民主党上院議員ら、バイデン政権に対し中国からのEV参入阻止を求める書簡を提出

(米国、中国)

ニューヨーク発

2024年03月11日

米国の自動車産業が集積するミシガン州とオハイオ州選出の民主党連邦上院議員らは3月7日、バイデン米政権に対し、中国製品に対する1974年通商協定法301条の法定見直しを実行し、中国製電気自動車(EV)に対する既存の関税引き上げを求める書簡外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを提出した。書簡は、民主党上院議員のシェロッド・ブラウン氏(オハイオ州)、ゲーリー・ピーターズ氏(ミシガン州)、デビー・スタベナウ氏(ミシガン州)が署名し、商務省のジーナ・レモンド長官と米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表に宛てられた。

書簡の中で、議員らは「人為的な低価格の中国製EVが米国に流入すれば、何千人もの米国人の雇用が失われ、米国の自動車産業全体の存続が危うくなる。米国の製造業を強化し、国内自動車産業のEV移行を保護するために、USTRは中国製EVに対する通商法301条による関税の維持または引き上げに直ちに動かなければならない」と述べた。通商法301条に関しては、発動から4年目に予定されていた法定見直しが実行されておらず、課税対象品目に対する先行きの見通しが不透明なことなどから、各方面より批判の声が上がっている(2023年12月27日記事参照)。

米国では現在、中国製自動車に27.5%の輸入関税を課しており、米市場への参入障壁となっている。最近では、中国メーカーが、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)により一定の条件を満たせば輸入関税が免除されるメキシコに生産拠点を置くことを検討している、と報じられており、フォードなど米国の既存メーカーの中には安価な車両の流入を見越して、小型で安価なEVに注力する動きもある。米政府はインフレ削減法(IRA)による最大7,500ドルの税額控除でEV普及を目指すが、対象車両に課される要件により、控除対象となる車両モデル数は全クリーンビークル(注1)の2割以下と限定的だ。ケリーブルーブックによると、米国におけるクリーンビークルの約8割を占めるバッテリー式EV(BEV)の平均車両価格は、2024年1月時点で約5万5,000ドル。一方で、中国のEV最大手メーカーの比亜迪(BYD)は、1万ドルを切る安価なモデルを提供する。

今回の書簡に加え、2月28日に共和党のジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州)が、中国製車への関税率を125%に引き上げる法案(S.3831)を提出。3月5日には、共和党のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)が、中国製の輸入車1台当たり2万ドルの追加関税を新たに賦課する条項を盛り込んだ法案(S.3868外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を提出した。さらに、同議員は、中国自動車メーカーがメキシコなど他国で生産する車両にも関税の対象範囲を広げることや、IRAなどEV普及のためのプログラムについて、USMCAで定められている原産地規則や労働付加価値割合(LVC)を満たす車両に限定することなどを求める法案も提出している。また、米国製造業連合(AAM、注2)は、中国製品の米市場参入の影響に関しまとめたレポート「On A Collison CoursePDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」の中で「中国政府の権力と資金に裏付けられた非常に安価な中国製自動車の米国市場への参入は、米国の自動車業界にとっては絶滅レベルの出来事になる可能性がある」と警鐘を鳴らすなど、各方面より中国製車の流入を危惧する声が上がっている。

(注1)BEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。

(注2)米国の大手製造業の一部と全米鉄鋼労働者によって 2007 年に設立された非営利、超党派のパートナーシップ。調査や政策提言などを行う。

(大原典子)

(米国、中国)

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