野を含む。 本文に戻る
注2:
採算性だけではなく、技術・法的リスクが客観的かつ適切に管理され、金融機関や公的融資機関が実際に融資可能と判断できる水準にあること。本来、公的支援が必要な「市場の失敗」領域の案件であっても、この銀行融資適格性の有無が案件選別の絶対条件となっている現状がある。 本文に戻る
注3:
鉄鋼、セメント、化学などの製造業において、プロセス起源の二酸化炭素排出を削減する技術分野を指す。水素、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、持続可能な航空燃料(SAF)、低炭素素材製造などが含まれ、多くは初号機段階で商業化リスクが高い。 本文に戻る
注4:
大気中に拡散した二酸化炭素を直接回収する技術。回収した二酸化炭素は貯蔵や合成燃料・化学品原料として利用される。 本文に戻る
注5:
本稿における選別(セレクション)とは、政府による予算執行の精査、および投資家による実際の需要・資本・政策に基づいた案件の選定を指す。本来政府は「市場の失敗」を補完する役割を担うが、現在の米国市場では政府と民間が同一の「銀行融資適格性(注2)」を基準に案件を選別する状況にある。 本文に戻る
注6:
CIM 、BNEF(BloombergNEF)、国際エネルギー機関(IEA)のクリーン投資統計における「投資」には、企業の設備投資に加え、一般消費者によるEVやヒートポンプなどの購入支出も含まれる。将来のエネルギー消費構造を変える支出全体を投資として捉える。 本文に戻る
注7:
研究開発から商業化初期段階に至る過程で、技術的には成立しても、資金調達、実証、顧客獲得、量産化の壁により事業継続が困難になる局面。 本文に戻る
注8:
First-of-a-Kindの略。新技術を用いて初めて商業規模で建設・運用される設備や事業段階。 本文に戻る
注9:
事業者が、製品やエネルギーを一定期間・一定条件で購入する顧客(オフテイカー)との長期契約を締結すること。 本文に戻る

米国クリーンテック投資の新潮流

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執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所
松井 美樹(まつい みき)
オーストラリア国立大学PhD、カーネギーメロン大学ポスドクフェローなどを経て、シリコンバレーで半導体・AI分野の産業分析に従事。応用計量経済学が専門。2023年11月末から現職。