エネルギー投資集積進む(マレーシア)
サラワク州の今(前編)

2026年7月9日

マレーシアは、マレー半島とボルネオ島(東マレーシア)で構成される。政治・経済の中心は前者にあるが、近年、後者も存在感を増してきている。特に、ボルネオ島のサラワク州は、日本企業をはじめ各国のエネルギー企業を誘致し、地域のクリーンエネルギー拠点として発展させる方針だ。このように注目が高まるサラワク州の状況を、エネルギーを中心に、前後編2回に分けて報告する。本稿では、サラワク州政府の特徴、エネルギー政策、投資環境上のメリット、デメリットを紹介する。後編では、企業のプロジェクト紹介など進出動向に焦点を当てる。前編は州の概況やエネルギー政策を中心に概観する(注)

州独自の行政・資源管理権限を有する

サラワク州は、東マレーシアに位置する北海道のおよそ1.5倍の広大な州で、国土面積の約36%を占める(図参照)。同州は独自の歴史的経緯から、連邦内で特別な位置付けを持つ自治地域となっている。具体的には、第二次世界大戦後に英国の直轄植民地を経て、東マレーシアのサバ州やシンガポールとともに、「対等な関係」としてマレーシア連邦に加盟した。加盟時に天然資源や移民、教育、財政などの面で強い自治権が認められた。結果、現在も同州は、同州への入国にはパスポートが必要になるなど州独自の入国管理権限や、土地、森林、天然資源に関しては、連邦管轄外の管理権限を有している。

図:サラワク州地図と主要都市
サラワク州は、東マレーシアに位置する北海道のおよそ1.5倍の広大な州で、国土面積の約36%を占める。

出所:マレーシア統計局からジェトロ作成

民族構成を見ると、サラワク州は、マレーシアの中でもブミプトラ(土地の子の意で、マレー系および先住民族の総称)の比率が高い。ただし、マレー半島各州と異なり、マレー系の比率は高くなく、イバン族やビダユ族など先住民族の比率が高い。また、彼らは歴史的にキリスト教を信仰してきた背景から、イスラム教の影響は相対的に限定的だ。

サラワク州は、マレーシアで第4の経済規模を持つ。同州経済は、主に水力発電を中心とするクリーンエネルギー由来の電源を背景に、電力・公益インフラサービスが経済成長の基盤であり、産業全体を支えている。対日関係では、日本はサラワク州の主要輸出先の1つであり、とりわけ天然ガスは、日本にとって代替が難しい重要な供給源だ。そのため、日本は同州と天然ガスの長期供給契約を結んでおり、サラワク経済との戦略的パートナーとなっている。

水力発電が中心の低炭素電力で企業誘致を強化

サラワク州は、水力発電を中心とする再生可能エネルギーを軸に、投資優遇措置を通じ、国内外から製造業や資源加工、エネルギー多消費型産業の誘致を州全体で推進している。代表的な政策の1つである「サラワク再生可能エネルギー回廊(SCORE)」は、2008年に開始された州主導の経済開発構想で、州内を複数の開発ゾーンに区分し、低コストで安定的な電力供給を生かし、エネルギー関連産業の誘致を促進してきた。具体的には、連邦政府による税制優遇措置に加え、州独自のインセンティブが組み合わされている(表1参照)。

表1:サラワク州政府によるエネルギー投資上の優遇政策
優遇政策 メリット
土地優遇 州政府が管理する工業用地に対して30~50%の土地価格割引を提供。
条件:土地譲渡から36カ月以内にプロジェクトが稼働した場合に適用。​
電力・水道料金の優遇
  • 電力料金最大10%の割引を付与〔サラワク電力供給公社(SESCO)承認済み企業対象〕。
  • 州営Sarawak Energyによるグリーン電源(再エネ由来)供給契約への優先アクセス。
  • 水道料金の優遇。
インフラ・機材優遇
  • インフラ開発費用の控除。
  • 優遇措置で使用される機械、設備、原材料に対する輸入関税を免除。

出所:サラワク州エネルギー・環境持続可能性省(MEESty)、マレーシア投資開発庁(MIDA)などを基にジェトロ作成

さらに、サラワク州は、連邦政府の気候変動政策と整合的に、州レベルでエネルギー転換および脱炭素化を推進する制度・政策を整備している。「Sarawak Energy Transition Policy(SET-P 2025)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」は、連邦政府の「National Climate Change Policy 2.0」で示された2050年ネットゼロ目標および低炭素開発方針を踏まえ、州レベルでの具体的な政策および投資計画として実施することを目的としている。同政策は、水力発電を基盤に、再生可能エネルギー、天然ガス、水素、CCUSなどを組み合わせた多層的なエネルギーミックスの構築を目指すものだ。これにより、電力の安定供給、コスト競争力、環境持続性の同時実現を図るとともに、エネルギー分野を州経済の中長期的な成長基盤として明確に位置付けている。

こうした中、サラワク州エネルギー・環境持続可能性省(MEESty)は、2025年、Sarawak Sustainability Blueprint 2030外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを策定・公表した。これは、州の脱炭素化および持続可能な開発を推進するための包括的な枠組みとなっている。本ブループリントは、SET-P 2025を踏まえつつ、脱炭素に加え、グリーン成長、循環経済、自然資本、人材育成、ガバナンス強化を含む戦略となっている。州レベルで取り組む政策の優先順位、実施主体、行動計画を明確に示したロードマップとして位置付けられ、こうした包括的な戦略策定はマレーシアの州としては、先駆的な試みだ。

石油・ガス分野では、州営石油・ガス会社のPETROSが、油鉱区権益、ガス供給、発電向けガス、CCUS、水素などを一元的に担っている。同社は、州内の天然ガスを統括する唯一のガスアグリゲーターに指定され、州内で流通する天然ガスを調達・販売する権限を持つ。そのため、同分野では、石油・ガス関連企業がPETROSとどのように事業モデルを設計するかが、プロジェクトの実現可能性とコスト競争力を左右する。

高度人材の確保や駐在環境は厳しい面も、メリットとリスク

サラワク州の強みは、水力発電を中核とする安定的かつ比較的低コストな電力供給にある。電力は同州の産業拡大と低炭素化を同時に支える重要な役割を果たしている。特に、州営電力会社のSarawak Energyが発電投資や送配電網整備、料金制度設計などを一体的に担う。また、ASEAN・北東アジアを結ぶ地理的優位性と安定した制度環境により、同州は中期投資に適した拠点と位置付けられる(表2参照)。

他方、サラワク州には、高度人材の確保が難しいことや、駐在員の生活環境が半島部と比較して十分とは言い難いなど、制度・人材・インフラ面で一定の制約も残されている(表3参照)。そのため、進出企業は、制度理解と事前の事業設計によって、これらの課題を管理可能なかたちにすることが必要となる。

表2:サラワク州における投資環境上のメリット
分類 内容
エネルギー競争力
  • 水力発電を中核に、安定供給・価格競争力・低炭素性を同時に実現。
  • 州内の発電容量は需要を上回っており、製造業・資源加工・データ関連産業など電力需要の大きい産業の新規立地や拡張を下支えしている。
  • 再生可能エネルギー由来電力の比率が高く、Scope2排出削減を重視するグローバル企業のESG方針との親和性が高い。
コスト競争力
  • 工業用電力料金および工業用水料金は、マレーシア国内でも相対的に低水準にあり、操業コストの抑制に寄与。
  • 州内に展開する工業団地・自由地域では、インフラが整備された用地を比較的競争力のある価格で確保可能。
立地・物流・サプライチェーン上の優位性
  • 南シナ海沿岸に位置し、ASEAN域内および日本・中国・韓国といった北東アジア市場へのアクセスが良好。
  • ビントゥル港を中心に、LNG・エネルギー・資源関連物流が集積しており、資源加工・輸出型産業に適したインフラ環境を有する。
制度・政治的安定性
  • 州政権は長期的に安定しており、政策の継続性と予見可能性が高い。
  • 州政府主導で中長期の開発ビジョンが明確に示されており、投資誘致・産業高度化の方向性が一貫している。

出所:マレーシア投資開発庁、ジェトロ資料、進出日系企業へのヒアリングなどを基にジェトロ作成

表3:サラワク州における投資環境上のデメリット
分類 内容
インフラ整備の深度 港湾・幹線道路・電力網などの基幹インフラは着実に整備が進展している一方、地域や用途によっては物流能力や即応性に制約が残るケースがある。
物流制約 大規模プロジェクトが同時多発的に進行した場合、短期的に物流・建設リソースが逼迫する可能性がある。
人材確保
  • 高等教育修了者の州外流出が続いており、STEM分野を中心に即戦力となる高度人材の確保は容易ではない。
  • 州としてTVET・産学連携による人材育成を進めているものの、短期的には報酬設計・育成計画を含めた中長期視点の人材戦略が不可欠。
  • 外国人高度人材の活用は可能だが、州独自の雇用・許認可プロセスが存在し、申請・承認には一定の時間を要する。
  • インターナショナルスクールや医療などの社会インフラがマレー半島部に比べて不十分で、外国人駐在員にとって生活環境が厳しく、人材確保の困難さに拍車をかける。
行政運用・ガバナンス 許認可に関しては、連邦政府と州政府の双方の承認が求められるケースが多く、プロセスは複雑になりがち。
成長戦略への依存度
  • 水素関連産業は成長分野として期待される一方、技術成熟度やインフラ整備には不確実性が残る。
  • 外部技術や資本への依存度が高く、例えば、外資プロジェクトの計画進捗が想定より遅れた場合、州経済全体に影響が生じる可能性がある。

出所:マレーシア投資開発庁、ジェトロ資料、進出日系企業へのヒアリングなどを基にジェトロ作成

本稿に続く後編では、サラワク州が、エネルギー産業の発展を軸に、半導体や環境関連の企業など高付加価値産業の誘致を進めている点に注目する。


注1:
本稿の詳細はジェトロ調査レポート「サラワク州のエネルギー概況と企業動向」(2026年3月)を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所次長
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部国際経済研究課を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課、調査部アジア大洋州課を経て2023年8月から現職。