2025年ZEV新車登録前年比34.7%減(カナダ)
2026年7月7日
2025年のカナダにおけるZEV市場は大きな転換点を迎えたといえる。連邦・州政府による購入補助制度の縮小・終了に加え、経済環境の不確実性などを背景に需要が減速した。その結果、新車登録台数および市場シェアはいずれも大幅に低下した。一方で、政府は新たな補助制度の創設や産業政策の見直しを進めている。
なお、カナダにおけるゼロエミッション車(ZEV)は、(1)バッテリー式電気自動車(BEV)、(2)プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、(3)燃料電池車(FCV)の3種類と定義されている。ただし、カナダ統計局では、(3)FCVの登録台数が非常に少ないことから、「その他燃料車」として集計している。そのため、統計上ZEVとして把握できるのは、(1)BEVと(2)PHEVの合計に限られる。
販売の急減と市場シェア低下
カナダ統計局が2026年3月12日に発表した統計によると、2025年のZEVの新車登録台数は17万7,034台となり、前年比34.7%減と大幅に減少した(表1参照)。タイプ別で見ると、BEVは前年比43.1%減の11万5,049台と大きく落ち込んだほか、PHEVも同10.0%減の6万1,985台だった。その結果、全新車登録(186万6,714台)に占めるシェアも9.5%と、2024年の14.6%から大きく低下した。
一方で、ZEVには分類されないハイブリッド車(HEV)は、前年比で36.1%増と大きく伸長し、市場シェアも2024年の9.1%から2025年は12.3%に拡大した。
| 項目 |
2020年 台数 |
2021年 台数 |
2022年 台数 |
2023年 台数 |
2024年 台数 |
2025年 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 台数 | 対前年比 | ||||||
| ガソリン車 | 1,384,875 | 1,415,193 | 1,233,181 | 1,316,512 | 1,333,390 | 1,372,322 | 2.9 |
| ディーゼル車 | 64,739 | 65,843 | 75,247 | 74,028 | 79,748 | 87,244 | 9.4 |
| バッテリー式電気自動車(BEV) | 39,046 | 59,133 | 98,620 | 143,666 | 202,333 | 115,049 | △43.1 |
| プラグインハイブリッド車(PHEV) | 15,364 | 27,324 | 24,990 | 45,090 | 68,895 | 61,985 | △10.0 |
| ハイブリッド車(HEV) | 41,543 | 79,314 | 81,049 | 135,687 | 169,055 | 230,081 | 36.1 |
| その他燃料車(注1) | 58 | 5 | 18 | 16 | 20 | 33 | 65.0 |
| 全車種合計 | 1,545,561 | 1,646,604 | 1,513,104 | 1,714,913 | 1,853,441 | 1,866,714 | 0.7 |
| ZEV(BEV+PHEV)台数(注2) | 54,410 | 86,457 | 123,610 | 188,756 | 271,228 | 177,034 | △34.7 |
| ZEV(BEV+PHEV)シェア | 3.5 | 5.3 | 8.2 | 11.0 | 14.6 | 9.5 | △35.2 |
注1:液体プロパン、天然ガス、水素などを含む。
注2:FCVは、登録台数が少ないため「その他燃料車」の中にまとめられており、統計上は、BEVとPHEVがZEVとして扱われている。
出所:カナダ統計局、カナダ運輸省データを基にジェトロ作成
普及を支える連邦政策の枠組みと規制体系
カナダ政府は「カナダ・ネットゼロ排出説明責任法(Canadian Net-Zero Emissions Accountability Act)」により、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにするという目標を法的に定めている。こうした長期目標の達成に向け、ZEV普及を重要な柱の1つとし、各省では支援策や規制などの政策を段階的に導入してきた。しかし、ここ数年は支援策の廃止や規制の変更が目立つ。
運輸省(Transport Canada)
2019年5月から、BEV、PHEVまたはFCVを対象とした購入補助金制度「iZEVプログラム」を開始した(予算上限到達のため、2025年3月31日で終了)。
環境・気候変動省(Environment and Climate Change Canada, ECCC)
2023年12月、小型の新車販売において一定以上の割合をZEVにするよう義務付ける措置を発表した(2023年12月20日付ビジネス短信参照)。2026年モデルとして販売される車両から適用を開始し、2035年までにZEV比率を100%とする予定だったが、これを廃止し、2035年までに電気自動車(EV)販売比率75%、2040年までに90%を目指す方針へ変更した(2026年3月5日付ビジネス短信参照)。
また、2027~2032年モデルより厳格な排出基準を導入することを発表した。
エネルギー・天然資源省(Natural Resources Canada,NRCan)
2019年にEV充電器設置に対する助成金制度「ZEVインフラ整備プログラム(ZEVIP)」を開始した。2022年予算で本制度を2027年3月31日まで延長し、資金を9億カナダ・ドル(約1,026億円、Cドル、1Cドル=約114円)追加した。2029年までに、8万4,500基の設置を目標としている。
購入補助制度の縮小・終了
カナダはこれまで、連邦政府のiZEVプログラム(最大5,000Cドル)と各州の補助金制度を組み合わせることで、ZEV需要を下支えしてきた。こうした政策の後押しもあり、ZEVの登録台数は過去10年以上にわたり増加基調で推移していた。しかし、2025年には購入補助金制度を取り巻く環境が大きく変化した。
連邦レベルでは、2025年1月にiZEVプログラムの停止方針が公表された。申請が集中した結果、同年1月中旬に予算上限に到達し、新規受付が停止された(2025年1月17日付ビジネス短信参照)。その後、同年3月31日でiZEVプログラムは終了した。
さらには、州レベルでも補助金制度の変更が相次いだ。
- ブリティッシュコロンビア州(BEV、PHEV、FCV向け):2025年5月で終了
- ケベック州(BEV、PHEV、FCV向け):2025年2~3月に一時停止、同年4月に再開
- ニューブランズウィック州(BEV、PHEV向け):2025年7月で終了
- ノバスコシア州(BEV、PHEV向け):2025年4月で終了
補助金停止がもたらした販売減速
このような補助金制度の縮小・終了を背景に、補助金支給実績も大幅に減少した。カナダ運輸省が発表したiZEVプログラムに基づく2025年の補助金支給台数は1万9,765台で、前年比90.8%減と大きく落ち込んだ。補助金支給台数はZEV新車登録台数全体の約1割強にとどまり、需要喚起効果の弱まりが鮮明となった。
メーカー別の補助金支給台数では、テスラが1万2,042台で最多となり、シェアは前年から40ポイント上昇の60.9%と大幅に拡大した。以下、ゼネラルモーターズ(GM)が1,289台(シェア6.5%)、現代自動車が1,103台(同5.6%)、フォードが830台(同4.2%)で続いた(表2参照)。
| メーカー | BEV | PHEV | FCEV | 合計 |
2025年 シェア |
|---|---|---|---|---|---|
| テスラ | 12,042 | — | — | 12,042 | 60.9 |
| GM | 1,289 | — | — | 1,289 | 6.5 |
| 現代 | 859 | 244 | — | 1,103 | 5.6 |
| フォード | 529 | 301 | — | 830 | 4.2 |
| トヨタ | 91 | 554 | — | 645 | 3.3 |
| VW | 642 | — | — | 642 | 3.2 |
| 三菱 | — | 552 | — | 552 | 2.8 |
| 起亜 | 381 | 158 | — | 539 | 2.7 |
| ボルボ | 361 | 149 | — | 510 | 2.6 |
| ステンランティス | 167 | 232 | — | 399 | 2.0 |
| 日産 | 393 | — | — | 393 | 2.0 |
| マツダ | 9 | 209 | — | 218 | 1.1 |
| アウディ | 163 | — | — | 163 | 0.8 |
| ホンダ | 112 | — | — | 112 | 0.6 |
| スバル | 89 | — | — | 89 | 0.5 |
| メルセデス・ベンツ | 57 | — | — | 57 | 0.3 |
| ポールスター | 55 | — | — | 55 | 0.3 |
| BMW | 48 | 2 | — | 50 | 0.3 |
| ビンファスト | 40 | — | — | 40 | 0.2 |
| ミニ | 25 | 11 | — | 36 | 0.2 |
| フィスカー | 1 | — | — | 1 | 0.0 |
| 合計 | 17,353 | 2,412 | — | 19,765 | 100.0 |
| シェア | 87.8 | 12.2 | 0.0 | 100.0 | — |
出所:カナダ運輸省データを基にジェトロ作成
需要減速と政策不確実性を背景とした生産戦略の見直し
カナダでは近年、EV組み立てやEV用バッテリーを含む新たな生産体制への移行が進められてきた(2025年7月31日付地域・分析レポート参照)。しかし、2025年に入り、その流れに変化がみられた。EV需要見通しの悪化や政策環境の不確実性を背景に、各社は相次いで生産調整や計画見直しを実施している。
GMはインガソールにあるCAMI工場で商用ZEV生産を停止した。また、ステランティスはEV生産計画の米国移管を決定し、フォードもEV拠点化計画を転換した。さらに、ホンダはEV工場関連投資を無期限で停止するなど、カナダにおけるEV生産の拡大路線は後退した。
需要喚起を狙う新補助制度と産業政策の再構築
こうした状況を受け、カナダ政府は2026年2月、新たな自動車戦略を公表した。米国依存の高い自動車産業構造や世界的な電動化の進展に対応するため、産業競争力の強化とEV普及の加速を目的とした包括的な政策見直しを行った(2026年3月5日付ビジネス短信参照)。その中核施策として「EV手頃価格プログラム(EV Affordability Program:EVAP)
」を導入した。対象は、重量8,500ポンド未満のBEV、PHEV、FCVであり、かつカナダ国内または自由貿易協定(FTA)締結国で生産され、最終取引額が5万Cドル以下(カナダ製の場合は上限なし)であることなどを条件としている。BEVおよびFCVには最大5,000Cドル、PHEVには最大2,500Cドルの購入またはリースに対する補助金が支給される。
中国製EV参入による価格競争激化と市場構造の変化
補助金制度の再構築が進む一方で、カナダ市場では競争環境にも変化がみられる。
カナダ政府は2026年1月、中国製EVについて、初年度は年間4万9,000台を上限とする輸入割当制度を導入し、これまで課されていた100%の追加関税を撤廃した。対象車両は6.1%の関税率で輸入可能となり(2026年1月20日付ビジネス短信参照)、同制度は2026年3月1日に正式に開始された。
こうした制度変更を受け、中国のジーリー(Zhejiang Geely Holding Group Co.)傘下のロータス(Lotus)は2026年5月、中国中部・武漢の工場で生産するBEVクロスオーバー車「エレトレ(Eletre)」18台を出荷したと発表した。これにより、同社はカナダ向けにEVを輸出した初の中国企業となった。
世界のEV生産量の約7割を中国が占める中、中国製EVは手頃な価格と高いエネルギー効率を背景に、国際市場で存在感を高めている。カナダ市場においても、車両価格の低下や消費者の選択肢拡大を通じてEV普及の加速につながると期待される。一方で、国内メーカーとの競争激化に加え、雇用や投資への影響を懸念する声もあり、今後の市場への影響が注目される。
なお、中国はカナダとFTAを締結していないため、中国製EVはEVAPの補助金対象外となっている。
今後の展望
短期的には需要・供給の双方で調整局面が続くとみられるものの、中長期的には新たな政策支援や価格競争の進展により、市場再拡大の可能性も残されている。特に、補助金縮小後の需要回復は、新たな支援策の浸透や各メーカーの価格戦略に大きく左右されるとみられる。今後のカナダZEV市場では、政策の継続性と価格競争力の確保が普及拡大の重要なカギとなりそうだ。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・トロント事務所
井口 まゆ子(いぐち まゆこ) - 民間企業勤務を経て、2019年からジェトロ・トロント事務所勤務。





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