BEV市場は拡大も、脱炭素モビリティーの多様化が進行(ブラジル、タイ)
2025年6月4日
ブラジルにおける中国資本系(以下、中資)自動車メーカーの台頭が著しい。日系自動車メーカーの一大生産拠点であるタイでも、中資系によるバッテリー式電気自動車(BEV)生産が拡大している。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の電動車市場は過去最高となり、内燃機関車を含む自動車市場の2割を占めるまでに成長した。中資系メーカーがタイやブラジルといった新興国でBEV市場を牽引する中、今後もBEV生産は増加し続けるのか。両国の市場動向や政策を概観しながら分析する。
ブラジルで増加する中資系自動車輸入
ブラジルの2024年(1~12月)の自動車(乗用車、商用車、バス、トラックの合計)生産台数は前年比9.7%増の254万9,595台、国内販売台数(新車登録ベース)は前年比14.1%増の263万4,904台だった(注1)。生産台数では、スペインを抜いて世界第8位だった(注2)。ブラジルの全国自動車販売業者連盟(Fenabrave)によれば、2024年は新車や中古車の購入に伴う信用の供与が36%増加し、自動車ローンの拡大による販売台数の増加が生産増を牽引した。ブラジルは、人口2億1,760万人の巨大な国内市場を抱えるため、内需の強さが生産台数に与える影響が大きい。なお、輸出台数は39万8,484台で前年比1.3%減少した。主要輸出相手国のアルゼンチン向けが減少したのが主因。アルゼンチン向けはブラジルからの自動車輸出額全体の約3分の1を占める(注3)。
2024年のブラジル自動車市場の特徴として挙げられるのが中資系自動車メーカーの台頭だ。ブラジル電気自動車協会(ABVE)によれば、2024年のブラジルにおける環境車(バッテリー式電気自動車〔BEV〕、プラグインハイブリッド車〔PHEV〕、ハイブリッド車〔HEV〕含む)の新車登録台数は17万7,358台と過去最高を記録した。割合でみれば、国内販売台数の7%弱を占めるに過ぎない。ただ、2023年が9万3,927台だったことを考えると急増している。この増加を牽引しているのが中資系メーカーだ。ブランド別でみると、比亜迪(BYD)の販売台数が最も多く7万6,863台で全体の43.3%を占める(表1参照)。次いで、長城汽車(GWM)が2万9,219台で16.5%を占めている。なお、全販売台数を企業ブランド別で比較すると、リオデジャネイロ州に自社工場を保有する日産の国内販売台数が8万7,460台で、BYDが日産に迫る勢いを見せている(表2参照)。
ブランド | 台数 | 割合 |
---|---|---|
BYD | 76,863 | 43.3 |
GWM | 29,219 | 16.5 |
トヨタ | 20,358 | 11.5 |
ボルボ | 8,631 | 4.9 |
CAOA | 7,321 | 4.1 |
メルセデスベンツ | 6,287 | 3.5 |
BMW | 4,720 | 2.7 |
フィアット | 3,842 | 2.2 |
ホンダ | 3,156 | 1.8 |
ランドローバー | 3,065 | 1.7 |
KIA | 2,303 | 1.3 |
JAC | 1,992 | 1.1 |
その他 | 9,601 | 5.4 |
合計 | 177,358 | 100.0 |
出所:ABVE
ブランド | 台数 | 割合 |
---|---|---|
フィアット | 672,287 | 25.5 |
フォルクスワーゲン | 400,457 | 15.2 |
GM | 315,114 | 12.0 |
トヨタ | 204,942 | 7.8 |
現在 | 203,742 | 7.7 |
ルノー | 139,216 | 5.3 |
ホンダ | 91,468 | 3.5 |
日産 | 87,460 | 3.3 |
CAOAチェリー | 63,543 | 2.4 |
プジョー | 61,972 | 2.4 |
その他 | 394,703 | 15.0 |
合計 | 2,634,904 | 100.0 |
出所:Anfavea
注目すべきは、BYDおよびGMWの環境車がいずれも輸入車である点だ。ブラジルは乗用車の最恵国待遇(MFN)税率が35%と高額だが、2025年5月時点でBEV、PHEV、HEVには輸入関税の減免措置が適用されていることから、輸入車にコストメリットがある。BEVは2億2,600万ドルまで、PHEVは1億6,900万ドルまで、HEVは9,700万ドルまで関税無税で輸入できる。これらの上限枠を超えた場合、BEVには18%、PHEVは20%、HEVは25%の輸入関税が賦課される。なお、当該措置は段階的に廃止され、2026年7月以降はこれらの環境車にも輸入時にMFN税率(35%)が適用される(注4)。
ブラジル政府がこうした措置を講じる背景には、政府が2023年に発表した新自動車政策(Mobilidade Verde:通称「MOVER」)がある(注5)。MOVERは、ブラジル自動車市場の脱炭素化や競争力強化を目指すもので、企業は連邦税の控除や輸入関税の免税を受けることができる。例えば、車両製造で環境負荷を少なくした企業や、エネルギー効率の高い車両を製造および輸入する企業に対して、連邦税の一種であるIPI(工業製品税)の減税恩典が適用される。また、国内調達が不可能な自動車部品を輸入する企業は、輸入時の関税が免除される。ただ、いずれも現地生産やR&D(研究開発)拠点の設立を行うことが前提だ。具体的には、R&D拠点設立や生産にかかる投資金額に応じて、投資額1レアル(1レアル=約25円)当たり0.5~3.2レアルの税控除を受けることができる。また、輸入額の2%相当額を研究開発に拠出する企業は、国内調達不可能な自動車部品に対する輸入関税が免除される。
タイのBEV推進策で中資系自動車メーカーの投資が急増
中資系自動車メーカーは、これまで日系自動車および部品メーカーの牙城だったタイでも勢いを増している。タイ工業連盟(FTI)によれば、2024年(1~12月)の国内販売台数(57万2,675台)のうち、中資系自動車メーカーのシェアは11.6%と前年比0.7ポイント増加した。日系自動車メーカーのシェアは76.7%と前年比1.1ポイント減少し、依然として高い水準ではあるものの、前年に引き続き国内販売全体のシェアの8割を切る結果となった(注6)。タイは言わずと知れた内燃機関車の一大生産・輸出拠点だ。他方で、自動車産業の高度化を目指すタイ政府は、中期国家戦略「第13次経済社会開発計画(2023~2027年)」の中で、ゼロエミッションカー産業の振興を掲げ、自動車の脱炭素化や産業の競争力強化を図る。タイ政府が推進する「30/30政策」は、2030年までにタイで生産される自動車の30%をBEVにする施策だ。これに基づき、2022年からはBEV普及策として「EV3.0」が、2024年以降は「EV3.5」が導入されている。2022~2023年まで導入された「EV3.0」では、BEV生産者向けに輸入関税の引き下げや物品税の減免を付与し、BEV購入者向けには最大15万バーツ(約66万円、1バーツ=約4.4円)の補助金を支給した(注7)。これがタイにおけるBEV市場の急速な拡大に寄与し、政府は2024年以降も2027年までの4年間を対象に、「EV3.0」の後続策「EV3.5」の導入を決定した。「EV3.5」では、補助金額を最大10万バーツまで引き下げたものの、引き続き輸入関税および物品税の減免や販売補助金を供与している。
こうしたタイ政府の政策に反応したのが中資系メーカーだった。海外直接投資に関するデータベースのfDiマーケッツ(公表日ベース)を参照すると、ここ数年で「自動車(OEM)」分野で中資系メーカーのタイ向け投資が相次いでいる。「EV3.0」および「EV3.5」の恩典を享受してBEVを輸入・販売するためには、一定量の現地生産が求められるためだ。具体的には、2023年に「EV3.0」を活用してBEVを販売したメーカーは、2024年中に販売台数と同数を現地生産しなければならず(注8)、「EV3.5」では、2026年までにタイで生産を開始した場合、当該補助金を受けて輸入したBEVの2 倍以上、2027年までに生産開始した場合は、3倍以上のBEV現地生産が求められる。欧米諸国では中資系BEVに追加関税が課されるなど、中資系自動車メーカーにとって厳しい状況が続く。こうした中、中資系メーカーBEV産業を振興するタイでの生産を本格化した。fDiマーケッツによれば、2022年にはBYDがBEVの生産拠点設立で4億9,100万ドルの投資を発表した。2023年は、「自動車(OEM)」の対タイ投資件数8件のうち、中国企業の件数が6件と最大だった。合衆新能源汽車(HOZON)のBEVブランド哪吒汽車(NETA)が中国国外で初のノックダウン生産拠点設立で2億960万ドル、長安汽車(Changan)がBEV生産拠点設立で2億8,600万ドル、広州汽車集団(GAC)が展開するBEVブランドのAIONが東南アジアの生産拠点ハブ設立で3,190万ドル、奇瑞汽車(Chery)がBEVのノックダウン生産拠点設立で2億960万ドルの投資など、中資系メーカーが相次いで大規模投資を発表した。
中資系のブラジル現地生産には課題も
ブラジルでも、中資系自動車メーカーの現地生産が進みつつある。本稿執筆時点で現地生産を開始している中資系メーカーは存在していないが、BYDとGWMは2025年からの現地生産を発表している。BYDは、ブラジル北東部バイーア州カマサリ市のフォードの工場跡地に55億レアルを投資して自社工場を設立し、BEVおよびHEV生産やリチウムイオン電池バッテリーの材料加工を行う予定。さらに、バイオエタノールで走行するHEVの開発に向けたR&D拠点を設立することも明らかにしている(注9)。ただ、2024年12月には、工場建設中だったBYDに対しブラジル政府が、「従業員の労働環境が過度に劣悪である」として、BYDの下請け企業として建設に携わっていた中国の建設会社の労働者の労働ビザを一時的に剥奪した。こうした事情により、工場の稼働は予定よりも遅れているとみられる。
GWMは、バイーア州イラセマポリス市のメルセデス・ベンツの工場を買収し、2024年にGWMブランドで最も国内販売台数の多かったHEVの「HAVAL H6」を、2025年中に生産開始する予定だ(注10)。GWMは当初、ブラジルでEV(電気自動車)のピックアップトラックのノックダウン生産を予定していた。だが、関税減免措置の廃止を踏まえ、さらに、ブラジルで生産される自動車の主要輸出先であるアルゼンチンに関税無税で輸出することを見越し、計画を変更した。特恵貿易協定の原産地規則を満たしてアルゼンチンなどに無税で輸出するため、2026年までに現地調達率を60%まで引き上げる(2024年11月25日付現地自動車情報誌「アウトデータ」)。ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領が2025年5月12~13日に中国を公式訪問した際、ルーラ大統領は北京でGWMの幹部と会い、改めてGWMがブラジルを南米諸国およびメキシコ向けの輸出拠点と位置付けていることを確認した(2025年5月12日付現地紙「ポデール360」)。
ブラジルは、最大の輸出先であるアルゼンチンを含め、隣国の南米諸国やメキシコと自動車協定を締結している。アルゼンチンと締結するラテンアメリカ統合連合(ALADI)経済補完協定14号(ACE14号)(通称「ブラジル-アルゼンチン自動車協定」)では、第44次追加議定書により、完成車の域内原産割合(RVC)は50%と規定されている(第4条)(注11)。メキシコと締結するALADIのACE55号付属書Ⅱ(通称「メキシコ-ブラジル自動車協定」)では、第7次追加議定書により、完成車のRVCは40%だ(第4条、注12)。ブラジルが加盟する関税同盟メルコスールでは自動車および同部品は域内自由化されていないため、ブラジルはメルコスール加盟国であるウルグアイやパラグアイともそれぞれ自動車協定がある。そのため、GWMのようにブラジルを中南米諸国向けの輸出拠点にするためには各種協定の原産地規則を満たす必要があり、いかに現地調達を増やせるかが課題となるだろう。
タイのBEV生産は今後も拡大見込み
IEAが5月14日に公開した「Global EV Outlook 2025」によれば、世界の電動車市場は拡大し続けている。2024年の世界の電動車の販売台数は過去最高となる1,750万台で、内燃機関車を含む自動車販売の2割を占めるまでに成長した。メーカーおよびパワートレイン別にみると、中資系BEVの販売は、2023年の540万台から640万台へと前年比18.5 %増加した。なお、前年比で最も伸び率が高かったのは中資系PHEVで、2023年の270万台から2024年は490万台へ81.4%増加した。同レポートではその他にも、中資系自動車メーカーの海外投資が進み、ブラジルやタイといった新興国が新規工場の設立先になっている、と伝えている。両国における中資系自動車メーカーの動向は先述の通りだが、タイやブラジルが進出先に選ばれる理由として、両国が有する市場規模に加えて両国政府の自動車政策やこれに付随ずる恩典が挙げられている。
こうした状況下で、今後も両国におけるBEV生産および販売は増加するのだろうか。タイでは、先述したタイ政府によるBEV補助金を活用した中資系自動車メーカーの工場設立が相次ぎ、BEVの供給過多が起きつつある。BEV補助金は、恩典を享受するために一定量の現地生産が求められるが、タイにおける景況感の悪化などに伴う自動車市場の縮小や、隣国のインドネシアなどと比較しても決して大きくない内需も相まって、BEVが過剰に供給される状況になっている(注13)。
貿易統計データベースのGloba Trade Atlasによると、HSコード8703.80に分類されるBEVの2024年のタイから世界向け輸出額は3億6,096万ドルで前年比5倍以上増加した。2022年(234万ドル)比では、150倍以上も増加している。2024年のタイからのBEVの最大の輸出先は日本で、輸出額全体の52.2%を占める。次いで多いのが、メキシコやフィリピンなどのASEAN諸国だ。輸出先上位10カ国・地域のうち、メキシコ、台湾、スリランカ、フランス領ポリネシア以外は、タイと自由貿易協定(FTA)を締結している(表3参照)。2024年のタイの自動車生産台数は146万9,000ドル(注14)と国内販売台数の2.5倍以上で、タイが有する17のFTAがタイの自動車市場を支えている。タイ政府は引き続きFTA網の拡大を図っており、直近では2025年4月にブータンとのFTAに署名し、2025年1月には欧州自由貿易連合(EFTA)とのFTAに署名するなど積極的だ(注15)。これらを鑑みると、タイ政府が目指す2030年までに自動車生産の3割をBEVにする政策もあり、中期的には中資系を中心にBEV生産拡大が予想される。
輸出相手国 | 金額 | 割合 |
---|---|---|
日本 | 193,287 | 52.2 |
メキシコ | 91,450 | 24.7 |
フィリピン | 29,512 | 8.0 |
台湾 | 23,086 | 6.2 |
シンガポール | 9,272 | 2.5 |
スリランカ | 4,173 | 1.1 |
マレーシア | 2,140 | 0.6 |
フランス領ポリネシア | 1,692 | 0.5 |
インドネシア | 1,360 | 0.4 |
ラオス | 931 | 0.3 |
出所:GTA
存在感を増すタイでのHEV生産
タイの自動車産業が転換期を迎える中、ブラジルにおけるHEVの対タイ輸入が急増している。両国間の貿易では、ブラジルはタイから、伝統的に二輪車や自動車関連の部品を多く輸入してきた(注16)。ただ、2024年のブラジルの対タイ輸入のうち、最大の輸入品はHSコード8703.40に分類されるHEV(1億2,558万ドル)だった。前年比6倍に増加した。タイとメルコスールの間にFTAは存在しないが、先述のブラジル政府によるHEV向け輸入税減免策もあり、タイ産HEVにコストメリットが生まれているとみられる。
タイでは、日系メーカーを中心にHEV生産が行われており、トヨタが2023年から生産する「ヤリスクロス」の販売が好調だ。2025年4月には三菱自動車が「エクスフォース」のHEVの出荷を開始するなど、HEVで日系が存在感を示している。中資系では、上海汽車(SAIC)グループ傘下の名爵(MG)が2025年中にタイでのHEV生産開始を発表している(2025年5月18日付タイ現地紙「タイ・タイムス」)。
タイ政府は、PHEVやHEVも技術移転や人材育成の観点から重要視する。「第13次経済社会開発計画(2023~2027年)」によれば、タイはBEV産業を自国の新たなリーディング産業として確立すべく、その過程でPHEVやHEV生産によってもたらされる技術移転、大気汚染改善やGHG(温室効果ガス)排出削減といった環境対策に期待を寄せる。同計画では、2030年までに、国内販売台数の50%(44万台)を燃料電池自動車(FCEV)とする目標を立てている。2024年7月にはHEVに課される物品税の引き下げ措置を承認し(注17)、2024年12月には60ボルト以下の電気系統を搭載したHEV、いわゆるマイルドハイブリッド車(MHEV)の物品税も引き下げた(注18)。こうした、タイ政府による内燃機関を活用するモビリティー開発や脱炭素政策は、ブラジルの政策と親和性がある。ブラジル政府が供与するHEV向け輸入税恩典が終了する2026年6月までは、タイからのHEV輸入が継続するとみられる。
バイオ燃料を活用した内燃機関車の推進が見込まれるブラジル
ブラジルにおける今後のBEV販売動向はどうか。ブラジルの自動車市場で特徴的なのは、内燃機関車が強い市場であることだ。Anfaveaが公開している2024年のパワートレイン別新車登録台数を見ると、ガソリンとサトウキビ由来のエタノールを混合した燃料で走行するフレックス燃料車(Flex-Fuel Vehicle, FFV)のシェアが最も大きく全体の74.7%、ディーゼル車14.7%、ガソリン車3.9%と内燃機関車が国内版売の約93%を占めている(表4参照)。ABVEが公開する、パワートレイン別国内販売台数の推移をみると、中資系メーカーが得意とするBEVがシェアを伸ばす中、日系メーカーが生産に注力するPHEVもシェアを拡大していることが分かる(図参照)。
項目 | ガソリン | エタノール | FFV | 電気(EV) | ガス | ディーゼル | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
台数 | 102,484 | 20 | 1,967,275 | 178,183 | 291 | 386,651 | 2,634,904 |
割合 | 3.9 | 0.0 | 74.7 | 6.8 | 0.0 | 14.7 | 100 |
出所:Anfavea

出所:ABVE
ブラジルでは、1970年代の第一次オイルショックで石油輸入が滞ったことから、輸入燃料への依存を軽減するべく、1975年にガソリンの代替燃料としてサトウキビ由来のバイオエタノール生産および利用拡大を目指す「国家アルコール計画」を導入した。同政策は1990年に終了したが、現在に至るまで、ブラジルはサトウキビやサトウキビ由来のエタノール生産を拡大するとともに、エタノール燃料に対応する自動車の開発や生産を続けてきた。
こうしたバイオ燃料の研究や活用は、ブラジルの中長期的な自動車政策にも影響を与えるとみられる。2024年10月に国会承認された、持続可能な低炭素モビリティーを促進するための法律第14,993号(通称:未来の燃料法)では、ガソリンへのエタノール混合率が今後強化されることが明らかになった。現在は、ガソリンに27%のエタノールを混合することが義務付けられているが、今後は混合率が最大35%まで拡大される(注19)。なお、2021年にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が行った予測によれば、ブラジル自動車サプライチェーン全体の経済活動から排出されるGHGを比較した場合、ブラジルで2035年までに電動車を主体とした市場とバイオ燃料車の普及率を高めた市場では、後者のGHG削減効果の方が、前者と比較して高いことが明らかになった。世界的にモビリティーの脱炭素化が求められる中、ブラジル政府は多様な環境車を導入しつつも、伝統的なフレックス燃料車を最大限に生かしGHG排出削減を目指していくものとみられる。
もう1点、ブラジルにおけるBEV販売動向を分析するにあたり重要なのが、BEVの中古車市場での販売価格動向だ。ブラジルの全国中古自動車販売協会連合会(FENAUTO)によると、2024年の中古車市場(二輪車を含む)は活況を呈し、国内販売台数は過去2番目の高水準となる1,577万7,000台(前年比9.2%増)だった。13年以上前の年式の中古車の販売台数が最も多く、乗用車ではフォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)、フィアット(FIAT)、商用車ではトヨタのピックアップトラック「ハイラックス」など、新車市場でも人気のメーカーや車種が販売を伸ばしている。中古車販売サイトのウェブモーターズをみると、走行距離にもよるものの、中古車の販売価格が新車と比較して2割ほどしか落ちていない車種があるのも特徴だ。ブラジルでは、多くの国民にとって新車購入は高額な買い物だが、中古車市場でのリセールまでを見越して購入する人が多い。ブラジルにおけるBEV販売はまだ一巡していないため、多くのBEVはまだ中古車市場には出回っていないと思われる。そのため、ブラジル中古車市場でのBEVリセール価格は現時点では分からない点が多いものの、内燃機関車と比較して価格は低くなるとみられる。タイ大手金融機関アユタヤ銀行のレポート(2025年1月27日付)によれば、中古車市場が拡大している欧州では、2023年時点で3年以上の年式のBEV中古車のリセール価格は、内燃機関の中古車と比較して3%~7%低い。その理由として、BEVバッテリーの寿命に対する懸念が挙げられている。ただ同レポートでは、BEVはバッテリー技術も含めて技術革新のスピード感が早いこと、また中古車市場自体がまだ小さいため、中古車のリセール価格を評価するには時期尚早であることも強調されている。今後の中古車BEVの販売価格動向が、ブラジルにおける継続的なBEV販売につながるかのカギを握ることにもなりそうだ。
- 注1:
- ブラジルの全国自動車製造業者協会(Anfavea)2025年版年次レポートによる。
- 注2:
- 世界自動車工業会(OICA)が発表した、2024年の大型バス・トラックを含む生産台数の国別ランキングは、台数の多い順に、中国、米国、日本、インド、メキシコ、韓国、ドイツ、ブラジル、スペイン、タイ。
- 注3:
- ブラジルからの主要輸出先は、アルゼンチンに加えて、米国(輸出額全体の16.8%)、メキシコ(13.2%)、EU(5.8%)向けが多い。
- 注4:
- 詳細は、2023年12月5日付ビジネス短信参照。
- 注5:
- MOVERでは、燃費効率・二酸化炭素(CO2)排出量に関して設定された義務的要件をクリアした車両に対してIPIの減税が受けられる。2025年4月16日には、それぞれの車両が達成すべき燃費効率やCO2排出量の基準に関する詳細を規定した政令第12435号が公布された。詳細は、2025年5月1日付ビジネス短信参照。
- 注6:
- 詳細は、2025年2月6日付ビジネス短信参照。
- 注7:
- 詳細は、2025年2月28日付地域・分析レポート参照。物品税は、特定の商品およびサービスに対して課税されるもので、乗用車も課税対象。詳細は、ジェトロ「タイ税制」参照。
- 注8:
- 2025年に延期した場合は、2023年に販売した台数の1.5倍のBEVを現地生産しなければならない。
- 注9:
- 詳細は、2024年3月26日付ビジネス短信参照。
- 注10:
- 詳細は、2025年3月31日付ビジネス短信参照。
- 注11:
- 第44次追加議定書には、2029年7月1日以降は両国間の自動車・自動車部品貿易が自由化される旨が記載されている。
- 注12:
- 対メキシコのRVCは積み上げ方式のRVCであるため、原産材料の価格しか足し上げられず、労働コストや経費が非原産扱いとなってしまうため、見た目の閾値(いきち)よりも厳格な基準だ。詳細は、2015年4月8日付ビジネス短信参照。
- 注13:
- 詳細は、2024年12月16日付地域・分析レポート参照。
- 注14:
- 世界自動車工業会(OICA)発表による。
- 注15:
- 詳細は、2025年4月23日付ビジネス短信参照、ジェトロFTAデータベース参照。EFTAの加盟国は、アイスランド、スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン。
- 注16:
- ブラジル商工開発省の貿易データCOMEXSTATによれば、2023年は、HSコード4001に分類される天然ゴムが輸入額の14.3%を占め最大で、次いで、二輪車や自動車のタイヤ(HSコード4011)、集積回路(HSコード8542)、自動車部品(HSコード8708)、二輪車部品(HSコード8714)の割合が多い。
- 注17:
- 詳細は、2024年8月7日付ビジネス短信参照。優遇措置を受けるためには、一定額以上の新規投資を行うほか、一定の条件をクリアする必要がある。
- 注18:
- 詳細は、2024年12月19日付ビジネス短信参照。HEV向け恩典と同様、優遇措置を受けるためには一定額以上の新規投資を行うほか、一定の条件をクリアする必要がある。
- 注19:
- 詳細は、2024年10月16日付ビジネス短信参照。
- 変更履歴
- 文章を一部修正しました。(2025年6月5日)

- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ) - 2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。