メキシコ・メルコスール自動車協定、部品の原産地規則が厳格に

(アルゼンチン、ブラジル、メキシコ)

米州課

2015年04月08日

メキシコ経済省は3月19日、連邦官報でラテンアメリカ統合連合(ALADI)経済補完協定(ACE)55号付属書IおよびIIの第5次追加議定書を公示し、同日から適用した。同追加議定書による改定に基づき、完成車の特恵関税供与に関する今後4年間の上限枠が設けられるとともに、特恵関税の条件となる原産地規則が変更された。自動車部品も原産地規則が厳格化されるため、ACE55号を活用してメキシコからブラジルやアルゼンチンに自動車部品を輸出している企業は留意する必要がある。

<ブラジルとは無関税上限枠を輸入国側でも配分>
3月19日付官報で公示されたACE55号〔メキシコ・メルコスール(南米南部共同市場)自動車協定〕付属書IおよびIIの第5次追加議定書は、メキシコがアルゼンチン、ブラジルとの間でそれぞれ3月16日に締結したものだ。ブラジルとの間では既に3月9日に大筋で合意されていたが(2015年3月20日記事参照)、議定書の締結自体はアルゼンチンと同じ3月16日となったもようだ。

官報公示されたそれぞれの追加議定書によると、メキシコとブラジル、メキシコとアルゼンチンの間の完成車の無関税枠は表1のとおり。1年目(2015年3月19日〜2016年3月18日)の枠は、メキシコからブラジルの場合、メキシコの2014年(暦年)の完成車輸出実績(16億1,124万ドル、通関統計)の96.8%、メキシコからアルゼンチンの場合、メキシコの2014年の輸出実績(3億8,696万ドル、同)の148.6%となる。

表1ACE55号付属書IおよびIIの改定に基づく完成車無関税枠

今回の追加議定書による改定では、ブラジルとの間の上限枠についてのみ、割り当て方式の変更があった。従来は全て輸出国側で輸出者に割り当てられていたが、今後は総枠の70%が輸出国側で輸出者に、30%が輸入国側で輸入者に割り当てられることになった(ACE55号付属書II第5次追加議定書第3条)。

<アルゼンチンとは上限枠に特別規定>
アルゼンチンとの間の上限枠については、特別な規定が盛り込まれた。これは企業別に割り当てられた金額にかかわらず、輸入者が相手国に対して輸出している金額までは、特恵関税(無税)の恩典が受けられるという規定だ(ACE55号付属書I第5次追加議定書第4条)。例えば、フォルクスワーゲン(VW)アルゼンチンがVWメキシコから自動車を輸入する場合、VWメキシコに割り当てられたアルゼンチン向け割当額にかかわらず、VWアルゼンチンがVWメキシコに輸出している金額分まではメキシコからの無関税輸入が認められる。つまり、輸出を増やせば増やすほど、割り当てに関係なく無関税輸入が増やせる仕組みで、企業単位での輸出入均衡を重視するアルゼンチン政府の意向がうかがえる。

<自動車部品の原産地規則の変更に留意>
第5次追加議定書ではそれぞれ、特恵関税の条件となる原産地規則を変更する規定が盛り込まれた。完成車の原産地規則は従来と変更がないが、当初2016年3月19日に予定されていた域内付加価値比率(RVC)の40%への引き上げは、2019年3月19日に先延ばしされた。

留意すべきは、自動車部品に関する原産地規則の変更だ。自動車部品については従来、一部の例外品目を除けば、(1)4桁レベルの関税分類変更基準(CTC)、(2)製品の取引価額(FOB)に占める非原産材料価額の割合が50%以下、のどちらかの基準を満たせばよいという原則が適用されていた(表2参照)。(1)のCTCとは、製品を製造するために利用する全ての非原産材料(輸入品など)のHSコードが、相手国に輸出する製品のHSコードと指定された桁数で異なっていればよいというルールだ。「4桁レベルの変更(Change of Heading/Cambio de Partida)」という場合、全ての非原産材料についてHSコードの上4桁目までの番号が輸出する製品の上4桁までの番号と異なれば原産品と見なされる。

表2メキシコ−ブラジル・アルゼンチン自動車協定の原産地規則(従来)

<アルゼンチンとブラジルで異なる改定内容>
今回の改定では、アルゼンチンとブラジルで内容が異なる。アルゼンチンとの協定では、(1)のCTCは従来どおり採用できる。ただし、(2)のRVCの計算方法および比率が変更され、完成車の原産地規則と同様、「FOBに占める原産材料価額の割合が35%以上」となった(表3参照)。

自動車部品については従来、「製品のFOBに占める非原産材料価額が50%以下」というルールだった。つまり逆に言えば、非原産材料の価格を足し上げ、その合計をFOBから引いてFOBの50%以上の付加価値が残っていれば原産品というルール(ビルドダウン方式のRVC)だ。従って、労働コストや光熱費、利益などは域内付加価値としてカウントされる。しかし、改定後は純粋に原産材料の価格だけを足し上げていき、その合計がFOBの35%に達しなければならないため(ビルドアップ方式のRVC)、労働コストや光熱費、利益などは「材料価額」ではないために域内付加価値にカウントできない。

表3メキシコ−アルゼンチン自動車協定の原産地規則(改定後)

ブラジルとの協定の場合は、上記RVCの計算方法および比率の変更に加え、(1)のCTCの採用が不可能になった(表4参照)。ブラジル政府は開発商工省の3月9日付プレスリリースにおいて、従来はCTCにより域内付加価値が低い部品に対しても特恵関税が供与されていたとし、「新しい基準の採用でより生産チェーンの統合が進み、部品の相互貿易が増え、ブラジルからの輸出拡大に貢献する」とのアルマンド・モンテイロ開発商工相のコメントを載せ、同改定の目的を明らかにしている。

表4メキシコ−ブラジル自動車協定の原産地規則(改定後)

自動車用のプレス部品を例に挙げると、従来はCTCを採用すれば、原材料の鋼板が日本製であってもメキシコ国内でプレス加工し、自動車部品に成形すれば原産品となる(鋼板のHSコードは72類、自動車部品は8708項で関税分類が変更)。しかし、CTCを使えないとなると、上記ケースではメキシコ国内で調達する部材が少なければ原産品とならない可能性が出てくる。

<特定の部品には救済措置や経過措置も>
今回の原産地規則の改定では、両国の裾野産業の現状から考えるとビルドアップ方式のRVCで35%の達成が困難な品目については、品目を特定して比率を下げる措置が取られている。それぞれの協定で例外的に35%未満の比率(20%、30%など)が採用されている品目は、表3および表4のとおり。カーオーディオやトランスミッション関連がその対象だ。

さらに、現時点では35%の達成が厳しいが、将来的に域内付加価値を高めていく品目として、2年間のみRVCが下がる経過措置も導入されている。経過措置の対象となっている品目は表5のとおり。エンジン関連やシートベルト、照明関連やショックアブソーバー、ステアリング関連などが対象となっている。

表5RVCが2017年3月18日まで緩和される自動車部品

なお原産地規則は、部品メーカーが部品を直接相手国に輸出する場合の特恵関税享受の基準となるだけでなく、完成車メーカーが域内(メキシコおよびメルコスール)で調達する部品が原産品かどうかを判断するための基準にもなる。今回の改定では、完成車メーカーが域内調達する部品が原産品かどうかを判断するための基準については、従来と同様の基準を採用するとしている(ACE55号付属書I第5次追加議定書第6条、ACE55号付属書II第5次追加議定書第5条)。例えば、メキシコ日産がメキシコの部品サプライヤーから調達する部品が原産品かどうかを判定する基準としては、従来の4桁レベルのCTC、あるいはビルドダウン方式のRVC50%のいずれかを満たせばよいことになる。

今回の改定により、ブラジル向けとアルゼンチン向けとでは原産地規則が微妙に異なり、原則が適用されない例外品目も増え、また直接輸出する場合と国内で完成車メーカーに納品する場合とでは判断基準が異なるようになったため、原産地規則の把握は以前より複雑になったといえる。メキシコからブラジルやアルゼンチンに対して自動車部品を輸出している企業は、改定されたルールを基準にもう一度自社の製品が原産品となるかどうか確認する必要があるだろう。

(中畑貴雄)

(メキシコ・ブラジル・アルゼンチン)

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