経済安保対応の課題は情報収集
日本本社3,300社にアンケート調査(後編)

2026年4月22日

近年高まる地政学リスクについて、前編ではジェトロが日本企業の本社向けに行ったアンケート調査の結果から、さまざまなリスクが多くの中小企業や地方企業などに影響を及ぼしていることを紹介した。後編となる本稿では、地政学リスクと経済安全保障に関する企業のリスク対応や課題について紹介する。課題となるのは、リスクに対応するための体制づくりだ。サプライチェーンに影響を及ぼす各種リスクについては、迅速な情報収集と予防的な措置、早期の的確な対処が求められるが、具体的なアクションとなると後手に回っている企業も少なくない。特に中小企業の場合では、リスクが表面化してから初めて方策を考えるというケースも多い。日頃から業界他社や商工会議所、地方銀行などを通じて、自社に関係し得る事例を継続的に収集しておいた方がよさそうだ。

情報収集の強化の取り組み、大企業と中小企業で大幅な差

ジェトロでは毎年、日本企業の本社向けに海外事業展開に関するアンケート調査を行っている(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」)(注1)。2025年11月から12月にかけて実施した第24回調査では、高まる地政学リスクや経済安全保障上の対応に関する設問を新たに設けた。前編では、こうした地政学リスクが7割超の企業の事業に影響を及ぼしている(または懸念がある)状況を紹介した。

しかし、各種リスクは顕在化しているものの、企業の対応状況は必ずしも進んでいるわけではない。地政学リスクや経済安全保障(貿易管理、投資規制など)への対応状況について聞いたところ、現在、実施している取り組みについては図1のとおりだ。「特に対策していない」という回答は、大企業では1割未満であったのに対し、中小企業では約3割に達しており、企業規模による差が明白となっている。

図1:地政学リスクや経済安全保障への対応状況(企業規模別)
「特に対策していない」という回答は、大企業では1割未満であったのに対し、中小企業では28.1%となっており、企業規模の差が明白となっている。中小企業と大企業で差が大きい部分を見ていくと、特に「情報収集の強化(国際情勢、特定リスクのモニタリング等)」は30ポイントの差がみられた。また、「事業継続計画(BCP)の策定」「輸出管理体制の拡充(社内教育、審査体制)」「技術流出・営業秘密漏洩防止に係る対策」も20ポイント以上の差が表れた。

注:複数回答。nは無回答を除く。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

中小企業と大企業で差が大きい部分を見ていくと、特に「情報収集の強化(国際情勢、特定リスクのモニタリング等)」であり、その差は30ポイントだ。また、「事業継続計画(BCP)の策定」「輸出管理体制の拡充(社内教育、審査体制)」「技術流出・営業秘密漏洩(ろうえい)防止に係る対策」についても、いずれも20ポイント以上の差が現れた。

企業側では、経済安全保障上の脅威・リスクへの備えが不可欠だ。田上[2025](注2)などによれば、企業が直面する経済安全保障上の課題は、リスクマネジメント(地政学リスク把握・対応やサプライチェーン分析など)と、コンプライアンス(日本の外為法等の国内法、米中の輸出管理等の外国法の順守といった対応)の2つに大別される。これらを踏まえ、社内外で(1)情報収集、(2)分析・展開、(3)方針決定、(4)執行・評価というサイクルを継続的に回していくプロセスが必要となる。しかし、図1の結果からも分かるように、このプロセスの第一歩であり、基盤となる「情報収集」は、中小企業にはハードルが高いことがうかがえる。同書では、企業が活用し得る情報源として、以下のような媒体が紹介されている。

  • 発信主体:政府・官公庁、マスメディア、シンクタンク、アカデミア、企業、NGO/NPO、個人
  • 発信手段:書籍、雑誌、新聞、ウェブサイト、SNS、メールマガジン、ニュースアプリ、オンラインデータベース、YouTube
  • その他収集手段:インタビュー、セミナー/会議

また、稲村[2025](注3)によれば、企業のインテリジェンス活動としては、オープンソースからの情報収集(オープンソース・インテリジェンス、OSINT)、人からの聞き取りなどを通じた情報収集(ヒューマン・インテリジェンス、HUMINT)に加え、利害関係が一致する企業など組織同士による相互情報交換(コレクティブ・インテリジェンス、COLLINT)の3つに取り組めば十分であるという。

無料の情報ソースを活用すれば、予算が限られる中小企業であっても取り組める施策は多い。例えば、ある電気機器メーカーでは、2日に1回程度、ジェトロのビジネス短信(無料)をチェックし、自社事業に影響し得る記事をテーマやトピックごとに整理している。定期的に、こうした記事リンクのリスト情報を関連部署へ共有しているほか、他の情報源から得た知見も踏まえ、当該情報の解釈や想定されるリスク、シナリオなどを付して社内展開する取り組みを行っている(注4)

大企業、中小企業とも、地政学リスク・経済安全保障に対応する体制整備は課題

本アンケート調査では、地政学リスクや経済安全保障(貿易管理、投資規制など)の観点で企業が抱える課題についても聞いている(図2参照)。その結果、中小企業にとって最大の課題は「規制等の最新情報の把握が困難」であり、35.6%に上った。「地政学リスク・経済安全保障上のリスクや影響等が把握できていない」も31.9%と高く、情報面での課題感が特に強いことが明らかとなった。

図2:地政学リスクや経済安全保障(貿易管理、投資規制など)の観点で抱えている課題
(企業規模別)
「対応体制の整備が不十分、対応人材の不足」は中小企業で34.2%だが、大企業においても49.0%と半数近くに上る。前述した図1を参照すると、大企業であっても「地政学リスク・経済安全保障に対応する体制整備」に現在、取り組めている企業は21.0%に留まる。

注:複数回答。nは無回答を除く。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

また、「対応体制の整備が不十分、対応人材の不足」は中小企業で34.2%だが、大企業においても49.0%と半数近くに上る。前述した図1を参照すると、大企業であっても「地政学リスク・経済安全保障に対応する体制整備」に現在取り組めている企業は21.6%にとどまっており、企業規模を問わず体制整備が課題となっていることが分かる。本アンケート調査では「今後、新たに実施したい取り組み」についても聞いており(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」62ページ参照PDFファイル(2.9MB))、大企業・中小企業ともに、体制整備が最多の回答であった。こうした社内体制の構築方法としては、専門部署を設置する「専門型」、タスクフォース形式の「委員会型」、従来の貿易管理を所管してきた部署が継続して対応する「従来延長型」などがみられる(2023年8月29日付地域・分析レポート参照)。同業種や同規模の企業事例が参考になる場合が多く、業界団体や商工会議所、地域金融機関を通じて情報収集を図るのも一案だろう。

表面化していなくとも、各種リスクへのアンテナを

最後に、図2に示した中小企業が抱える地政学リスク上の課題について、「特に課題を感じていない」という回答が22.0%と、比較的割合が高い点について触れておきたい。一見すると、中小企業には地政学リスク・経済安全保障上の課題感は少ないようにも捉えられる。しかし、地政学リスクによって「すでに大きな影響が生じている」「やや影響が生じている」と回答した中小企業(1,025社)に限定すると、「課題を感じていない」企業の割合は11.9%へと半減する。さらに、最新情報の把握や体制整備、特定の調達先・販売先への依存度の高さなど、さまざまな課題に関する回答割合が高まる傾向がみられる(図3参照)。

図3:地政学リスクや経済安全保障(貿易管理、投資規制など)の観点で抱えている課題
(中小企業のみ、影響有無別)
企業の課題感ごとに「今後、新たに実施したい取り組み」の割合をみると、特に課題を感じていない中小企業においては、今後の取り組みについて無回答の割合が多かった(16.0%)。他方で、地政学リスクの影響を受けている中小企業では、この割合は8.1%に半減し、何らかの新たな対応を取ろうとする企業の割合が増加する傾向がみられた。

注:複数回答。nは無回答を除く。オレンジ色で示した「地政学リスクの影響を受けた中小企業」は、地政学リスクによって「すでに大きな影響が生じている」「やや影響が生じている」と回答した中小企業に限定したもの。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

この結果から考察できるのは、特に中小企業では、地政学リスクや経済安全保障上のリスクは、実際に影響が表面化するまでは気づきにくく、対策の必要性も意識されにくい傾向にあるという点だ。企業の課題感ごとに「今後、新たに実施したい取り組み」の割合を見ると(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」65ページ参照PDFファイル(2.9MB))、特に課題を感じていない中小企業では、今後の取り組みに関する無回答の割合が16.0%と高かった。他方で、地政学リスクの影響を受けている中小企業では、この無回答割合は8.1%へと半減し、何らかの新たな対応を取ろうとする企業の割合が増加する傾向がみられた。

まとめると、前編で紹介したように、中小企業であっても地政学リスクの影響を受けている(または懸念がある)企業は7割に上っている。しかし、地政学リスクや経済安全保障上の対応については、中小企業は大企業に比べて取り組みが進んでいない。特段の課題感を感じていない中小企業も一定の割合で存在しており、将来的な対応についても検討が進んでいない面もみられる。これは「リスクの影響が表面化していない」だけ、という可能性もある(注5)

潜在的なリスクを捉える上でも、基盤となるのは情報収集のプロセスだが、その実施には依然として大きな課題がある。予算が限られる場合には、まず無料の情報ソースを活用しながら情報収集に着手することが考えられる。ジェトロのビジネス短信や「特集:地政学リスクと経済安全保障」、経済安保ニュースレターなどを提案したい。また、対策を考える上で、他社の対応状況を聞いたり、業界団体などを通じて情報交換したりすることも有益だ(注6)。さらに、地域の金融機関や自治体、経済産業局、各都道府県に所在するジェトロ事務所などを通じて、地域や業界を取り巻く動向を探ってみるという方策も考えられるだろう。


注1:
アンケート調査の詳細は、ジェトロ「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」を参照。海外ビジネスに関心の高い日本企業(本社)9,647社を対象に、アンケート調査を実施しており、全体では3,369社から回答を得た。 本文に戻る
注2:
田上英樹著[2025]「地経学リスクからみた 経済安全保障20の新常識―日本企業のための基礎知識と部署別対応」(中央経済社)。 本文に戻る
注3:
稲村悠著[2025]「企業インテリジェンス 組織を導く戦略的思考法」(講談社+α新書)。 本文に戻る
注4:
2025年10月15日のヒアリング情報に基づく。 本文に戻る
注5:
中小企業は大企業に比べて、輸出入をしている企業や、海外拠点を有する企業の割合が低いため、そもそも地政学リスクや経済安全保障上のリスクの直接的影響を受けにくい性質の企業もある。また、図1のとおり、「取引優先のため日頃からリスクに注意を払う余裕がない」「どのようなリスクが存在するか知らない」ため、対応の必要性も意識されにくいという可能性もある。 本文に戻る
注6:
独占禁止法への抵触リスクを避けようとして、同業他社との対話を避ける企業も少なくない。公正取引委員会・経済産業省・国土交通省「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.41MB)(2025年11月20日付)参照。同事例集が示すとおり、経済安全保障の観点から実施する行為については企業連携を進めるべきとされており、企業の考え方も変わってきているという声も聞かれている(2026年4月2日の機械メーカーへのヒアリング情報に基づく)。 本文に戻る

日本本社3,300社にアンケート調査

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執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。2024年10月から現職。