2023年の米自動車販売、前年比12.3%増の1,562万台
クリーンビークルは5割増と好調も、成長のスピードに注視

2024年4月3日

米国における2023年の新車販売は、在庫の回復や価格低下、インセンティブ増加などが後押しし、前年比12.3%増の1,561万6,878台となった。2024年の予測販売台数は1,600万台前後。クリーンビークルは前年比47.5%増、全車シェア9.3%の145万4,058台と好調に伸びたが、年後半にかけて伸びが鈍化した。連邦政府が税額控除や充電器設置への補助金、厳しい環境規制で電気自動車(EV)の普及政策を進める中、中国車の市場参入に対する懸念も高まっており、関税の再引き上げなども求められている。

2023年は予測を超える1,562万台

モーターインテリジェンスの発表(2024年1月10日)によると、米国の2023年の新車販売台数は、前年比12.3%増の1,561万6,878台となった(図1参照)。生産台数の増加による在庫の回復やメーカーが提供するインセンティブ(販売促進のための割引)の増加、販売価格の低下などが後押しした。年初には、米国経済が不況に陥るとの懸念から、自動車メーカーによる在庫の積み上げや、インセンティブを引き上げての販売促進の可能性が低く、1,400万台前半から1,500万台前半に収まると予測されていたが、これを上回る結果となった(2023年4月12日付地域・分析レポート参照)。ただし、2019年比では8.5%減となり、新型コロナ禍前の水準には及ばなかった。

図1: 新車販売台数と前年比の推移(2008~2023年)
新車販売台数は、リーマンショックの影響により2009年に1,043万台となったが、その後増加して、2015年以降5年連続で1,700万台台を維持した。しかしながら2020年は新型コロナウイルスの影響で1,458万台に減少。2021年には1,508万台に一時回復したものの、2022年には半導体不足による在庫不足などの影響で1.390万台にまで減少。しかしながら2023年は在庫回復などで、1.562万台に増加した。

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

生産増により在庫が順調に回復

2023年の生産台数は1,044万4,870台で、半導体不足等など影響で落ち込んだ前年に比べ2.3%増加した(表1参照)。パンデミック前の2019年比でも2.3%減まで回復した(同じく2019年比で2020年は17.5%減、2021年15.1%減、2022年4.5%減)。2023年の生産台数をメーカー別にみると、9月中旬から10月下旬まで行われた全米自動車労働組合(UAW)によるストライキの影響などもあって、ゼネラルモーターズ(GM)とステランティスがそれぞれ前年比6.6%減、22.1%減と減少し、フォードは0.2%増と微増にとどまった。一方、日系のホンダ(22.4%増)、日産(12.5%増)、トヨタ(8.8%増)などが増加し、全体の伸びを押し上げた。

生産の回復に伴い、在庫も増加した。2023年の平均売り上げ在庫比率(販売台数に対する在庫台数の比率)は前年より41ポイント上昇して146%、第4四半期には171%にまで回復した。また、コックスオートモーティブによると、2023年12月時点の平均在庫日数は、前年同月より17日増えて71日分となった。在庫の回復に伴い、メーカーによるインセンティブも増加する傾向にある。ケリーブルーブックによると、2023年12月時点のインセンティブが平均車両販売価格に占める割合は、前年同月の2.7%から5.5%に増加し、1,300ドル以上高い2,682ドルとなった。平均車両販売価格に関しては、2023年12月時点で前年同月比1.5%減の4万8,759ドルだった。依然として高水準が続くものの、2022年12月の4万9,507ドルをピークに下落傾向にある。

販売の約6割がSUV、プレミアムクラスも好調

部門別に販売台数をみると、乗用車が前年比8.2%増、小型トラックが13.5%増といずれも増加した(表2参照)。

表2: 2023年の新車販売台数の内訳(単位:台、%)
2022年 2023年
販売台数 販売台数 前年比 構成比
乗用車小計 2,985,388 3,229,010 8.2 20.7
ミニバン、フルサイズバン 614,400 730,807 18.9 4.7
ピックアップトラック 2,733,760 2,855,777 4.5 18.3
SUV(スポーツワゴン、CUVを含む) 7,569,881 8,801,284 16.3 56.4
小型トラック小計 10,918,041 12,387,868 13.5 79.3
合計 13,903,429 15,616,878 12.3 100.0

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

全販売台数に対する小型トラックの構成比(シェア)は、データの確認できる1980年以来最多の79.3%となった(表2、図2参照)。中でも、スポーツ用多目的車(SUV)は前年より2ポイント増加し、過去最高の56.4%にまで伸びた。また、全車を仕様に応じ5段階に分けると、いずれのクラスも前年比増となったが、バッテリー式電気自動車(BEV)のテスラ「モデルY」やレクサス「NX」などが好調なクラス3、ベントレーやフェラーリなどが伸びた最高級クラス5がいずれも2019年の水準を超える勢いとなった。

図2:部門別新車販売台数の推移
乗用車は、リーマンショックの影響により2009年に541万台にまで減少し、その後、2014年には771万台にまで増加したが、その後減少傾向が続き、2023年には323万台となった。他方で、小型トラックは2009年以降増加し、2019年は1,224万台となった。2020年は新型コロナウイルスの影響で1,106万台に落ち込んだものの、2021年には1,166万台にまで回復。2022年は再び1,092万台に減少したが、2023年には1,230万台に再び増加した。小型トラックは2012年より乗用車を上回り、それ以降その差は拡大している。

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

増加台数最多はテスラ「モデルY」

主要メーカー別の販売台数では、ステランティス以外の全社で前年より増加した。ホンダ、GM、日産、トヨタ、テスラの順で全体の伸びに寄与した(図3参照)。中でもホンダは、前年の大幅減の要因となったサプライチェーンの混乱が回復したことが後押しし、前年比33.0%増の大幅増となった。またモデル別でみると、台数の増加数ではテスラのBEV「モデルY」が前年比14万2,497台増で最多、次いでホンダ「CR-V」が12万3,302台増、フォードのピックアップトラック「Fシリーズ」が9万6,832台増と市場全体の販売を押し上げた。

図3:全新車販売台数の増加に対するメーカー別寄与度
2023年の全新車販売台数の前年比に対するメーカー別寄与度をみると、ホンダが2.34ポイント、GMが2.30ポイント、日産が1.22ポイント、トヨタが1.01ポイント、テスラが0.95ポイント、 フォードが0.94ポイント、現代が0.65ポイント、 起亜が0.64ポイント、スバルが0.54ポイント、 VWが0.50ポイント、 マツダが0.49ポイント、その他が0.45ポイント、 BMWが0.24ポイント、 ボルボが0.19ポイント、 メルセデスベンツが0.01ポイント、ステランティスがマイナス0.14ポイントとなった。

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

メーカー別の販売動向を詳しくみると、GMはSUV「トラックス」、ピックアップトラック「シエラ」が伸びて14.1%増となった。トヨタはSUV「グランドハイランダー」「RAV4」が伸びて6.6%増、フォードはピックアップトラック「Fシリーズ」、SUV「ブロンコスポーツ」が伸びて7.0%増、ステランティスはピックアップトラック「ラム」、ジープのSUV「ラングラー」が押し下げて1.2%減となった。ホンダはSUV「CR-V」、乗用車「シビック」が押し上げて33.0%増、日産はSUV「ローグ」、乗用車「セントラ」が伸びて23.2%増、現代はSUV「ツーソン」、乗用車「エラントラ」が伸びて11.5%増、起亜はミニバン「カーニバル」、SUV「スポ―テージ」が増加し12.8%増、テスラはSUV「モデルY」、乗用車「モデル3」が伸びて25.4%増となった。またスバルはSUV「フォレスタ―」、乗用車「アウトバックワゴン」が伸びて13.6%増、VWはBEVのSUV「ID.4」、SUV「Q8」が好調で14.1%増となった(表1参照)。

2024年はさらに需要が増加するとの見通し

2024年の新車販売台数に関し、主な調査会社は、在庫の回復とインセンティブの増加、繰り越し需要の残存により、健全な自動車市場への回復が見込まれることから、2023年の実績を上回る1,600万台前後まで増加すると予測している(図4参照)。しかしながら、高水準が続く自動車ローン金利と家計のクレジット状況の悪化、販売価格下落の鈍化などが押し下げ要因となり、伸び率では、2023年を下回る0.5~4.4%増にとどまる見込みだ(図5参照)。セントルイス連銀によると、2023年11月時点での市中銀行自動車ローン(48カ月)は、2001年5月(8.67%)に次ぐ高水準の8.51%まで上昇した(図5参照)。また、自動車ローン債務残高のうち、新たに30日以上の滞納に陥った残高の割合は、2023年第4四半期時点で、2011年第1四半期以降最高の7.69%となった。また、90日以上の重大な遅延に関しても、2022年第1四半期以降、増加する傾向にある。

図4:主な調査会社の2024年の新車販売台数の予測
販売台数の実績は、2019年1,706万台、2022年1,390万台、2023年1,562万台となった。2024年の予測販売台数は、エドマンズIHSが1570万台、 COXが1570万台、 S&Pが1590万台、 NADAが1590万台、 GMが1600万台、 LMCが1610万台、 CARが1630万台になるとみている。

注:CAR: センターフォーオートモーティブリサーチ、LMC: LMCオートモーティブ、IHS:IHS マークイット、NADA:全米ディーラー協会、COX: COXオートモーティブの略。2023年12月~2024年1月に各社が発表した予測値。
出所:各社発表データなどを基にジェトロ作成

図5:自動車ローン金利と延滞率の推移
2023年11月時点の市中銀行48カ月の自動車ローン金利は、2001年5月(8.67%)に次ぐ高水準の8.51%まで上昇した。また、自動車ローン債務残高のうち、新たに30日以上の滞納に陥った残高の割合は、2023年第4四半期時点で、2011年第1四半期以降最高の7.69%となった。

注:当該四半期に30日以上の延滞が始まったローン残高の全体に占める割合 。
出所:ニューヨーク連邦準備銀行、セントルイス連邦準備銀行

クリーンビークルは145万台超

2023年のクリーンビークル(注1)の販売台数は、前年比47.5%増の145万4,058台と大幅に伸びた。ガソリン車を含む全販売台数に占める割合は9.3%となり、前年より2.2ポイント増加した(表3、図6参照)。燃料電池車(FCV)は10.0%増の2,978台にとどまったものの、BEVは47.1%増の119万2,318台、プラグインハイブリッド車(PHEV)は49.7%増の25万8,762台と好調であった。

表3:動力別販売台数
項目 2022年 2023年
販売台数 販売台数 前年比 全車に占める割合
BEV 810,466 1,192,318 47.1 7.6
PHEV 172,910 258,762 49.7 1.7
燃料電池車 2,707 2,978 10.0 0.0
クリーンビークル合計 986,083 1,454,058 47.5 9.3
ハイブリッド車(HEV) 783,177 1,206,087 54.0 7.7
電動車合計 1,769,260 2,660,145 50.4 17.0
ガソリン車 12,134,169 12,956,733 6.8 83.0
全米新車販売台数 13,903,429 15,616,878 12.3 100.0

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

図6:電動車販売台数の推移
バッテリー式電気自動車、プラグインハイブリッド車及び燃料電池車の合計販売台数の推移をみると、2020年から2023年まで1年毎に32万1,463 台、61万9,493台、98万6,083台、145万4,058台となった。また全車に占める割合は、2020年から2023年まで1年毎に2.2%、4.1%、7.1%、9.3%となった。

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

クリーンビークルの8割以上を占めるBEVの足元の販売動向をみると、2023年第1四半期から第3四半期まで前年同期比5割増程度で推移していたものの、第4四半期は38.4%増にとどまった。こうした中、GMが2022年から2024年までに計画していた40万台のBEVの生産計画を見直したほか、フォードがバッテリー工場の縮小を発表したことなどから、BEV市場の伸びの鈍化を指摘する声も聞かれており、今後の動向が注目される。

2023年のBEV販売をメーカー別にみると、テスラの首位が続くものの、2020年に約8割に達して以降、シェアは減少する傾向にあり、2023年は前年より約10ポイント低い54.9%となった。市場に投入されたモデル数が前年の52から62に増えるなど、テスラ以外の選択肢が拡大したことも背景にある。PHEVの伸びに関しては、2022年末に「グランドチェロキー4xe」を投入したステランティスが前年比2.4倍で首位、マツダや起亜などが続いた。

ハイブリッド車(HEV)は、第2四半期以降、BEVを若干上回る傾向が続いており、年間販売台数では120万6,087台となった。ホンダSUV「CR-V」や乗用車「アコード」など人気車種のハイブリッド版が大幅に伸びたことによる。また日系メーカーでは、トヨタの「カローラクロス」「グランドハイランダー」といったSUVもHEVの増加に寄与した。

2023年、EV普及の課題改善に向けた取り組み

EV普及においては、航続距離への不安、車両価格の高さ、充電器不足が主な課題といわれる。これらについて2023年の動向をみてみよう。

(1)航続距離:エネルギー省によると、2023年末時点のBEVにおける1回の充電当たりの走行距離の中央値は270マイル(約432キロ)となった。2021年の234マイル、2022年の257マイルから伸長したが、ブルームバーグの調べによると、米国では「心理的なバリアとして」一般的に300マイル以上が求められており、各社の指標となっているようだ。最長ではルシードエアが516マイルに到達しており、大型車を含め各社バッテリー技術の開発などで航続距離を伸ばしつつある。

(2)車両価格:ケリーブルーブックなどによると、BEVの平均車両価格は、2022年6月の6万6,997ドルをピークに下落傾向にあり、2023年12月時点には、前年同月比12.8%減の5万3,611ドルまで下落した。合計でBEVの約5割を占めるテスラ「モデルY」と「モデル3」の値引きが影響したとみられるが、そのほかにもテスラに追随するかたちで、フォードが人気車種の「マッハE」の価格を下げて対応。現代、起亜もそれぞれ「アイオニック6」「EV6」にインセンティブを乗せて3万ドル台に抑えた。車両価格の多くの割合を占めるバッテリー価格の低下も後押ししており、ブルームバーグNEFによると、技術革新や供給量の増加で、11月時点のリチウムイオンバッテリーの平均価格は、1キロワット時当たり前年比で14%減の139ドルにまで低下。テスラ「モデルS」の販売年である2013年比では8割以上下がった。ブルームバーグでは、2025年に113ドル、2030年には80ドルまで下落するとみており、それに伴う車両価格の低下が期待されている。

(3)EV用充電器:バイデン政権の目標設置台数である全米における50万基の設置に向け、インフラ投資雇用法(IIJA)、インフレ削減法(IRA)のもとで充電器設置プロジェクトが進んでいる。2023年には、IIJAの国家EVインフラ(NEVI)・フォーミュラプログラムに基づき、オハイオ州、ニューヨーク州で充電施設が稼働したほか、ペンシルベニア州、メーン州でも設置工事が始まった。2023年12月時点での全米における充電ポート数(レベル2、直流急速充電)は16万5,000個と2022年の14万4,000個から伸びたが、エネルギー省は、政府が目標とする2030年までに新車販売台数の半数をクリーンビークルとする場合、120万個(注2)以上のポートが必要だと試算しており、達成には程遠い。既に設置されている充電器には不具合も多く、政府は補助金を充てて強化を進める。一方、2023年5月のフォードを皮切りに、主要メーカー各社は、テスラのスーパーチャージャーが利用できるよう、同社との利用契約を結んだ。充電器の中では安定したサービスを行うスーパーチャージャーの利用拡大と増設が、充電器不足の短期的な解決策の1つとして注目される。

政府による推進策と規制

2023年1月1日から、インフレ削減法(IRA)の下でクリーンビークル購入者に対し、ライトビークルは1台当たり最大7,500ドル、中古車、商用車は最大でそれぞれ4,000ドル、4万ドルの税額控除の適用が開始した。一方で同年4月には、対象車両に課す控除の条件として定められた「バッテリー調達価格割合要件」の適用も始まった(2023年4月18日付ビジネス短信参照)。2022年8月から適用を開始している「北米での車両の最終組み立て要件」と合わせ、2023年末時点で全額、あるいは一部が控除対象となった車両は、全クリーンビークルの2割に満たない19モデルに限られるという結果になった。メーカーは購入者が控除を得られるよう、これら要件の対象外となるリース販売に注目しており、2023年10月時点のEVのリース販売は1月の10%から24%に増加した(フォーブス2024年1月26日)。

また、環境規制に関しては、2027年~2032年モデルに対し、環境保護庁(EPA)が2023年4月に温室効果ガス(GHG)排出規制案を(2023年4月21日付ビジネス短信参照)、運輸省道路交通安全局(NHTSA)が同7月に燃費規制の規制案を発表した(2023年8月1日付ビジネス短信参照)。いずれも、これまでで最も厳しい規則値が提案されたため、実質的にはBEVの販売を義務化するものだ、として自動車業界や議会など各所から見直しを求める声が上がっていた(注3)。

中国製EVの参入が脅威に

2023年末ごろからは、中国製の低価格帯EVの米国市場参入を懸念し、中国製車への関税引き上げを求める声が大きくなってきた。EVを含む中国の自動車輸出は、中国国内での需要鈍化もあり大幅に増加している(2023年12月4日付地域・分析レポート参照)。さらに中国は、並行して国外での生産拠点設立も加速させており、2024年2月には、EV世界最大手の比亜迪(BYD)がメキシコでの生産を検討していることが報じられ、話題となった。BYD製EVは比較的低価格な上、メキシコからの輸入車は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則を満たせば関税なしとなり、またメキシコ製車は、IRA税額控除の条件の1つである「北米での最終組み立て要件」を満たすため、米国にとって大きな脅威となる。現在、中国製車には一般税率2.5%に加え、通商法301条による追加関税として25%の輸入関税が課されているが、議会や産業界からは、関税率の再引き上げを含むかたちでの速やかな通商法301条の見直しや、中国企業が生産するEVに対する一定額の追加関税を求める声が上がっている(2024年3月11日付ビジネス短信参照)。また政府においても、中国製EVの流入が国家安全保障上の重大なリスクになるとみて、IRAなどを通じてサプライチェーンにおける中国依存を回避するとともに、中国の情報通信技術を利用した自動車のリスク調査と対応により、中国メーカー製EVの締め出しを狙う(2024年3月1日付ビジネス短信参照)。中国メーカー製EVの参入阻止という点では、政府、議会与野党ともに大筋で立場を同じくしており、今後の動向が注視される。

見通しが難しい2024年以降のEV市場

2024年のBEV販売見通しに関し、専門家の多くが引き続き一定の伸びを予測しているが、その「程度」ついての見方はまちまちだ。コックスオートモーティブは2023年比32%増、S&Pグローバルモビリティは47%増で、全車に占める割合は、2023年の7.6%から、それぞれ10%、11%にまで伸びるとみている。一方で、自動車コンサルティングのオートパシフィックは、今後、需要が集中すると思われる3万5,000ドル以下の車両が限定的であることなどから、前年比は22%増にとどまり、BEVのシェアは9%と2023年の伸び(前年比1.8ポイント増)を下回るとの見方もある。またブルームバーグは、PHEVを含めたEVのシェアを、2023年の9.3%から13%に増加すると予測する。ただし、政治の二極化が加速することで、予想外の押し下げ要因が発生する可能性を指摘している。11月の大統領選の結果次第では、環境規制やIRAといったEV普及政策の見直しの可能性も想定されるため、EV市場の見通しは立てにくい状況だ。車両の電動化が政治的な争点にもなる中、急速なBEV化に難色を示す議員などからは、PHEVやHEVは短期的な落としどころだ、との声も上がっている。

こうした中で、GMは、新たなプラットフォームの立ち上げではなく、2023年に初代モデルの製造を中止していた「ボルト」を2025年に復活させることでコストカットを見込む。またフォードは、中国製EVの米国市場参入を視野に入れ、小型で安価なEVの投入に力を入れる、と述べる。北米トヨタの小川哲男取締役社長兼最高経営責任者(CEO)は自動車専門誌のインタビューの中で、BEVの需要は増加する、としながらも、現状では政府規制と実需が乖離しているとし、2030年時点での全車に対するシェアを約30%と見込む。「トヨタは消費者の求めるものを見据えつつ、製品とエコシステムの双方で(EV化を)キャッチアップしていく」とし、2024年は、消費者のライフスタイルに合わせてさまざまなレベルの電動化を提供する「マルチパス」戦略を追求しつつ、EVのラインアップを拡大する同社の計画の「始まりの年」である、と述べた(オートモーティブニュース2024年3月1日)。


注1:
バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。
注2:
政府発表資料では、充電ポート数を指す場合と、充電器数を指す場合があるので注意が必要。
注3:
2024年3月20日にEPAが最終規則を発表(2024年3月26日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチ・マネージャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年からジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。