6割超が黒字、販売・供給網を強化(ASEAN)
25年度日系企業調査(前編)

2026年3月25日

ASEANでは、進出日系企業が現地・域内需要の取り込みを意識しつつ、供給網の現地化・多元化を進めている。

ジェトロが2025年8~9月に実施した「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、2025年(1~12月)に営業利益で黒字を見込む企業が、ASEAN全体で65.3%を占めた(注1)。当年調査でも底堅い数値を確保したといえるだろう。一方で、国・業種ごとに差があり、人件費上昇などコスト要因が利益を圧迫しやすい構図も読み取れる。今後1~2年の事業方針では「拡大」が46.8%と高水準で、拡大の内容は販売機能の強化が中心だ。

近年のASEANは、輸出向けの生産拠点としての役割に加え、現地・域内需要を取り込む消費市場としての重要性を増している。一方で、国ごとに需要の伸び方や制度環境、コスト構造が大きく異なる。そのため、一律の戦略ではなく、各地の事業環境に即し、利益を確実に残すために事業構造をいかに構築できるかが求められる。

連載前編では、収益見通しと拡大意欲、供給網の状況を整理する。後編では、競争環境と雇用市場の変化のうち、特に存在感を高める中国企業に焦点を当てる。その上で、日系企業の事業環境に生じている変化を掘り下げる。

営業利益見通し:堅調ながら、「国別」と「コスト」の差が拡大

ジェトロは、2025年8月19日~9月17日、同地域20カ国・地域に進出する日系企業を対象として「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」を実施した(有効回答5,109社、うちASEAN3,172社)。当該地域での日系企業活動の実態を把握し、その結果を広く提供するのがその狙いだ。

この調査によると、2025年の営業利益で「黒字」を見通した企業の構成比(注2)は、ASEANに進出する日系企業平均で65.3%。堅調な水準を保っている。これに対し、インドは75.5%。アジア・オセアニアの他地域と比べて、特に高い。一方、中国は63.2%とやや低調だった。

ASEANは、インドと中国の中間に位置することになる。内需の拡大が追い風になる一方、人件費上昇や競争の激化などのコスト要因が利益を相殺しやすい点が、こうした見通しにも表れている。

図1:2025年の営業利益見込み
総数4,838社では黒字66.5%、均衡16.8%、赤字16.7%。地域別では、フィリピン75.3%、インドネシア69.1%、インド75.5%などで黒字の割合が高い。一方、ミャンマー44.4%、カンボジア49.5%などで黒字が5割を下回る。

注:カッコ内は、回答企業数。
出所:ジェトロ「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

ASEANで事業運営するに当たっては、上昇し続けるコストを吸収し、安定的に利益を確保できる収益構造の構築が求められる。単に市場の成長に依存するのでは、不十分だ。自由記述では、成長市場であっても「価格競争が激しく、売り上げの割に利益が出ない(ベトナム、建設業)」「販売価格の値上げがコスト増に追い付かない(マレーシア、ゴム・窯業(ようぎょう)・土石)」といった指摘があった。売り上げ拡大と利益拡大が必ずしも一致しない実情を示している。付加価値の向上や顧客接点の強化など、収益の安定化に直結する取り組みの重要性が一層高まっている。

「黒字」見通しの構成比を国・地域別にみると、フィリピンが75.3%で最も高い(前年比5.5ポイント増)。堅調な個人消費を背景に、現地販売の拡大が利益を押し上げている。これに、インドネシアの69.1%(前年比3.0ポイント減)、ベトナム67.5%(前年比3.4ポイント増)が続く。これらの国では、人口増加や所得上昇に加え、投資の継続やサプライチェーンの集積が進んでいる。

一方、タイは63.3%(前年比-0.8ポイント)。堅調な水準にあるものの、市場の成熟化に加え、コロナ禍後も家計債務が高水準にある。こうしたことから金融機関は、貸し出しに慎重な姿勢を示している。その結果、個人消費(自動車・耐久消費財など)が伸びにくい状況にある。また、賃金が高止まりしていることも、収益の上振れ余地を限定しやすい。

マレーシアは62.5%で、かなり低下した(前年比8.3ポイント減)。当地経済は、電気・電子(E&E)を中心に輸出依存度が高い。それだけに、外需鈍化の影響を受けやすいことになる。加えて、燃料補助金の見直しなど、政策変更が物流費やエネルギーコストに波及した。各社はこうしたことから、採算の見通しを慎重に判断したとみられる。

カンボジアは49.5%(前年比2.5ポイント増)、ミャンマーは44.4%(前年比12.2ポイント増)と、5割を下回った。政治や制度面の不確実性に加え、市場環境の不安定性さが企業の収益見通しに直接、影響している様子がうかがえる。黒字見通しの割合は、景気の強弱だけでなく、競争環境やコスト構造の違いも反映する。

業種別には、製造業の黒字見通しが67.0%、非製造業66.0%。大きな差はない。

ただし、製造業は外需の変動や部品・原材料価格の影響を受けやすい。分野によって明暗が分かれやすいともいえる。例えば、精密・医療機器(75.3%)、電気・電子機器(74.7%)、化学・医薬(74.5%)は、7割台と高い。一方、紙・木製品・印刷(55.6%)や一般機械(53.8%)は5割台にとどまる。

自由記述には「人件費の上昇、エネルギー価格の上昇、規制への対応費用増(インドネシア、鉄・非鉄・金属)」といった声もあった。売り上げの回復だけでは利益が伸びにくい実感を示しているといえるだろう。またこうした考え方は、広く共有されている。

非製造業では中間層拡大や個人消費の回復を追い風に、サービス需要を取り込むことで収益を確保する動きが目立った。販売・サービスなど、顧客接点を強化して現地需要を起点に収益機会を取り込む姿勢が強まっている。

ここで、利益を左右する要因を追う。まず押し上げ要因としてしばしば挙がるのが、「現地市場での売り上げ増加」だ。一方、押し下げ要因では「人件費の上昇」が目立つ。採用難や離職率の上昇を背景に、賃金の見直しが不可避になる国も多い。企業からは「最低賃金の上昇(マレーシア、電気・電子機器部品)」「最低賃金見直しに係る労務費高騰と経営層、専門人材の獲得の難しさ(タイ、電気・電子機器部品)」を懸念する声も聞こえてくる。コスト上昇が収益性を左右する構造課題になっていることが分かる。

加えて第三国企業との競争激化を挙げる企業も多い。価格面だけでなく、納期、サービス、提案力を含む総合力での競争が強まっているといえそうだ。

通商環境の変化も重要だ。対米輸出を行う製造業を中心に、関税措置などが営業利益に与える影響を慎重に見極める動きが続く。

事業拡大意欲:投資は前向き、焦点は販売機能

今後1~2年の事業展開の方向性を「拡大」と回答した企業の割合は、ASEAN全体で46.8%になった。

他地域と比較すると、インドが81.5%と突出して高い。旺盛な需要を背景に、事業拡大を進めている。一方、中国は21.3%にとどまった。景気や競争環境を踏まえて投資判断を慎重にする企業が多い。

ASEANで「拡大」する機能の中心は、販売になっている(後述)。加えて製造業では、「生産」の拡充も選択肢に挙がった。需要取り込みと供給体制の強化を同時に進める姿勢が示唆していることになる。

図2:今後1~2年の事業展開の方向性(国・地域別)
総数5,076社では拡大44.9%、現状維持48.3%、縮小5.8%、移転・撤退1.0%。インドは拡大81.5%と突出して高く、中国は拡大21.3%、維持64.3%、縮小12.6%。

注:カッコ内は、回答企業数。
出所:ジェトロ「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

事業拡大志向を国・地域別にみると、ベトナムが56.9%で高い水準にある。サプライチェーンの集積に加え、市場としての成長期待が同国での事業拡大を促している。フィリピン、ラオス、カンボジア、インドネシアでも、約半数の企業が事業拡大を計画。消費市場の拡大を中長期の投資動機にしている。

一方、タイは38.7%。相対的に低いとはいえ、前年(34.1%)からは持ち直した。なお、単純に規模を拡大するというわけではない。むしろ、機能的な高度化(高付加価値製品への生産シフトなど)を志向する企業が多いのが特徴になっている。ミャンマーは、政変後の不透明感もあり17.9%にとどまった。

拡大の内容としては、販売機能の強化が中心になっている(拡大と回答した企業の67.3%が「販売機能の拡充」を挙げた)。「新規事業開発」(26.2%)や「顧客対応」(16.3%)も一定の割合を占めた。市場に近い機能の拡充が目立った。自由記述でも、「現地ニーズに即して事業展開したい」「自動搬送、保管設備の分野で販売とアフターサービスを強化していく」など、市場に密着した取り組みが目立つ。

表:拡大する機能(国・地域別、複数回答)
国・地域名 販売 新規事業開発 生産
(高付加
価値品)
生産
(汎用品)
カスタマー
サービス
研究
開発
地域統括機能 その他
総数(2,259) 68.7 27.2 25.4 20.4 17.8 8.0 4.3 7.3
ASEAN(1,464) 67.3 26.2 24.6 20.4 16.3 6.0 4.4 7.9
ベトナム(511) 63.2 22.7 27.4 26.4 14.3 5.9 2.0 7.2
タイ(245) 68.6 26.5 28.2 16.7 16.7 5.7 4.1 4.5
シンガポール(206) 75.7 28.6 14.1 2.9 17.5 4.9 12.6 10.7
インドネシア(171) 69 26.3 29.8 28.7 16.4 7.6 0.6 6.4
マレーシア(160) 72.5 31.3 25.6 16.3 16.9 6.9 8.1 8.8
フィリピン(84) 61.9 21.4 20.2 25.0 21.4 9.5 3.6 13.1
カンボジア(58) 55.2 39.7 22.4 25.9 15.5 1.7 1.7 15.5
ラオス(17) 70.6 17.6 0.0 29.4 23.5 5.9 0.0 0.0
ミャンマー(12) 66.7 41.7 0.0 0.0 16.7 0.0 0.0 8.3
インド(310) 70.3 28.1 31.0 30.6 24.8 11.0 5.8 4.8
中国(164) 70.7 23.8 36.0 20.7 9.8 17.1 3.7 3.7

注:カッコ内は、回答企業数。
出所:ジェトロ「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

サプライチェーンの再編と現地化:コスト抑制と安定供給を両立

さらに、調達面での課題を追う。当該調査では、製造事業者限定で「原材料・部品の調達先の内訳」の設問を設けた。

その結果をみると、ASEANに立地する企業全体では、現地(立地国)からの調達率が42.9%。日本が続き、29.6%だった。このほか、域内(ASEANの他国)が9.9%、中国が11.5%で、一定の割合を占めた。

製造業が現地調達する内訳は、地場企業が50.1%、現地進出日系企業が40.3%。地場と日系、両企業の併用が特徴になっている。

一方、現地調達に関する課題として、自由記述に「現地調達を進めたいものの、品質面に課題がある(ベトナム、輸送機器部品)」といった指摘もあった。現地化を推進するためには、品質管理の強化が必要なことが読み取れる。

図3:原材料・部品の調達先の内訳(国・地域別)
総数では現地47.9%、日本28.7%、ASEAN8.7%、中国9.1%。中国拠点は現地71.0%と最も高く、カンボジアはASEAN34.3%が最多など、地域ごとの特性が見られる。

注:有効回答20社以上の国・地域。
出所:ジェトロ「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

図4:2025年の現地調達先の内訳(国・地域別)
総数1,461社では地場59.1%、日系32.8%、外資8.1%。ラオスは地場90%、インドは地場74.2%、ベトナムは地場48.1%/日系38.5%など、国により構成の違いが大きい。

注:有効回答5社以上の国・地域。
出所:ジェトロ「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

まとめると、ASEANで収益を安定させるには、(1)国別の特性とコスト差を見極めること、並行して(2)現地・域内需要を取り込むために販売機能を強化すること、(3)供給網を現地化・多元化していくことが重要だ。2025年度の調査結果からは、黒字基調を保ちながらも差が広がっている図式を読み取れた。そうした中で、企業が販売機能の強化と供給網再編を並行して進めている姿を確認できる。

次の「後編」では、こうした戦略を左右する外部環境として、ASEANで存在感を高める中国企業の動きを追う。その存在が、競争や人材確保にどのような影響を及ぼしているのかを整理する。


注1:
本稿でいう「ASEAN」は、2026年1月時点のASEAN加盟国のうち、企業から回答を得たベトナム、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、カンボジア、ミャンマー、ラオスを指す。本文に戻る
注2:
本稿で扱う数値は基本的に、調査に回答した企業数の割合になっている。 また、2025年(1~12月)の業績は各社の見込み。確定値ではないものの、企業が現時点でどこに機会とリスクをみているかを把握する材料になる。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ)
2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ北九州、企画部企画課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て、2025年11月から現職。