グリーンエネルギーにかじを切るパキスタンのエネルギー政策

2026年3月26日

パキスタンは多様なエネルギー資源に恵まれており、国内の電力需要を満たす上で大きな潜在力を有している。豊富な水資源、特にインダス川とその支流といった主要河川は、水力発電に優れた機会を提供し、グリッド全体の約3割は水力発電が占めている(図参照)。さらに、パキスタンは特に東部のタール地域に大規模な石炭埋蔵量があり、国内産の石炭が火力発電に活用できることは、貿易赤字が続くパキスタンにとっては大きなメリットだ。加えて、同国は風力・太陽光などの再生可能エネルギー資源でも潜在力を有する。これらの資源を適切に開発・管理すれば、エネルギーのよりスムーズな供給、経済成長の促進、長期的なエネルギー安全保障の実現に寄与し得る。本稿では、パキスタンのエネルギー政策の全体像について触れるとともに、同政策が日本企業の活動にどのような示唆を持つかを概観する。

エネルギー産業の概要と課題

パキスタンは豊富なエネルギー潜在力を持つ一方で、国内資源が十分に開発されていないため、化石燃料の輸入への依存度が高い。近代的なエネルギーインフラへの投資不足、水力・石炭ポテンシャルの活用の遅れ、エネルギー計画の非効率性などが、エネルギー産業の課題として指摘されている。その結果、世界的に石油・ガスの価格が高騰する局面では、変動圧力に直面せざるを得ない。パキスタン統計局によると、2026年1月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で5.8%であったが、2月には同6.98%と上昇した。2026年2月末の米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を受け、イランがホルムズ海峡を封鎖した報道があった直後から、進出日系企業の間ではエネルギー価格の高騰可能性や工場操業に係る燃料不足の懸念がささやかれ始めた。エネルギー安全保障と持続可能な経済成長、そして企業活動の支援という観点から、政府は化石燃料への過度な依存からの脱却が不可欠だ。

図:パキスタンの総電源構成2023-24年度(総発電量:13万6,278 GWH)
原子力(18.3%)、水力(29.3%)、石油(2.3%)、天然ガス(9.8%)、石炭(14.1%)、再気化液化天然ガス(22.0%)、再生可能(4.2%)

出所:PAKISTAN ENERGY YEARBOOK 2023-2024、パキスタン炭化水素開発研究所(HDIP)

パキスタンの電力セクターは、発電、送電、配電といった電力供給網の全てのプロセスを、垂直統合型の国有企業が管理してきた。電力セクターの各プロセスには段階的に民間セクターの参入が認められ、特に民間独立系発電事業者(IPP)など発電分野では民間の参入は顕著で、配電分野でも限定的に進展してきた。送電網と電力セクター全般の規制については、依然として国有企業の管理下にある。

国内のエネルギーミックスは依然として重油焚きなどによる火力発電が主流であるが、水力発電、国内産石炭、風力、太陽光といった国内資源を活用した、より安全で費用対効果の高いシステムへの移行を加速させつつある。過去10年間で発電設備容量は大幅に拡大したものの、構造的な非効率性、高額な容量料金、送電網のボトルネック、配電レベルの損失が、セクターの財政的なデメリットを招き、経営的な持続可能性を圧迫している。

エネルギー産業構造とステークホルダー

パキスタンの発電事業は、公的・民間事業者の双方が補完し合いながら管理している。パキスタン水力電力開発局(WAPDA)が運営する国有水力発電所(水力)、WAPDAの傘下にある公営火力発電会社(GENCOs)が運営する火力発電所、そしてIPPによる火力・水力の発電所から全体が構成されている。また、パキスタンの再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマスなど)開発を促進・管理する政府機関である代替エネルギー開発委員会(AEDB)の支援下にある再生可能・代替エネルギー事業者の活動も、活発化している。

電力の調達から川下への受け渡しは、中央電力調達庁(CPPA-G)が一元的に実施している。送電業務は国家送電会社(NGCP)が監督し、配電は公営配電会社(DISCOs)とカラチ地域では民間企業K-Electricが担当している。

パキスタンの各地域をカバーする主要配電会社は、ラホール電力供給会社(LESCO)、イスラマバード電力供給会社(IESCO)、ペシャーワル電力供給会社(PESCO)など11社が存在する。カラチ地域では、民営化された垂直統合型公益事業体であるK-Electricが、カラチおよび周辺地域の発電・送電・配電を一括して担っている。

規制と各分野の監督は国家電力規制局(NEPRA)が実施し、電気料金設定、発電ライセンスの承認、セクター別の業績の監視を担う。政府と関連機関(エネルギー省、NEPRA、電力セクターへの民間投資を促進する政府機関である電力インフラ委員会 (PPIB)、AEDBなど)は、政策や規制の策定、民間セクターの参入と再生可能エネルギーの促進を行う。

最近のNEPRAの改革では、パキスタンの電力セクターを従来の単一買い手システムから競争的取引の二者間契約市場(CTBCM)制度へ移行させる計画がある。この新制度では、発電事業者が大口消費者に直接電力を販売可能となり、効率性・競争力・価格透明性の向上が期待される。CTBCM制度によって、計量・決済・直接契約に関する新規則が適用されることで、NGCP、CPPA-G、各配電会社などの市場関係者の業務責任範囲が調整されることになる。改革が成功裏に実施されれば、CTBCM制度は民間投資の促進、非効率性の削減、電力コストの低減に寄与するとみられている。

グリーンエネルギーへとかじを切る

パキスタン政府は、エネルギーミックスの多様化、コスト削減、エネルギー安全保障の向上を図る手段として、風力、太陽光、小水力、バイオマスなどの代替(再生可能)エネルギー源の促進を開始している。政府は2003年にAEDBを設立し、再生可能エネルギープロジェクトの促進と支援を目的に、開発を正式に加速させた。その後、「再生可能エネルギー政策2006」およびその後の改訂版といった政策枠組みが民間投資を促進し、特にシンド州とパンジャブ州において大規模な風力・太陽光発電所が建設された。これらの取り組みは従来型発電から、よりクリーンで持続可能かつ現地調達可能なエネルギー源への移行を示すものとなった。2025年9月には、国際会議の場でアワイス・レガリ連邦エネルギー相が「パキスタンは2030年までに全発電量の60%を再生エネルギーで賄う」と野心的な目標について発言し、グリーンエネルギーの導入に継続して注力していく姿勢を明確にした。

再生可能エネルギー、特に屋根設置型太陽光発電は、パキスタンで急速に普及した。富裕層を中心に家庭用太陽光パネルの設置が進展し、商業・産業用でも太陽光ソリューションの導入が拡大している。2024年6月時点で、680MWの大規模施設による太陽光発電容量に加え、2,200MW以上の容量を有する15万6,372件以上の分散型太陽光設備(K-Electricが稼働するシステムを含む)がグリッドに接続されている。また、オフグリッドの屋根設置型設備も相当量存在するとみられている。2025年8月には、ムハンマド・ジュナイド・アンワー・チョードリー海事相が、中国が開発・運営するバルチスタン州グワーダル港のエネルギー効率化を図るため、太陽光エネルギーを活用した計画を進めていると発表した。

政府は再生可能エネルギーや分散型エネルギーにも注力し、太陽光揚水(農業分野)、屋根上太陽光、分散型発電を積極的に推進することで、化石燃料依存の低減を図っている。現在、IPPの分野で日本企業の積極的なプレゼンスは認められないが、スズキなど自社独自にグリーンエネルギーへの対策を進めている日系企業も存在する(2026年3月4日付地域・分析レポート参照)。パキスタンは日本との二国間クレジット制度(JCM)の合意がまだなされておらず、バイオマス発電などの実証実験に日本企業が乗り出す下地が整っていないため、近隣国のバングラデシュやスリランカに後れをとっている感がある。直近でJCMの二国間合意に至る機運は高まっていないが、パキスタン政府のグリーンエネルギー政策の動向を踏まえ、関連分野の新たなビジネス機会を継続的に見極めていくことが重要だ。

執筆者紹介
ジェトロ・カラチ事務所長
糸長 真知(いとなが まさとも)
1994年、ジェトロ入構。国際交流部、ジェトロ・シドニー事務所、ジェトロ・コロンボ事務所を経て、2024年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・カラチ事務所
サーディア・マンズール
2002年、ジェトロ入構。ジェトロ・カラチ事務所での総務・経理担当を経て、現在、同事務所にて調査・事業(ビジネス開発)を率いる。