タミル・ナドゥ州政府新繊維政策の概要(インド)
設備近代化に財政支援
2026年3月24日
インド南部タミル・ナドゥ(TN)州政府は2026年1月29日、 同州コインバトールで開催されたインターナショナル・テキスタイル・サミット360にて「統合テキスタイル政策(25-26)」(新繊維政策)を発表した(2026年2月6日付ビジネス短信参照)。同政策は、(1)補助金などの財政支援、(2)高機能・高性能繊維(テクニカルテキスタイル)の開発・製造に対する支援、(3)人材育成などの制度的支援の3つの柱からなっている。その支援策、優遇措置について紹介する。
導入の背景・目的
これまでTN州では「統合テキスタイル政策2019」に基づいて繊維産業に対する支援を実施してきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大や世界各地における紛争、各国との貿易・関税交渉など、ビジネス環境が大きく変化し、州内の繊維産業は一層の生産性の向上や変革が求められるようになった。加えて中央政府は、新たに生産連動型奨励策(PLI)スキームなどの支援策を導入しており、州の支援策も中央政府の支援策と整合させる必要があった。
TN州では、2026年4月に州議会選挙が実施予定であり、就業人口の多い繊維業界に対する、同州政権与党ドラビダ進歩連盟(DMK)の選挙をにらんだ動きもあるとみられる。新繊維政策では、政策目標を短期(5年)、中期(10年)、長期(15年)に分けて目標(ビジョン)を設定している。その最終的な目標は、タミル・ナドゥ・ブランドの創出および上流から下流にいたる繊維産業クラスター、エコシステムの創出だ(表1参照)。
| 期間 | 目標 |
|---|---|
| 5年 |
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| 10年 |
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| 15年 | 繊維産業の川上、川下業界をハブアンドスポークシステムでつなぎ、世界的な付加価値生産拠点(ハブ)となること |
出所:統合テキスタイル政策25-26
TN州政府は、本政策により、繊維機械の設備更新、工場建設を通じた繊維設備の近代化を目指している(参考参照)。
参考:統合テキスタイル政策(25-26)で想定する効果(いずれも5年以内の短期目標)
- 紡績機の近代化:スピンドル190万台、ローター80万台
- 織機:1,000台の低速汎用(はんよう)型のレピア型織機をジャカード/ドビー型に更新
- 織機:3,000台の力織機をシャトルレス織機(セルベッジ機能付)に更新
- 染め、捺染(なっせん)、仕上げ工程に統合廃水処理設備(IETP)の導入(導入件数10件)
- 既存のIETPを最新設備に更新(50件)
- 完全自動化された(CAD/CAM)システムの導入(100件)
- 高機能繊維・製糸工場の設立(10件)
- 繊維関係のスタートアップに対する包括的な技術支援(既存、新規24件)
- 業界の意向に沿った繊維技術、機能繊維、合成繊維分野の研究・開発(10件)
出所:統合テキスタイル政策25-26
財政支援
新繊維政策では、紡績、ハンドルーム(手織り)、織機、染色仕上げ、裁断・縫製、非従来型繊維、コンプライアンス順守・認証取得、市場開拓など、部門ごとの財政支援を導入している。以下は部門ごとの財政支援の内容だ。
-
紡績部門
導入後15年を経過した紡績機械の設備更新に対し、6%の利子補給の提供(2024-25年度予算で今後10年分、50億ルピー(約85億円、1ルピー=約1.7円)を確保)。
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ハンドルーム(手織り)部門
- ハンドルーム支援プログラム(Handloom Support Program:HSP)
総額4億ルピーの予算で、技術向上、デザイン開発、製品多様化、ブランドプロモーション、市場拡大、運転資金、研究開発、技術開発を支援する。またハンドルーム業共同組合の財政基盤強化のため1億ルピーの追加基金を提供。 - ミニハンドルームパーク(Mini Handloom Parks:MHP)
製品のプレミアム化や有力小売り、卸売業者とのネットワークを維持・構築するための支援を行うミニハンドルームパークを設立する。最大5,000万ルピーの予算を確保する。 - 電力の無料供給
ハンドルーム生産世帯に対し、2カ月ごとに300ユニットの電力を無償提供する。 - 利子補給
ハンドルーム業協同組合に対する運営支援として、6%の利子補給を提供。 - 電子商取引に対する継続的な支援
電子商取引を活用したマーケティングに対し、ハンドルーム業共同組合1組合あたり最大20万ルピーの補助金を提供。 - インド国内ブランド構築支援
年間2,000万ルピーの予算を充当し、ブランド構築のためのセミナー・ワークショップを開催。
- ハンドルーム支援プログラム(Handloom Support Program:HSP)
-
織機部門
従来のシャトル機からシャトルレス機への転換などを通じて、生産性の改善、騒音などの労働環境の改善、製品の高品質化などを進める。
- 織機近代化計画
1社あたり最大10台まで、織機1台に対し50%、最大10万ルピーの補助金を提供し、最新織機3,000台の導入を目指す。また、レピア織機更新のため、1社あたり最大5台まで、織機1台に対し20%、最大15万ルピーの補助金を提供する。この支援を通じ、1,000台の電子式シャトルレスジャガード織機の導入を目標とする。 - 共同促進センター
整経・のり付け設備、デザインスタジオ、試験施設、サンプルセンターなど、繊維産業の川下工程の設備を提供する特別目的会社に対し、以下のとおり最大600万ルピーの補助金を提供する。- 整経・のり付け設備に対し500万ルピーを上限に最大5%の補助金
- デザインスタジオの設立に最大50万ルピーを上限に25%の補助金
- 試験設備に対し、最大25万ルピーを上限に25%の補助金
- サンプル生産設備に対しては、25万ルピーを上限に25%の補助金を提供する。
- 電力の無料供給
2カ月ごとに1,000ユニットまで無償供給し、1,000ユニットを超える部分については割引価格を提供。
- 織機近代化計画
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仕上げ部門
仕上げ加工設備導入に対し、以下の支援が提供される。
- 新しい染色、捺染、加工設備および排水処理施設に対し5,000万ルピーを上限に25%の補助の提供
- 既存設備の近代化、拡張に対し4,000万ルピーを上限に25%の補助金を提供
-
裁縫縫製部門
CAD/CAM設備の導入に対し、投資額の50%、最大500万ルピーの補助金を提供する。
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非従来型繊維と製糸業
バナナ、ホテイアオイ(Water Hyacinth)、竹、麻、亜麻、パイナップル繊維などの非従来型繊維・糸の生産設備に対し、投資額の25%、最大1,000万ルピーの補助金を提供。
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資源効率化のための診断
資源効率化を進めるための専門家の診断を受ける場合、その費用の50%、最大30万ルピーを補助。また、上記専門家の診断に基づくエネルギー、水資源効率化のための設備導入に対しては導入する設備費用の25%、最大100万ルピーの補助金を提供。
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コンプライアンスと認証
輸出先相手国から求められる証明をTN州政府が発行、提供。
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市場開発とブランディング
- 海外で開催される繊維産業の見本市に対し、TNパビリオンの設置費用を支援する(毎年4件、1回あたり上限10社)。
- 1出展あたり50%、最大20万ルピーの展示装飾費用を提供するとともに渡航費について、費用の50%、最大12万5,000ルピーを提供する。また、TN州内においてTN国際テキスタイル展を開催するため1,500万ルピーの予算を確保する。
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追加補助金
TN州工業政策2021に指定する22のCカテゴリーの地域(注)に対しては、10%の追加補助を提供。
テクニカルテキスタイル(高機能・高性能繊維)
天然繊維、再生繊維、合成繊維、鉱物繊維などの高機能繊維は、農業、医療、防衛、建設、自動車などの部門に広く利用されている。TN州としても、世界におけるTN州の繊維産業の優位性を維持すべく、テクニカルテキスタイル振興のため、以下のスキームを導入する。
-
TN州高機能繊維ミッション(Tamil Nadu Technical Textile Mission:T3M)
高機能繊維分野への転換と同繊維の製造を促進するため、2025-26年度に1億5,000万ルピーの予算を充当し、高機能繊維に対する投資、生産促進を行うT3Mが組織された。T3Mは、高機能繊維に携わる生産者、輸出者などに対するワンストップ支援施設として、市場調査・分析を行い、高機能繊維の動向および需要予測などを提供するとともに、市場と産地の関係を強化しビジネス機会を提供する。国内外で著名な専門家を選任し、高機能繊維に対する啓発活動も実施する。また、テクニカルテキスタイル転換に対する技術指導に対する補助金として、1社あたり、50%、500万ルピーを上限に補助金を提供する。
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研究開発
TN州政府は、2024-25年度予算で2億5,000万ルピーを投じ、研究およびビジネス開発基金を設立し、高機能繊維や人工繊維に対する研究開発資金を提供する。
- TN州工業政策2021に基づく合成繊維(糸・布)製造のための特別スキーム
本スキームは、合成繊維、高機能テキスタイル・アパレルに対する新規拡張投資に対して提供される。最低投資額、最低雇用者数および設立地域に対する条件は以下の通り(表2参照)。表2:スキーム対象分野と条件 No 分類 最低投資額(億ルピー) 最低雇用者数(人) 投資期間(年) 対象
地域1 高機能繊維
(新規/拡張)5 50 4 B, C リサイクル素材から作られた合成繊維糸 5 50 4 B, C 合成繊維生地
(新規/拡張)10 50 4 B, C 2 高機能繊維
(多角化)10 — 2 B, C リサイクル素材から作られた合成繊維糸(多角化) 10 — 2 — 合成繊維生地(多角化) 10 — 2 — 3 アパレル
(新規/拡張)10 2,000 4 B, C 4 合成繊維と高機能繊維の共同促進センター — — 4 B, C 出所:統合テキスタイル政策25-26
本スキームで提供される優遇措置は、投資額または売上高のいずれかに対して提供される。投資金額に対する補助金は、投資金額(Eligible Fixed Assets)の25%が10年間提供される。売上高に対して提供される補助金は、雇用数および工場の地域により以下のとおり(表3参照)。表3:合成繊維特別スキームの地域・雇用者数別補助割合 地域 雇用者数
500人以下雇用者数
1,000人以下雇用者数
2,000人以下雇用者数
4,000人以下A地域 0.75% 1% 1.5% 1.75% B地域 1% 1.25% 1.75% 1.8% C地域 1.25% 1.5% 1.8% 2% 出所:統合テキスタイル政策25-26
このほかにも対象となる投資に対しては、「TN州産業政策2021」の14条に基づく優遇措置が提供される。 - 高機能・高性能繊維の多角化に対する優遇措置
高機能・高性能繊維分野への事業多角化のための補助金として、投資額の10%が10年間にわたって提供される(年間3,000万ルピーが上限)。
また、リサイクルによる合成繊維(糸、生地)に対しては、TN州産業政策2021 14条に基づく優遇措置が提供される。 - 共同促進センターに対する支援
民間企業が、研究施設や研究設備を他の企業にも提供する場合、TN州政府は、その設備設立に対する投資額の50%を補助する。また、対面やデジタル(インターネット)を使ったマーケティング活動について、5年間、毎年200万ルピーを上限に支出の50%を補助する。 - 追跡システムの導入
調達・生産・流通・販売などの追跡システムを導入した場合には、250万ルピーを上限に50%を補助する。 - デザイン能力向上に対するサポート
アートデザインセンター、CAD/レンダリングソフトウエアを備えたデザインスタジオに対する投資には、TN州在住者に対し、最大50人、デザイナー1人あたり月額1万ルピー、6カ月間の支援を受けることができる。 - 中小零細企業に対する支援(中小企業政策2021)
中小企業政策2021に基づき、中小零細企業に対しては、1,500万ルピーを上限に設備、機械価格の25%の補助金を提供する。
- TN州工業政策2021に基づく合成繊維(糸・布)製造のための特別スキーム
制度的支援
TN州は、今後も自立し、かつ持続可能で世界的に信頼度の高く、不測の事態にも対応できる繊維産業の中心地の地位を確立するために以下の取り組みを実施する。
-
繊維貿易促進センター(TTFC)
TN州からの輸出を促進し、中小零細企業の国際市場へのアクセスを確立するため、500万ルピーの予算でデジタルプラットフォームを備えた繊維貿易促進センターを設立。
-
技術諮問委員会(TAC)
繊維産業の今後の発展を展望し、州の繊維産業および産業政策強化について提言をうけるための繊維連盟を含む業界関係者、研究機関、主要企業から成る委員会を設立。
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輸出貢献表彰
企業を零細、小企業、中企業、中堅企業、大企業のカテゴリーに分けて、輸出に貢献した企業を表彰する制度を導入。
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スキルアップ
TN州政府は、ポリテクカレッジと連携し、6カ月~1年の期間で大学などの教育機関でスキル開発研修を実施する。座学と実務双方の研修を行い、サプライチェーンマネジメント、データ分析、工業エンジニアリング、ブランド開発、ショールームマネジメントに関する研修を実施する。研修修了者には就職あっせんを行う。
TN州は、インドの中でもモノづくりに強く、製造業の集積が進んでおり、州内総生産は、マハーラーシュトラ州に次いで第2位を誇る。自動車産業では、ルノー日産、ヒュンダイ、ヤマハモーターなどが進出し、電気・電子産業や家電分野でも台湾の鴻海精密工業傘下のフォックスコン(iPhone生産)や三菱電機(エアコン製造)などの産業集積が進んでいる。一方で、TN州は、「インドのマンチェスター」と呼ばれるコインバトールをはじめ、インド国内で繊維産業の集積地が多いことも広く知られている。綿糸の生産量はインド第1位、繊維分野の州内総生産でもインド国内第2位の1兆3,400万ルピーだ。TN州政府が繊維産業の設備更新に積極的な支援を導入したことで、日系企業にとっても、アパレル製品の発注・調達先としてだけでなく、繊維機械の販売先としても可能性が広がるとみられる。
- 注1:
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TN州では、A、B、Cの3地域に分けて投資優遇措置を提供している(TN州工業政策2021)。
A地域は、チェンナイ、カーンチープラム、チェンガルパットゥティルヴァルール。
B地域は、コインバトール、イロード、カルール、クリシュナギリ、ナマッカル、ニルギリ、ラニペット、セーラム、ティルチラーパッリ、ティルパットゥール、ティルップール、ベロール。
C地域はアリヤルル、カダロール、ダルマプリ、ディンディグル、カラクリチ、カンニヤークマリ、マドゥライ、メイラドゥトゥライ、ナーガパッティナム、ペランバルル、プドゥコッタイ、ラマナタプラム、シヴァガンガイ、テンカシ、タンジャヴル、テニ、ティルヴァルル、トゥートゥクディ、ティルネルヴェリ、ティルヴァンナーマライ、ヴィルプラム、ヴィルドゥナガルの各地域。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・チェンナイ事務所
白石 薫(しらいし かおる) - 1989年、ジェトロ入構。マニラ、カラチ(パキスタン)事務所勤務を経て、2023年から現職。






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