ドイツ自動車大手3社、EV販売台数で差異
2024年乗用車市場(後編)
2025年8月21日
ドイツ自動車大手3社〔フォルクスワーゲン(VW)グループ、BMWグループ、メルセデス・ベンツグループ〕の2024年のEV〔電気自動車:バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)〕の世界販売台数は、BMWグループのみが前年比増となった。
2025年は、ドイツ国内の乗用車の新規登録台数と生産台数はいずれも前年比1%増になる予想だ。
ドイツ自動車大手3社、EVの世界販売台数で明暗
2024年のEVの世界販売台数では、VWグループおよびメルセデス・ベンツグループが前年比で減少した。対照的に、BMWグループは増加した。
また、VWグループとBMWグループは、欧州委員会の基準に基づく2024年の欧州(注1)での新車二酸化炭素(CO2)平均排出量目標を、自社内での計算では達成したと報告した。メルセデス・ベンツグループの具体的な数値は現在公表されていない(2025年8月15日時点)。なお、欧州委員会は2025年4月、排出基準は維持するが、2025~2027年に限り、単年ではなく3年間の平均値で順守状況をみる猶予期間を自動車メーカーに与えることを発表した(2025年4月7日付ビジネス短信参照)。
VWグループ
VWグループは、2024年の全世界でのBEVとPHEVの販売台数が101万4,416台(前年比1.3%減)だった(注2、表1参照)。グループ全体の大型商用車と中国の合弁会社を含む新車販売台数(902万7,424台)に占める割合は11.2%で、2023年の11.1%から0.1ポイント微増した。そのうち、BEVは74万4,794台(3.4%減)だった。全体に占める割合は8.3%となり、2023年とほぼ横ばいだった。一方、PHEVは26万9,622台(5.1%増)で、全体に占める割合は3.0%となり、前年比で0.2ポイント拡大した。VWグループによると、特にVWブランドの「ID.4」と「ID.3」や、シュコダの「Enyaq」などのBEVモデルの販売が好調だった。
項目 | 2023年 | 2024年 | 前年比 |
---|---|---|---|
BEV | 771,074 | 744,794 | △3.4 |
PHEV | 256,449 | 269,622 | 5.1 |
合計 | 1,027,523 | 1,014,416 | △1.3 |
注:中国の合弁会社分を含む。
出所:VWグループ「2024年年次報告書(2025年3月11日)」「2023年年次報告書(2024年3月13日)」からジェトロ作成
VWグループはVWブランドについて、2030年までに欧州での販売台数に占めるBEVの割合を少なくとも70%にする目標を掲げている。また、米国および中国は、2030年までに販売台数の少なくとも50%をBEVとする目標だ。VWブランドのトーマス・シェーファー最高経営責任者(CEO)によると、同ブランドは2027年までに9つのモデルを市場投入し、そのうち7つがEVとなる予定だ(現地紙「Wolfsburger Allgemeine」紙、2025年2月11日)。同ブランドの営業マネージャーのマルティン・サンダ氏は、2025年に販売開始する小型BEVモデル「ID.2」が「ゲームチェンジャーになる」とし(ドイツ自動車業界紙「アウトモビルウォッヘ」、2025年1月10日)、その理由として、同モデルは2万5,000ユーロ以下というVWブランドで最も低価格のBEVとなることを挙げた。さらに、2027年に「ID.2」より安価な2万ユーロ前後で発売予定の、新しいBEVエントリーモデル「ID. EVERY1」の市場投入も重要としている。
一方、VWグループ自動車部門の2024年の研究開発費は、209億9,900万ユーロ(前年比3.6%減)となった。新モデルのほか、特に電動化、デジタル化、新技術、BEV向けのツールキットやプラットフォームなどに投資した。
VWグループは、同社の2024年の欧州における新車CO2平均排出量目標を、自社内の計算では達成したと報告。同社の新車乗用車目標値の1キロメートル(km)当たり122グラムに対して、実績は118グラムだった。ただ、2025年の目標値100グラム未満の達成は困難な課題としている。
BMWグループ
BMWグループの2024年の全世界でのBEVとPHEVの販売台数は、59台3,150台(前年比4.8%増)だった(表2参照)。グループ全体の販売台数(245万854台)に占める割合は24.2%となり、前年比で2.0ポイント拡大した。そのうち、BEVは42万6,536台(13.5%増)となった。全体に占める割合は17.4%となり、前年比で2.7ポイント上昇した。PHEVは16万6,614台(12.4%減)と減少し、全体に占める割合は6.8%と前年比0.6ポイント下がった。
項目 | 2023年 | 2024年 | 前年比 |
---|---|---|---|
BEV | 375,716 | 426,536 | 13.5 |
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330,197 | 368,475 | 11.6 |
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45,193 | 56,171 | 24.3 |
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326 | 1,890 | 479.8 |
PHEV | 190,159 | 166,614 | △12.4 |
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173,878 | 164,172 | △5.6 |
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16,281 | 2,442 | △85.0 |
合計 | 565,875 | 593,150 | 4.8 |
注:華晨汽車集団(Brilliance)との合弁会社分を含む。
出所:BMW「2024年報告(2025年3月14日)」からジェトロ作成
BMWグループは現在、15以上のBEVモデルを提供している。BMWブランドは、2025年末から次世代BEVモデル「ノイエ・クラッセ(Neue Klasse)」の量産開始を計画している。ノイエ・クラッセ初の量産モデルは、新型「BMW iX3」となる。また、量産開始後24カ月以内に、少なくとも6つのノイエ・クラッセ・モデルを市場投入する計画だ。2026年から、ミュンヘン本社工場でもノイエ・クラッセ・モデルの生産を開始するため、現在同工場を最新化している。2027年末以降、同本社工場ではBEVのみを生産する計画で、6億5,000万ユーロを投資するとしている。
一方、BMWグループとトヨタ自動車は2024年9月、燃料電池車(FCEV)向け第3世代燃料電池システムの共同開発に関する基本合意書(MOU)を締結した。2028年から両社が共同開発した燃料電池システムを搭載したBMWのFCEVモデルを量産開始予定と発表した(2024年9月18日付ビジネス短信参照)。
BMWグループは、2024年の同社の欧州での新車CO2平均排出量について、同社目標を大幅に上回って達成した。同社目標値の1km当たり128.5グラムに対して、実績は99.5グラムだった。目標達成の要因として、欧州でのEV販売の増加と内燃機関車の効率化を挙げた。2025年も、さらに高い目標の達成に向けて全力をあげるとしている。
メルセデス・ベンツグループ
メルセデス・ベンツグループは、メルセデス・ベンツ・カーズの2024年の全世界での販売台数(198万3,403台、注3)のうち、BEVとPHEVは計36万7,610台(前年比8.5%減)だった(表3参照)。販売台数に占めるBEVとPHEVの割合は18.5%となり、前年比で1.2ポイント低下した。BEVは18万5,059台(23.1%減)と減少し、同割合は2023年の11.8%から9.3%に下がった。PHEVは18万2,551台(13.2%増)と好調で、同割合は9.2%となり、前年比で1.3ポイント拡大した。同社は既に全セグメントでBEVを提供している。
項目 | 2023年 | 2024年 | 前年比 |
---|---|---|---|
BEV | 240,668 | 185,059 | △23.1 |
PHEV | 161,275 | 182,551 | 13.2 |
合計 | 401,943 | 367,610 | △8.5 |
出所:メルセデス・ベンツグループ「2024年年次報告書(2025年3月11日)」からジェトロ作成
メルセデス・ベンツグループは2025年春、BEVモデルの「Mercedes-Benz CLA」を販売開始した。オラ・ケレニウス会長は2025年1月、「新型CLAの投入により、2025年は当社史上最大規模の製品攻勢を開始する」とコメントした。同グループ最高技術責任者のマルクス・シェーファー氏によると、新型CLAは自社開発のメルセデス・ベンツ・オペレーティング・システム(MB.OS)を搭載しており、メルセデス・ベンツで最もインテリジェントな乗用車となっている(ドイツ経済紙「ハンデルスブラット」、2025年3月17日)。また、複数の現地報道によると、同社は新型BEVモデル「Mercedes GLC EQ」を、2025年9月にドイツ・ミュンヘンで開催される国際モーターショー「IAAモビリティ2025」で初めて展示し、2026年春に市場投入する予定だ。
メルセデス・ベンツグループの2024年の研究開発費は97億1,700万ユーロ(前年比2.8%減)で、うち、グループ傘下のメルセデス・ベンツ・カーズによる研究開発費は87億4,400万ユーロ(3.9%減)であった。研究開発費が減少した要因として、既存モデルおよび従来の駆動方式に関する研究開発費が低下したことを挙げた。
なお、メルセデス・ベンツグループの2024年の欧州での新車CO2平均排出量に関する具体的な数値はまだ公表されていない。
2025年の世界販売台数、ドイツ大手3社の見込みに差異
ドイツ自動車大手3社の2025年の販売や生産の見通しは次のとおりだ。
VWグループ
VWグループは、2025年の世界販売台数が2024年の水準とほぼ横ばいになると予測している。同グループは(1)政治的不確実性、(2)貿易規制の強化、(3)地政学的緊張の高まり、(4)競争の激化、(5)不安定な商品・エネルギー・外国為替市場などの課題に直面すると見込む。
BMWグループ
BMWグループは、2025年の世界販売台数が前年比で微増するとした。インフレの安定化や政策金利の引き下げによる複数国での需要増加がその要因。BEVが世界販売台数に占める割合もわずかに増加すると予測している。
メルセデス・ベンツグループ
メルセデス・ベンツグループは、傘下のメルセデス・ベンツ・カーズの2025年の世界販売台数が2024年をわずかに下回る見込みとした。複雑なマクロ経済環境がその要因。また、2025年の全販売台数に占めるEVの割合は微増し20~22%と予測している。
VDA、2025年のEVのドイツ国内乗用車新規登録台数の拡大を予測
ドイツ自動車産業連合会(VDA)は2025年1月、同年の国内乗用車市場の見通しを発表した。同市場の新規登録台数については、280万台(前年比1%増)と予測。そのうちBEVは66万6,000台(75%増)、PHEVは20万7,000台(8%増)で、同年6月の見直しでは、BEVは60万5,000台(59%増)へ下方修正し、PHEVは26万8,000台(40%増)へ上方修正した。
また、同じく2025年1月、2025年の国内生産台数を415万台(前年比1%増)と予測した。EVは24%増の170万台で、そのうちBEVは30%増、PHEVは2%増と予測している。
ドイツ連邦政府、EVの社用車向け購入促進措置を導入
ドイツ連立政権が提出した「ドイツの経済拠点強化のための税制投資即時プログラム」法案が6月26日に連邦議会(下院)、7月11日に連邦参議院(上院)でそれぞれ可決された(2025年7月22日付ビジネス短信参照)。企業投資促進のための同プログラムの枠組みの中で、EVの社用車を対象とする購入促進措置も導入される。
2025年7月1日から2027年12月末までに企業が社用車として新たにEVを購入した場合、取得初年度に75%が償却可能となる(2025年7月17日付ビジネス短信参照)。さらに、EVの特別税制優遇措置の対象となる車両の価格上限を、現在の7万ユーロから10万ユーロに引き上げる。この措置の目的はドイツ国内のEVの普及にあり、対象には乗用車のみならず、トラックやバスなどあらゆる種類の車両も含む。
- 注1:
- EU加盟国とノルウェー、アイスランド。
- 注2:
- 2023年のVWグループのBEVとPHEVの世界販売台数は、VWグループ「2023年年次報告書(2024年3月13日)」に基づく。
- 注3:
- メルセデス・ベンツ・カーズ(Cars)とスマートの合計。メルセデス・ベンツ・バンズ(Vans)を含まない。
2024年乗用車市場
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ミュンヘン事務所
クラウディア・トーディ - 2020年からジェトロ・ミュンヘン事務所で調査、地域間交流を担当。