地政学リスクが7割超に影響
日本本社3,300社にアンケート調査(前編)

2026年4月22日

近年、国家間の対立関係の緊張が高まり、経済安全保障に関連したさまざまな措置が導入される中で、日本企業は多様な地政学リスクの影響を受けている。特に2025年以降、米国の相互関税、中国によるレアアースなどの輸出管理の厳格化、中東情勢の悪化など、予見性の低い事象が次々と顕在化した。その結果、企業は調達・販売といった事業活動上、思わぬリスクに直面している。ジェトロが日本企業の本社向けに行ったアンケート調査では、こうした地政学リスクが大企業のみならず、中小企業や地方企業にも影響を及ぼしている実態が浮き彫りとなった。本稿では同アンケート調査の設問「地政学リスクの認識、経済安全保障への対応」に焦点を当て、2回に分けて考察する。

7割超の企業に地政学リスクの影響が及ぶ

ジェトロでは毎年、日本企業の本社向けに海外事業展開に関するアンケート調査を実施している(調査レポート「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」参照)(注1)。2025年11月から12月にかけて実施した第24回調査では、高まる地政学リスクと経済安全保障上の対応に係る新たな設問を設けた。国家間の緊張の高まりや対立・紛争、それらに伴う国際物流の混乱、資源・エネルギーコストの上昇、追加関税や輸出入制限といった保護主義的政策の導入など、さまざまな地政学リスクが顕在化する中、これらが企業活動にどの程度影響を及ぼしているかを聞いた(図1参照)。

図1:地政学リスクが事業に及ぼす影響の度合い
回答した3,352社のうち、「すでに大きな影響が生じている」「やや影響が生じている」「現在は事業に影響はないが、今後影響する懸念がある」と回答した割合は72.1%に上る。中小企業についても、回答企業の7割超が、地政学リスクによる事業への影響を認識(懸念)している。

注:nは無回答を除く。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

本設問に回答した3,352社のうち、「すでに大きな影響が生じている」「やや影響が生じている」「現在は事業に影響はないが、今後影響する懸念がある」と回答した割合は72.1%に達した。注目すべきは、地政学リスクの影響を受けている(または懸念がある)のは、大企業に限られない点だ。中小企業においても、回答企業の7割超が地政学リスクによる事業への影響を認識、あるいは懸念している。また、業種別に見ると、「自動車/同部品/輸送機器(有効回答86社)」と「化学(同80社)」では、既に過半数の企業が実際に地政学リスクの影響を受けている(「すでに大きな影響が生じている」または「やや影響が生じている」)ことが明らかになった。

地政学リスクの影響は、首都圏の大企業に限らず、日本全国の企業に広範に及んでいる。図2の左側は、すでに地政学リスクの影響が生じている企業の割合を、本社所在地(都道府県)別に示したものだ。沖縄県(66.7%)をはじめ、岩手県、福島県、埼玉県、静岡県、滋賀県などで影響を受けている企業の割合が高いことが分かる。また、影響が生じている企業に加えて、今後の影響に懸念を示している企業も含めると、東海、北陸、近畿などの工業が盛んな地域を中心に、6割を超える都道府県が多数に上ることが見て取れる。

図2-1:地政学リスクの影響が生じている企業の割合
(都道府県別)
沖縄県(66.7%)をはじめ、岩手県、福島県、埼玉県、静岡県、滋賀県などで影響を受けている企業の割合が高い。

注1:地政学リスクによって「すでに大きな影響が生じている」、「やや影響が生じている」と回答した企業の割合。
注2:nは無回答を除いた企業数。有効回答数が少ない県〔鳥取県(n=13)、島根県(n=18)、長崎県(n=11)、沖縄県(n=12)など〕では、1社あたりの回答がパーセンテージに与える影響が大きく、極端な結果になりやすい点に留意が必要。また、図2-1、図2-2で色分けの基準が異なり、カラーリングと数値は統一されていない。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

図2-2:地政学リスクの影響が生じている企業+
今後影響する懸念がある企業の割合(都道府県別)
影響が生じている企業に加えて、今後の影響に懸念を示している企業も含めると、東海、北陸、近畿などの工業が盛んな地域を中心に、6割を超える都道府県が多数に上ることが見て取れる。

注1:地政学リスクによって「すでに大きな影響が生じている」、「やや影響が生じている」、「現在は事業に影響はないが、今後影響する懸念がある」と回答した企業。
注2:nは無回答を除いた企業数。有効回答数が少ない県〔鳥取県(n=13)、島根県(n=18)、長崎県(n=11)、沖縄県(n=12)など〕では、1社あたりの回答がパーセンテージに与える影響が大きく、極端な結果になりやすい点に留意が必要。また、図2-1、図2-2で色分けの基準が異なり、カラーリングと数値は統一されていない。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

地政学リスクの影響は、業種によってばらつき

具体的にどういったリスクが企業の事業活動に影響を与えているのか。調査実施時点で事業影響が懸念されているリスクの上位15項目が図3だ(本アンケート調査は2025年11~12月に実施したため、2026年以降に起きたイラン情勢の緊迫化や中国の対日輸出管理の厳格化などの地政学的イベントは反映されていない)。米中関係・米中対立リスクを挙げる企業が約7割に達し、最も回答が多かった。これに加えて為替変動など金融市場の不安定化、物流に関するリスク、世界経済や景況感の下振れリスクといったグローバル経営上の不確実性が上位に並んだ。また、米国の追加関税措置についても、過半数の企業が懸念を示している。

図3:事業影響が懸念されるリスク(複数回答)
米中関係・米中対立リスクを挙げる企業が約7割に上ったほか、為替変動など金融市場の不安定化、物流に関するリスク、世界経済や景況感の下振れリスクといったグローバル経営リスクに加えて、米国の追加関税措置について、過半数の企業が懸念を示した。

注:有効回答は2,400社(無回答を除く)。本設問は、地政学リスクによって「すでに大きな影響が生じている」「やや影響が生じている」「現在は事業に影響はないが、今後影響する懸念がある」と回答した企業を対象としている。「その他の地域情勢」は、米中関係、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢以外の地域情勢を指す。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

ただし、これらのリスクが与える影響は、業種により異なる(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」56ページ参照PDFファイル(2.9MB))。「中東情勢」リスクを挙げた企業の割合は全体で27.8%だが、運輸(40.5%)や精密機器(38.8%)では4割前後となった。また、「中国による輸出管理の厳格化(レアアース、レアメタルなど)」と回答した企業は、全体では20.5%にとどまるものの、情報通信機械/電子部品(52.3%)、自動車/同部品/輸送機器(47.1%)、電気機械(44.9%)で比較的高い割合となっている。一方、「中国による輸入規制の厳格化」という主に中国への輸出販売に関わるリスクについては、運輸(62.2%)、医療品・化粧品(54.7%)、飲食料品(49.6%)、精密機器(49.3%)などの業種で懸念が強かった。このように、業界によって影響の度合いは異なるため、各種リスク情報の収集といっても、企業によって方法や重点分野に違いは出てくるだろう。

地政学リスク、経済安全保障上のリスクは地方企業にも波及しているが、各都道府県によって産業構造が異なるため、その影響は一様でない(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」57ページPDFファイル(2.9MB)58ページPDFファイル(2.9MB)参照)。地方企業を支援する自治体や地方銀行などにおいては、よりミクロな観点でリスク影響の分析が求められよう。例えば、「技術流出・営業秘密漏洩(ろうえい)リスク」への懸念を挙げた企業の比率は、全国では21.1%だが、千葉県(33.3%)、三重県(32.0%)、福島県(30.0%)で比較的高い。また、「中国企業の国際競争力の高まり、技術革新の早さ」をリスクとして挙げた企業は全国平均で15.0%である一方、京都府(22.7%)、長野県(21.6%)、大阪府(21.3%)などで高い割合となった。特に長野県は、半導体や電子部品などハイテク製品に関わる企業の集積があるため、「米国による輸出管理の厳格化〔半導体・人工知能(AI)など〕」の回答も21.6%と、全国平均(15.0%)を上回った。

供給網を見直す日本企業、新規調達先では安定性を重視の傾向

地政学リスクが企業活動上のどの部分に影響しているのかといえば、やはり輸出入に関わる部分が中心となりやすい。「サプライチェーン、バリューチェーン上、どの事業活動・工程で地政学リスクによる影響が生じていますか」という設問では、「調達(輸入含む)」で47.9%と最も高く、次いで「販売(輸出含む)」が45.8%、物流が36.8%という順であった(図4参照)。

図4:地政学リスクが影響する事業活動(複数回答)
「サプライチェーン、バリューチェーン上、どの事業活動・工程で地政学リスクによる影響が生じていますか」という設問では、回答割合が高かったのは「調達(輸入含む)」で47.9%、次いで「販売(輸出含む)」が45.8%、物流が36.8%という順であった。

注:有効回答は2,406社(無回答を除く)。
出所:ジェトロ「2025年度 第24回日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

調達への影響は、製造業(有効回答1,546社)での回答比率は52.7%と半数を超えた。特に化学(67.6%)、電気機械(65.4%)、情報通信機械/電子部品(64.4%)、医療品・化粧品(60.0%)で6割以上となった。化学分野の一例として、金属の表面処理に使用される化学材料などは、サプライチェーンをさかのぼると供給元が限定されている、あるいは化学品の原料が特定国に偏っているケースがある(注2)。こうした構造的な偏りが、地政学リスクの影響を受けやすくしているものとみられる。また、非製造業(860社)は39.3%と低い傾向にあるが、建設(56.4%)では調達面の影響が大きい(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」60ページ参照PDFファイル(2.9MB))。建設業界の関係者によれば、地政学リスクに端を発した物流混乱に伴う輸入資材高騰などは影響しやすいという。日本国内原産の材料であっても、輸入資材の高騰に連動する傾向にあるという(注3)

主要な原材料・部品・仕入品の海外調達状況では、回答した3,246社のうち、海外調達を行っている企業は65.1%に上る(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」13ページ参照PDFファイル(2.9MB))。主な海外調達先としては、中国が63.8%と最大であり、ASEAN(31.3%)、米国(23.1%)、台湾(22.0%)と続く。一方、中国からの調達割合は、自動車/同部品/輸送機器(83.3%)、繊維・織物/アパレル(81.5%)、情報通信機械/電子部品(81.0%)、化学(79.7%)、電気機械(77.8%)などで極めて高い(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」14ページ参照PDFファイル(2.9MB))。

調達先が特定国に偏っている場合、リスクの影響を受けやすい。サプライチェーン上のチョークポイント化を避けるため、見直しを検討する企業も少なくない。今後1~2年間のサプライチェーンの見直し・再編状況については、有効回答3,332社のうち「見直し・再編を実施する」企業が9.0%、「見直し・再編の実施に向けて検討する」企業が17.8%に上り、合わせて4分の1を超える企業で見直し・再編の実施または検討が進んでいることが明らかになった。この割合は、特に前述のように特定国への依存度が高い業種で顕著だ。情報通信機械/電子部品(40.7%)、自動車/同部品/輸送機器部品(39.6%)などでは、4割前後の企業がサプライチェーンの見直し・再編を実施または検討している(「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」17ページ参照PDFファイル(2.9MB))。

近年、供給網の見直しニーズが高まる中、調達先を検討する上では、従来重視されてきた「品質(Quality)」「価格(Cost)」「納期(Delivery)」、いわゆるQ・C・Dに加えて、「リスクを抑えたかたちで安定的に調達できるかどうか」という経済安全保障的な観点、「セキュリティー(S)」が重視される傾向にある(注4)。本アンケート調査では新たな調達先を検討する際に重視する要素を聞いている(有効回答1,102社)、「品質の高さ」(65.5%)、「価格の安さ」(64.9%)に続き、「生産地/販売先との関係で地政学リスクが相対的に低い(安定性の高さ)」(52.1%)、「生産地・販売先への地理的近接性(輸送コストの低さ)」(48.6%)といった要素も、多くの企業が重視していることが分かった。特に情報通信機械/電子部品(71.4%)、自動車/同部品/輸送機器部品(66.7%)、電気機械(65.3%)、医療品・化粧品(64.9%)などで、安定性の高さ(地政学リスクの低さ)を重視する傾向にある。

後編では、アンケート調査回答企業の地政学リスクと経済安全保障への対応状況について解説する。


注1:
アンケート調査の詳細は、ジェトロ「2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月)」を参照。海外ビジネスに関心の高い日本企業(本社)9,647社を対象に、アンケート調査を実施しており、全体では3,369社から回答を得た。 本文に戻る
注2:
2026年1月26日にジェトロが業界団体と実施したワークショップでのヒアリング情報による。 本文に戻る
注3:
2025年1月23日の建設業からのヒアリング情報に基づく。 本文に戻る
注4:
2025年8月6日の自動車部品メーカーからのヒアリング情報に基づく。 本文に戻る

日本本社3,300社にアンケート調査

シリーズの次の記事も読む

(後編)経済安保対応の課題は情報収集

執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。2024年10月から現職。