2024年ZEV新車登録43.6%増(カナダ)
EV生産体制を構築しつつ、購入補助打ち切りへ

2025年7月31日

カナダでは、ゼロエミッション車(ZEV)を、(1)バッテリー式電気自動車(BEV)、(2)プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、(3)燃料電池車(FCV)の3種類のいずれかとして定義している。ただし、カナダ統計局は(3)FCVの新車登録台数が非常に少ないため「その他の燃料車」に分類している。統計上、ZEVとして明確に分類しているのは(1) BEVと(2) PHEVの2種類のみの合計をZEVとして扱っている。

2024年はそのZEVの新車登録台数が、前年比43.6%増と拡大基調が続いている。市場シェアも14.6%に達した。当地各社は、電気自動車(EV)や関連品目の生産計画を策定しているが、進捗にはばらつきがある。一方、官民連携のもと、次世代技術の開発に向けた取り組みは継続して進めている。

新車登録7台に1台がZEV、シェア拡大維持も伸び率は鈍化

カナダ統計局が2025年3月13日に発表した統計によると、2024年のZEVの新車登録は27万985台。全新車登録(185万9,549台)に占める割合は14.6%だった(表1参照)。

カナダ政府は2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにするという目標を掲げる。そのために、ZEV普及に向け、支援策や規制など政策を打ち出している。

  • 運輸省:
    当地でZEVをBEV、PHEVまたはFCVと定義したのが、同省だ。2019年5月から購入補助金制度「iZEVプログラム」を開始した。2021年6月には、2035年までに乗用車とピックアップトラックの新車販売を100%ZEVにすることを義務付けると発表した(2021年7月8日付ビジネス短信参照)。
  • 環境・気候変動省:
    2023年12月、小型の新車販売において一定以上の割合をZEVにするよう義務付ける措置を発表した(2023年12月20日付ビジネス短信参照)。当該制度は、2026年モデルとして販売される車両から適用を開始する。この時点で、少なくとも新車販売台数の20%をZEVにするという。10年後(2035年)には、その比率を100%に引き上げる計画だ。
  • エネルギー・天然資源省:
    同省が2019年、EV充電器設置に対する助成金制度「ZEVインフラ整備プログラム(ZEVIP)」を開始していた。この制度を2027年3月31日まで延長するとともに、資金を9億カナダ・ドル(約972億円、Cドル、1Cドル=約108円)追加。2029年までに、8万4,500基の設置を目標としている。

こうした政策の後押しもあり、カナダ統計局が2025年3月に発表した2024年の新車登録台数統計では、BEVが前年比40.7%増、20万2,103台。PHEVも52.8%増、6万8,882台だった(表1参照)。その結果、ZEVは43.6%増、27万985台。シェアも11.0%から14.6%に伸びた。2014年は5,372台に過ぎなかったので、この10年間で約50倍に拡大したかたちだ。ただし、成長ペースの面では、2023年の前年比52.7%増に対し、2024年は43.6%増にとどまり、やや鈍化したと見られる。

表1:タイプ別新車登録台数(単位:台、%)(-は値なし)
項目 2018年
台数
2019年
台数
2020年
台数
2021年
台数
2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 対前年比
ガソリン車 1,834,883 1,776,571 1,384,928 1,415,128 1,233,180 1,316,444 1,332,977 1.3
ディーゼル車 70,600 59,089 64,769 65,876 75,247 74,020 79,726 7.7
バッテリー式電気自動車(BEV) 22,570 35,523 39,036 58,952 98,620 143,661 202,103 40.7
プラグインハイブリッド車(PHEV) 21,713 20,642 15,317 27,315 24,990 45,090 68,882 52.8
ハイブリッド車(HEV) 25,837 38,390 41,453 79,328 81,049 135,682 169,030 24.6
その他燃料車(注1) 257 230 58 5 18 16 20 25.0
全車種合計 1,975,860 1,930,445 1,545,561 1,646,604 1,513,104 1,714,913 1,852,738 8.0
ZEV(BEV+PHEV)台数(注2) 44,283 56,165 54,353 86,267 123,610 188,751 270,985 43.6
ZEV(BEV+PHEV)シェア 2.2 2.9 3.5 5.2 8.2 11.0 14.6

注1:液体プロパン、天然ガス、水素などを含む。
注2:FCVは、登録台数が少ないため「その他燃料車」の中にまとめられており、統計上は、BEVとPHEVがZEVとして扱われている。
出所:カナダ統計局、カナダ運輸省データを基にジェトロ作成

ZEV普及を支える補助金制度の縮小と州別動向

州別の新車登録に占めるZEVの割合を見ると、ケベック州が際立っている。2024年には、同州のZEV比率が30.9%と最も高く、以下、ブリティッシュコロンビア州が20.9%、オンタリオ州8.1%で続いた。ZEVの購入に対しては、連邦政府だけでなく各州政府が独自に補助制度を設けている場合もあり、多くのケースで両者を併用することが可能だ。こうした支援策は消費者が購入を検討する上で、大きな後押しになる。

ケベック州では2024年3月、2024/2025年度予算案で2027年までに補助金支給を段階的に廃止する予定と発表していた。これを受けて、同州では年末に駆け込み購入が急増した。補助金を打ち切る動きは、同州に限らない。前述した連邦政府の「iZEVプログラム」も同様だ。当該プログラムは本来、2025年3月31日まで実施を予定していた。しかし、需要の高まりから予定より早く予算を消化。そのため、連邦政府は2025年1月、一時停止を正式発表した(2025年1月17日付ビジネス短信参照)。なお、このiZEVプログラムでは、政府の指定するメーカー希望小売価格の対象車種に対して、最大5,000Cドルの補助金を支給していた。なお、2025年6月時点では、ブリティッシュコロンビア州でも2025年5月15日付で補助金提供を一時的に停止中。ニューブランズウィック州では、2025年7月1日で終了済みだ。

新車登録ZEVの8割が補助金対象、メーカー別シェアが分散

カナダ運輸省が発表した2024年の補助金支給台数は、21万5,732台。前年比50.7%増だった。新車登録されたZEV(27万985台)の約8割が受給した計算になる。

メーカー別の補助金支給台数では、テスラが4万3,158台(シェア20%)で最多だった。ただし前年から9.7ポイント減、シェアを大幅に縮小した。続いて、現代自動車が2万8,587台(同13.3%)、トヨタが2万5,165台(同11.7%)、ゼネラルモーターズ(GM)が2万3,036台(同10.7%)だった。

2023年は上位3社で全体の過半数を占めていた。これに対し2024年は、上位4社を合わせてようやく過半数に達した。このことから、補助金を受けた市場で特定メーカーへの集中が緩和。メーカー間のシェアが分散する傾向が見られる。(表2参照)。

表2:iZEVプログラム補助金支給台数(2024年)(単位:台、%)(-は値なし)
メーカー BEV PHEV FCEV 合計 2024年
シェア
テスラ 43,158 43,158 20.0
現代 25,018 3,569 28,587 13.3
トヨタ 6,797 18,358 10 25,165 11.7
GM 23,036 23,036 10.7
フォード 13,612 7,634 21,246 9.8
起亜 14,929 3,548 18,477 8.6
三菱 13,433 13,433 6.2
VW 8,320 8,320 3.9
日産 5,238 5,238 2.4
マツダ 260 4,456 4,716 2.2
ステンランティス 16 4,593 4,609 2.1
アウディ 4,133 4,133 1.9
ボルボ 2,276 1,631 3,907 1.8
ポールスター 2,316 2,316 1.1
スバル 2,465 3 2,468 1.1
ビンファスト 1,979 1,979 0.9
BMW 1,400 253 1,653 0.8
ミニ 674 84 758 0.4
メルセデス・ベンツ 1,025 1,025 0.5
フィアット 1,040 1,040 0.5
ホンダ 409 409 0.2
フィスカー 59 59 0.0
合計 158,160 57,562 10 215,732 100.0
シェア 73.3 26.7 0.0 100.0

出所:カナダ運輸省データを基にジェトロ作成

ZEV生産台数が増大

ここで、ZEV生産の動きを追ってみる。

GMカナダは、2022年からオンタリオ州インガソールにあるCAMI(Canadian Automotive Manufacturing Inc.)工場で、商用ZEVの量産を開始した。これがカナダ初の本格的なZEV専用工場と言われる。

調査会社デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント(DAC)の発表によると、同工場では2024年、商用車「ブライト・ドロップ・ゼボ」のシリーズ(400、600の2種)を計2万711台生産。前年の5,775台から、大幅に増大した。

ただし同工場は、市場の需要動向への対応と在庫水準の見直しを目的に、生産を一時的に停止中だ。2026年モデルの生産に向けて、2025年10月までに設備更新を完了する計画を発表している(2025年4月16日付ビジネス短信参照)。

ZEV新生産体制の進展に向けて

カナダ国内では、すでに紹介したZEV組み立てだけでなく、EV用バッテリーの生産などを含め新たな生産体制への移行が進んでいる。そのため、一部の工場では稼働を一時的に停止する動きも見られる。ZEVエコシステムの形成が進展しつつあると言えるだろう。

  • ステランティス
    2023年7月、(1)オンタリオ州にある2工場を再編し、(2) ZEVバッテリー工場と自動車の研究開発施設を設立する計画を発表した。生産開始は2025年を予定している(2023年7月10日付ビジネス短信参照)。ブランプトン工場では、将来的にZEVを中心とした生産体制への移行を見据え、設備の再整備中で、その余波で、2024年1月から生産を停止中だ。

他方で、計画を後ろ倒しにした例もみられた。

  • フォード
    オンタリオ州のオークビル工場の改修を進めており、北米市場向けの次世代ZEVを生産するのが狙い。同社初のカナダ拠点として位置付ける計画だった。(2023年4月18日付ビジネス短信参照)。しかし2024年4月、稼働開始を当初の2024年から2027年に延期すると発表。同年6月から、当該工場での生産を一時停止している。
  • ホンダ
    オンタリオ州アリストンで、ZEVとそのバッテリーを製造する工場を建設する計画だった(2024年4月30日付ビジネス短信参照)。しかし2025年5月、計画を2年間延期した。これは、ZEV市場の成長が当初予測を下回っている状況を受けた結果だ。(2025年5月15日付ビジネス短信参照)。

加えて、ZEV産業の成長を促進しつつ、持続可能な社会の実現を目指す新たな取り組みもある。

  • リナマー(自動車部品メーカー/オンタリオ州ゲルフ拠点)
    2025年1月28日、連邦政府とオンタリオ州政府の連携の下、総額11億Cドル規模の投資プログラム「グリーン技術革新推進プロジェクト(Innovation Driving Green Technology Project)」を発表した。このプロジェクトは、次世代モビリティー技術全般が対象にする。ZEV部品の製造、ZEVバッテリー向けの半導体実装技術の開発がその一例。特にZEVの航続距離や充電効率の向上、フル充電にかかる時間の短縮といった性能面の強化に期待が集まる。これらを実現するため、新たな技術開発を進めるという。

これらの動きは、カナダのZEV産業が新たな生産体制への移行期にあることを示している。一部の計画見直しや延期が見られるものの、政府と民間企業が連携して次世代技術への投資を進めることで、持続可能なモビリティー社会の実現に向け、基盤が着実に築かれつつあるといえる。

カナダが目指すのは、グローバルなZEVサプライチェーンで中核としての地位を確立することだ。この記事で紹介した取り組みが実を結ぶのかが注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所
井口 まゆ子(いぐち まゆこ)
民間企業勤務を経て、2019年からジェトロ・トロント事務所勤務。