欧州でのAIの発展におけるデータセンター動向とエネルギー状況

2025年6月4日

人工知能(AI)関連産業、その市場規模は今後、更に大きく成長していくと予測されているが(2025年3月19日付地域・分析レポート参照)、AIの発展にはインフラ構築が不可欠である。特にAIモデル(大規模言語モデルやディープラーニングモデルなど)の学習と推論には、クラウドコンピューティングが主流となるが、その基盤設備となるものがデータセンターであり、AIの計算能力・データ管理・通信速度・セキュリティー・環境対策を総合的に提供する。

図1は総務省令和6年版の通信白書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.9MB)で紹介されている、世界のデータセンターシステム市場の推移および予測である。世界のデータセンターシステムの市場規模(支出額)は、2020年に新型コロナウイルス感染症による影響で減少に転じたものの、その後は増加傾向で推移、2024年には36兆7,000億円まで拡大すると予測されている(2024年7月時点)。

図1:世界のデータセンターシステム市場規模(支出額)の推移および予測
2012年に11兆2千億円であった市場は、コロナ期に市場が停滞した時期もあったが、2022年に29億9千億円と過去最高となり、2023年には34兆1千億円、2024年は予測値として36兆7千億円と成長している。

出所:総務省令和6年版の通信白書を基にジェトロ作成(ガートナー、Statistaより引用)

今後の市場動向として、コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーは2024年10月にデータ需要の予測を発表しており、2030年まで年率19~22%の増加が続き、その需要量は2023年時点から3倍以上に達するとしている。なかでもAI用途の需要は、平均で年率33%の成長が予測されている。また別の角度では、国際エネルギー機関(IEA)は2025年4月に、データセンターへの世界的な投資は2022年以降ほぼ倍増し2024年には5,000億ドルに達したと発表、電力需要は2030年までに2倍以上になると予測している。

ここからは、欧州各国のデータセンター動向と計画について述べていく。
表は2025年3月時点での欧州上位10カ国のデータセンターの数である。

表: 欧州上位10カ国のデータセンター数
順位 国名 データセンター数
1 ドイツ 529
2 英国 523
3 フランス 322
4 オランダ 298
5 イタリア 168
6 ポーランド 144
7 スペイン 143
8 スイス 121
9 スウェーデン 95
10 ベルギー 80

出所: Statista 2025年3月現在

ドイツを筆頭に英国、フランスと続き、4位には人口規模が比較的小さいオランダが入っている。東欧諸国の中では、ポーランドがデータセンター最多所有国である。参考までに、米国は5,426、中国は449、日本は222と報告されている。

2025年2月の米国CBREのレポートによると、欧州全体では、2025年に合計約1ギガワット(GW)と過去最大のデータセンターが新規に展開される見込みで、フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリ、ダブリン(それぞれの頭文字をとって「FLAPD」市場とも呼ばれる)が、その半分近くを占めると予測されている。

ドイツ

欧州においてデータセンター所有数で最多のドイツには、2025年3月時点で529のデータセンターがある。 ドイツには2022年時点で約10万社の情報通信関連企業が存在し、クラウドサービスやAI、IoT(モノのインターネット)の導入が進む中、年間稼働率や冗長性(故障に備えた予備設備の確保)などのティア3基準(注1)を満たすデータセンターの建設が増加している。インドのモルドール・インテリジェンスによると、フランクフルト、ベルリン、デュッセルドルフ、ミュンヘン、ハンブルクなどの主要都市に60以上のティア3データセンターが存在する。

主な投資事例と参入企業は以下の通り。

米国アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)はドイツにおいて、ブランデンブルクとフランクフルトを中心に大規模なデータセンター投資を進めている。2024年5月に、2040年までに78億ユーロを投資してAWSヨーロピアン・ソブリンクラウド(注2)を開発、2025年末までにブランデンブルク州にデータセンターを立ち上げる予定を発表した。また同2024年6月には、フランクフルトの既存のクラウドインフラへの88億ユーロの追加投資を発表した。

米国マイクロソフトは2024年2月、2年間にドイツ全土で32億ユーロの投資を発表、これによりAIインフラとクラウド能力は2倍以上になるとした。このほか、米国のデジタル・リアルティ(Digital Realty)などの大手コロケーション事業者(注3)もデータセンターの開発や拡張を行っている。また、ドイツテレコム(Deutsche Telekom)は2024年10月に、既存の16のデータセンターに加え、新たに5つのハブの追加を発表している、と報じられた(「テルコ・タイタンズ」2024年10月14日)。

英国

ドイツとほぼ同数のデータセンターが存在する英国は、政府の積極的な政策支援と国内外の大規模な投資により、急速な成長を遂げている。英国政府は2024年9月、データセンターを国家重要インフラと分類し、重大事故の予測や復旧に際する政府からの支援、サイバー攻撃に対する監視や保護による安全性の強化を発表した(2024年9月13日付ビジネス短信参照)。また、2025年2月にはAI機会行動計画(AI Opportunities Action Plan)を発表(2025年2月5日付ビジネス短信参照)、AI向けデータセンターの建設計画承認の迅速化かつ合理化、およびクリーンエネルギーの供給の加速を進めるため「AIグロースゾーン」を設立して各地域に500メガワット(MW)超の電力供給を確保する計画など、投資を促進している。主な投資と参入企業は以下の通り。

マイクロソフトは2023年11月、3年間で次世代のAI向けデータセンターインフラの拡張に25億ポンド(約4,825億円、1ポンド=約193円)を投じると発表。米国グーグルも2024年1月、10億ポンドを投じ、イングランド東部のハートフォードシャーにデータセンターを新設することを発表した。AWSは2024年9月、英国でのデータセンター関連の投資計画を発表、データセンターの建設、管理、維持に80億ポンドを投じる。また5つのデータセンターを運営する米国サイラスワン(CyrusOne)や米国コアウィーブ(CoreWeave)なども、追加投資によりデータセンターの拡張などを行うと発表している。

フランス

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、2025年2月に「フランスのAI分野に1,090億ユーロを投資する」と発言、新AI戦略を発表した(2025年2月17日付ビジネス短信参照)。その中でAIインフラ整備として、データセンター設置の用地となる「ターンキーサイト」を35カ所整備し、1拠点当たりの敷地面積は18~150ヘクタール(合計1,200ヘクタール)、容量は最大1GWを計画。これらのサイトは2027年から、原子力発電を含む脱炭素電力(総電力量の95%)を主体とする大容量電力網に接続される。主な投資と参入企業は以下の通り。

AWSは2017年から2031年に60億ユーロを投資。マイクロソフトは2024年から2027年にデータセンターを含めAI関連で40億ユーロを投資し、パリとマルセイユにおけるデータセンターの拡張、ミュルーズ・アルザス都市圏に新施設を建設予定。その他、米国エキニックス(Equinix)は2025年2月にデータセンターを開設。また2025年3月時点でフランス国内最大のデータセンター事業者とされるデジタル・リアルティは2025年2月にフランスで開催されたAIサミットにおいて、パリとマルセイユ地域での13のデータセンター新設に最大50億ユーロを投資すると発表した。

ドイツ、英国、フランスの上位3カ国以外でも各国におけるデータセンターの拡張や新設計画が発表されている。FLAPDなどの主要市場では、物理的な場所や電力供給の制約が生じており、オスロ、ベルリン、チューリッヒ、ミラノ、ワルシャワ、マドリードなどの新興市場への関心が高まっているとされている。

データセンター設備構造

データセンターを構成する設備について簡単に説明すると、サーバー、データを蓄積するストレージ、電源設備、空調設備、ネットワーク設備が挙げられる。サーバーはデータ処理の中核であり、グラフィック処理ユニット(GPU)はサーバーに搭載される。ネットワーク機器にはルーター、サーバーに接続するスイッチ類、ハードウェア型のファイアウォール、その他サーバー間通信や外部ネットワーク接続を行う機器などが含まれる(図2参照)。

これらの機器がサーバールームに設置され、データの計算などの処理が実行される。またデータの送受信を行うためのケーブルには、通信速度、伝送距離、帯域幅や信号の減衰などに優位性が高い光ファイバーが利用される。

サーバーは大量の熱を発するため空調が極めて重要で、空冷もしくは水冷方式などの冷却装置が利用される。特に、冷却効率が高い「液体冷却技術」が注目されている。大量の電力が必要となるデータセンターには、電源設備においても変圧器、停電時に備えるバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)、またサーバーが設置される各ラックに電力を供給する配電ユニットなどがある。このほか、監視・管理・セキュリティーシステムなど。このようにデータセンターには多くの設備機器が必要とされており、データセンターの拡張や開設は多くの企業にビジネス拡大のチャンスをもたらす。

図2:データセンター主要機器構成
ラックに収納されたサーバー・ストレージ他、無停電電源装置や蓄電池システム、変圧器、ファイアウォール、スイッチ類等のネットワーク機器、そしてデータ転送は光ファイバーを通して行われる

出所:ジェトロにて作成

またAIにおけるサービスでは、自動運転・遠隔医療などデータ転送の遅延がクリティカルなものもあり、地理的課題への対応のため、データセンターを特定国やエリアに集中させることが困難で、各国に配置することが必要となる。最近では、小規模・分散型データセンター(エッジデータセンター)も増加中である。

データセンターへの電力供給

データセンター拡大に伴い、電力消費が増大する。IEAによる「Energy and AI」レポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(7.7MB)によれば、世界全体で、データセンターは約415テラワットアワー(TWh)を消費している。これは2024年の電力消費量の約1.5%に相当し、過去5年間で年率12%の増加となった。また従来のデータセンターの規模の約10~25MWに対し、 AIに特化したハイパースケールデータセンターは、100MW以上の容量を持つ場合があり、年間10万世帯分の電力を消費する。さらに、現在建設中の最大規模のデータセンターは、その20倍の電力を消費すると言われる。現在、データセンターの電力消費量が、その立地地域に及ぼす影響は顕著となっている。

欧州のデータセンター市場は、AIやクラウドコンピューティングの拡大に伴い、今後も成長が見込まれており、電力供給やインフラ整備などの課題への対応がますます重要となる。
欧州委員会は、エネルギー効率向上を目的とするエネルギー効率化指令(EED)と委任法令により、データセンター運営者などに対して、エネルギー消費量、電力使用効率、廃熱の再利用状況、再生可能エネルギー(再エネ)の使用割合などについて、2025年5月15日までの報告と、以降毎年の報告を義務付けた。IEAは、太陽光発電と風力発電および両者のハイブリッドプロジェクトにより、年間の電力需要を満たしながらコストを最小限に抑える最適な規模を算定した結果、欧州においては電力需要の平均70%が再エネで賄えると分析した。一方で、太陽光や風力発電は変動性の課題がある。太陽光発電は日照時間によって出力が変動し、風力発電は平均的には変動性が小さいものの、時間帯によって急激に出力が変動する。その対処方法として、太陽光発電や風力発電にBESSを組み合わせたプロジェクトが進む。太陽光発電業界団体のソーラーパワー・ヨーロッパは、2024年の欧州のBESSの新設容量は22ギガワットアワー(GWh)であり、2029年には総容量400GWhになるとの予測を発表している。欧州では、BESSによる電力の蓄積と供給のシステム制御において、ニデックが高いシェアを誇っている。

このようにAIの発展において、データセンターは不可欠であり、それに伴い電力の需要はさらに高まる。欧州では気候変動対策、エネルギー安全保障なども含めたエネルギー政策が今後も大きく関連する。


注1:
データセンターにはティア1からティア4まで4つの格付け基準があり、年間稼働率・年間停止時間・冗長性などの要素で分類される。ティア4が最も基準が高い。ティア3は年間稼働率99.98%、停止時間約1.6時間以下、冗長用として1台のバックアップ電源を備える。
注2:
データ主権を確保するために、特定の国や地域内でのみ利用され、その国の法律や規制に準拠したクラウドサービス。
注3:
データセンター内のスペースを共有し、企業が自社サーバーやネットワーク機器などを設置できるようにするサービスを提供する事業者。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
坂本 裕司(さかもと ひろし)
メーカー勤務などを経て2024年10月、ジェトロ入構。