約5年ぶりに自動車・バイクを輸入再開(スリランカ)
市場環境が変化、現地企業はどう見る

2025年6月2日

スリランカは2025年2月1日、約5年ぶりに自動車・バイクの輸入を再開した。

政府は、新型コロナウイルス禍の2020年3月から、自動車の輸入を制限していた。2022年には、深刻な外貨不足により経済危機に直面した。しかしその後は、外貨準備高が回復。今回の輸入再開は、経済危機から着実に回復した証しでもある。

スリランカでは、日本メーカーの自動車・バイクの人気が高い。実際、長年にわたって、日本からの最大輸出品目は輸送機器だった。また、日本の財務省貿易統計によると、2015年と2018年、中古乗用車の最大輸出先(金額ベース)はスリランカだった。

本稿では、(1)自動車・バイクの輸入再開による外貨繰りへの影響や、(2)自動車輸入に関して政府が新たに導入した制度、現地市場環境について整理する。


最大都市コロンボでは、日本の自動車やバイクが行き交う(ジェトロ撮影)

経済危機を克服し、一定の外貨準備高を確保

スリランカ政府は2025年2月1日から、自家用の自動車やバイク、公共交通用のバスや貨物輸送車両などについて輸入停止を解除した。

その重要な要因となったのが、外貨準備高の回復だ。外貨準備高は、海外労働者の郷里送金や外国人観光客増加の影響で増加傾向にある。また、月間輸入額を基準に割り出すと、2024年2月以降は3カ月相当額を超える水準で推移している(図参照)。

図:外貨準備高(左軸)、輸入額(左軸)、
外貨準備高/月間輸入額(右軸)の推移
スリランカの外貨準備高は、2018年から2020年前半までは70億ドル前後で推移していたが、2022年前半にかけて20億ドル下落した。2022年後半から回復を続け、2025年2月末現在では60億ドル強となっている。財の輸入額は10億ドルから20億ドルの水準で2018年から2025年まで推移しており、月間の輸入額を基準とする外貨準備高は、2018年から2020年前半までは3カ月相当額から6カ月相当額の水準で推移していたが、その後下落し、2022年前半には1カ月相当まで落ち込んだ。その後上昇を続け、2024年2月以降は3カ月相当額以上の状態を保っている。

注:2021年12月以降の外貨準備高には、用途が制限される中国人民銀行からのスワップ枠14億ドルが含まれる。
出所:スリランカ中央銀行資料からジェトロ作成

今回の輸入再開に当たっては、購買需要が短期的に集中する懸念もあった。しかし、輸入再開後も外貨準備高に大きな落ち込みはなかった。少なくとも当面は、輸入に支障ないとみられる。

スリランカ中央銀行によると、2025年2月末時点の外貨準備高は前月比0.8%増、60億3,300万ドルだった。財輸入額は前年同月比6.2%増、14億6,420万ドルだった。他方で、郷里送金額が前年同月比15.1%増の5億4,810万ドル、観光や運輸・物流などからなるサービス輸出額が前月比7.4%増の6億6,450万ドルになった。財輸入の増加分を上回る伸びを見せたかたちだ。

政府も、外貨繰りへの問題はないという姿勢を示している。例えば、アヌラ・クマーラ・ディサーナーヤカ大統領は2025年3月21日、国会で信用状(L/C)開設状況を明らかにした。同年2月1日に輸入を再開して以降、3月20日時点までに、約2億700万ドル相当額の開設があったという。あわせて、1年間で10億ドル分を自動車輸入に割り当てる計画を提示。さらに、政府は外貨準備高が圧迫されないよう、毎日モニタリングしていると説明した(ニュースサイト「economynext」3月21日、「NewsWire」3月22日)。

他方、直近では、米国との貿易が外貨準備高に与える影響に注目が集まる。米国のドナルド・トランプ大統領は4月2日、米国の貿易赤字額が大きい国・地域に対して、4月9日から「相互関税」を課すと発表。スリランカには44%の関税を課した。スリランカ輸出開発庁(EDB)によると、同国にとって米国は、国・地域別の財の輸出額全体の22.9%を占める最大の輸出先だ。今回の関税措置は大きな打撃になると予想される。トランプ大統領は4月9日、相互関税の適用を90日間停止すると発表した。もっとも、先行きは不透明だ。

自動車の輸入条件を厳格化

スリランカではこれまで、税制変更が自動車市場に大きな影響を与えてきた。今回の輸入再開時には、(1)物品税(Excise Duty)や(2)奢侈(しゃし)税(Luxury Tax)、(3)サーチャージ(Surcharge)などについて、改正した(注1)。

加えて、2025年1月31日付の臨時官報No.2421/44PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(389KB)で、新たに自動車輸入にかかる要件を課した(参考参照)。ジェトロがヒアリングした新車販売企業は「輸入者の条件が以前よりも厳格になっている。現時点では、全面的に輸入解禁したとは言いがたい。むしろ、条件付き輸入解禁とみるのが妥当だ」と語った(ヒアリング実施日:2月5日)。

表:輸入再開を機に導入した自動車輸入要件
2025年1月31日付臨時官報No.2421/44
条項 内容
6条1項(i) 自動車交通局(Department of Motor Traffic)に登録された輸入業者は、本官報5条に記載した自動車を必要な台数、販売目的で輸入することができる。
6条1項(ii) 6条1項(i)の登録輸入業者以外の輸入者は、輸入した自動車の税関申告書(Bill of Entry、CUSDEC)の発行日から12カ月以内に1台だけ、本官報5条に記載した自動車を輸入することができる。
6条1項(iii) 6条1項(i)(ii)の要件にかかわらず、政府機関や政府機関やスリランカ国内の外交団が与えた開発プロジェクトでは、本官報5条に記載した自動車について、必要な台数を輸入することができる。
6条2項(i) 6条1項(i)の輸入者は買い主の名義で、6条1項(ii)または6条1項(iii)の輸入者はその輸入者の名義で、輸入する自動車の税関申告書(Bill of Entry、CUSDEC)の発行日から90日以内に、自動車交通局に輸入自動車を登録しなければならない。
6条2項(ii) 本官報5条に記載した自動車登録のために、輸入者または買い主は、内国歳入庁発行の納税者番号(TIN)を含む宣誓供述書(アフィダビット)を、その他の必要書類とともに自動車交通局長官に提出しなければならない。
6条3項 輸入者が6条2項(i)で定められたとおり90日以内に輸入した自動車を自動車交通局に登録しなかった場合、当該輸入者は、輸入した自動車のCIF価格の3%分、月次延滞料を自動車登録時に自動車交通局長に対して支払う義務がある。月次延滞料は単利方式で計算し、延滞料の総額はCIF価格の45%を上限とする。
6条4項 あらゆる輸入者は、全ての輸入した車両のうち、6条2項(i)の90日以内の登録義務を満たさなかった車両が、本官報発出日から2026年2月末までのいかなる6カ月間で25%を超えた場合、最低36カ月間、自動車輸入が停止される。
7条 自動車の車齢とは、製造者の証明書または輸出検査証明書で言及された製造日から、当該自動車の船荷証券(B/L)または航空貨物運送状(Air Waybill)の発行日までの期間を意味する。
8条 本官報5条に記載したあらゆる自動車は、優遇税率で発行された自動車輸入許可証のもとでの輸入や通関は認められない。
9条 本官報5条に記載した自動車が本官報または他の現行規則に違反して輸入された場合、当該自動車は、各輸入者が費用を負担した上で、各輸入者により税関申告書(Bill of Entry、CUSDEC)の発行日から90日以内に再輸出されなければならない。
10条 認可を受けた銀行は、輸出入管理局長に対して、自動車の輸入のために開設した信用状に関する日次報告書を提出しなければならない。

出所:スリランカ財務・計画・経済開発省の2025年1月31日付臨時官報No.2421/44からジェトロ作成

また、ジェトロには複数の輸出者から、スリランカの銀行が自動車輸入のために開設した信用状を日本の銀行が買い取らなかったという相談を受けている。ジェトロが銀行側に確認したところ、各行で対応方針が異なるようだ。スリランカで銀行業務を実施し、日本にも支店を持つ外資系銀行や地場銀行によると、日本からスリランカへの自動車輸入目的で発行された信用状は全て問題なく決済に回っているという(ヒアリング実施日:3月10日、18日)。他方、日本の銀行によると、信用リスクや輸出書類などを総合的に判断した上で、スリランカで発行された信用状の確認(コンファーム)や買い取りをしないこともあるようだ(ヒアリング実施日:3月21日、4月9日)。

なお、ジェトロがスリランカ税関や現地の銀行に確認したところ、自動車輸入で可能な決済方法は信用状決済だけだ。すなわち、(1)支払い渡し(Documents against Payment:D/P)や(2)引き受け渡し(Documents against Acceptance:D/A)決済、(3)電信送金(Telegraphic Transfer Remittance:TT)などはできないということだった。

輸入停止期経て、現地の自動車市場に変化

スリランカの自動車市場を取り巻く国内外の環境は、輸入を停止していた約5年間で大きく変化した。セイロン自動車貿易協会(Ceylon Motor Traders’ Association:CMTA)前会長のチャラカ・ペレーラ氏に、当地の自動車市場環境について聞いた(インタビュー日:2月18日)。なお、CMTAは、海外自動車メーカーの正規輸入代理店で構成する団体だ。

質問:
自動車の輸入再開をどのように評価しているか。
答え:
輸入再開を非常に歓迎している。当会の会員企業は既に数百の顧客から注文を受けている。
質問:
スリランカでは2022年に経済危機が発生し、現地通貨スリランカ・ルピーの為替レートが下落した。また、自動車を購入する際には、物品税など複数の税がかかる。これらが消費者の購買力に与える影響をどのようにみているか。
答え:
ミドルエンドからハイエンドの消費者には、新車に根強いニーズがある。国内で流通する中古車の品質が劣化することを気にしているようだ。
他方、新車は高額で、ローエンドの消費者層にとっては購入が難しくなったとみている。
質問:
比亜迪(BYD)など、新たにスリランカ市場に参入する中国ブランドの電気自動車(EV/2024年8月29日付ビジネス短信参照)がある。従来のガソリン車との競争をどのようにみているか。
答え:
中国ブランドの自動車は、価格面で優位に立つだろう。また、EVに適用される物品税率は、ガソリン車よりも低い。スリランカでは2014年にEVへの税制優遇措置を実施した。結果として、多くのEV輸入に至った(2022年3月31日付地域・分析レポート参照)。
通常、EVのCIF価格は、同レベルのガソリン車より4割ほど高価になる。しかし、優遇税制によってEVには相当程度の価格面の優位性が生じた。ただしこの場合、大幅に外貨が流出する一方で、税収は減少してしまう。そのため、当協会では、EVにかかる税収の問題点を提起。その結果2025年1月31日、政府はEVに対する物品税率を100%引き上げた(税率が2倍になった)。
質問:
韓国の現代自動車やインドのマヒンドラ&マヒンドラなど、非日系ブランドの一部車種は、スリランカ国内で組み立てて販売している。現地で一定以上の付加価値をつけた乗用車は、物品税の減免も受けられる(注2)。国内組み立て車と輸入完成車との競争をどのようにみているか。
答え:
海外の完成車を好む消費者もいれば、国内で組み立てられた自動車を好む消費者もいるだろう。国内の組み立て事業者は、確かに物品税率の優遇を受けられる。しかし、組み立てに必要な輸入部品にかかるコストが大きい。最終的な費用を組み込んだ小売価格では、大差ない。
一方、国内では、組み立てに必要な自動車部品の製造に取り組む事業者が増えてきた。輸出に取り組む動きもある。政府は2025年度(暦年に同じ)国家予算で、自動車部品製造に関する工業団地の育成に向け、予算を拠出する予定だ。

日本の自動車・バイクは高い存在感維持、自動車部品製造の事業機会も

2025年5月現在、輸入再開に伴い、新しい自動車やバイクも街中でちらほら見かけるようになった。コロンボ市内では中国BYDの車両も見かけるようになった。とは言え、スリランカの市場全体では展開数がまだ限定的だ。日本の自動車・バイクは、依然として高い存在感を誇る。

加えて、当地では輸入停止を契機に、自動車部品製造に関心が高まっている。伊藤スプリング製作所は既にスリランカで自動車のハーネス部品を製造し、各国に輸出している(2023年2月27日付地域・分析レポート参照)。(1)低廉な人件費や、(2)南アジア地域の主要な海路・航路上にあるという地理的優位性、(3)コロンボ港が代表する物流インフラ、(4)当地で産出する原材料(天然ゴムや黒鉛など)などを活用すると、新たな事業機会も生まれるだろう。

スリランカでは現在、輸出金額の相当程度衣料品が占めている。今後の経済発展に向けては、新たに輸出産業を育成しなければならない。それが、スリランカの経済成長につながる。

この点からも、日本の自動車部品製造企業がスリランカに新たに進出することを期待したい。


注1:
個々の品目にかかる詳細の税率はスリランカ税関のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで確認できる。また、各税の詳細については2025年1月22日付2025年2月4日付ビジネス短信を参照。
注2:
自動車の輸入停止期間中も、一部は輸入可能だった。具体期には、(1)所管する産業の大臣が推奨している、(2)スリランカ国内で付加価値を付けた新部品を一定程度使う(自動車で20%以上、バイクで25%以上)、(3)現地で組み立てまたは製造する車両について、販売を認めていた。
なお(3)に関しては、産業・起業家開発省の標準作業手順書(Standard Operation Procedures)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.31MB)に従う必要がある。要件を満たすと、付加価値の割合や車齢、動力源に応じて物品税の減免を受けることができる(2025年1月22日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所長
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課、ジェトロ京都を経て現職。