ロボット導入の課題
ロシア産業用ロボット活用の現状(2)
2026年2月25日
ロシアは、産業分野での「技術主権」確立を進める中で、ロボット密度の指標で世界上位25カ国に入ることを目標としている。ジェトロの地域・分析レポート「ロシア産業用ロボット活用の現状(1)中国からの輸入依存」では、ロシアのロボット分野における中国製品の輸入状況を分析した。本稿では、国内の産業用ロボット市場は依然として発展途上であることや、現状と目標との間にある大きなギャップ、ロシアがロボット化を加速する上で直面している主要な課題を整理し、その克服に向けた論点を検討する。
低い需要・資金難・専門人材不足が業界の三大課題
2024年のロシア連邦国家統計局の製造業企業などを対象にした調査によると、産業用ロボットを使用していないと回答した企業が最も多く挙げた理由(複数回答可)は「必要がない」(85.8%)だった。多くの企業が現時点でロボット導入の必要性を感じていないことがうかがわれる。
こうした需要の低さに加えて、導入を検討する場合にも、資金と人材不足の課題がある。回答した製造関連企業のうち31.4%が「自己資金の不足」、25.6%が「政府からの資金支援の不足」を挙げた。さらに、回答者の28.0%が「専門人材の不足」を指摘しており、人材確保の難しさもロボット導入の大きな障壁となっているようだ。今後産業用ロボットの導入を計画している企業・組織は1万3,797社にすぎず、導入意向は依然として限定的だ(表参照)。
| 項目 | 社数 |
理由を選んだ 企業の割合(%) |
|---|---|---|
| ロボット未使用の理由を回答した組織数 | 180,627 | 100.0 |
財務・事業活動の欠如
|
40,879 | 22.6 |
現行業務での必要性なし
|
155,012 | 85.8 |
自己資金の不足
|
56,738 | 31.4 |
政府からの資金支援の不足
|
46,227 | 25.6 |
専門人材の不足
|
50,489 | 28.0 |
その他の理由
|
34,683 | 19.2 |
| 産業用ロボットの利用を計画する組織数 | 13,797 | — |
出所:ロシア連邦国家統計局
課題その1:産業界側の需要が不十分
ロシアにおけるロボット化の最大の課題は、産業界で需要が十分に形成されていないことだ。高等経済学院の構造政策研究センター副所長のアンナ・フェデュニナ氏は、国内の製造企業には生産性向上への十分なインセンティブがないと指摘している。産業用ロボットを1台導入するだけでも生産ライン全体の再構築が必要となり多額の費用を伴う上、不確実性の高い環境では自動化に向けた投資の経済的メリットが見えにくく、ロボットの導入は企業にとってリスクの大きい判断になるためだ。生産現場の従業員も、ロボット化により自身の職を失うことへの不安から、導入に消極的になる場合がある(「ストラナ・ロスアトム」2025年9月22日)。
課題その2:専門人材の不足
多くの企業がロボット導入に必要な技能を備えた人材の不足を指摘する。ロシアの監査・アドバイザリーファームのKEPT(旧KPMG)が2025年に実施した産業用ロボット市場の関係者への調査において、約9割が「十分な資格を持つ人材が確保できない」と回答している。背景には教育プログラムの陳腐化やロボット工学関連職種の認知度不足があるほか、高い給与を求めて多くのエンジニアがIT企業へ流れる傾向も影響している。2025年7月にエカテリンブルクで開催された産業博覧会「イノプロム」の会合において、KEPTや、ロボット関係のプログラム開発およびコンサルティングを提供するITロボティックスの関係者は、産業界でのロボット化のボトルネックは最終需要家とメーカーの間に位置するインテグレーターとなる人材不足と指摘する。年間1万台のロボットを生産できたとしても、人的リソースの不足のため、実際の導入は困難だと強調した。
課題その3:資金難と高い導入コスト
さらなる課題として、自己資金や政府からの支援不足に加え、ロボットの導入コストが高くつく点も挙げられる。イノプロムに登壇したワルダイ・ロボッツのエゴール・バクリン取締役は、(ロボット導入にかかる通常のコストに加えて)ロシアではソ連時代からの旧来型のシステムやインフラ不足がロボット導入の妨げになっていると指摘した。そのため、生産の自動化のための再構築に多額の費用を要する。
政府は支援策を拡充するも、問題点を指摘する声
ロシアでは2025年に国家プロジェクト「生産設備および自動化」が始動し、その枠組みの中で連邦プロジェクト「産業用ロボット技術および生産自動化の発展」が策定された。同連邦プロジェクトには、2030年までの予算として1,294億ルーブル(約2,588億円。1ルーブル=約2円)が割り当てられた 。本プロジェクトには、ロボット導入に向けた幅広い支援策が盛り込まれている。優遇条件付き融資やロボットのリース支援、技術更新に際しての補助金、ロボット化に関する企業診断の実施に加え、試験・認証センターおよび産業用ロボット技術の発展拠点の整備などが含まれている。
2030年までに産業用ロボット工学の拠点となる30のセンターを整備する計画も進められている。主な目的はロボット工学の普及と高度なプロジェクトへの対応であり、既にタタルスタン共和国の経済特区「イノポリス」やペルミ地方において開設されている。また連邦能力開発センターが、2030年までに1,500社を対象にロボット技術の導入を支援する予定である(「タス通信」2025年5月27日)。
一方、政府の支援策の欠点を指摘する声もある。KEPTによれば、ロボットシステムの「構想・企画」「設計」「組み立て・設置」などを行うインテグレーターはロボット導入の要であるにもかかわらず、生産者と見なされないため支援対象から除外されており、これが業界のリスクとされている。また同社は、予算制約によるプロジェクト遅延の可能性や、技術移転の仕組みがない中で発展途上にある国産品の使用が優先されることが、外国技術の活用の制限につながるとも指摘している。
ロシア政府、義務的な現地化より生産性向上を優先
ロシア政府はより多くの企業が補助金を受けられるよう、企業に対して一定の現地調達率を求めるローカリゼーション要件を緩和する方針を打ち出した。アントン・ アリハノフ産業商務相は、2025年10月8日に開かれた下院の委員会において、同省は2030年までロボット技術分野でローカリゼーション義務を導入せず、補助金配分の要件にも盛り込まない方針を明らかにした(「ベドモスチ」2025年10月13日)。これに先立ち、政府は3月、国有企業ロステフ、ロスアトム、ロスコスモスに対し、生産ロボットを導入する場合、一定の条件付きで輸入品の採用を認める方針を示していた(「ベドモスチ」2025年5月14日)。
ただ、成果創出までの道のりは険しい。2025年10月1日時点の割り当て予算に対する連邦プロジェクト「産業用ロボット技術および生産自動化の発展」の執行率はわずか9.6%にとどまり、予算執行の遅れが早期の成果創出を妨げている。同年12月1日時点では執行率が36.4%まで上昇したものの、プロジェクト全体の予算規模自体が54億2,000万ルーブルから25億1,000万ルーブルへと半分以下に減少しているため、実質的な進展にはつながっていない。
ロシアの産業用ロボット市場は政府の支援拡大と需要喚起策により総じて一定の前進をみせてはいるものの、ロボットの国内生産能力の不足、主要部品の輸入依存、ロボット需要の伸び悩み、企業側の投資インセンティブの弱さ、専門人材の不足といった構造的課題が依然として成長の阻害要因となっている。中国製ロボットへの依存度が高まることへの警戒が強まる一方で、国産化を急ぎ過ぎれば品質や技術的遅れを招くリスクもある。政策的には実際製造現場での生産性向上が優先され、現地化要件を緩和する方向にかじが切られている。今後、政府支援制度の実効性の向上と、インテグレーターを含む産業エコシステム全体の強化の進展が、ロシアが目指す「ロボット密度で世界トップ25入り」の実現可能性を左右する重要な要素となる。
ロシア産業用ロボット活用の現状
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- ジェトロ調査部欧州課






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