米環境保護庁、新排ガス規制の基準値を緩和

(米国)

ニューヨーク発

2024年03月26日

米国環境保護庁(EPA)は3月20日、乗用車と小型トラックを含むライトビークル(LDV)と中型車(MDV、注1)の2027~2032年モデルを対象とした、温室効果ガス(GHG)と大気汚染物質の排出基準に関する最終規則「2027年モデル以降のLDVとMDVに対する複数の汚染物質排出基準」を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。最終規則に先立ちEPAは、2023年4月12日に規制案を発表(2023年4月21日記事参照)。その後EPAには、厳しい基準値に対して見直しを求める声を含め25万件以上のパブリックコメントが寄せられていた (2023年7月13日記事参照)。

最終規則におけるLDVの二酸化炭素(CO2)の排出基準値は、最終年に当たる2032年モデルで、業界平均1マイル(約1.6キロ)当たり85グラム(85gpm)となり、規制案の82gpmから緩和した(添付資料表参照)。これにより、現行規則の最終年に当たる2026年モデルからの削減率は、規則案の56%から約50%に縮小した。さらに適用期間の初期段階では、電気自動車(EV)導入のためのリードタイムが必要との要望に鑑み、最終規則では2027~2029年モデルの期間、年ごとの削減率が規則案よりも小さくなるよう設定された。EPAは今回の最終規則に加え、インフレ削減法(IRA)の影響なども加味した上で、2032年までにプラグインハイブリッド車(PHEV)とバッテリー式EV(BEV)が全車に占める割合は最大で68%(うちPHEVが13%)になるとみている。

MDVのCO2排出基準は、規則案とほぼ変わらずの274gpmで、2026年モデル比の削減率は規則案と同じ44%となった。ただし、EPAによると、LDV同様、メーカーでのリードタイム確保のため、2027~2031 年モデルの削減率が規則案より緩やかになるよう、基準値が設定されている。

ACクレジットなどでフェーズアウト期間を設定

CO2排出量の算出に当たり、規則案と同様、LDVは各車両のフットプリント(注2)、MDVは最大積載量、牽引能力、四輪駆動の有無を組み合わせた「ワークファクター」を基準とする。また、各自動車メーカーが全車両の平均値で基準を達成できる「平均化」、前年以前の基準超過分をクレジットとして貯蓄し翌年以降の未達分に補填できる「貯蓄」、他社とクレジットを売買できる「取引」(ABT、注3)も、規則案どおり、2027年モデル以降に適用される。また、BEV、PHEV、燃料電池車(FCV)の販売台数の積み増しである「乗数インセンティブ」(注4)の適用は、規則案どおり、LDVで2024年モデル、MDVで2026年モデルを最後に終了となる。

一方、LDVの「エアコン(AC)クレジット」について、ACの稼働で失われるエネルギー効率の改善と、冷媒の漏えいなどによるGHGの排出を改善する技術に認められるクレジットのうち、前者は規則案どおり2027年以降、ガソリンエンジン車(ICE)にのみ適用されることになるが、後者に関しては、規則案で2027年からの廃止が提案されていたところ、最終規則では2027~2030年モデルで段階的に削減され、2031年以降は少量の永久クレジットを残すこととなった。なお、MDVの冷媒の漏えいの改善に対するクレジットに関しては、規則案で示されていた2027年モデルでの終了を撤回し、現行規則(注5)が採用されることとなった。また、新技術に認められる「オフサイクルクレジット」の適用に関しては、規則案では2030年モデルで終了するところ、最終規則では移行期間として、2030~2033年モデルのフェーズアウト期間を設けた。

今回の最終規則に関し、主要自動車メーカーを代表する自動車イノベーション協会のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は、未来は電気であり、 自動車メーカーはEVへの移行に注力している、とした上で「消費者には多くの選択肢があるが、ペースは重要だ。 2027年、2028年、2029年、2030年にEV導入のペースを緩めることは、(非常に重要な)EV移行の今後数年間でのより合理的な電動化目標を優先するため、正しい判断だった」と歓迎した。初期段階での急激な基準値の強化が見送られたことは、一連の訴えかけの成果だと評価されている。また、同氏は全てが順調にいけば、政府目標である 2030年までのEV販売率50%は「達成可能なぎりぎりの水準」だとみている。規則案を巡っては、議会でも共和党を中心とする上院議員団が、消費者の選択を狭めるとの主張から「自動車小売り販売選択(CARS)」法案を議会に提出していた(2023年10月27日記事参照)。ボゼーラ氏ほか業界関係者らが今回の緩和が、消費者の選択の権利を維持すると強調しており、こうした現政府への批判を和らげる可能性がある、との見方もある(政治専門誌ポリティコ3月20日)。

(注1)EPAが定めるクラス2bおよびクラス3の大型車両で、主に総車両重量定格(GVWR)が8,501~1万4,000ポンドの大型ピックアップおよびバンが含まれる。当該車両には、これまで大型車の規制が適用されていた。

(注2)車両のホイールベース(前輪の中心から後輪の中心までの長さ)にトレッド幅(左右の車輪間の距離)を掛けたもの。車輪が地面と接する点で囲まれた面積と同じ。

(注3)Averaging, Banking, and Tradingの略。

(注4)現行規則では、2023年モデルと2024年モデルの販売台数を計算する際に1台当たり、EVとFCVは1.5、PHEVは1.3の乗数を適用することが認められている。

(注5)MDVのACクレジット:現在の MDV 漏えい基準では、AC システムからの冷媒の漏えいが年間11.0グラム、または年間 1.50% の漏えい率のいずれか大きい方を超えてはならないと規定されている。

(大原典子)

(米国)

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