焼き芋や納豆、需要が根張るタイ市場

2026年6月2日

日本からタイ向けの農林水産物・食品の輸出額は近年、増加基調にある。背景には、日本食人気の定着に加え、タイ人の訪日経験を通じて、日本食に対する「本物志向」が醸成されている点が挙げられる。

近年タイでは納豆およびかんしょ(さつまいも)がブームとなっており、日本からの輸出拡大が注目されている。

本稿では、日本からタイ向けの輸出の概況を整理した上で、エンパワーアグロインターナショナル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの今岡柾氏(代表取締役)に、同社の取り組みや今後の展望などについて聞いた(取材日:2026年3月5日)。

日本からタイ向け農林水産物・食品の輸出動向

2025年の日本からタイ向け農林水産物・食品の輸出額は前年比17.1%増の735億円となり(図1参照)、輸出実績は国別で第7位を記録した。ジェトロバンコク「2025年度 タイ国日本食レストラン調査」によると、2025年の日本食レストラン数は前年比2.2%減の5,781店舗となったものの、日本食に対する理解の向上とともに、長期的には堅調に増加している。こうした背景から、日本からタイへの輸出も増加傾向にある。農林水産物・食品の輸出実績額の上位10品目には水産物が多く、いわし、ホタテ貝、さばなどの増加が目立つ一方、かつお・まぐろ類は減少するなど品目により増減はあるが、農産物・水産物が大きな割合を占める構造は変わらない。インスタントコーヒーなど加工食品の伸びも近年は顕著となっている(表参照)。

図1:日本からタイ向けの農林水産物・食品の輸出額推移
2021年の輸出額は441億円である。2022年は506億円であり、前年より増加している。2023年は511億円で、2022年からはわずかに増加している。2024年は628億円で、前の年から大きく伸びている。2025年は735億円で、5年間の中で最も高い金額である。全体として、タイ向け農林水産物・食品の輸出額は、2021年から2025年にかけて一貫して増加傾向にあることが分かる。特に2023年以降の伸びが大きいのが特徴である。

出所:農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」からジェトロ作成

表:日本からタイ向けの農林水産物・食品輸出額上位10品目

農林水産物輸出額(品目別)(億円、%)(△はマイナス値) 注1:2025年12月現在の輸出額(累計)上位10品目を抽出。 注2:アルコール飲料、たばこ、真珠を含む。
項目 2024年 2025年
年計 年計 前年同期比
(増減率)
構成比
農林水産物・食品の輸出額(合計) 628 735 17.1 100
1位.いわし(生・蔵・凍) 58 72 23.9 9.8
2位.ホタテ貝(生・蔵・凍・塩・乾) 42 61 45.8 8.3
3位.かつお・まぐろ類(生・蔵・凍) 84 58 △ 31.3 7.9
4位.牛肉(くず肉含む) 40 44 11.6 6
5位.さば(生・蔵・凍) 22 42 91.4 5.7
6位.緑茶 11 29 156.9 4
7位.豚の皮 37 29 △ 20.6 4
8位.インスタントコーヒー 5 26 363.8 3.5
9位.ソース混合調味料 22 25 12 3.3
10位.キャビア及びその代用物 12 17 47.1 2.3
その他 295 332 12.7 45.2
参考
項目 2024年 2025年
年計 年計 前年同期比
(増減率)
構成比
農産物 306 379 23.8 51.5
林産物 10 11 3 1.5
水産物 312 346 11 47

注1:2025年12月現在の輸出額(累計)上位10品目を抽出。
注2:アルコール飲料、たばこ、真珠を含む。

出所:財務省貿易統計、農林水産省「農林水産物輸出入概況」からジェトロ作成

タイ市場での輸出拡大 ブームの火付け役はSNS

近年、ブームとなっている日本産食材の1つとして納豆が挙げられる。2025年の日本から同国への納豆の輸出額は前年比約3倍の2億9,970万円に達した(図2参照)。急速な伸長の背景にはSNSによる情報拡散が大きく影響していると考えられる(注1)。実際、現地の業界関係者によれば、バンコクの日系スーパーでは約40種類の納豆が陳列されている。2025年頃から納豆は急激に人気商品となり、箱単位で購入するタイ人客も現れるようになった。その結果、一時的に購入上限個数を設ける事態も生じたという。

図2:タイ向け納豆輸出推移
 まず、金額の推移である。2017年は30百万円である。2018年は36百万円で、前年より増加している。2019年は44百万円で、引き続き増加している。2020年は52百万円である。2021年は54百万円で、増加幅は小さい。2022年は59百万円である。2023年は74百万円となり、増加がやや大きくなっている。2024年は97百万円で、前年から大きく伸びている。2025年は300百万円で、前の年から急激に増加しており、この期間で最も高い水準である。次に、数量の推移である。2017年は50トンである。2018年は60トンである。2019年は72トンである。2020年は88トンで、ここまで一貫して増加している。2021年は87トンと、わずかに減少している。2022年は96トンで再び増加している。2023年は113トンである。2024年は147トンで、増加傾向が続いている。2025年は425トンで、前年から大幅に増加しており、数量としても突出して高い。全体として、この図からは、2017年以降、金額と数量の双方が長期的に増加傾向にあることが分かる。特に2025年には、金額・数量ともに急激な伸びを示しており、輸出規模が大きく拡大している点が大きな特徴である。

出所:農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」からジェトロ作成


日系スーパーにて陳列される納豆(ジェトロ撮影)

SNSをきっかけにタイでブームとなった日本食の例としては、おにぎりも挙げられる。バンコクのおにぎり専門店では、当初は日本人駐在員向けに日本産米のおにぎりを提供していたが、SNSで話題になったことでタイ人客が急増し、現在では顧客の約9割を占める。もっとも、タイで販売される納豆は1パック当たり約400円、おにぎりも1個約500円と、現地物価と比較するとやや高価格だ。

タイ市場でのビジネス成功や輸出拡大のきっかけとしてSNSは有効だが、継続的な需要につなげるには、現地価格帯での提案、健康に良いことや日本食文化といった付加価値を伝える工夫が求められる。一過性のブームで終わらせないためには、「単なる物珍しい食べ物」にならないように、食べ方やアレンジ方法などを通じておいしさを伝えていくことが重要だ。

タイ市場に根を張るかんしょ需要

一過性のブームにとどまらず、タイ市場に定着した好例が日本産かんしょだ。近年、日本産かんしょの世界への輸出額は増加傾向にある(図3参照)。特に焼き芋は甘くトロッとした滑らかな味わいから国を問わず支持されている(注2)。また、農林水産省の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略(2025年5月)」でも輸出重点品目に位置付けられており、今後も輸出拡大が期待される。

こうした中、2025年の日本からタイ向けかんしょ輸出額は前年比35%増の15億6,048万円を記録し、仕向け先国・地域で第1位となった(図4、5参照)。日本産かんしょが定着しつつある背景には、嗜好(しこう)性の高さにとどまらず、用途の多様性と需要層の広がりがある。焼き芋に加え、ベーカリーや菓子、飲料向けの原料など業務用・加工用としての活用が進み、消費シーンが限定されていない点が特徴だ。こうした用途の広がりは一時的な話題性に左右されにくい需要構造を生み、健康志向や自然素材への関心の高まりも追い風となっている。


日系スーパーにて陳列されるかんしょ(ジェトロ撮影)
図3:世界向けかんしょ輸出推移
まず、輸出金額の推移である。2016年は866百万円である。2017年は971百万円で、前年より増加している。2018年は1,379百万円で、増加が続いている。2019年は1,695百万円である。2020年は2,062百万円で、2,000百万円を超えている。2021年は2,333百万円である。2022年は2,626百万円で、引き続き増加している。2023年は2,683百万円で、増加幅はやや小さい。2024年は3,295百万円で、大きく伸びている。2025年は4,074百万円で、この期間で最も高く、前年からも大幅に増加している。次に、輸出数量の推移である。2016年は2,291トンである。2017年は2,652トンである。2018年は3,520トンで、増加幅が大きくなっている。2019年は4,347トンである。2020年は5,268トンで、5,000トンを超えている。2021年は5,603トンである。2022年は5,702トンで、数量はやや緩やかな増加である。2023年は6,031トンである。2024年は7,424トンで、大きく増加している。2025年は9,079トンで、過去10年間で最も多い数量となっている。全体として、この図からは、2016年以降、輸出金額と輸出数量の双方が長期的に右肩上がりで増加していることが分かる。特に2024年から2025年にかけては、金額・数量ともに伸びが非常に大きく、輸出規模が急速に拡大している点が大きな特徴である。

出所:農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」からジェトロ作成

図4:タイ向けかんしょ輸出推移
まず、輸出金額の推移である。2016年は98百万円である。2017年は103百万円で、わずかに増加している。2018年は140百万円である。2019年は237百万円で、増加がやや大きくなっている。2020年は483百万円で、前年から大きく伸びている。2021年は785百万円である。2022年は812百万円で、増加は続くが伸びは緩やかである。2023年は781百万円と、やや減少している。2024年は1,159百万円で、再び大きく増加している。2025年は1,560百万円で、この期間で最も高い金額である。次に、輸出数量の推移である。2016年は201トンである。2017年は242トンで、増加している。2018年は293トンである。2019年は538トンで、数量が大きく増えている。2020年は1,139トンで、1,000トンを超えている。2021年は1,862トンである。2022年は1,756トンで、やや減少している。2023年は1,820トンで、ほぼ横ばいである。2024年は2,709トンで、大きく増加している。2025年は3,682トンで、過去10年間で最も多い数量となっている。全体として、この図からは、2016年以降、輸出金額・輸出数量ともに長期的には増加傾向にあることが分かる。一時的な減少はあるものの、2024年から2025年にかけては金額・数量の双方が急伸しており、輸出規模が大きく拡大している点が大きな特徴である。

出所:農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」からジェトロ作成

図5:日本からの主要国向けかんしょ輸出額構成比
円グラフの中で最も大きな割合を占めているのはタイである。タイ向けの輸出額は1,560百万円で、全体の38.3パーセントを占めている。次に大きいのは香港である。香港向けの輸出額は1,103百万円で、構成比は27.1パーセントである。3番目はシンガポールである。輸出額は721百万円で、全体の17.7パーセントを占めている。続いて、台湾である。台湾向けの輸出額は251百万円で、構成比は6.2パーセントである。その次はマレーシアである。マレーシア向けの輸出額は187百万円で、構成比は4.6パーセントである。最後に、「その他」の輸出先である。その他の合計は252百万円で、構成比は6.2パーセントである。全体として、この円グラフからは、輸出先がアジア地域に集中しており、特にタイと香港の2か国・地域で全体のおよそ65パーセントを占めていることが分かる。中でもタイ向けが最大で、輸出の中心的な市場となっている点が特徴である。

出所:農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」からジェトロ作成

日本産かんしょのタイ市場定着を支える事業者の取り組み

タイ・バンコクを拠点に日本産農産物・食品を輸入するエンパワーアグロインターナショナルの今岡氏によると、訪日タイ人増加の影響もあり、日本産かんしょの引き合いが近年増加しているという。取引量としては、小売り向け卸に加え、ホテルやレストラン、食品メーカー向けの業務用・加工原料用途が中心となっている。

こうした業務用需要の拡大は、日本産かんしょが継続的な取引を前提に市場に定着しつつあることを示しているという。同社は規格外品を扱うことでコストを抑えつつ高い食味を提供し、業務用途での競争力を確保している。定着要因としては、業務用途の拡大に加え、焼き芋の根強い人気も大きい。スーパーやコンビニエンスストアに焼き芋機が設置され、店内で実演販売が行われたことをきっかけに注目を集めるようになった。その後、動画投稿サイトやSNSなどを通じて話題となり、徐々に認知が広がったとみられる(注3)。2023年に設立した同社の焼き芋ショップは、現在ではタイ全土に40~50店舗を展開するまで急成長するなど、既に市場で定着している。

日本産かんしょは、自然由来で糖度が高く、他国産より高品質といった点がタイ人消費者から評価されているという。1本当たり約800円と高価格ながらリピーターも多く、詰め放題といった体験型プロモーションなどを通じて固定ファンの獲得にもつながっている。


同社取締役 今岡柾氏(左から2番目)(ジェトロ撮影)

同社の焼き芋ショップ(ジェトロ撮影)

一方で、今後の輸出拡大に向けては、品質担保や安定的な供給体制の構築が課題として挙げられる。青果物であるかんしょは、海上輸送中にカビや傷みによるロスが発生する場合があり、取扱量の増加に伴って課題が顕在化している。ダブルキュアリング法(注4)の導入や取引産地の拡大を通じて出荷体制・供給力の強化が求められるが、これらは市場が拡大し定着段階に入りつつあることの裏返しともいえる。

今後について今岡氏は、「青果物であるかんしょは、タイ国内で、冷凍焼き芋やフライドポテトなどに加工し、シンガポールや香港などの周辺国へも輸出していきたい」と述べ、タイ国内での販路拡大に加え、タイをハブ拠点としての周辺国展開に意欲を示している。また、「将来的には周辺国への輸出にとどまらず、日本産かんしょのグローバルチェ―ンを構築したい」と熱意を語る。

タイ市場における日本産農林水産物・食品の輸出は、日本食人気やインバウンドによる本物志向の浸透を背景に、量的拡大から質的成熟へと移行しつつある。納豆のようにSNSを起点とした短期的需要の喚起がみられる一方で、日本産かんしょは業務用・加工用といった用途への浸透を通じて、より持続的な需要の広がりが進んでいる。


注1:
現地では、著名なタイのインフルエンサーがTikTokに投稿したことをきっかけに、ほかのインフルエンサーも次々と発信し、広まったとされる。納豆の海外展開については、2025年9月4日付地域・分析レポートを参照。 本文に戻る
注2:
かんしょの海外市場については、ジェトロ「輸出品目別レポート(かんしょ)(1.13MB)」を参照されたい。 本文に戻る
注3:
JFOODO「アジア6カ国・地域及び米国における農林水産物・食品8品目についての流通実態及び消費者調査(1.68MB)」を参照されたい。 本文に戻る
注4:
ダブルキュアリング法の詳細は、イモ類振興会「海外輸出向けサツマイモ腐敗抑制技術の開発PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(10.4 MB)」を参照されたい。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや)
2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム
庄田 幸生(しょうだ こうき)
2025年、ジェトロ入構。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の市場情報や輸入規制、法令などの調査を担当。