新型コロナ後の食トレンド
米国最新食トレンドと日本食(2)

2024年8月2日

コロナ後の米国の食トレンド

新型コロナウイルスのパンデミックにより、米国における食市場が大きく変わるとともに、健康に対する意識の向上が見られた。背景には、外出制限によって自宅で過ごす時間が増え、運動不足や体重増加が深刻化したことがある。1971年4月に米国公共放送社 (CPB)によって設立されたナショナル・パブリック・ラジオ (全国教育ラジオ放送:NPR)のアンケート調査によると、42%の米国人が「コロナ禍により体重が増えた」と回答しており、平均で29ポンド(13.2キロ)体重が増加したと報告されている。年代別にみると、特に5~11歳における体重増加が著しく、過体重もしくは肥満とみられる子供の割合が36.2%から45.7%へ9.5ポイント増加した。また、外出自粛による自由時間が増えたことで、自身の生活習慣を顧みることが増えたと回答した人も多く見られた。その結果、77%以上の米国人が、新型コロナの流行により、自身の健康に対してより注意を払うようになったという調査結果が報告されており、健康に対する意識の高まりは、以下のような食に関するトレンドとなって表れている。

1. オーガニック食品の需要拡大

オーガニック食品は、健康志向の高まりとともに米国で人気が高まっている。消費者がオーガニック商品を選ぶ理由は、(1)添加物が含まれていないこと、(2)農薬が使用されていないこと、(3)環境に良いこと、(4)動物福祉の観点、の4つである。添加物の不使用や農薬の不使用など、自身が摂取する成分に対する関心が上位を占める一方、環境保護や持続可能な農業への関心など、社会貢献の一環としても支持されている。オーガニックを重視する傾向は、特に1980~1995年生まれのミレニアル世代で強くみられる。2022年に、ミレニアル世代の米国人のうち、23%の人がオーガニック食品であるかどうかを購入時の重要な指標ととらえている。

米国におけるオーガニック食品市場は急速に成長しており、ホールフーズマーケットやトレーダージョーズなどの専門小売店だけでなく、一般のスーパーマーケットやオンラインストアでも広く取り扱われるようになっている。オーガニック食品の市場規模は2023年に638億ドルに達し、2019年に比べ27%増加した。

2. 植物ベースの食事の普及

植物ベースの食事、特にベジタリアンや、レザーや羽毛のような動物由来の製品も購入しないビーガンの食事スタイルが米国では広がっている。これらはパンデミック以前から見られていたが、植物ベースの食事を選択する消費者は一層増えている。植物ベースの食品は高タンパク質で低脂肪のものが多く、心臓病や糖尿病など生活習慣病の予防に効果があるとされている。米国立衛生研究所も、植物ベースの食事は生活習慣病などの予防に有効であると報告し、推奨している。

一方で、人々がベジタリアンやビーガンになる理由は、健康上の利益よりも、環境保護や動物福祉の側面が強い。調査によると、「動物福祉」を理由にベジタリアンやビーガンとなった人は、「健康」を理由に選んだ人の2~3倍多い。特に1990年代後半から2010年代序盤/半ば生まれのZ世代をはじめとした若い消費者層は、動物福祉をはじめとした社会課題への関心が強く、植物ベースの食事のニーズを支えているとみられる。植物ベースの食品市場は2020年に80億ドルに達し、コロナ前と比較して48%増加した。

市場には多様な植物ベースの食品が登場しており、一般によく知られている代替肉製品だけではなく、サーモンや蜂蜜、アイスクリーム、チーズ、卵などにおいても商品開発が進められている。近年の技術の向上に伴い、味や食感は従来の動物性食品に近づいており、切り替えのハードルが下がっている。この事実も消費者の選択肢を広げ、植物ベースの食品市場の拡大に寄与している。

3. 各世代の「健康な食べ物」への訴求

先に述べたとおり、コロナ禍を経て健康に気を遣う米国人が増え、これに伴いさまざまな食に関するトレンドが形成されている。近年の健康トレンドに関して、世代ごとにトレンドが異なる点は興味深い。例えば、オーガニックはミレニアル世代における支持が根強い一方、植物ベースの食品はZ世代からの関心が強い。これは、米国で健康を意識する消費者が増加している一方、世代ごとに「健康」としてイメージするものが異なることを示唆しており、米国における食市場では世代ごとのマーケティングも重要だ。

なお、米国の食市場全体をみると、「オーガニック」や「植物ベース」と「健康」のイメージとの結びつきは必ずしも強いわけではない。例えば、「フレッシュ」という言葉は以前から「健康」と結びついて考えられており、2023年時点で米国において、最も「健康」なイメージとして浸透している。また、近年では「フレッシュ」に加え、「低糖」「良質なタンパク質」「野菜やフルーツ」「栄養豊富」「ナチュラル」「減塩」などという言葉も、米国では「健康な食事」として理解されている。米国で健康志向の高い消費者が増加している中、オーガニックや植物ベースの食事といった最新トレンドを把握することに加え、世代ごとに「健康」としてイメージが異なることにも、理解する必要がある。

図:米国における健康な食べ物の定義(複数回答可)
米国における健康な食べ物の定義に関する消費者アンケート結果を示している。健康な食べ物の定義となる単語が、上位から順に「フレッシュ」、「低糖」、「良質なたんぱく質」、「果物や野菜」、「栄養豊富(特にカリウムやビタミンD」、「ナチュラル」、「減塩」、「食物繊維豊富」と並んでいる。近年注目されている「オーガニック」は10番目に位置しており、必ずしも市場全体からの関心が高いわけではないといえる。

出所:International Food Information Council資料に基づき作成

健康志向と日本食のつながり

米国における全世代的な健康志向の高まりとともに、米国では日本食人気も高まっている。米国では、日本食は低脂肪で栄養価が高く、健康的な食事の選択肢として認識されており、日本食が健康志向の受け皿の1つとなっている。日本食の特徴は、新鮮な食材を使用し、シンプルな調理法で素材の味を生かすことにある。また、出汁(だし)などのうまみを活用することで塩分量が抑えられている。これらの日本食の特徴は、前項で紹介した「健康な食べ物」の定義そのものであり、米国において「日本食=健康」と理解されている背景が見て取れる。さらに、日本料理には「腹八分目」といった考え方など、米国にはない独特の食文化がある。日本食は食べ物そのものの魅力のみならず、食事に対する姿勢や文化に対する関心も相まって、健康志向の高い消費者をはじめ、広く米国で支持されている。

米国において日本食は、ミシュランスター獲得店などハイエンドなレストランから、自宅で作る料理の選択肢として、さまざまな場面で楽しまれている。現在、米国には約2万3,000店舗の日本食レストランがあり、特に西海岸と東海岸に店舗が集中している。カリフォルニア州とニューヨーク州において、ミシュランスター獲得店の約25%が日本食レストランであり、高級料理として楽しまれることも多い。最近では内陸部にも日本食レストランの出店が見られ、大都市以外での日本食の浸透も着実に進みつつある。

昨今の円安傾向により、米国から日本に渡航する訪日観光客数は急激に増加している。2023年に、米国から日本に渡航した訪日外国人旅行者数は、過去最高の200万人を超えた。訪日観光でおいしい日本食を楽しんだ消費者は、現地に帰ってから日本食を求める傾向があり、今後は米国の新興地域、例えばテキサス州やアリゾナ州などでも、日本食人気が加速するとみられている。

自宅で寿司(すし)や丼ものを調理する人も増えてきており、日本食は自宅で楽しめる料理、という認識も広がりつつある。特に、ロサンゼルスやニューヨークは日本人を含めアジア系住人が多くいるため、日本食の調理に必要な食材や調味料にアクセスしやすい環境となっている。店で食べた日本食を自宅でも再現してみるなど、外食と自炊の両面で日本食が普及することは十分に期待できる。

米国で最近トレンドとなっている日本食として、ホタテ、ハマチ、海苔(のり)などの水産物や、柚子(ゆず)、スダチ、カボスなど日本ならではの柑橘(かんきつ)類も注目を集めている。また、甘酒や納豆なとの発酵食品も受け入れられつつある。特に納豆は海外の人には受け入れられにくい商品のイメージがあるが、日本の「スーパーフード」として納豆を紹介する米国メディアが増えてきている。従来のような寿司、ラーメン、抹茶といった食品に限らず、米国人がより多様な日本食に対して興味を持っているといえる。

おわりに

パンデミックは米国の食市場に深刻な影響をもたらしたが、ポスト・コロナの現在、健康志向の高まりやEC(電子商取引)の拡大など、経済活動や人々の生活にはこれまでとは異なるトレンドが生まれている。特に健康意識の向上は、米国における日本食の拡大に追い風となることが期待される。

日本食は、米国市場での存在感を一層高めている。その魅力をPRし、消費者に新しい食体験を提供する事で、市場の拡大を図ることができるだろう。

米国最新食トレンドと日本食

  1. 新型コロナ後の食市場
  2. 新型コロナ後の食トレンド
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所(執筆当時)
濱津 草太(はまつ そうた)
2023年9月~2024年7月、ジェトロ・ロサンゼルス事務所で米国輸出支援プラットフォーム事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所 米国輸出支援プラットフォーム担当ディレクター
木村 恒太(きむら こうた)
2010年4月 農林水産省 入省
2018年5月 在ロサンゼルス総領事館 副領事(食産業担当)
2021年6月 農林水産省
2022年8月から現職