燃料危機を乗り越え、品質管理認証を武器に輸出拡大(スリランカ)
日系企業ランカ・ハーネスの取り組み

2023年2月27日

スリランカでは、2022年春から経済危機に陥った(注1)。これに、燃料不足が深刻な影響を及ぼしている。この状況下、現地に進出している日本企業はどのような課題に直面し、どのように乗り越えているのか。

ランカ・ハーネス(本社:伊藤スプリング製作所、愛知県大府市)は、自動車や家電などに使用する電子ハーネス製品をスリランカで製造する企業だ。そのロハン・パレワッタ(Rohan Pallewatta)社長と、石倉昌和シニアエグゼクティブマネージャー(注2)に話を聞いた(インタビュー日:2023年1月9日)。


石倉氏(左)とパレワッタ氏(右、ジェトロ撮影)。

スリランカから、世界各国にハーネス部品を輸出

質問:
ランカ・ハーネスの概要について。
答え:
自動車のシートベルトなどに使われるハーネス部品を製造・販売している。2003年にスリランカで法人を設立。ビヤガマの輸出加工区に工場を構える。現在の従業員は480人程度だ。シートベルトのシート側に装着する(メス側)部品は、自動車メーカーと車種ごとに大きく異なる。そのため、単純に機械化することが難しい。ほとんど工程を手作業で製造せざるを得ない。
現在は、海外の自動車メーカーが主な販売先だ。ルーマニアや日本を中心に、韓国、中国、マレーシア、タイ、インド、ブラジル、ロシア、ドイツ、ポルトガルに輸出している。新規の引き合いも世界中から集まってきている。
質問:
会社の強みは。
答え:
製品の品質の高さには定評がある。バイヤーからの口コミを契機に、新たな海外バイヤーから引き合いが来ることもある。同業他社から、部品の一部を提供してほしいという依頼を受けることさえあった。
高い品質を保持するため、従業員の教育に注力している。その現れが、日本本社での研修制度だ。半年ごとに5人ほどが対象。これまでに100人以上を派遣してきた。従業員にとって、この研修は強い魅力になっている。当社では、休憩時間に日本語教室を無料開催しているが、多くの従業員が日本語を自発的に学んでいる。

従業員の強い責任感で燃料危機克服

質問:
スリランカの経済危機を通じ、工場の操業にどのような課題が生じているか。
答え:
商品の供給態勢を維持するのが、最大の課題だ。スリランカに経済危機が生じていようとも、バイヤー側と約束した納期は守らければならない。特に2022年6月から8月上旬にかけての時期が大変だった。燃料不足がいまだ経験がないほど深刻化したからだ。公共交通機関の確保しにくくなり、従業員が出勤するのにも支障が出ていた。
もっとも、納期を守ることが大変な状況は経済危機以前からだ。新型コロナ禍によって国際物流が混乱し、日本から部品を輸送する海上コンテナの到着が遅れていた。通常1カ月で到着する部品が2カ月もかかるようになった。こうした事態により、一部の部品を空輸せざるを得ない状況になった。現在は物流の混乱が正常化しつつある。それでも、いまだに部品の到着には1カ月半程度かかっている。
さまざまな工夫を通じて供給態勢を維持している。その一方で、空輸や燃料の確保にかかる費用や人件費の上昇など、間接的な経費が大きく拡大している。通貨スリランカ・ルピー安により、輸出を通じた為替の差益が生じたというメリットもあった。だが、新たな出費が現在も続いている。電力不足から長時間の停電に直面した。自社の発電機を活用することで対応したものの、ディーゼル燃料の確保に費用がかかっている。
質問:
未曽有の燃料不足が引き起こした事態に対して、具体的にどのように乗り越えたのか。
答え:
従業員の出勤を確実に維持するため、出勤用のバス18台を新たに自社で確保した。私(石倉氏)自身も、自らバスや乗用車のハンドルを握った。
それにしても、燃料代は平時の3倍以上に跳ね上がっていた。少しでも節約しなければならない。そのため、1台のバス、1台の乗用車を常に満員で走行させようとした。たとえ数人の従業員でも便乗させ、通勤経路を往復したことを覚えている。
バスを運行させる上では、効率的かつ確実な燃料の補給が重要だった。そこで、補給状態に応じて出勤ルートやバスの本数、運行時間帯などを毎日幾度となく調整することにした。燃料不足下でも、一部地域では給油が可能で、地域ごとで状況が異なっていたためだ。
当時は、「あの地区に給油が可能なガソリンスタンドが見つかったので、複数のバスをそこへ向かわせて給油してもらおう」とか、「この地区にはバスを3往復させよう」「この地区の従業員は出勤時間をこの時間に変更しよう」といった情報を専属の運転手や自社の従業員が随時グループチャットで共有した。そうした情報共有を通じ、緻密なパズルのように運行ルートを何とか組み合わせることができた。運送会社の配車担当も顔負けの水準だったに違いない。
こうした効率化を通じ、特に燃料不足が深刻だった2カ月ほどの期間を何とか乗り切った。深夜や早朝も寸暇を惜しんで自発的に連絡してくれた責任感の強いスタッフに頭が上がらない思いだ。経営層と従業員が家族のように信頼し合う組織だからこそ、乗り越えられた。
質問:
物価上昇の影響は。
答え:
従業員の給与の引き上げを検討している。ただ、所得税の増税についても考慮せざるを得ない。そのため、どの程度引き上げるべきか、慎重に詰めているところだ。
また、福利厚生として従来実施してきた朝・昼・晩の3食の提供は、物価が上昇しても維持している。この福利厚生をやめた場合、従業員が食事を抜く可能性がある。そうすると、十分な栄養を確保できずに集中力が低下し、生産や検査に支障が生じかねない。製品の品質を保持する上で、従業員の健康は重要だ。

各自のライスとカレーを混ぜ合わせ、幾つもの味を重ね合わせてさまざまな味を楽しみながら
仲良く昼食をとる従業員(ジェトロ撮影、注3)。
質問:
従来、輸出している企業など、特定分野の企業に対する法人税は14%だった。しかし、2022年12月の内国歳入法の改正により、2022年10月にさかのぼって30%に増税することになった。この法人税上昇をどのように受け止めているか。
答え:
製品を輸出している企業にとって、かなり影響が大きい。輸出を通じて獲得した利益が増税によって失われてしまう。スリランカの製造環境が他国と比べて魅力が低下することになる。このため、(近隣の)インドやバングラデシュ、ベトナムなど、他国生産を検討する企業も出てくるのではないか。これが本当に公共の利益に資することなのか、疑問も抱いている。
スリランカは日本と投資保護協定を締結している。そうした国際約束の下で、日本の投資家の利益を適切に保護することが約束されていることになる。また、スリランカに進出した日本企業の多くがスリランカ投資委員会(BOI)と投資内容に関して、契約を締結している。そこで法人税率を記載している企業もある。そうした企業にとって、仮に契約で定めた税率がほごにされるとすると、契約違反になる。国連加盟国のスリランカは、国際的な約束を順守するべきだ。さもなければ、新たな投資を呼び込むこともできなくなるだろう。

自動車管理マネジメントの認証を武器に輸出拡大へ

質問:
スリランカでビジネスを展開するメリットは。
答え:
特に欧州に近いという地理的観点から、大きなメリットがある。スリランカからスエズ運河を経由して地中海に面する国々へ、さらにトルコのボスポラス海峡を経由して黒海に面する東欧諸国へ、それぞれ容易に船で輸送することが可能だ。これは、日本や東南アジアと比較して大きな利点になる。
また、かなり視力が強い人材がいる。検品作業で拡大鏡を通して見てもやっと気づくような違いに、肉眼で気づくスタッフには驚いた。
そのほか、BOIから認可を受けられると、幾つかの面でメリットがある。当社の場合、例えば輸出する製品に使用する資材の輸入に当たり、免税措置を享受できている。
輸出入で円滑な通関手続きも評価している。

検品をする工場のスタッフ(ジェトロ撮影)
質問:
今後のビジネスについて。
答え:
2022年2月に、IATF16949の認証を得た。これは自動車産業の品質管理に関する国際規格で、取得はスリランカの企業として初になる。自動車部品のサプライヤーとして、適切な品質管理を実施できていることの表れといえる。今後新たに海外顧客を開拓していく上で、重要な武器にしていきたい。

IATF16949の証明書(ランカ・ハーネス社提供)

注1:
スリランカ経済危機の背景や現状に関しては、例えば「危機の背景に脆弱な経済構造」を参照。
注2:
両氏の関係は、単なる業務上の関係という以上に深い。1980年代、パレワッタ氏がまだ高校生だった時、石倉氏の日本の実家にホームステイしていたことがあるのだ。すなわち、かれこれ30年以上の付き合いがあることになる。 当時は、スリランカ人が日本に留学できること自体、極めて珍しかった。日本人のスリランカに対する知識も限られていた。せいぜい、テレビ番組「ズームイン!!朝!」でおなじみのウィッキーさんか、セイロンティーで知られる程度だった。
注3:
スリランカでは一般的に、カレーを手で食べるが、製品への異物混入を防ぐため同社の社員はスプーンで食べている。また、米粒などの食べこぼしが体に付着することも防ぐ必要があるため、食後には必ず鏡の前でユニフォームをブラッシングしている。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所長
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課、ジェトロ京都を経て現職。