ポーランドの2024年乗用車新規登録台数、新型コロナ禍前の水準に回復
2025年6月4日
2024年の国内乗用車生産台数が前年割れ
ポーランド国内の2024年の乗用車生産台数は21万3,900台となり、前年比で28.7%減少した。2023年は7年ぶりに前年比プラスに転じ、新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ戦争、半導体不足などによる低迷から脱したとみられていたが、2024年は欧州の自動車産業の低迷、特に電気自動車(EV)市場の厳しい状況のあおりを受けたとみられている。
乗用車新規登録台数は新型コロナ禍前に迫る 個人向けが好調
ポーランド自動車工業会(PZPM)によると、2024年のポーランドの乗用車新規登録台数は前年比16.1%増の55万1,568台だった。新規登録台数は過去最高だった2019年の55万5,598台に迫り、2020年以降では最高を記録した。
乗用車新規登録の内訳をみると、新車登録台数の68.2%を占める法人向けは37万6,432台で、前年比9.3%の伸びを示した。これに対し、個人向けは34.1%増の17万5,136台だった。なお、ポーランドでは中古自動車の輸入を背景に車齢の長い乗用車が多いが、2024年の中古乗用車新規登録の車齢内訳をみると、10年超が54.4%(前年比6.1ポイント減)を占め、4年超10年以下が35.1%(前年比4.3ポイント増)、4年以下が10.4%(前年比1.7ポイント増)だった。前年比較から、より車齢の短い乗用車を求める傾向がうかがえる。
上位5メーカーの顔ぶれは前年と同じ
メーカー・ブランド別にみると(表1参照)、上位2社(トヨタ、シュコダ)の合計が市場の29.7%を占めたのに対し、3位以下の市場シェアはいずれも1桁だった。トヨタは前年比13.9%増の10万3,834台と、5年連続で首位を維持した。シュコダは2020年にトヨタに1位を奪われて以降、一貫して2位にとどまっており、前年比16.8%増の堅調な伸び率を示し6万136台となったが、首位奪還には至らなかった。それに続くのがフォルクスワーゲン(VW)、起亜、現代で、起亜は7.6%減で順位を1つ落とした。なお、VW傘下のクプラは31.6%増と、前年に続き堅調な伸びを示し、順位を3つ伸ばした。一方、マツダは1.5%減と、日系メーカーの中では唯一、前年割れになった。
順位 | メーカー・ブランド |
2023年 台数 |
2024年 | ||
---|---|---|---|---|---|
台数 | シェア | 前年比 | |||
1 | トヨタ | 91,195 | 103,834 | 18.8 | 13.9 |
2 | シュコダ | 51,478 | 60,136 | 10.9 | 16.8 |
3 | フォルクスワーゲン(VW) | 33,924 | 38,404 | 7.0 | 13.2 |
4 | 起亜 | 36,081 | 33,350 | 6.0 | △ 7.6 |
5 | 現代 | 26,931 | 31,007 | 5.6 | 15.1 |
6 | アウディ | 26,024 | 29,161 | 5.3 | 12.1 |
7 | メルセデス・ベンツ | 21,339 | 28,785 | 5.2 | 34.9 |
8 | BMW | 23,240 | 27,123 | 4.9 | 16.7 |
9 | ルノー | 18,222 | 21,629 | 3.9 | 18.7 |
10 | ダチア | 17,844 | 19,992 | 3.6 | 12.0 |
11 | ボルボ | 12,542 | 14,950 | 2.7 | 19.2 |
12 | レクサス | 10,496 | 14,681 | 2.7 | 39.9 |
13 | フォード | 12,111 | 14,111 | 2.6 | 16.5 |
14 | クプラ | 8,779 | 11,554 | 2.1 | 31.6 |
15 | マツダ | 11,055 | 10,884 | 2.0 | △ 1.5 |
16 | オペル | 9,524 | 10,413 | 1.9 | 9.3 |
17 | プジョー | 8,792 | 9,654 | 1.8 | 9.8 |
18 | スズキ | 8,415 | 9,529 | 1.7 | 13.2 |
19 | 日産 | 6,638 | 9,386 | 1.7 | 41.4 |
20 | シトロエン | 5,208 | 6,164 | 1.1 | 18.4 |
— | その他 | 35,194 | 46,821 | 8.5 | 33.0 |
計 | 475,032 | 551,568 | 100.0 | 16.1 |
出所:ポーランド自動車工業会(PZPM)からジェトロ作成
モデル別でもトヨタ人気が圧倒的
メーカー・モデル別にみると(表2参照)、トヨタの「カローラ」が販売台数2万9,487台(前年比9.8%増)で、首位を維持した。続いてシュコダの「オクタビア」が1万9,268台で、前年に続き2位となった。近年、人気の高いスポーツ用多目的車(SUV)は引き続き好調だ。トヨタの「ヤリス・クロス」は16.5%増と販売台数を伸ばし、メルセデス・ベンツの「GLCクラス」は94.3%増の大幅な伸びを示した。また、トヨタのコンパクトSUVである「C-HR」は36.6%増と大きな伸びを見せ、前年の7位から4位に順位を上げた。
順位 | メーカー・モデル |
2023年 台数 |
2024年 | ||
---|---|---|---|---|---|
台数 | シェア | 前年比 | |||
1 | トヨタ・カローラ | 26,850 | 29,487 | 5.3 | 9.8 |
2 | シュコダ・オクタビア | 15,800 | 19,268 | 3.5 | 21.9 |
3 | トヨタ・ヤリスクロス | 13,402 | 15,608 | 2.8 | 16.5 |
4 | トヨタ・C-HR | 10,629 | 14,516 | 2.6 | 36.6 |
5 | トヨタ・ヤリス | 13,459 | 14,185 | 2.6 | 5.4 |
6 | 起亜・スポーテージ | 12,453 | 14,133 | 2.6 | 13.5 |
7 | 現代・ツーソン | 10,699 | 13,179 | 2.4 | 23.2 |
8 | ダチア・ダスター | 9,100 | 10,394 | 1.9 | 14.2 |
9 | トヨタ・RAV4 | 8,366 | 10,389 | 1.9 | 24.2 |
10 | フォルクスワーゲン・T-Roc | 7,502 | 9,217 | 1.7 | 22.9 |
11 | シュコダ・スペルブ | 6,161 | 8,307 | 1.5 | 34.8 |
12 | シュコダ・カミック | 6,677 | 8,083 | 1.5 | 21.1 |
13 | クプラ・フォーメンター | 6,710 | 7,850 | 1.4 | 17.0 |
14 | メルセデス・ベンツ・GLCクラス | 3,651 | 7,094 | 1.3 | 94.3 |
15 | シュコダ・ファビア | 7,010 | 6,978 | 1.3 | △ 0.5 |
16 | フォルクスワーゲン・ティグアン | 5190 | 6,729 | 1.2 | 29.7 |
17 | ルノー・キャプチャー | 3,423 | 6,294 | 1.1 | 83.9 |
18 | ボルボ・XC60 | 6,133 | 6,173 | 1.1 | 0.7 |
19 | シュコダ・コディアック | 5,297 | 6,056 | 1.1 | 14.3 |
20 | フォード・フォーカス | 2,463 | 5,765 | 1.0 | 134.1 |
— | その他 | 294,057 | 331,863 | 60.2 | 12.9 |
計 | 475,032 | 551,568 | 100 | 13.2 |
出所:ポーランド自動車工業会(PZPM)からジェトロ作成
高級車の販売台数が増加
高級車といわれるプレミアムブランドの販売台数が増加し、2024年は13万8,600台で、前年比19.7%増であった。それに対し、その他の一般乗用車の登録台数は2.5倍となる34万3,800台(前年比11.5%増)だった。なお、自動車市場調査会社サマルによれば、新車の平均販売価格は年間を通じて8,000ズロチ(約30万円、1ズロチ=約38円)未満の上昇(前年比44.4%減)にとどまった。普段プレミアムブランドを購入しない層をターゲットとした、販売価格の大幅な値下げによる影響だとされている。
2024年の高級車の販売台数をメーカー・ブランド別にみると、アウディは前年に続き首位を維持した。メルセデス・ベンツは前年2位だったBMWを抜いて2位となり、BMWは順位を3位に落とした。
代替燃料自動車の普及率が5割超に
新規登録台数を燃料種別にみると(表3参照)、ガソリン車とディーゼル車はそれぞれ前年比4.9%増の20万6,054台、7.1%増の4万8,866台となった。それらの市場シェアの合計は数年間低下傾向で推移しており、2020年の81.5%から46.2%まで下がった。代替燃料自動車は27.4%増の29万6,648台で、シェアが53.8%まで増加した。内訳をみると、マイルドハイブリッド車(MHEV)は12万6,933台(30.7%増)、ハイブリッド車(HEV)は12万1,598台(31.0%増)、バッテリー式電気自動車(BEV)は1万6,564台(3.0%減)、液化石油ガス(LPG)車は1万6,550台(32.2%増)、プラグインハイブリッド車(PHEV)は1万4,919台(12.6%増)、水素を使用する燃料電池車(FCEV)は12台(85.5%減)であった。
燃料種別 | 2023年 | 2024年 | |||
---|---|---|---|---|---|
台数 | シェア | 台数 | シェア | 前年比 | |
ガソリン車 | 196,453 | 41.4 | 206,054 | 37.4 | 4.9 |
ディーゼル | 45,643 | 9.6 | 48,866 | 8.9 | 7.1 |
代替燃料 | 232,936 | 49.0 | 296,648 | 53.8 | 27.4 |
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17,070 | 3.6 | 16,564 | 3.0 | △ 3.0 |
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13,251 | 2.8 | 14,919 | 2.7 | 12.6 |
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83 | 0.0 | 12 | 0.0 | △ 85.5 |
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92,847 | 19.5 | 121,598 | 22.0 | 31.0 |
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97,136 | 20.4 | 126,933 | 23.0 | 30.7 |
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12,521 | 2.6 | 16,550 | 3.0 | 32.2 |
出所:ポーランド自動車工業会(PZPM)からジェトロ作成
バッテリー式電気自動車は初の前年割れに
代替燃料自動車のうち、BEVは初の前年割れを記録した。ポーランド・ニューモビリティー協会(PSNM)(注)によると、2021年にポーランド政府が導入した、BEVなどのゼロエミッション車購入助成制度「マイEV」に含まれるリース契約への助成が停止されたことが大きく影響している。2025年2月には上記制度の後継となる「私たちのEV」が発表されたが、助成対象者は個人および個人事業主のみとし、対象車両も小型乗用車に限られている。PZPMは、重要な潜在層である企業を支援対象から除外していることから、市場への効果は限定的だと指摘する。
2024年10月時点の新規登録台数に占めるBEVのシェアを見ると、ポーランドはEU平均の4分の1以下と低く、EUに加盟する中・東欧諸国の中で、スロバキア、クロアチアに次いで下から3番目だ。ただ、2025年第2四半期(4~6月)中には中・大型商用車の購入・リースの新たな助成を開始するという発表もある。購入支援策の拡充が急がれる。
代替燃料インフラ規則の目標達成は道半ば
PSNMによると、2024年末時点で国内に8,659基の充電器があり、前年比で45.9%増加した。充電器のうち69%が交流(AC)普通充電器、31%が直流(DC)急速充電器だった。特にDC急速充電器は前年の2倍となる1,100カ所超が設置された。 EUの代替燃料インフラ規則(AFIR、2023年8月2日付ビジネス短信参照)で定められている最低充電インフラ総容量の2025年末および2027年末目標に対する達成率は、それぞれ169%、74%と好調だ。この結果についてPSNMは、目標値はあくまでBEVとPHEVの登録台数に応じて設定されており、登録台数の少なさが高い達成率をもたらしていると指摘している。
AFIRで定められている「汎欧州運輸ネットワーク(TEN-T)」沿いの整備に関する目標達成率は、依然として低いままだ。2025年末および2027年末目標に対する普通自動車の中核ネットワークにおける達成率は、それぞれ11%と4%にとどまっている。また、大型車用インフラ整備における2030年末目標に対する達成率は0%とされている。
PSNMは、インフラ整備のペースの遅さが大型EVの発展にとって重要な障壁になっていると指摘する。2025年3月末からは、「環境保護および水資源管理国家ファンド(NFOŚiGW)」を財源とする、大型EV用インフラ整備の補助金制度が開始した。公共充電ステーションおよび電力網の建設・拡大を対象とし、それぞれ10億ズロチ(380億円、1ズロチ=約38円)が充てられる。市場へのポジティブな影響が期待される。
- 注:
- ポーランド代替燃料自動車協会(PSPA)は2024年4月、ポーランド・ニューモビリティー協会(PSNM)に改名。ポーランドおよび中・東欧地域において、持続可能な輸送の分野で活動する自動車メーカーやインフラ関連企業、エネルギー関連企業などの業界団体で、200社以上の企業が加盟している。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ワルシャワ事務所
金杉 知紀(かなすぎ ともき) - 2024年からジェトロ・ワルシャワ事務所で勤務。ポーランドの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ワルシャワ事務所
ニーナ・ルッベ - 2017年からジェトロ・ワルシャワ事務所に勤務。