中国のCO2削減の現状とビジネスチャンス

2024年5月10日

中国の習近平国家主席は2020年9月の国連総会で、二酸化炭素(CO2)排出量の削減によって2030年までにカーボンピークアウト、2060年までに実質的なカーボンニュートラルを実現すると宣言した(「3060目標」、注1)。目標実現に向け、中国では再生可能エネルギーの導入や、新エネルギー車(NEV)の販売台数増加が着実に進んでいる。

「3060目標」達成に向けた取り組み状況や日系企業のビジネスチャンスなどを、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)北京事務所の黒田嘉彰所長と宮尾孝彦代表に聞いた(取材日2024年4月3日)。

質問:
中国のカーボンピークアウト、カーボンニュートラルの進展は。
答え:
「3060目標」達成に向けた一部の取り組みは着実に進展している。例えば再生可能エネルギーを見ると、中国政府は2030年までに風力と太陽光の合計発電設備容量を12億キロワット以上とすることを目標に設定している。これにより、2020年以降、風力と太陽光の発電設備容量は毎年1億キロワットを超えるペースで急拡大しており、2023年12月時点で10億5,000万キロワットに達した。ただ、石炭火力については、発電設備容量全体に占める割合は低下し続づけているものの、石炭火力の発電設備容量自体は年々増加している。
質問:
目標実現に向けて今後特に重要な取り組みは。
答え:
炭素排出権取引市場が重要な役割を果たす。2021 年に全国炭素排出権取引市場での取引が開始された。現行の取引対象は発電部門のみであるが、対象分野の拡大と取引価格の上昇がカギとなる。
分野については、鉄鋼、石油、化学、建材、非鉄金属、製紙、航空の7部門への拡大が検討されている。また、取引価格は、現時点ではトン当たり約75元(1,575円、1元=約21円)と、EU排出量取引制度(EU-ETS)の10分の1程度にとどまっているが、上昇傾向にある。2024年の全国人民代表大会(全人代)における政府活動報告においても、「全国炭素市場の対象業種を増やす」との記載が盛り込まれている。
質問:
出遅れている部分や課題は。
答え:
例えば、GDP当たりのエネルギー消費削減目標については課題がある。中国は、第14次5カ年(2021~2025年)規画(2021年3月9日付ビジネス短信参照)において、2025年までに2020年比でGDP当たりのエネルギー消費を13.5%削減するという目標を設定した。
これを受けて、2021年の全人代の政府活動報告では、年間削減目標を3%程度とした。しかし、同年秋には電力需給逼迫による工場停止などの問題(注2)が発生し、このためもあってか、2022~2023年の政府活動報告では年間の削減数値目標は設定されなかった。2024年の政府活動報告では、3年ぶりに2.5%の年間の削減数値目標が盛り込まれたところである。
また、再生可能エネルギーの導入は進んでいるが、グリッド(送配電系統)への接続が困難なケースも増えている。これらの電力を使用した、オフグリッドでの水素製造プロジェクトに注目が高まっている。
質問:
日系企業のビジネスチャンスは。
答え:
日系企業のビジネスチャンスがある分野として、(1)水素、(2)CCUS(注3)/カーボンリサイクル、(3)省エネ、などが挙げられる。いずれも、日系企業の強みが生かせる分野であると考えている。
これらの分野には、きわめて大きな市場が期待できる。例えば、中国は最大の水素需要国であり、世界需要の約3割を占める。現状は石炭などの化石エネルギーからの製造が中心であるが、再生可能エネルギーの急拡大にともない、今後、グリーン水素製造の拡大も見込まれる。国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、中国の水素需要は2060年に現状の約3倍に増加するとされている。
水素分野について、日系企業は輸送・貯蔵などに強みがあることに加え、中国では普及していない充填(じゅうてん)圧力70メガパスカルでの水素活用でも協力の余地があると考えている。また、前述のGDP当たりのエネルギー消費削減目標の達成に向けて、中国も省エネの価値を理解し始めている。日本の省エネ技術の水準は高く、設備の運用などにも強みがある。環境・省エネは日中首脳会談で協力に合意している分野でもあり、コア技術流出の懸念には留意しつつ、中国での事業検討を行っていくべきではないか。なお、NEDOでは「脱炭素化・エネルギー転換に資する我が国技術の国際実証事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」により、海外でエネルギー関連の実証事業を行おうとする企業への支援を行っている。
また、欧米企業などは、すでに積極的にビジネスを展開している。米国のカミンズは、中国石油化工(シノペック)と2021年に合弁会社を設立、2023年には広東省仏山市で同合弁会社の固体高分子(PEM)型水素電解装置(注4)生産工場が稼働した。そのほか、ドイツのボッシュ、シーメンスや韓国の現代なども、水素関連市場に参入している。
質問:
日系企業は中国において、カーボンニュートラルに関するビジネスや協力を展開する場合、まずどのような対応をすべきか?
答え:
中国におけるカーボンニュートラル関連の取り組みは、新型コロナウイルスの影響やマクロ経済に不透明感がある中でも、継続的に重要政策に位置付けられ、着実に進展している。また、市場の大きさ、発展スピードの速さに加え、商業化や量産によるコストダウンを強く意識していることが特徴だ。まずは、このような中国の現状をよく把握することが必要不可欠となる。中国への出張・視察や日本への訪問受け入れなど、人的交流を強化し、適切に情報を把握できるようにすべきではないか。

注1:
中国のカーボンニュートラルについての取り組みは2023年8月8日付地域・分析レポート参照。
注2:
2021年の電力制限については、2021年9月27日付2021年9月30日付2021年10月19日付2021年10月20日付ビジネス短信を参照。
注3:
「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」(二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)の略。発電所や化学工場などから排出されたCO2を他の気体から分離・貯留し、再利用するもの。
注4:
水の電気分解により、グリーン水素を生成するもの。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 経済分析部 部長
河野 円洋(かわの みつひろ)
2007年、ジェトロ入構。在外企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ岐阜、海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・広州事務所、企画部企画課を経て2022年1月より現職。