モルドバ、ウクライナ復興を見据え国内インフラ開発を加速

2026年5月25日

モルドバは面積約3万3,843平方キロメートル、人口約238万人(注)の小さな国だ。モルドバ国家統計局によると、2025年のGDPは約203億ドルで、実質ベースで前年から2.4%増加している。

ルーマニアとウクライナに挟まれるかたちで位置し、ウクライナとは約1,200キロの国境を接する。ともにロシアからの影響を受けながらもEU加盟に向けた動きを加速している。 ウクライナ情勢を背景に地政学的重要性を増しており、ウクライナ復興にも積極的な姿勢を示す。ジェトロはウクライナ復興支援の文脈におけるモルドバの取り組みとビジネス参画可能性について、モルドバ投資庁とモルドバ商工会議所へのインタビューを実施した(取材日:2026年2月5日、6日)。

EU加盟の方向性明らかに、EU資金で国内開発進む

モルドバの首都キシナウは、ルーマニア北東部のヤシ市から約100キロの距離に位置し、公用語もルーマニア語であることから、ルーマニアとの結びつきが強い。一方で、ソ連時代の歴史的背景からロシア語話者も多く、市内の案内標識などではルーマニア語とロシア語が併記されることも一般的だ。

政治面でもロシアの影響を強く受ける。2024年の大統領選挙、2025年の議会選挙では、親欧米派と親ロシア派の闘いが注目されたが、いずれも前者が勝利し、モルドバのEU加盟への方向性を明らかにする結果となった。(2024年11月6日付2025年10月1日付ビジネス短信参照)。このような政治的背景から、EUはモルドバに対して各種支援を提供している。2024年10月には「モルドバ成長計画」として2025年から2027年にかけて19億ドルの資金を拠出する支援パッケージを提示。モルドバの経済活性化を目的に、道路整備やエネルギー安全保障に関連するインフラ、学校、病院施設の新設などに充てられる。

モルドバの貿易・投資概況

モルドバ投資庁によると、同国はEU非加盟ながらも、EFTA(欧州自由貿易連合)・モルドバ自由貿易協定や英国・モルドバ戦略的パートナーシップ・通商・協力協定を含む計7つのFTAにより、8億7,000万人を超える消費者市場へのアクセスを実現している。2024年の輸出額は62億ドルを超え、そのうち約7割はEU諸国向けだ。同年の輸入額は108億ドルを超え、約5割はEU諸国からだった。

対内直接投資(FDI、ネットベース)は、2016年は8,744万ドルと最低水準だったが、2022年には過去10年間で最高となる5億8,602万ドルを記録。2024年のFDIは4億5,837万ドルに達するなど、国内外の情勢に左右されながらも長期的には増加傾向にある。2024年のFDIの内訳を見ると、株式資本投資は1,436万ドルで約3%にとどまる一方、利益再投資は4億5,053万ドルに上り、FDIのほとんどを占める。投資家は新規参入や増資に慎重な姿勢をとる一方、既存投資家は利益の再投資を行い、事業を拡大している。親子企業間での資金貸借を主に示す負債性資本は652万ドルの引き揚げ超だった。

モルドバ政府は外資系企業の誘致に注力しており、例年9月ごろに開催される「モルドバ・ビジネス・ウィーク」(2025年9月19日付ビジネス短信参照)などを通じて、投資環境やビジネス機会を諸外国に向けて積極的に発信している。

ウクライナ復興を見据え、国内インフラの開発加速

モルドバ投資庁のコステル・ボカンチャ・シニア投資アドバイザーは、ウクライナへの輸出の増加を見据え、政府による国内インフラの強化が重要であると指摘した。インフラ開発の具体例として、ルーマニアのヤシ、モルドバのキシナウ、ウクライナのオデーサをつなぐ高速道路建設プロジェクトを紹介し、総額30億ユーロ規模で2030年の着工を目指していると説明した。この高速道路はルーマニア国内の高速道路開発と連動して、最終的にはウクライナから西欧へ至る東西の物流回廊の強化につながるとしている。また、現在入札手続きが進められるキシナウ空港の施設を5,000平方メートル拡張する開発計画にも言及した。同空港の旅客数は2024年から2025年にかけて50%増加し、600万人に達した。同空港の利用者のうち30%をウクライナ人が占めているという。貨物輸送に関しては、モルドバ北部に位置するマルクレシュティ空港を貨物ハブ化する計画について言及し、まずは管理の簡素化のために同空港をキシナウ国際空港の管理下に置くことを決定したと説明した。さらに、政府主導で整備を進める新たな8つの産業パークについて触れ、最大5,000万ユーロが投資されるアグロテックパークや、キシナウ近くに設立予定のハイテックパークといった具体的計画を紹介した。

モルドバ企業との連携可能性

モルドバ商工会議所のセルジウ・ハレア会頭は、ウクライナやルーマニアをはじめとする近隣国の商工会と積極的に連携してきた経験を踏まえ、ウクライナ復興への参画においては、ウクライナのニーズを正確に把握し、ビジネスというかたちだけではなく、人道支援を含めたインフラや医療・教育分野などへの投資と捉えることが重要と説明した。医療、電子工業、IT、農業加工、建設資材などの分野において、日本を含む外国企業とモルドバとの連携のポテンシャルがあると指摘し、長期的な投資先としてモルドバを検討してほしいと呼びかけた。

モルドバはEU加盟を目指し、国際パートナーからの支援を活用して、国内の制度改革や経済開発を進めるとともに、外国企業の誘致を通じた経済活性化にも取り組んでいる。特にIT分野は、外国企業がバーチャルでも入居できるモルドバ・イノベーション・テクノロジー・パーク(MITP)を整備し、関連企業に7%の単一税を適用するなど、複数の国家政策によって急成長を遂げている(2025年7月29日付ビジネス短信参照)。

一方で、EU基準を満たす国内道路網が限定的であり、鉄道設備も老朽化が目立つなど、社会基盤となるインフラの脆弱(ぜいじゃく)性などの課題も残っている。ウクライナ情勢に伴う同国の地政学的重要性の高まりや、EU加盟に向けた機運の高まりを受け、これらの課題解決に向けた今後の開発が強く期待されている。


注:
モルドバ国家統計局(2025年)、トランスニストリア地域の住民を除く。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
太田 響子(おおた きょうこ)
2023年、ジェトロ入構。デジタルマーケティング部を経て、2025年8月から現職。