338条関税は新たなIEEPA関税になるのか(米国)

2026年9月4日

米国のドナルド・トランプ大統領は2026年8月22日、1930年関税法338条に基づき、カナダに50%の追加関税を発動した。カナダとの交渉の進展に応じて一時は関税発動を延期したが、最終合意には至らなかった(注1)。338条関税は発動された前例がなく、トランプ政権の高関税政策を巡る不確実性は一段と増すことになる。トランプ政権は今後、338条関税を通商交渉で相手国・地域に圧力をかけるための新たな手段として活用する可能性がある。

米国史上初の338条関税が発動

1930年関税法338条外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、米国に対して差別的措置を講じている国からの輸入品に追加関税を課すことを大統領に認める法律だ。具体的には、ある国が(1)米国産品に他国の同種の物品と比べて不当な課徴金や制限などを課している、または(2)米国の通商を他国よりも不利な立場に置くような関税や手数料、規制などを課していると大統領が事実として認定した場合、当該国の産品などに追加関税を賦課できると定める。追加関税率は、米国が被っている負担や不利益を相殺する目的で最大50%まで設定できる。さらに、追加関税発動後も当該国が差別的措置を維持または強化した場合、当該国からの輸入を禁止する権限や、当該国の差別的措置によって恩恵を受ける第三国からの輸入品に関税を課す権限も規定している。

トランプ氏はカナダによる差別的な措置として、チーズに関する関税割り当て(TRQ)、米国製自動車に対する追加関税、複数の州政府による米国産酒類の販売停止を挙げた。米国通商代表部(USTR)によると、338条関税の対象品目のカナダからの輸入額は約200億米ドル相当で、同国からの輸入総額(2025年、3,819億ドル)の5%程度にとどまる(注2)。対象品目の明確な選定基準は明らかではないが、338条の規定に従い、カナダの措置によって生じる不利益を相殺する規模に調整した可能性がある。

338条を利用して通商交渉にてこ入れ

338条は、トランプ政権がこれまで関税措置の根拠法としてきた1974年通商法301条や1962年通商拡大法232条と異なり、関税発動に関わる手続きがほとんど定められていない(表参照)。大統領が布告を発表してから30日という短い期間で関税導入が可能となるだけでなく、布告発表後も大統領の判断で布告を停止、撤回、修正できる。布告を修正などするにあたっては、パブリックコメントなどを実施する必要はない。後述するように、米国国際貿易委員会(USITC)による事前調査の要否については議論があるものの、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税が連邦最高裁判所によって無効と判断された今(2026年2月24日付ビジネス短信参照)、338条は大統領にとって新たな関税発動のために柔軟に利用できる「奥の手」になり得る。

表:関税措置の主な根拠法の比較注:301条と232条に基づく事前調査プロセスについては、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
項目 1974年通商法301条 1962年通商拡大法232条 1930年関税法338条
関税発動の理由となる事象 外国による不合理・差別的な政策や慣行または米国との貿易協定への違反 特定品目の輸入が米国の国家安全保障に与える脅威 外国による差別的措置
政府機関による事前調査の要否 USTRによる調査が必要 商務省による調査が必要 明確な規定なし(ただし、USITCによる勧告・報告義務について規定あり)
利害関係者からの意見公募の要否 必要(公聴会は利害関係者から要請があれば実施) 不要(適切であると判断される場合、公聴会を実施または利害関係者に情報や助言を提出する機会を提供) 不要(規定なし)
税率上限 なし なし 50%
発動期間 国内産業界などから継続要請がなければ関税発動の4年後に自動的に失効。要請があれば、継続した上で関税の見直しを実施 無制限(規定なし) 無制限(規定なし)

注:301条と232条に基づく事前調査プロセスについては、2024年12月10日付地域・分析レポート参照

出所:各法律の条文と米国議会調査局(CRS)からジェトロ作成

米国の歴史上、338条に基づいて関税を発動した大統領はおらず、301条や232条と比べて法的な安定性は未知数だ。USTRのジェミソン・グリア代表は、特定国による差別的措置を対象とする338条は、IEEPAに基づく相互関税に代わって、多くの貿易相手国に一律に関税を課すための「万能薬(panacea)」にはならないとの認識を示している(フォックス・ビジネス2026年3月18日)。

こうした法律の特徴や経緯を考慮すると、トランプ政権は、338条を普遍的な関税導入のためというより、通商交渉の中で相手に圧力をかけるための手段として位置付けている可能性が高い。カナダに対する338条関税については、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直し協議でカナダに譲歩を迫るのが目的との分析がある(2026年7月28日付ビジネス短信参照)。同様に、貿易相手国・地域が米国との通商合意で約束した規制緩和や関税削減などを実行していないと判断した場合、トランプ政権が338条関税を宣言して相手に合意履行を求めるシナリオは十分に想定される。

338条関税の適法性は未知数

前述のとおり、338条に基づいて関税が発動された前例はない。そのため、338条関税の適法性を巡って訴訟が起きる可能性は排除できない。とりわけ、関税発動に関わる行政手続きや外国の差別的措置の性質に関しては、司法による検証の余地があるとの見方が多い。

例えば、338条関税発動のためにUSITCによる事前の調査が必要かどうかは争点の1つになり得る。USITCは貿易関連の調査や政府・議会への助言を行う独立政府機関だ。338条(g)項では、「外国が米国の通商に対して差別的措置を講じているかを確認し、常にその状況を把握」し、「差別的行為が明らかになった場合、勧告とともに大統領に報告する義務」をUSITCが負うとされている。しかし、カナダに対する338条関税を定めた大統領布告を読む限り、トランプ氏がUSITCの調査結果や勧告を受け取ったことを示す記述はない。USITCの事前調査が必須の場合、トランプ政権は法律上の手続き要件を満たしていないと判断される可能性がある。一方、338条は外国による差別的措置があることを大統領が「事実として認定」した場合に関税を発動できると定めていることから、関税発動には必ずしもUSITCによる関与は必要ないという見解もある(注3)。大統領の事実認定のみで十分な場合、大統領の外交上の判断に介入することを避ける傾向にある裁判所が、338条関税を違法として覆すかは断言できない。

関税発動の理由となる外国の差別的措置の妥当性も審理の対象となる可能性がある。これに関して、トランプ政権が問題視するカナダのTRQは、同国と自由貿易協定(FTA)を結ぶEU加盟国を除く諸外国に広く適用されている制度であるため、米国のみを差別する措置には当たらないという指摘がある。バイデン前政権の国家安全保障会議(NSC)で国際経済担当上級部長を務めたピーター・ハレル氏らはこの点を強調し、差別的措置の拡大解釈が許されてしまえば、米国が加盟していないFTAに参加している全ての国・地域に対して338条関税を発動できることになってしまうとの懸念を示している(政治誌「リーズン」2026年8月3日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

そのほか、338条関税が外国の差別的措置によって生じる負担や不利益を相殺する規模に収まっているか(負担や不利益と同等の規模か)も争点になるかもしれない。ただ、338条は「差別(的)」の定義自体を定めていないため、政権による解釈の余地が認められる可能性もある。

338条関税の適法性を巡る争点の是非は、実際に裁判で争われないことには分からない(注4)。過去の発動事例や司法判断の前例がない分、338条関税がもたらす通商政策の不確実性は、他の関税措置よりも大きい。トランプ氏は第2次政権で、通商・外交交渉の「てこ」として関税を用いる傾向を強めており、IEEPAに代わるツールとして338条がその傾向に拍車をかける恐れもある。338条関税への報復措置として同等規模の対米関税を発表したカナダに対し、グリア氏はさらなる対抗措置をとる構えだ。これは、トランプ政権がIEEPA関税への報復措置を講じたカナダや中国に対して、IEEPA関税を引き上げた過去の経緯を想起させる。企業は米国と通商摩擦を抱え、米国が差別的措置と認定し得る政策を有する全ての国・地域が338条関税の対象になり得ることを念頭に置き、自社がビジネスを展開する国・地域と米国との通商関係にこれまで以上に目を配る必要がある。


注1:
338条関税の発動までの経緯は、2026年8月24日付ビジネス短信2026年8月24日付ビジネス短信を参照。 本文に戻る
注2:
ただし、これまで第2次トランプ政権で発動された多くの関税措置で適用除外品目とされてきた米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)原産品も338条関税の対象となる点に留意。カナダ、メキシコから米国に輸入する際のUSMCA利用率は、第2次トランプ政権発足後にそれぞれ50%以下から80~90%に上昇している(2026年2月20日付地域・分析レポート参照)。 本文に戻る
注3:
議会調査局(CRS)の2026年3月19日付レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます外交問題評議会(CFR)の2026年2月20日付論考外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。 本文に戻る
注4:
338条を巡っては、関税発動の法的要件を巡る議論に加え、そもそも同条が現在も有効であるかを疑問視する声もある。具体的には、338条の内容は1974年通商法301条によって実質的に置き換えられているため、「既に死文化している」という指摘がなされている。詳細は、政治誌「リーズン」(2025年6月3日)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載された米国バージニア大学のフィリップ・ゼリコウ名誉教授の論考を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 リサーチ・マネージャー
甲斐野 裕之(かいの ひろゆき)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、海外調査部米州課、ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕を経て、2024年2月から現職。