健康に良いだけでない「日本食を代表するおいしい食材」納豆を世界へ
鎌倉の老舗納豆会社の海外展開の取り組み
2025年9月4日
日本食を代表する食材の1つの納豆は、世界的な健康ブームもあって、日本からの輸出が着実に増加している。今後、より注目される可能性がある納豆の輸出実績や動向をまとめた。
加えて、納豆の業界団体の全国納豆協同組合連合会(以下、納豆連)会長(注1)を2025年5月まで務めた鎌倉山納豆 野呂食品
の野呂剛弘氏(代表取締役会長)と野呂勇人氏(代表取締役社長)に、今後の納豆業界の展望とともに、同社の輸出状況や目標、海外展開への思いなどについて話を聞いた。
同社は、1955年創業、古都・鎌倉の老舗納豆会社として、国産中心の高品質大豆や山梨水系の水などの素材にこだわり、熟練した職人が丁寧な手作業で高級納豆を製造している。それらの強みを生かして、地元鎌倉や神奈川、東京のみならず、近年は海外への輸出を手掛けている(取材日:2025年7月22日)。
日本の納豆の生産、輸出ともに増加傾向
日本の納豆生産量は、農林水産省「令和5年度食料需給表」によると、2023年で年間33万7,000トンだ。また、納豆連によると、年間消費金額(消費規模)は2,695億円に上る。長期的にみると、国内の健康志向の高まりや発酵食品ブームに相まって、順調に生産量が増加している。
例えば、2023年と2017年を比較すると、生産量25万7,000トンから1.3倍以上も増加している状況にある(年間消費金額2,313億円、同比1.2倍以上、注2)。
以下では、2017年から2024年までの輸出動向を年別に、表と図でまとめた(表1、図1)。輸出数量、輸出金額ともに順調に増加しており、2024年は過去最大の輸出数量3,655トン、輸出金額21億6,404万円だった。2017年(1,752トン、9億5,657円)から輸出数量、輸出金額ともに2倍以上に増加した。
もともと、海外の駐在員や留学生など在留邦人向けに、納豆の需要はあり、一定の輸出があった。近年、新型コロナウイルスの流行とも相まって、消費者の健康志向の高まりや日本食ブームとともに、発酵食品の1つである納豆が注目され、着実に輸出を伸ばしているのではないかと、野呂会長は話す。
年 | 輸出数量 | 輸出金額 |
---|---|---|
2024 | 3,655 | 2,164,044 |
2023 | 3,313 | 1,904,123 |
2022 | 3,143 | 1,770,166 |
2021 | 3,227 | 1,685,216 |
2020 | 2,575 | 1,371,247 |
2019 | 2,045 | 1,114,157 |
2018 | 1,827 | 981,765 |
2017 | 1,752 | 956,574 |
注:HSコード=2008.19-010。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

注:HSコード=2008.19-010。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成
納豆の輸出先国は金額・数量ともに米国が1位
次に、2024年の輸出金額ベースで国・地域別をみると(表2、図2)、輸出先として1位は米国で、6億2,241万円(前年比25.9%増)と、大きく輸出を増加させた。2位は中国で、3億5,181万円(同比14.7%減)、3位が香港で、2億3,622万円(同比28.6%増)だった。数量ベースも、同じく1位米国(1,098トン)、2位中国(714トン)、3位香港(346トン)だった。過去2年(2022年、2023年)も、上位輸出先として、米国、中国、香港が同じ順だった。
米国では、健康的な食品に対する消費者の意識の高まりとともに、特に新型コロナウイルス流行を受けて、発酵食品の消費は拡大傾向にある(注3)。今後、日本の発酵食品の代表であるしょうゆやみそ、日本酒とともに、アジア系住民の多い西海岸や東海岸の地域のみならず、米国市場全体で納豆も徐々に認知度や市場を拡大していく可能性が期待される。
また、中国では、全国的に中高所得者層の間の健康志向を背景に、日本食ブームがみられる。特に近年は納豆や健康に良いとされる商品の人気が高い。日系企業の青島工場で納豆を現地製造するケースもある(注4)。
なお、中国向けの納豆輸出に関しては、東京電力福島第1原子力発電所の事故を受けた規制があり、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、新潟県(コメを除く)、長野県の10都県で生産された食品は輸入停止中だ。10都県以外の食品に関しては、日本の当局が発行する産地証明書のほか、放射性物質検査証明書の提出が求められる(注5)。
納豆メーカーが多く所在する茨城県などの北関東地方や、宮城県など東北地方で製造する納豆は中国へ輸出することはできない。
国・地域名 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
対前年比 (2023年/2024年) |
---|---|---|---|---|
米国 | 509,537 | 494,229 | 622,408 | 25.9% |
中国 | 429,913 | 412,272 | 351,812 | △14.7% |
香港 | 202,362 | 183,627 | 236,221 | 28.6% |
台湾 | 112,444 | 141,217 | 144,711 | 2.5% |
韓国 | 75,035 | 106,297 | 143,591 | 35.1% |
カナダ | 68,108 | 68,854 | 97,858 | 42.1% |
タイ | 59,097 | 74,374 | 97,221 | 30.7% |
オーストラリア | 61,466 | 96,596 | 94,509 | △2.2% |
シンガポール | 44,236 | 52,802 | 69,222 | 31.1% |
英国 | 28,511 | 45,097 | 45,874 | 1.7% |
その他 | 179,457 | 228,758 | 260,617 | 13.9% |
総計 | 1,770,166 | 1,904,123 | 2,164,044 | 13.7% |
注:HSコード=2008.19-010。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

注:HSコード=2008.19-010。
出所:財務省貿易統計からジェトロ作成
鎌倉山納豆:納豆の本当のおいしさを世界に伝えたい
日本人と同様、特に外国人に納豆が敬遠される要素として、「ニオイ」「雑味(苦味)」「粘り」が挙げられる。鎌倉山納豆のように、熟練した職人が高い技術で丁寧に発酵することで、大豆の滋味あふれるうまみを余すことなく引き出し、納豆になっても大豆のおいしさを存分に味わえ、嫌な「ニオイ」や「雑味」がなくなる。また、透明感ある細くて強い糸が納豆全体を包み込み、納豆特有の豊かな「粘り」を際立たせている。納豆連が主催する「全国納豆鑑評会」では、野呂食品の「鎌倉小粒」や「鎌倉大粒」「国産ひきわり」を中心に、最優秀賞や特別賞など多くの賞を受賞するなど、品質や味が高く評価されていた。
同社は、納豆の強みや特徴は健康に良いだけではなく、日本食を代表するおいしい食材としての魅力を世界に伝えたいとの思いから、海外展開に取り組み始めた。

(野呂食品提供)

中国からの引き合いきっかけに、ジェトロへ相談
納豆業界に限った話ではないが、日本国内の食品市場縮小や過度な価格競争が懸念される中、同社としても、健康志向の高まりなどによって日本食が注目されることをニュースや納豆連の活動の中で感じ、海外市場への関心を持ち始めた。
具体的には、2015年、中国・大連の企業からの引き合いをきっかけに、初めての海外企業との取引となるため、ジェトロに相談した。東京電力福島第1原子力発電所事故の影響により、10都県で生産された食品は輸入停止中だった。そのような事情もあって、規制対象外の神奈川県に所在する同社に対して、引き合いがあったようだ。
海外展示会や商談会に積極的に参加
海外からの引き合いをきっかけに、2016 年から食品分野の専門家と面談を重ね、ジェトロ主催の海外バイヤーや国内商社が集う国内商談会に参加するようになった。2017 年には海外展示会Food Expo(香港)に初めて挑戦し、会期中に現地企業と正式に代理店契約を結んだ。その後も意欲的に活動し、台湾への輸出にも成功した。
2019 年には横浜貿易協会とジェトロ主催の「Food Japan 2019(シンガポール)かながわよこはま」のブースに出展し、同社の納豆を積極的にPRして現地パートナーを探した。会期中に実施したジェトロ主催のシンガポールバイヤーと神奈川県内企業との交流会にも参加し、積極的に商談を重ねた。その取り組みが実を結び、商談した代理店候補企業から後日、受注を獲得した。

(ジェトロ撮影)

世界で評価されるおいしい納豆を広めたい
その後、現在6カ国・地域(中国、香港、台湾、シンガポール、米国、英国)への輸出実績を拡大している。香港と中国にある高級スーパーに向けて定期的に輸出しており、これらの地域が海外での主要な市場となっている。世界情勢の不透明な中、米国や中国への輸出はそれぞれ、米国相互関税、中国による福島第1原発ALPS処理水にかかる輸入規制(直接影響はないものの、風評被害など間接影響)の動向にも注視している。
海外売り上げは現在、全体で5%程度だが、今後は10%を目標に海外展開を進めたいと、野呂会長と野呂社長は意気込む。
今までの経験として、海外バイヤーや商社と面談を重ねた結果、同社の高級納豆の品質やおいしさをしっかりと説明して試食してもらえば、世界で評価されることを実感するとともに、自信にもつながっていった。「価格面で競争となって安売りや薄利多売をすることはせず、高品質でこだわりのある納豆であることを理解してくれる海外でのパートナーとともに、継続的な取引を続けていきたい」と話す。
今後も、ジェトロ主催の「日本産食品グローバル・ゲートウェイ事業(旧サンプルショールーム)」や商談会などには積極的に参加して、良き海外パートナーとのネットワークづくりを図りたいという。
今後の課題としては、冷蔵(チルド)での納豆の賞味期限の短さがある。納豆を冷蔵で空輸することは現実的ではなく、冷凍輸送が必須となる。そのため、東南アジアなど新興国では、コールドチェーンが課題となる。また、EUなどへ輸出する際には、納豆の個別包装のパッケージに使われるプラスチックはEUの包装・包装廃棄物規則などの法規制の対象となり得そうで(注6)、持続可能な開発目標(SDGs)の観点からも、商談時の障壁となり得るため、今後工夫していくことが求められるだろう。これからも野呂食品や、納豆業界の海外展開への挑戦は続いていく。

- 注1:
- 2013年5月~2025年5月、全国納豆協同組合連合会会長。全国納豆協同組合連合会(納豆連)は、1954年の設立以来、日本の伝統食品「納豆」の生産を行う事業者で組織した業界団体だ。納豆が日本の伝統的食品として、また、健康増進によい食品として、消費者の理解を深めていきたいという思いで活動し、納豆の付加価値を高めることを目的に、長年にわたって納豆の魅力を情報発信している。また、「全国納豆鑑評会」を毎年開催している。
- 注2:
- 2017年に納豆の輸出統計品目番号(HSコード=2008.19-010)が新設された。
- 注3:
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米国輸出支援プラットフォーム「米国における日本の発酵食品事情
(1.97MB)」(2023年3月)。米国の代表的な発酵食品には、ヨーグルト製品、コンブチャ(発酵茶飲料)、ソース類(しょうゆ、魚醤(ぎょしょう)、ホットソースなど)、漬物(キャベツなどのキムチや漬物など)、みそ、日本酒など。
- 注4:
-
ジェトロ「マーケティング基礎情報中国
(594KB)」(2024年10月)
- 注5:
- 規制や手続きの詳細は、ジェトロの品目別輸出ガイド(中国)を参照。
- 注6:
- ジェトロ調査レポート「EU循環型経済関連法の最新概要‐エコデザイン規則、修理する権利指令、包装・包装廃棄物規則案‐(2024年11月)」

- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや) - 2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。

- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム
庄田 幸生(しょうだ こうき) - 2025年、ジェトロ入構。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の市場情報や輸入規制、法令などの調査を担当。