拡大する食品の対米輸出、食品規制強化の動きに注意
2026年3月11日
新型コロナウイルスによるパンデミック以降、日本の農林水産物・食品の対米輸出は急拡大を遂げている。2024年の米国向け輸出は、前年比17.8%増の2,429億円となり、米国は日本にとって20年ぶりに最大の輸出相手国に返り咲いた。2025年はトランプ政権による相互関税の発動など逆風もあったが、緑茶(前年比82.6%増)やブリ(同24.1%増)を中心に輸出が伸び、首位の座を維持した。足元では、米国食品医薬品局(FDA)による食品トレーサビリティー規則の導入や食品添加物規制の強化に向けた動きが見られるため、食品の対米輸出を行う日本企業は注意が必要だ。
急拡大する米国向け農林水産物・食品の輸出
農林水産省の発表(確報値)(注1)によると、2025年の日本の農林水産物・食品の輸出額は前年比12.8%増の1兆7,005億円となった。うち、米国への輸出額は同13.7%増の2,762億円と、輸出相手国・地域の中で最大だ。日本政府が掲げた2025年までに農林水産物・食品の年間輸出額を2兆円に拡大させるという目標は達成されなかったが、主要輸出国・地域である中国や香港向けの輸出が減速する中で(注2)、対米輸出の伸びは日本の農林水産物・食品の輸出において重要な役割を果たしているといえる(図1参照)。
注:2025年は確報値、その他の年は確定値。
出所:農林水産省 「農林水産物・食品の輸出実績」から作成
対米輸出品目は金額の多い順に、緑茶、ブリ、清涼飲料水、日本酒などのアルコール飲料、菓子類、調味料、ホタテ、食肉となっており、食品など農産物が半分以上を占める(注3)。ドナルド・トランプ大統領によって2025年4月5日から全世界に対して10%の相互関税が導入され、日米合意を受けて8月7日より関税率が引き下げられるまで(注4)、日本からの農林水産物・食品に対しては一般関税率(MFN税率)に加えて相互関税率(10%)が賦課されていた。それでも農林水産物・食品の対米輸出は前年を上回る成果を上げ、過去最高額を記録した(図2参照)。
注:2024年は確定値、2025年は確報値。
出所:財務省貿易統計から作成
健康志向の高まりが日本食材に追い風
米国で日本産食品の需要が急拡大している理由は何か。米国では西海岸を中心に、日本食に親和性の高いアジア系住民が2,500万人近くいるとされ、日本食や日本食材には元来一定の需要があった。それに加え、近年米国では全世代的に健康志向が高まっており、その中でも日本食は低脂肪で栄養価が高く、健康的な食事の選択肢として認識されていることが背景にあるとされる(注5)。また、記録的な円安・ドル高が後押しし、2025年は約330万人の米国人が日本を観光で訪れた(注6)。日本滞在中に親しんだ日本食を帰国後も日本食レストランや小売店で求める好循環ができ上がったことが、日本食の需要を支えていると考えられる。日系小売店や日本食レストランでしか手に入らなかった日本食材は、今や現地系やアジア系にも販路を拡大する。トランプ関税導入後に、対米輸出を行っている日本企業にジェトロが実施したヒアリングでは、「米国向けでも高品質なもの、他で得られないものであれば価格が上がっても需要に影響はないとみている」(食品メーカー)といった声が聞かれた。米国市場において日本産食材は、関税という逆境を上回る需要が広がっているといえる。
特定の食品はトランプ関税対象外になるも、継続性は不透明
日本からの農林水産物・食品の対米輸出については、トランプ関税の先行き不透明さや食品安全規制強化の動きなど懸念材料もある。
米国内で深刻化するインフレの影響で、トランプ大統領は2025年11月14日付の大統領令にて、特定の農水産品(肥料、牛肉、バナナ、オレンジ、トマト、ココア、香辛料、熱帯果実・果実ジュース、コーヒー、茶など)を相互関税の対象外とした(注7)。例えば牛肉の対米輸入については、200トンを上限とした1キロあたり4.4セントの低関税枠分を除き、26.4%のMFN税率が設定されている。日米合意により日本から輸入される牛肉にはMFN税率のみが課せられていたため、本除外措置によるプラスの影響はなかった。一方、対米輸出の最大品目であり、相互関税により15%の関税が賦課されていた緑茶は、11月の措置により輸入関税が免除となった。
しかし、米連邦最高裁は2026年2月20日、相互関税の根拠となる国際緊急経済権限法(IEEPA)を基に大統領が関税を賦課することは違憲だとする判決を下した。これに対し、トランプ大統領は1974年通商拡大法122条を用いて、現地時間2月24日午前0時1分から7月24日午前0時1分までの150日間、全世界に対し10%の徴課金を課す大統領令を発表。現在のところ、農林水産品については相互関税と同様に除外品目
(942KB)が設定されている。ただし、122条による関税措置は連邦議会の承認がなければ150日後に失効する。トランプ政権は別の通商法を基に関税を継続させることを示唆しているが、その際、農林水産品に対する除外品目が再設定されるかは不透明だ。
食品流通の要所における詳細な記録保持が必須に
米国の食品安全規制強化の動きについても、日本の食品メーカーの対米ビジネスに大きな影響を与えることが懸念される。米国食品医薬品局(FDA)は2023年1月20日、食品安全強化法(FSMA)に基づき「特定の食品のトレーサビリティーに関する追加的な要件に関する規則
」を定めた。本規則は、食中毒など食品事故の発生を防止または軽減するために、汚染された食品の特定や食品の流通経路の迅速な追跡を目的とする。食品トレーサビリティー・リスト(Food Traceability List, FTL)
に掲載された高リスクとされる19の対象商品群(注8)を製造、加工、包装、保管する事業者は、(1)食品追跡のために必要な情報を含んだ記録の作成・維持、(2)FDAからの要請があれば24時間以内(またはFDAが同意した時間内)に情報提供、(3)FDAが事業者の食品トレーサビリティーに関する取り組みを理解するための「食品トレーサビリティー計画書」の作成・維持が求められる。本規則に違反した場合、米国での受け入れ拒否などの罰則が定められた。(1)については、食品流通の要所において規則に従いかなり細かい記録の作成が求められるため、日本企業にとっては大きな負担になることが懸念される。また、FTLにはチーズ、野菜、果物、魚介類など幅広い農水産品が含まれているほか、これらを原材料として加工された食品も対象となるため、影響を受ける企業は相当数に上るだろう。
本規則は、本来であれば2026年1月20日から施行予定だったが、事業者が本規則を履行するための準備時間が必要という理由から、FDAによって2028年7月20日までの30カ月間適用を延期する提案がされている。輸出事業者が今すぐ法的に対応必須という状況ではなくなったものの、猶予期間中にしっかりと履行体制を整えておくことが肝要だ。
全米で広がりをみせるMAHA運動と合成着色料の規制強化
また、第2次トランプ政権下では、石油由来の合成着色料に関する規制が相次いで発表された(表参照)。トランプ大統領は2025年1月の就任後、「米国を再び健康にする(Make America Healthy Again, 以下MAHA)
」をスローガンとして掲げ、食品に含まれる農薬や化学物質などを排除することで、米国内で深刻化する小児慢性疾患(肥満、糖尿病、発達障害など)の根本的な解決に着手している。翌2月には、2024年の大統領選でMAHAを提唱したロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉(HHS)長官を委員長に任命し、MAHA大統領委員会
を設立した。
具体的な動きとして、FDAは2025年1月15日、動物実験により発がん性が認められた石油由来の合成着色料「食用赤色3号」(別名:エリスロシン)に関して、2027年1月15日から食品や飲料、2028年1月18日から経口医薬品への使用禁止を発表した。食用赤色3号は、菓子類、漬物、魚肉練り物など幅広い食品に使用されている。米国の措置を受けて、日本の厚生労働省は、科学的な見地から食用赤色3号の食品添加物としての使用可否を検討していくとした。加えて、FDAは2026年末までに、「食用緑色3号」を含む6つの合成着色料の食品への使用を禁止することを発表した。
MAHAの取り組みは各州にも広がりをみせる。現在、25以上の州が合成食品着色料やその他の食品化学添加物の新たな禁止を検討しているという。全米でいち早く食品添加物規制を導入したカリフォルニア州では2025年12月に、食品企業10社が超加工食品の開発と販売により公衆衛生上の危機を招いたとして、同市より提訴されるという事態も発生している。このように、州によってはより厳しい規制や罰則規定を導入する可能性もあるので、注意が必要だ。
| 日付 | 概要 |
|---|---|
| 2025年1月15日 | FDAは、食用赤色3号の食品・飲料への使用を2027年1月15日から、医薬品への使用を2028年1月15日から禁止することを発表。 |
| 2025年2月13日 | 連邦政府は、小児慢性疾患のまん延を予防するため「米国を再び健康にする(MAHA)」委員会を発足。 |
| 2025年4月22日 |
FDAは合成着色料に関し次の取り組みを表明:
|
| 2025年5月1日 | MAHA委員会は「われわれの子供を再び健康に」評価報告書を発表。子供の健康問題を引き起こす要因を提示するとともに、超加工食品や農薬への規制強化を示唆。 |
| 2025年5月9日 | FDAは、新たに天然由来の食品着色料3種(ガルディエリア・エキス・ブルー、バタフライピー抽出物、リン酸カルシウム)を承認。 |
| 2025年9月9日 | MAHA委員会は「われわれの子供を再び健康に」戦略報告書を発表。規制強化は一変してトーンダウンする結果に。 |
| 2026年2月5日 |
|
出所:米国政府発表を基に作成
食品規制強化に対しては業界団体から強い反発も
MAHA委員会は2025年5月、子供の慢性病の原因などを特定した「われわれの子供を再び健康に」と題する評価報告書
(3.8MB)を発表し、子どもの健康問題の4つの主な要因として、(1)超加工食品に偏った食生活、(2)残留農薬や化学物質の日常的な摂取、(3)身体活動の不足と慢性的なストレス、(4)医療の過剰介入(薬の過剰処方やワクチンの過剰摂取)を挙げた。また、業界団体と政府の癒着による政策決定への影響を指摘したほか、超加工食品や農薬の規制強化の必要性を示唆した。しかし、9月に発表された戦略報告書
(20.8MB)では、一変して規制強化はトーンダウンし、業界と政府の癒着についても否定的な内容となったため、MAHA支持者からは期待外れとの声も上がった。規制強化を望まない業界関係者からの巻き返しや共和党からの不支持が背景とされる。また、テキサス州やウエストバージニア州では、MAHAに連動して可決された合成着色料の使用規制が、連邦地裁によって差し止めになる事態も発生した(注9)。
日本の農林水産物・食品の有望な輸出先として際立つ米国ではあるが、食品規制強化を巡る動きは変化も多く、その動向に注視が必要だ。
- 注1:
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2025年の日本からの農林水産物・食品輸出については、農水省が2026年2月3日に発表した確報値に基づき執筆。
- 注2:
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東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が開始された2023年8月24日より、中国は全都道府県、香港は10都道府県(東京、福島、千葉、栃木、茨城、群馬、宮城、新潟、長野、埼玉)からの水産物の輸入を停止している。高価なホタテやナマコの主要輸入相手国・地域であった中国や香港による輸入停止措置は、日本の農林水産物・食品の輸出に影響を与えた。
- 注3:
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対米輸出の内訳は、農産物1,847億円、水産物828億円、林産物88億円。
- 注4:
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2025年7月22日の日米合意により、日本に対する相互関税率はMFN税率が15%以下である品目に対しては15%が適用され、MFN税率が15%以上の品目に対してはMFN税率が適用された。
- 注5:
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2024年8月2日付地域・分析レポート「米国最新食トレンドと日本食(2)新型コロナ後の食トレンド」参照。
- 注6:
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日本政府観光局(JNTO)発表(2026年1月21日)
(487KB)。米国は、国・地域別の訪日外客数において第4位。 - 注7:
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2025年11月14日付大統領令(特定の農産品を相互関税の対象外とする)
にて、特定の農産品に対する相互関税は撤廃されたが、MFN税率は有効のまま。 - 注8:
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現状、FTLに掲載されている対象商品群は、ハードチーズ以外のチーズ、殻付き卵、ナッツ含有バター、キュウリ(生鮮)、ハーブ(生鮮)、葉物野菜(生鮮)、葉物野菜(生鮮カット)、メロン(生鮮)、トウガラシ(生鮮)、スプラウト(生鮮)、トマト(生鮮)、トロピカルフルーツ(生鮮)、果物(生鮮カット)、葉物以外の野菜(生鮮カット)、ひれのある魚(生鮮、冷凍、解凍)、燻製(くんせい)のひれのある魚(冷蔵、冷凍、解凍)、甲殻類(冷蔵、冷凍、解凍)、軟体動物性貝類・二枚貝(冷蔵、冷凍、解凍)(ホタテ貝柱を除く。)、すぐに食べられる総菜サラダ(冷蔵)。
- 注9:
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2026年2月25日付ビジネス短信「 米テキサス州の食品添加物に対する新規制に違憲判決」参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課 課長代理
安東 利華(あんどう りか) - 2007年、ジェトロ入構。海外調査部北米課、シドニー事務所などを経て、2025年6月から現職。






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