米エネルギー省の脱炭素関連の助成金撤回、中西部の複数企業にも影響
(米国)
シカゴ発
2025年06月04日
米国エネルギー省(DOE)のクリス・ライト長官は5月30日、同省のクリーンエネルギー実証局(Office of Clean Energy Demonstration:OCED、注)が締結した脱炭素化に関連する24件のプロジェクトに対する助成金交付(総額37億ドル超)の撤回を発表した。この決定に先立って、ライト長官は5月15日、DOEが付与を決定した179件、総額150億ドル超の助成金を精査するための資料を要請する覚書
を発表し、その中でバイデン政権最終段階での助成金決定に対して懸念を表明していた。取り消された24件の助成金のうち、16件は2024年11月の大統領選挙から2025年1月20日までの間にDOEと企業の間で契約締結されたものだ。これらのプロジェクトは、おもに二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)と脱炭素化の取り組みへの助成金提供を目的としたものだったが、DOEは今回の助成金撤回の理由について「個別の財務審査を行った結果、これらのプロジェクトが米国のエネルギー需要の進展に寄与せず、経済的に持続可能ではなく、納税に対する見返りも低いため」としている。
今回の助成金撤回の対象となった企業は、CO2回収・利用・貯留(CCUS)や、CO2排出量の多いセメント生産の脱酸素化に取り組む企業だけでなく、既存の設備の電化によるCO2の削減などの脱炭素化に取り組む中西部のガラス製造事業者や飲食料製造事業者も含まれる。ガラス食器製造のリビー・グラス(本社:オハイオ州)は約4,500万ドル、ガラス容器製造のオーウェンズ・ブロックウェイ・グラス・コンテナーは約5,700万ドル(本社:オハイオ州)の助成金で、CO2排出の少ない最先端の電気式ガラス溶解炉の設置・建設する産業実証プロジェクト実施を予定していた。
アルコール飲料製造大手のディアジオ(本社:ニューヨーク州)は、助成金約7,500万ドルによってイリノイ州とケンタッキー州の製造施設で熱電池を使用した電気熱エネルギー貯蔵(ETES)システムを設置することで、加熱過程でのボイラー使用における天然ガスの使用を削減するプロジェクトを予定していた。
また、食品大手のクラフト・ハインツ(本社:イリノイ州)は、約1億7,000万ドルの助成金で全米10カ所の製造設備にCO2排出の少ない電気ヒーターや電気ボイラー、バイオガスボイラーなどの設備を導入する予定を発表していた。
これらすべての助成金は、企業が受け取る予定の連邦助成金と同額以上の投資を行うことを条件としていた(カナリー・メディア5月30日)。プロジェクトの財政基盤が不安定となった今、現在進行中の建設工事、労働者の採用などの行方が懸念される。
(注)バイデン前政権下で、クリーンエネルギー技術実証プロジェクトの支援を目的として2021年12月設立。超党派により成立したインフラ投資・雇用法(IIJA)に基づく。
(星野香織)
(米国)
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